【作品名】宮本から君へ(全12巻)
【作者or監督】新井英樹
【出版社or配給】講談社(1991-1994?)
【ジャンル】書籍(漫画・ドラマ)
【一言】
いい年をした大人が「漫画」などを真面目に評したり他者に勧めるなどの行為をする時に、よく何か恥ずかしい事であるかのごとく感じる傾向があります。
確かに、単に娯楽としての水準を満たすだけの漫画で良いのであれば、昨今の日本の文化状況において掃いて棄てる程に刊行されているのでしょうが、その中で他者に(例えば自分の子供にまで)薦めてみたいなどと思える作品となると、何も漫画には限りませんが(私の読んだ全ての本の中でも)意外と少ないのではないかと思えます。
これは、私にとって、その数少ない作品の中に確実に入れる事ができる「漫画」作品です。
伝説によれば、釈迦は産まれた時に「天上天下唯我独尊」という言葉を叫んだそうです。
その言葉が、全ての人間にとっての業や真理を反映したものと感じるとすれば、つまりいくら表面的に御綺麗な言葉で飾ろうとも、生きている人間とは死ぬまでの間は(生きている限り)、それを絶叫し続けるイキモノだという事でしょう。
「宮本から君へ」という、熱苦しく濃厚で強烈なメッセージに満ちた作品が、狭い紙面を抜け出して読者へ突き付けるモノも・・・
(作者自身の言葉を一部借りるならば)
成長なんか、知らないっす!
悟り清ました顔をして「大人になった」だの「丸くなった」だのは、死んでから言え!
受精の時から幾億もの他の精子を蹴散らかして押し退けてでも、ただ自己だけを貫徹して産まれた「生きている人間」とは、(誰もが)みんな強いんだ!
・・・と云う、まさに「天上天下唯我独尊」と同じ、赤子の様な叫び声である様に、私には思われます。
ここで粗筋を書く気はありませんが、この作品は、恐らく(最近では)流行らない意地を持った、「プロレタリアート」という自称をする場面も出てくる主人公の宮本が、(甘ったるい嘘に満ちた連帯ではなく)敵を作りまくりながら突進し続けて、我が子を得て親父になるシーンで幕を閉じています。
しかし、(少なくとも私にとっては)読者の物語は「そこ」から始まっていくという読後感を、本を置いた後も残す事ができます。
(それが私にとって良い物語の条件の一つなんですが・・・)
決っしてスマートでもなく、優しくもない作品ですが、私は惹かれる何かがあって、今も時々読み返す事があります。
(私みたいに、感傷を垂れ流しまくりでも平気な顔してる厚顔な人間にとっては、本当にイタイ作品だが)
【補足】
かつて、ネット上では「嫌いな漫画ランキング」とかいう場所で堂々と1位を飾った事もある作品です。
現在、復刻版として版形も変わり「愛蔵版:1〜6巻」になっている様ですが、いずれにせよ書店の店頭では入手が今では困難かも・・・
(もし欲しい人が居たら、アマゾンあたりのネット書店で探した方が良いでしょう)

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