◆ボードゲームの索引・話題はこちら→ボードゲーム総合案内
 ◆伊集院光深夜の馬鹿力Podcast版一覧はこちら→深夜の馬鹿力Podcastメモ
 ◆最新記事は左側の「近事」、最新コメントは「諫言」を参照ください

2006/11/1

ゲド戦記byジブリ  趣味

公開終了ギリギリになってようやく鑑賞してきた。私が原作をこよなく愛するこの作品のジブリアニメ化に関しては元よりさして期待しておらず、またネット上でのおおむね批判的な評判を目にしたり(あまり読まないようにしていたが)、ちょっと大人気ないんじゃないのと思うことなきにしもあらずな原作者ル=グゥインによるアニメ版への見解(これ。翻訳はこちら)を読んだりしていたため、初めから終わりまで割りと冷静に鑑賞・分析していたように思う。

以下、映画や原作の内容に触れる部分がありますので、未見・未読のかたはお気をつけください。

観終えて……なるほど原作ファンが「これはゲド戦記じゃない」と憤慨し、ジブリファンが「これはジブリじゃない」と失望する気持ちはわかった。そのうえで私が抱いた感想は、「ゲド戦記をジブリアニメ化すること自体そもそも無理だから、まあこんなもんじゃないのか」という身も蓋もないものだったのだが、私が元々あまり期待していなかったというのも、『ゲド戦記』とジブリアニメそれぞれの性質が大部分で相容れないんじゃないかという憶測があったからだ。以下、この点に関してもう少し考えてみるが、私はこの映画が駄作だとは思っていないし、映画をこき下ろすために分析しようとしているわけではないことをあらかじめ断っておく。原作と映画は別物なのだ。

ゲド戦記じゃない点:一言で言うならば、「作品世界の縮図化」。広大な海に無数の島が点在するアースシー、遥か西の龍の世界と東の人間の世界、生者と死者を分つ垣根などの原作世界が、映画ではひとつの大都市とその周辺という舞台に限定されている。舞台のみならず、人間関係やストーリーや作品が持つテーマ性も分解再構築されて小さくまとまっている。2時間で見せ終える映画であるから多かれ少なかれこの傾向がなければ成立しないのだが、『ゲド戦記』の世界観はとりわけゆったりと静かで広大なものだ(と私は理解している)から、映画での縮小率が目立ちすぎたのではないかと。その弊害として、ストーリー展開が分かりにくい(どうしてアランが父を刺したのか、どうしてテルーの正体があれなのか、どうしてクモを倒してハッピーエンドになるのか)とか、テーマ性が陳腐(核心的な台詞をペラペラ喋りすぎ、アランの影とかあれでいいのか)とかの批判が出てくるのは当然だろう。

ジブリアニメ(より正確に言えば宮崎駿アニメ)じゃない点:ボーイ・ミーツ・ガールだったし、新人声優だったし、高所戦闘があったし、ヘドロが出てきたし、空飛んだし、おおむねジブリアニメでしたね。ただ、最近の宮崎駿アニメとは違うなと思った点は、笑いの要素がほとんどなかったところ。もうちょっと口の悪い言い方をするなら、子供(及び童心に帰ろうとする大人)に媚を売ってなかったところ。『トトロ』や『千と千尋』を期待して観に行った子供たちはさぞがっかりしたんじゃなかろうか。これが親父越えを志す宮崎吾郎の清廉な決意の表れなのか、原作の空気を重視した結果なのかは、今後の吾郎氏の作品を観なければ判断つかないところだが。

で、結局この映画をどう評価するかというと、原作の『ゲド戦記』は、静かな世界観とテーマ性を持つ優れたファンタジーであり、独自のリアリティを有するひとつの世界の物語だ。過去の一連のジブリ作品もまた、2時間のあいだに観客を魅了する世界観とテーマと「動き」を詰め込んだリアリティある物語だ。しかし、このふたつが宮崎駿の息子という新たな世代の交差点で交わって生まれてきたアニメ版『ゲド戦記』は、物語を裏打ちするリアリティを払拭した寓話(御伽噺)として成立しているように思う。象徴が主役たる寓話の世界ならば、魔剣を抜けば人は全きものとなるし、ヒロインが元の姿を取り戻して悪人ひとり倒せば世界は救われる。ラストシーンで編隊を為して飛ぶ龍の姿は、この寓話を締めくくる「めでたしめでたし」なのだ。

というようなことを考えて、作品そのものは「それなりに観られました」と評するとして(★★★)、宮崎吾郎氏に対しては「ジブリスタッフ共々ご苦労様でした。オリジナル作品を一度観てみたいと思います」とエールだか何だかわからない言葉を贈りたい。まあそれはそれとして、イギリスあたりで『シャーロック・ホームズ』とか『修道士カドフェル』の雰囲気で『ゲド戦記』がTVドラマ化されないかなあと妄想する今日この頃。
0



トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ




AutoPage最新お知らせ