水族館で、寒帯生物の世話をしていたことがあります。
寒帯生物の中で人気者の1つが、大きなタコ。
もっとも、タコは”デビルフィッシュ=悪魔の魚”と呼ばれて、見る人によっては(というか、たいていは)気持ち悪い〜!と言う喚声のようでしたが、タコは、賢い動物です。
そのころ、水族館で毎夜、ロブスターが消えていくというミステリーが起こっていました。
そう分かるまでに数匹のロブスターが犠牲になったのですが、ご推察の通り、犯人はタコ。
タコは、ちょっとしたすきまでも(くちばしが通れればどこでも)、通ることができます。
ふたがちょっと開いたところから、毎夜、2つ3つ隣の、好物のロブスターの水槽へと、文字通り足を忍ばせ、夜が明けるまでにはまた自分のすみかに戻っていたのでした。
タコは、遊びもすきで、えさをやるために、ふたを開けると、長い足を踊らせながら、いつもいる水槽の向こう側からやってきて、手に上ってきます。
手に吸い付いた吸盤をぷちぷちぷちと剥がすと、また別の手がにょろにょろとあがってきて、それをまたぷちぷちと剥がす・・・しばらくそれを繰り返すと、遊びに飽きたタコは、自分からまた水槽のお気に入りの場所に戻っていきます。
寒い海の生き物は、冷たい水温に耐えられるよう体が大きく、暗い海になじむように地味な色をしています。それに、(これは根拠がありませんが)心なしか、不機嫌な顔つき。
熱帯の小さくていろとりどりで、華やかな魚たちとはまったく逆ですが、それは、寒帯で生きていくための、長い間の進化のせい。
そんな不機嫌な奴らも、つきあっていくうちに味が出てくるのは、人間と同じかもですねえ。

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