2分間という設定はどこへ行った?
2007年のアメリカ映画で、主演はニコラス・ケイジとジュリアン・ムーア。2分先の未来を見ることができるという能力を持った男が、核テロの発生を阻止しようとするお話。
見始めてから気付いたのですが、フィリップ・K・ディックの短編を映画化したものだそうです。
ストーリーです。ラスベガスでマジックショーを行うクリス(ケイジ)の得意技は千里眼。観客の秘密などをずばり言い当てます。ただ、決して大それたことはせず、それで稼いだお金もカジノに持ち込んで、控えめに増やします。実は彼には2分以内の未来を見通す力があったのです。そのショーを見ていたFBIの女性捜査官カリー(ムーア)は、強奪された核兵器が合衆国内に持ち込まれた、これを探し出して計画を阻むためにはクリスの協力が必要、と頼もうとしますが、クリスはそれを察知して行方をくらまします。彼は、「自分に関わる未来」しか予見できないため、そういう役には立たないと考えているのです。ところが、その能力の例外があり、ある女性の存在についてだけはずっと前から予知できていました。それは彼女が特別な存在だからなのか? ついに彼女と出会ったクリスですが、テロリストの一味に彼女をさらわれてしまいます。これによって「テロリストの所業=彼女の運命=予知可能な未来」となったクリスは、彼女を助けるために立ち上がります。
最初に少し脱線します。中学生の頃に読んだショートショートのコンピレーションに、作者がどなただったかは忘れてしまったのですが、「限定された未来を見ることのできる装置」が出てきました。これは、ある博士が作った望遠鏡のような機械で、○分先の未来を見ることができるのですが、これでお金儲けをするためにはどうするか、という話でした。結局、同じ機械を複数作って、一人目が競馬のゴールシーンを見る、二人目がその一人目を見る、三人目がその二人目を見る、として最後の人間がレースの結果を知って馬券を買う、という仕掛けでした。ただ、オチがどんなだったかは忘れてしまいました。こんなように、時間テーマの作品では、特殊能力にどんな制限をつけ、その制限を克服するためにどんなことをするかというのが知的興奮を呼ぶように思います。
そんなわけでこの映画、公開された時から気になっており、今月WOWOWで放送した中で最も注目していた作品でした。だから放送されたらすぐに見たのです。導入20分はよかったですね。クリスの能力がどのように役に立つのか、どんな限界があるのか、彼がその能力をどのように受け止めているのか、FBIはどうして彼を追っているのか、などがアクションを交えて手際よく語られていきます。この段階ではとても期待したのですよ。
問題は大きく三つ。ひとつは、「運命の女性」リズの存在をどのように説明するのか。まあ、それだけ例外というのならそれで構わないのですが、彼女に関することだけは2分間というリミットが外れると言うことについて、論理的説明がなされていません。はっきり言って、これを許すとなんでもありになってしまうオールマイティの存在であるだけに、嘘でもいいからもっともらしい理屈をでっち上げるべきでした。
次に、どうしてテロリストがクリスを狙うのかということ。これはそれらしい説明シーンが設けられていましたが、なんだか説得力に欠けます。見返す気になれないので記憶を頼りに書いて恐縮ですが、テロリストがクリスを狙う理由としては、FBIが彼に協力を求めているからという一点に思えました。しかし、考えてみると、クリスの能力は2分先を読めるだけですから、それだけのアドバンテージで核テロを防ぐことは困難で、そのテロがリズを巻き込んだものになったが故に2分間より先の未来が見通せることになったわけです。とすれば、仮にクリスがFBIに取り込まれたにせよ、リズを巻き込みさえしなければクリスの能力ではテロ阻止は無理。つまり、「アホをやっている」ようにしか見えないのです。
そして、予知能力の限界が弱点となっていないこと。よくある話だと、悪役がその限界を知っていて、その能力を使っても打破できない罠を仕掛けるというものでしたが、この映画では2分間というリミットはテロリストに知れていなかったようだし(FBIに内通者がいてもよかったでしょうに)、逆手に取られるようなこともありませんでした。
結局、2分間という制限付きの超能力であるのに、その例外が多すぎて結果的にルール無用の殴り放題になってしまっているのです。最終盤にクリスが「分身の術」を使い始めるに至っては笑えてきますし(あんたはサスケか?)、彼の能力が凄すぎて緊迫感がありません。そのわりに、SWATチームは周囲から銃撃を多数受けてかなりの人数が殉職しているようなんですが・・・
原作は現代ではなくて近未来を舞台にしているようで、どうやら映画とは別物みたいですね。だからどっちみち設定だけ借りてストーリーはオリジナルなのだったら、素材は悪くないんだからもっと脚本を練ればよかっただろうになと思えてなりません。なにも核テロものにしなくても、ギャンブルものや航空パニックものやサイバーテロものやら、いくらでも料理方法はあったでしょうに。評価は☆☆*です。

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