さて、今回は「排泄」です。この部分はとてもデリケートな領域になるので、質問の仕方にも細心の注意が必要です。他の患者さんに聞こえるくらい大きな声で「おしっこは出ていますか〜!」なんて聞こうものなら、患者さんに恥をかかせてしまいます。
だからと言って、この話題にまったく触れないのも大きな問題です。東京都済生会中央病院で女性の尿失禁意識調査を行ったところ、40歳以上では3人に1人が経験しているが「年だからしょうがない」という意識を持ち、「どの程度で受診すべきなのか」わからないという結果が出たそうです。どうやら潜在患者数は多数いても、受診につながっていないケースが相当多いようです。男性とて同じことで、前立腺肥大の症状を自覚していてもプライドが邪魔をして受診できないまま放置されているケースは多いようです。また、すでに尿に関する薬をすでに服用している方の中で、その効果が十分ではないにも関わらず、そのことを医師や薬剤師に伝えきれていない方も多くいるのも現実です。
自分から言い出しにくいのであれば、薬剤師から排泄に関する情報および課題を引き出してあげることが必要です。まず、尿について聞いてみましょう。ただし、漠然と「尿は?」と聞くのではなく、「ちゃんと出ていますか?回数は日中、夜間それぞれ何回くらいですか?」といったふうに具体的に聞くことが初期質問としてはとても大切です。
【回答例@:夜9時から朝にかけて1,2時間ごとにトイレに行く。十分な睡眠が確保できない】
とても多い訴えです。医師に相談をしているかをまず確認し、していなければ了解の上で薬剤師から医師に報告してもいいと思います。夜間睡眠の確保が出来ていないと日中の生活状況に大きな悪影響を及ぼします。また、足腰が弱っている方ならトイレへの移動機会が多いほど、転倒や骨折の危険に出会う機会も多くなるのですから、やはり早く手を打っておきたいですね。
すでに頻尿改善薬を服用している方でも、変薬、増量、また服用時点の変更で改善するケースが多々あります。ですから薬剤師は、患者さんの状態を具体的に聞き出し、医師に報告していくことを強く意識するべきです。「頻尿あり」と薬歴に書いて終わりでは医療人とは呼べません。また、薬物動態など薬剤師なりのコメントが求められるケースもありますので、しっかりと薬物ごとの特徴をつかんでおきましょう。
【回答例A:トイレ後、立ち上がるとめまいがする】
排尿、排便後は起立性低血圧を起こしやすい状態です。ゆっくりと立ち上がるようにしましょう。各種降圧剤、利尿剤、α1ブロッカーなどにより、さらに起立性低血圧は起こりやすくなることは薬剤師的には常識ですが、意外と患者さんは理解していないケースがあります。今一度伝達しておきましょう。
【回答例B:トイレの場所が部屋から遠くて大変】
部屋の中にポータブルトイレを置く、手摺りをつけるなど、介護保険の枠内で補助が出る制度もありますので、よくご存知でない方はケアマネージャーとの連携を図ってみてください。
【回答例C:くしゃみや起立時に軽く尿漏れがある】
軽度尿失禁に関しては前述のように、相当な数の潜在患者がいると予想されます。とくに女性患者が多いのですが、相談できない一つの原因には男性医師の多い泌尿器科受診へのハードルの高さでしょう。
知識啓発パンフレットを薬局内に設置しておくことだけでもいいので、専門医に相談してみようと思うきっかけづくりを薬剤師はお手伝いしましょう。また、最近では女医による女性専門外来がある医療機関も増えてきています。そこなら相談しやすい、という女性は多いので、地域のそういった情報をしっかり集めておきましょう。
尿パッドに関しては、50〜150ccくらいまでの軽度尿失禁用のものがありますし、吸収パッドが最初から装着されているパンツ(外から見ると普通のパンツ)も男女それぞれ用のものがあります。これらも販売アイテムとして揃えておきたいものです。
―まとめ
例Bのように、直接薬に関係しないような相談に対しても、他業種との連携の中でアドバイスできる薬剤師こそ、これからの時代において地域に必要な存在ではないでしょうか。その方の「QOL(人生の質)向上」に関与する気持ちからスタートすれば、課題は見えてきます。排泄問題はとくに放っておけない問題ですね。

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