政治社会学者の小室直樹(こむろなおき)先生が、2010年9月4日に逝去されていたことが、今日9月28日になって広く報道されました。
享年77歳、心不全にて病没。
その著作から、まーくが極めて強く影響を受けた学者なので。
ここに心からの哀悼を捧げ、ご冥福を祈るとともに、喪に服します。
以下、小室直樹氏を まーく なりに紹介します。(学術論文に倣って敬称略)
小室 直樹 (こむろ なおき)
1932年生まれ。福島県出身。
(今回、初めて知ったけど、生まれは東京都世田谷)
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県立会津高校卒。
なお、(各国の学校制度などの)比較教育学の松崎巌が高校の同級生。
京都大学理学部数学科卒。
社会・経済現象に関心を抱き、
大阪大学大学院経済学研究科に進学。
当時、東大・京大の経済学はマルクス主義の影響が強すぎて停滞していたため、大阪大が日本の経済学研究の最高峰だった事情がある。
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フルブライト奨学金で米国に留学。
MIT(マサチューセッツ工科大学)でSamuelson・サミュエルソン などに理論経済学を学び、
ハーバード大学でArrow・アロー などから経済学を学ぶ。
一方、
ハーバード大学にて、Skinner・スキナーから行動主義の心理学を学ぶ。
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そしてハーバード大学にて、社会学者、Talcott Parsons・タルコット・パーソンズと出会う。
ここでパーソンズの理論について解説を加えると。
物理学のバーコフ力学の方法論を経済現象に応用したのが、ミクロ経済学の一般均衡理論。それを社会学に応用したのが、パーソンズの構造・機能分析。(ちなみにパーソンズ自身も経済学部卒)
小室は同様に社会科学の分野の中で、
「先進科学の方法論を後進科学に応用することで成果を挙げる」
という理想を抱く。
中でも具体的には、理論経済学と実験心理学という「先進科学」の方法論を社会学・社会分析に応用できれば、と考える。
ただし、小室の弟子にあたる橋爪大三郎(東京工業大・社会学)によると。この試みは障害が多く、あまり成功しなかったという。
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帰国後、東京大学大学院法学政治学研究科にて、丸山真男の指導を受け、また川島武宜から法社会学を学ぶなどする。
さらにほかの学部(研究科)でも、
中根千枝(文化人類学)の社会人類学のゼミに参加し、
富永健一から社会学を学び、
大塚久雄(経済史)からマックス・ウェーバーを学び宗教についても論考。
非常に多彩・広範囲な学問分野を渉猟。
冒頭に「政治社会学者」と仮に書いたけど、それに収まりきらない。
1972年、東大から法学博士号を授与。
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東大大学院社会学研究科にて非常勤講師を勤めたこともある。
また、外務省の研修施設(外交官試験合格者向け)にて講師を勤めたこともあるらしい(そう聞いた覚えがあるが、未確認)
一方、自主ゼミにて、橋爪大三郎・副島隆彦・宮台真司らを育てる。
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基本的に在野の研究者として生きてきた。
1975年 『危機の構造 日本社会崩壊の構図』 で戦後日本のanomie・アノミーを分析。
1980年 『ソビエト帝国の崩壊』が注目を集める。
軍事・経済・社会の有り様、スターリン批判などの歴史から、ソ連が近い将来崩壊することを予測。しかもソ連の法体系から、連邦構成共和国が独立を宣言する形を予想。後にこれが的中することで評価が高まる。
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この頃から、一般向けの解説書・入門書を精力的に執筆。
山本七平(作家)、栗本慎一郎(経済人類学・法社会学)らと親交。
評論家としても評価されるが、テレビ生放送で過激な発言をした後、ほとんど出演は無くなる。
また後には、多作すぎて内容が薄く同じテーマを繰り返す、強引な論理展開、事実誤認などの批判も。
教育問題についても『偏差値が日本を滅ぼす』など。
(ただし、題目と違ってこれは受験教育を安易に批判した本ではない)
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1990年代、2000年代に入っても執筆は続く。特に社会科学において小室が重要視する古典を初学者に解説するのは出色の出来。俗っぽいが非常に分かりやすい表現。だが見方が偏っているとの批判も。
また現状分析では。
バブル崩壊後の日本経済に、現代的なケインズ政策を訴えたが、多くの経済学者には懐疑的に見られた。
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私(まーく)に言わせると。それぞれの時代、その学問分野におけるorthodox・オーソドックス、正統な方法論を突き詰めて追究する傾向が非常に強い。
それが上手く現状分析にあてはまると、ソ連崩壊予言のような大成功を収める。
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正統な方法論、orthodoxを追究しているのに、一つの分野や既成の大学の枠に収まらないという碩学・奇人。
心からご冥福を祈ります。
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