2007/12/27

No Way,No Place & My Home13「何がしたいの?」  ショートストーリー

何がしたいの?あなたは
鈴木祥子「何がしたいの?」

パーティルームのドアを開けると眩しい光が目に飛込んできた。
ステージ上で新薬開発リーダーの大友が社長から表彰を受けている。
社長が何か言う度拍手が起こる。大友は居心地悪そうに御辞儀した。

5年前に発生し広がった朽木病。「原因不明、不治の病」と言われた。
しかし我が社の長年の研究が実り遂に治療薬の開発にこぎ着けた。
新薬は効果絶大で多くの患者を救った。
開発チームのリーダー大友はこの成功を受けて社長表彰の運びとなった。
大友がようやく解放されて降りてきた。立て続けに握手を求められる。皆興奮してる。
「茂木・・遅いぞ」「スマン、おめでとう」「なあ」「ウン?」「ウチに来ないか?」

都内の大友のマンション。大友が結婚してから来るのは初めてだ。
僕も大友のコップにビールを注いでやる。「改めて乾杯」大友は肩をすくめた。
「ミズキさんは?寝たの?」「うん」「それにしても凄いな。同期の自慢だよ」
「下らない」「え?」「下らないと言った」「何が?凄いじゃないか?」
「俺は表彰なんてされる資格は無い・・無いんだ。」大友は大きく息をついた。

「朽木病の治療薬の開発を任せるって言われた時は燃えたさ。こんな大きなプロジェクト
を任せられるのは初めてだし何より成功したら凄いことだしな」僕は頷いた。
「人も資金も設備も使い放題。5年間オレはこの研究に没頭した。これしか頭になかった。」
そうだ大友はこの研究に熱中してた。大友は自嘲気味に笑った。
「それこそ2ヶ月会社に泊込みなんて当たり前だった。倒れた部下も10人は下らない。
でも、その甲斐あって研究は進んだ。そして朽木病の正体が分ったんだ」「え?」
「皆、朽木病を風土病と思ってるがそれは大きな勘違いだ。」「何だと言うんだ?」
「公害さ・・」大友はビールをグイと飲んだ。僕は言葉を失った。
「調査を進めて分ったんだ。朽木病が集中的に発生している山梨県の山の中にウチの
親会社の化学工場がある。そこから汚染物質が漏れて土や水を汚したのが原因だ」
「政府出資でヤバイ研究をしてたらしい。当然そんなことは公表出来ない。だから子会社
のウチで早いトコ治療薬を開発しようと焦ってたんだよ」「驚いたね、要するにオレ達は
親会社のミスの尻拭い。ハッキリ言えば、グループ総帥。社長の親父の名誉を守る為研究
してた訳だ。」「それでどうした?」「どうもこうも無いさ。云われた通り研究するだけさ。オレたちの仕事は薬の開発だ。」「でもイイのか?不正だろ?」大友は僕を見て笑った。
「皆そう云ったよ。こんな不正許すべきじゃない、公表すべきだって」「俺は皆の意見を
まとめて社長に公表する様に迫った。そして」「そして?」「懐柔された」

「こんな事バレたら社員は皆路頭に迷う。君にそんな責任を負えるのか?って云われて説得
されたよ。簡単なモンだ」大友は笑った。「イヤ違うな。オレ自身が公表したくなかったんだ。」「何?」「もし公表したら、この研究を止めなくちゃイケナイ。こんな大きな研究滅多に出来ない。このチャンスを失いたくなかった。だから社長の説得を受容れて部下に指示して口止めをした。」「部下は呆れて皆辞めていったよ。当然だろう。」
大友はビールをグイと飲み干した。
「結局新薬の開発に成功し大勢の患者を救った。不正の事実は何時か有耶無耶になった。
 オレは不正を黙っている代わりに社長表彰を受けられることになった。」
「ミズキさんはどう言っている」「ミズキは出て行ったよ」「何?」
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2007/9/23

No Way,No Place & My Home12「あたしの場所で」  ショートストーリー

しょうがなく生きてる、その時を生きてる、あたしの場所で。
鈴木祥子「あたしの場所で」

店のドアが開いた。サラリーマンの一団がドヤドヤと入って来る。
ここは六本木のクラブ「AYA」。アタシはここで雇われママをしてる。
前のママから引継いで5年、そこそこ流行っていて週末は戦争状態だ。
「ユウは?」「遅刻です」「また?」最後の客を送ってその後も反省会や翌日の準備
で帰宅するのは深夜4時。帰ったら疲れて寝るだけ。毎日この繰返しだ。

次の日も大忙し。今日もユウは休み。今夜は丸三商事の接待の予約が入ってる。
10人くらいのお客様が来た。客は若いキレイな女の子に囲まれ上機嫌だ。
・・・オトコなんて簡単なモンだ。フと目を挙げた。目の前に30代くらいか?
初めて見る客だ。彼は一人で黙々と呑んでた。上司やお客に愛想笑いを返すが居心地
悪そうだ。時々上司や客をチラと盗み見してた。醒めた冷たい視線だった。
ワタシは思わずそのヒトに見入ってた。彼はワタシの視線に気付いてフッと笑った。

翌日の開店前、ようやくユウが来たので皆の前で叱った。ユウはニヤニヤ笑ってた。
今日も丸三商事の接待。例の彼も来てた。早川とか言ったっけ。相変わらずつまんなさ
そうだ。早川さんを見て昔の自分を思い出してた。ワタシもいつもつまんなさそうにしてた。
いや・・・実際、毎日がつまらなかった。仕方なく生きてた。
田舎を飛び出して東京で就職したら会社が倒産。出来る仕事は水商売しかなかった。
色々渡り歩いてようやくこの店に落着いた。客商売なんか苦手、ヒトと話すのは億劫。
でも、ワタシは「生きるために」必死に勉強した。新聞や雑誌を読み話題を仕入れ
お客の好み、癖を徹底的に覚えて。結果売上NO1となり店を継いだ。
でもこの仕事をしてて、好きになったことは一度もない。ホステスという仕事もこのお店
もあくまで「生きていくための手段」。ホステスや店員ともお客さんとも必要以上の付き
合いはしない。そうやって頑張ってきた。でも、最近それが無性に空しい、無性に疲れた。
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2007/7/1

「No Way,No Place & My Home11「たしかめていてよ」  ショートストーリー


たしかめていてよ ここにいると ほかになにもできることはないから
鈴木祥子「たしかめていてよ」

会議室のドアが開き、担当者が入ってきた。僕を見て少し顔をしかめた。
ここは人材登録会社。週1回、僕は人材募集の情報をもらいに来てる。
担当者は幾つかの資料を僕に見せて説明する。毎週お決まりの行事。
担当者は熱心に色んな会社を進めたが、僕の気のない返事にすっかり気分を
害し、黙り込んだ。僕は早々に打合せを切上げた。

僕は3月に20年勤めた会社を辞めた。担当案件でトラぶって責任を取って辞めた。
自分に非があったとは思えない。客先にも会社の上司にも問題があった。
関係者がお互いに責任を擦り付け合い、誰か責任を取らないと仕方ない状況だった。
僕は面倒臭くなって自ら辞めた。もう4ヶ月。そろそろ次の仕事探さなくちゃ。
帰宅するとユミが出かける処だった。トラブルがあったらしい。
ユミは人気のデザイナー。だから僕が気に入る仕事が見つかる迄ゆっくり休めば
イイと云ってる。ユミのコトバはウレシイが、男として少し情けない気もする。
深夜目が覚めて起きた。居間でユミが疲れ切った顔で缶ビールを開けている。
声をかけようとして止めた。翌朝起きたらユミはおらず、「仕事行ってます」と
書置きがあった。
午後から紹介された会社で面接。卒なく答えたけど、おそらくダメだろう。
その時携帯が鳴った。前の会社の部下だった。会いたいと云う。
待合せの店に行くと彼はいた。優秀な技士だったが例のトラブルで体を壊して入院。
その後彼も会社を辞めたらしい。「久しぶりです。ご無沙汰してスミマセン」
「こちらこそ」「退院したら倉持さん辞めてて驚きました。」「会社にも君達にも
にも迷惑かけたからね、責任とって」「倉持さんの所為じゃないですよ」
それから彼は本題を話し出した。彼は今知人と会社をやってる。僕に来て欲しい
との事だった。事業内容、プラン、条件、すべて魅力的だった。
「僕は君達を守れなかった駄目上司だ。その僕でイイのか?」彼は云った。
「倉持さんは最後まで僕らの味方でした。また一緒に働きたいんです。是非来て
 ください」彼は頭を下げると立ち上がった。
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2007/3/17

「No Way,No Place & My Home10「舟」  ショートストーリー


彼は死んだ、ここで殺した
わたしの手で、優しい手で。優しい手で。
鈴木祥子「舟」

ドアを開けた。「告井さん、検診ですよ」。ベッドの横に男のヒトがいた。
彼はお辞儀をした。「ご家族?」「息子です。父がお世話になっています」
「彼」はそう言うとまた頭を下げた。

ここは小淵沢にある老人ホーム。ワタシはここで係りつけの医者として働いている。

告井さんは眠っていた。「スミマセンお任せキリで見舞いにも来ないで」「いえ」
「仕事にかまけてつい」「彼」は父親を見ると溜息をついた。
「親父・・・手がかかって大変でしょう。すぐ怒るし」
確かにそれは事実だった。告井さんは他の入居者にも看護士にも評判が悪かった。
黙りこんだワタシを見て彼は少し笑った。ワタシは頭を下げると部屋を出た。

あのヒト、何故笑ったんだろう?何か見透かしたような笑い方だった。
そう言えば会うのは初めてじゃない。お父さんの入院のとき会った筈だ。
静かで・・温和しくて・・印象が薄い人だった。

夕方になってもう1度、告井さんの部屋の前を通る。ドアが少し開いてた。
声をかけようとして止めた。父親は相変わらず寝てる。
「彼」はじっと父親を見下ろしている。 腕が動いた。少しづつ前に伸びる。
・・・ゆっくりだけど・・迷いのない動きだ。
ワタシはドキドキしていた・・・声を出さなくちゃ・・・でも動けない。
「彼」の手が父親の首に届く。指が首に喰いこむ。そのまま絞めようとしてる。
「彼」は相変わらず父親を見下ろしてる。冷たい・・・蔑むような瞳(め)で。
ワタシはドアをバンと開けた。目が合った。「彼」は深くため息をついた。

「どういうことですか?説明してください!事と次第によっては警察を呼びますよ!」
事務室で彼は座っていた。「自分の父親じゃないですか?それをよくもあんな」。
「父親じゃない」彼は返事した。強く、暗い声だった。
「確かに血は繋がってる。でも、あんなの僕の父じゃない。」「説明してください」
彼は・・・薄く笑った。とても寂しそうな笑い顔だった。見てて心が凍った。
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