第3回の記事でも書いたが、今年のインフルエンザは実にしつこい。昨年は1月がピークで2月後半にはほとんど出ていなかった。今年は開始が少し遅く、2月に入ってから高知県の中東部(とくに南国市)と西の中村市を中心に急激に感染が増加、その後徐々に全体に拡がっていっている。3月も1週間を過ぎたというのに、いっこうに衰えを見せない。

知り合いの医師によると理由がいくつかあるらしい。プロ野球のキャンプ開始とともに全国各地のインフルエンザを観光客が運んでくることもその理由のひとつ。なるほど最初に流行し始めた南国市には高知龍馬空港があるし、中村市には四万十川がある。旅行客はキャンプ観戦ついでに四万十観光をすることもあるかもしれない。(しかし・・・インフルエンザに感染している人がキャンプ観戦している場合ではないと思うのだが・・・。)
他の原因としては、昨年はあまり流行らなかった反動が出ているという見解、そしてワクチンが効かないB型が全体の約30%もいることも流行の原因のひとつのようだ。
さらに!!実はつぎに書くことがもっとも重要で怖い流行原因だというのだ。それは・・・
「ワクチンの効かない変異株のA型が増えてきた」
ということ。そしてなんとこれは、一昨年、昨年とインフルエンザの特効薬を中途半端に使った人が多かったことに起因している、というのだ。
インフルエンザの薬にはタミフル(大人はカプセル、子供はドライシロップ)とシンメトレル(A型にのみ有効)そしてリレンザ(吸入タイプ)の3種類がある。いずれも細胞レベルでウイルスの増殖過程を阻害することで悪化を防ぐ。
ちなみにウイルスを死滅させるのは実は「熱」。ウイルスは38度くらいの熱になると死滅し始める。39度から40度だとさらに死んでいく。だから体はがんばって熱を出し、ウイルスをどんどん殺そうとしているのだ。解熱剤を多用して熱を37度台に保とうとするとウイルスは死なないもんだからよけい長引くこともあるというわけだ。お子さんをお持ちの方は、このことはよく理解しておいて欲しい。解熱剤のうまい使い方は次回もう少し詳しく書くことにしたい。
さて本題に戻る。シンメトレルはA型にのみ用いられる。これは日本では本来パーキンソン症候群の薬。実はもともとは1959年からアメリカで抗ウイルス薬として研究開発されていたもので、日本ではやっと1998年から抗インフルエンザ薬の効能が追加された。副作用で幻覚などが多いのと耐性菌が出やすいのが玉に瑕。タミフルは飲むタイプなので使いやすいが、リレンザは吸入補助具が必要なのでけっこうめんどくさい。即効性はリレンザがタミフルより上、という意見も根強い。多少の違いはあれどこれらの薬品の効果は非常によく、たいていの場合薬の使用2日目には楽になる。問題はここ。楽になったからもう飲まないでおこう、という人が多いのだ。
5日分の薬が出ているにもかかわらず2日で止める。理由がすごい。
3日分は来年にとっておく。家族がかかったら残りを飲ませる。近所の人に残りを売ってあげた、というとんでもない人もいた。
やめてくれ〜〜〜!!ちゃんと全部飲んでくれ〜〜〜!!
まじに叫びたい。こういう無知な行為が、とんでもない怪物ウイルスを作ってしまうのだ!
ウイルスをなめたらいかんぜよ!2日ですこしくらい症状がよくなってもウイルスは全滅していない。体内で細々と生き残っている。彼らはもはや苦しさを人間に与えることはできないが、来年の活動計画を考え始める。
「俺たちの増殖を止めた薬の成分が次回は効かない体に変身しておこう」
会議は終わり、彼らは一時撤退したかのように見えて実は来年度の冬に向けて変身を開始する。これが「変異株」。抗インフルエンザ薬剤耐性ウイルスとも言う。変異株に効くワクチンはない。基本的に今まで流行ったウイルスの型をもとにワクチンをつくるのだから来年の変異株に対抗できるワクチンは理論上作れないのだ。つまり予防接種が無意味になる。事実、今年はワクチン摂取をしていたのにもかかわらずインフルエンザに感染した人がかなり多かった。医師も数名かかっていたほどだ。
じゃあどうすればいいのか。
まずは出された処方分は全部飲みきること!つまりウイルスは全滅させておくことが一番重要なのだ。5日処方はそのためだ。全部使用しないとウイルス掃討作戦は成功とは言えない。まれに3日処方があるがこれは、熱のピークを過ぎ、治りかけてから医者にかかった場合。すでに熱によりウイルスは半減し、増殖は止まっていると考えられる場合3日で全滅させられる。しかしこれも自己判断ではだめ。医師の診断を仰ぐことが必要。
実はこのことは抗生物質にもあてはまる。抗生物質をもらったら飲みきることだ。中途半端に止めていると耐性菌ができる。次回同じ抗生物質を飲んだ場合、効果が出にくいことになる。実際日本では抗生物質の多用と患者の中途半端な服用中止により耐性菌はどんどんできている。このおそろしさに気付いて欲しい。
このページを読んだ人は印刷して職場で配ってもらえるとありがたい。私の薬局ではこれらのことは必ずお伝えするのだが、皆さんが行かれている薬局でもしもこういうことを教えてもらっていなかったとしたら・・・教えてくれる薬剤師のいる薬局に変えたほうがいいかもしれない。
いや、そういう薬局にこれをもって行って見せてもいい。
「今度からいろいろ詳しく教えてくださいね」と愛想良くお願いしてみるといい。薬剤師には知識やトークの上手下手のレベル差がものすごくあるが、性根まで腐っている輩は少ない。患者さんに「教えてくださいね」と笑顔で言われると俄然猛勉強する単純人間が多い・・・と思うのだが最後の数行は定かではない。
PS.右記URLも勉強になる。
http://homepage1.nifty.com/jibiaka50/inhuruenza.htm

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