「第15回 ”薬と暮らし その3〜口渇、口内炎と栄養不良”」
薬と暮らし
在宅患者のYさんの状態がよくない。昨日訪問時、ろれつが回っていないと言うか何せしゃべりにくそうなのだ。あ、そういえば今回の処方にアフタゾロン軟膏が出ていたから、口内炎ができて痛いからしゃべりにくいのかな、と思い聞いてみた。

なんと口内炎は舌上部左半分べったり。ちょっとした口内炎ができたというレベルではない。栄養不良が原因と考えたほうがいいんじゃないか、と思ったので食生活を聞いてみた。すると「最近口が渇く。食事をしても砂を噛んでいるようでおいしくない。入れ歯もしっくりこない」・・・・・うわ〜〜!!大変だ。薬の副作用→口渇→入れ歯が合わない→食事が砂を噛むようでおいしくない→食事量減→低栄養→身体能力、活動の減→お腹がすかない→食べたくない→さらに低栄養→寝たきり寸前・・・・という廃用症候群悪循環のモデルケースのようなコメントじゃないかこれは。歯科医師の先生がおっしゃっていたことがありありと思い出される。「歯肉肥厚で入れ歯が合わなくなるケースはまれ。でも口渇で合わなくなるケースは実は相当数いる」この話を聴いたのはほんの3日前。早くもその症例に当たってしまった。
実はY さんは数ヶ月前から頻尿治療目的で薬を服用している。この薬の副作用には口渇、便秘が報告されている。ビンゴなのか・・・まさに口渇と便秘が出始めたのだから・・と在宅現場で悩んでしまった。とにかく口渇改善のためにその薬をいったん中止するのかどうかは主治医と相談するしかない。
口内炎に関してはビタミンB 群の不足も原因の一つかもしれないので、B群の薬を増やすのもいいのだが、まずは食事内容のチェックをしてみた。B群がバランスよく含まれていて一番手っ取り早く摂取できる食材と言えばやはり卵。卵をどれだけ食べているか聞いてみたところ、実はほとんど食していないとのこと。Yさんの場合、高脂血症はないのだから気にせず卵を1日1個摂取するように伝達。これ以上のことは栄養士さんに来てもらってアドバイスしてもらうのが一番いいので、デイケア先の病院にいるケアマネに連絡。病院内の栄養士に相談に乗ってもらうようにした。
さて、もうお気づきの方はいると思うが、上記の出来事は口腔機能向上と低栄養改善による状態改善を計ったもの。まさに次期改正介護保険法の中で予防介護の柱としてうたわれている事項に他ならない。薬剤師は介護保険にはあまり関係ない、と言っている場合じゃない。介護保険に関する勉強をしたからこそ気付いた症例なのだ。
医師、歯科医師、栄養士、ケアマネなどと連携して仕事をする街の薬局薬剤師。これが多職種連携でありこれからの薬剤師に求められている姿だと信じて疑わない。 10年前の私にはこんな観点は無かった。おそらく見過ごしてきた症例は山のようにあるに違いない。「薬と暮らし」――これはいかなる場面においても絶対に切り離してはいけない。あらためてそう思わされた症例だった。

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