2010/5/29

美しき五月のこと〜その2  ツアー

で、カンヌである。
泊まったのは中心部のずっと西側、La Boccaのマルシェ傍にあるCannes Beach Residence。自炊用具付き。ゲストルーム付き。しかし無線ランはロビーのみ。パレまで10分シャトルバスは20時まで。到着は21時、ということで、歩いてみようと歩きはじめたはいいが、方向間違えるわ道に迷うわで一向にたどり着けず。へとへとになり、仕方無しに飯を食う約束をしていた廣瀬純に電話してタクシーで迎えに来てもらう。歩くのは無理、と笑われる。グランドホテルの裏辺り、アンティーヴ通りから少し駅側に上がったところのパテの旨い店で遅い晩飯。ジャ・ジャンクーに「ジャ・ジャンクー」と呼びかけても応えてくれない、という話。ジャ・ザンケみたいな発音が正しいらしい。オリヴェイラ『アンジェリカの不思議な事件』は大傑作、との報。マルシェ横の深夜営業のコンビニで水を買ってタクシーで帰る。

翌17日は朝八時出発。シャトルでパレに着くと、ドビュッシー前にはすでに11時からのJLG上映前の列に廣瀬純が並ぶところに遭遇。しばし立ち話。わが同僚、汐巻氏到着とともにアトリエへ。午前中に七件のミーティング。駅近くのイタリアンで昼食(以前、ここでカトリーヌ・カドゥ夫妻と会食した)後、午後はグランドホテルの庭でミーティングひとつ。別行動の汐巻氏を待っているとプサンでも東京でも会った韓国プロデューサーのイ・テホン氏とばったり。雑談後、かつて世話になったセルロイド・ドリームスのヘンガメ氏とのミーティング。映画祭マーケットでの日本ブースのパーティーに顔を出したのち、イ・テホン氏とともに昼と同じイタリアンで会食。さらに北野武『アウトレイジ』公式上映へ。もうずっと北野作品は見ていなかったが、ここへ来てこれはどう見ても最高傑作だろう、という感触。ひたすら権謀術数と素手なり拳銃なりの暴力による覇権ゲームが繰り広げられるわけだが、これを「コノヤロウ」(字幕ではasshole)を言葉尻につけた台詞のリズムでガンガン前に進めていく、というやり方。『ソナチネ』の頃の方がずっと抒情があったが、今回はかけらもなし。であるがゆえに言葉尻の「コノヤロウ」がほとんど小津の「そうかい」「そうよ」「そうかな」「そうよ、そうよ」に近いような地点に達しているように聞える。素手での殴り、殊にビートたけしさんのパンチの速さは尋常でなく、唖然。あと、三浦友和さんが北村総一郎さんにおでこをはたかれるときの顔は絶品。椎名桔平の殺され方にも痺れた。終了後、マルチネス前のパーティーにちょっと顔を出して、ホテルに戻った。

翌18日も朝からミーティング七件。途中、キャンセルや延期の連絡を事務局の女性が事細かに伝えてくれる。こういう事務が超得意なフランス人とそうでないフランス人がいるが、このひとは前者。で、このテントではマジェスティックからデリバリーされるランチが出る、ということでがっつく。以降最終日まで三日間、がっついた。美味。
この日の午後は、ユニジャパンのジャパン・パビリオンで取材があるとのことで、そこへ行き、歩いてすぐのマルシェのスタンドで赤ワインを購入しつつ、暇つぶし。そこでようやくネットと繋がり、つぶやく。世界で最も日本語のうまいセルビア人らとともにセルビアのプラム酒をたしなむ。取材後は『Film Socialism』。ドビュッシーの前で座っていたら私の後ろには鳩しかおらず、おかしいな、と時計を見たら三十分前、プログラムを見直すとなんとまあ、どんくさいことに上映場所はバザン。間違えていたのだ。慌ててすっとんで行くがすでに長蛇の列。絶望的な気持ちになっていたら、私の後ろ二人で札止めに。やばいところだったが、超満員なのに一番右端とはいえ前から三列目に座れた。で作品は、というと、とにかくJLGだったのだが、No Commentである。豪華客船における社交主義であり、自動車修理工場における動物と子供のサンバであり、『アワーミュージック』の構成をひっくり返しただけだが、これ以上はとにかくNo Commentなのだからしかたない。あきらめてくれ。
終映後、パリから来たテリー小山内とパリシネマのディレクターさんと打合せ。そう、私は再び七月のパリに出向くことになった。談話途中につき、通りかかったベロッキオに声をかけられず。もろもろ話した後、カジノの前から一本入ったところにあるテリーおすすめのイタリアンへ。愛嬌のいい美人のオネエサンがいる。美味。

また長くなった。つづきはまた今度。
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2010/5/25

美しき五月のこと〜その1  ツアー

五月にほとんど日記を書かなかった(書けなかった)のはツイッターのせいばかりではなく、まとまった形で何かを書く時間がほとんど持てないくらい忙しかったせいだ。連載してきた長篇のまとめと、そうは名乗っていなかったが本人の中ではそのつもりだった短篇連作の最終話のまとめが同時にあったし、シナリオの打合せ、映像作品の編集、鼎談の打合せ、と続いた挙句、カンヌ行きとなった。いやはや、かなりハードなスケジュールだった。どうせ呑んでる時間はあったくせに、とお思いでしょうが、呑むことも決して仕事と無縁ではなく……。
この間に起こったことで特筆すべきことを時系列順に書いておくと、まず3日。ちょっと手術を受けた梅本さんの快気祝いを中目黒で行った。久しぶりに樋口さんに会った。
4日はシナリオ直しのため中野の脚本家先生宅へ。5日は映像作品の音響打合せのために朝霞台の録音技師宅へ。7日はまたべつのシナリオの打合せ。
9日は友人である俳優・松本勝が出演するRISU PRODUCE公演「やすしくんへ」を観に下北沢へ。シネマ下北沢がいつのまにか劇場になっていた。劇の後半、ついにやすしくんに刑の執行が言い渡されるとき、突然「1900年」が鳴りはじめ、ほぼ反射的に涙が溢れてしまい、そこから最後まで涙腺は緩みっぱなしだった。感動を鎮めるために独り三軒茶屋まで歩いた。
11日はペドロと会った。途中で記憶をなくし、二日後にそこでひどいことをして友人やその連れの方、そしてお店の方に大変な失礼を働いてしまった、と知った。慌てて謝罪のメールやら挨拶回りやら。空白の12日にはすでに何食わぬ顔で鼎談の打合せに渋谷に出かけ、帰りに下北沢で山本政志監督と出くわしたりしているのだが。14日はまもなく発売の長篇『ストレンジ・フェイス』の装丁打合せ。15日は日本映画プロフェッショナル大賞授賞式に出席すべく、池袋・新文芸座へ。若松孝二監督と久しぶりにお会いし、夜更けのburaまで同行し、自主配給についての力強く貴重なアドバイスを受けた。

そうして16日からカンヌだ。行きの便で、この間ほとんど中断していた阿部和重氏の『ピストルズ』を読み終えた。大傑作『シンセミア』のあとをどう展開するか、がこの文豪の壁だったにちがいないが、頁をめくるたびに、題名どおり花をそっと置くようなはかなさとともに氏がその壁を乗り越える様を刻々と味わった。しばらく同時代の小説を読むのはよそう、と思った。飛行機のなかで映画を見ないつもりでいたが、小屋で見逃した『シャッター・アイランド』と『シャーロック・ホームズ』をやっていたので、吹き替え版だが見た。『シャッター〜』は『ディパーテッド』で完全に見放したスコシージではあるが、これはなかなかのものだと思われた。してやられた感もあるが、後半で全員のきまずい諦念を湛えた顔が続くのが印象的。なにより、ナチス批判がいつのまにか赤狩りへとすり替わっていく行程がスリリング。もちろん『リリス』や『ショック集団』が意識されているはずだが、それを気負うことなく丁寧に柔らかく仕上げている。『救命士』以来の力作であり、スコシージ最高傑作といっても過言ではない。『シャーロック〜』はホームズとワトソンのキャスティングとキャラクターを決定した製作者ジョエル・シルバーの勝利。これで面白くなかったらどうするんだ、という話だから、あとはガイ・リッチーでも誰でも大丈夫、といった寸法。内容はほとんど記憶にないが、記憶になくて全然大丈夫。その後さらに見た『笑う警官』の、へんに記憶に残ってしまうなんともしれない八〇年代感に較べたらずっとありがたい。
さて、その後カンヌに到着するわけだが……ここから先はまた今度。長くなりすぎるのもなんなので、日を改めてしっかり書く。
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2010/5/2

勝利を!  日常

マルコ・ベロッキオ最新作にして驚異の大傑作『勝利を』にまだ買い手がついていない、という話。あるいは諸般の事情で値段が高いのかもしれない。だが、それにもめげずどちらかが買っていただき、公開していただきたい。昨年のスコリモフスキ旋風と同等の嵐がまちがいなくそこに吹き荒れるはずですから。

映画美学校特別講義に現れた、そのベロッキオ御当人はすこぶるダンディなジェントルマンで、なおかつ我々の質問に対し、御当人の映画の登場人物のごとく叫びとささやきを駆使して熱弁を揮って下さったのだった。「新人監督の場合、技術はしっかりしているのだが俳優の芝居がつまらないことが多い」という的確な指摘を映画美学校の受講生諸君は肝に銘じただろう。

ユーロスペースに行ったら『クロッシング』と『川の底からこんにちは』のお客さんがひしめきあっていた。しかも立ち見というのでぐずぐず迷っていたら、目の前で受付完了。いやはやファーストデイ割引だとは知らなかったし、初日だということも知らずに行ったおれが悪いのだが、ますます小屋から足が遠のく。しかもGWのシブヤなんて異常に殺気と欲望がメエルシュトレエム状態で怖くて歩けない。誰の目も見ないように気をつけながら大急ぎでバス停まで行き、ヒルズへ。スーツとワイシャツ購入。妻と合流、西麻布「いちのや」で鰻。美味。久しぶりのABCまで戻って、古井新刊、ナボコフ『賜物』、『トルーマン・カポーティ』文庫上下、四方田大島、マーヴィン・ゲイ伝記、スライ・ストーン伝記、ライアン・ラーキン『やせっぽちのバラード』と気前良く買い漁り。

そうしていよいよ『第9地区』を見たわけだが、アカデミー受賞監督ピーター・ジャクソンが先輩と後輩の間で偶然か話し合いの結果か知らないが、『アバター』と『ハートロッカー』を足して二で割ったようなブラックコメディを作っていたね、という感想がごく自然に出てくるもので、はやりもののドキュメンタリータッチはべつに珍しくもないしご不満の向きも多いでしょうが、後半だんだん気忙しいレオーネみたいな活劇になってきてからは単純に笑いつついいんじゃないか、と私は同意した。特に天才少年蝦の活躍には心温まった。蝦なのにクリストファーがサミュエル・L・ジャクソンに見えてしょうがなかった。SJ、どっかで赤いちゃんちゃんこ着てコンピューターいじっていた記憶が。

かくして今年のGWも終わってしまった。今週は毎日仕事だ。仕方ない。貧乏暇無し。
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