日本では、昨年の3・11の福島第一原発の事故以来、稼働中の原発は次々に定期点検に入り停止し、それらの原発は数値解析だけのストレステストは済んでいても再稼働に国民の理解は得られず、とうとう今月になって稼働中の原発はゼロになりました。
これは、これまでの原発に対する安全神話が完全に崩壊した証明であり、これまで使用済み核燃料の最終処理の目途すら立たない中で、経済合理性だけを優先して、技術的・科学的に有り得る(決して想定外では無かった)危険性に対して、国民を欺いてきた事が破綻し、安全で豊かな国土・郷里を守りたいという世論の【一定の】勝利の結果であります。
しかし私が、福島の土地の多くの部分と、将来的・長期的に多くの住民の発癌リスクを引き換えに得た【人間の技術の限界】という教訓ですら、そこに【一定の】という留保を付けねばならない事は、この夏のピーク電力需要を賄う為などという理由で、特に関西電力などで原発の再稼働などが政府主導で進められようとしていたり、酷いものになると…短期間での稼働や停止などは不可能である原発の特性を無視して「夏だけ再稼働」などと…これまでの「脱原発」が単なる人気取りの為のポーズであったという馬脚を現した、大阪の橋下市長など、未だに流動的な要素を残している事と、この間に毎日新聞などがスクープした「核燃サイクル」に関する官僚の業者癒着についてすら、それを攻撃する一部のトンデモ有識者などが居たりする事などからも、残念ながら警戒心として必要となる事でしょう。
この夏、電力が足りなくなるという事が仮に事実だったとしても(計画停電が避けられないにせよ)、それを1〜2年に留めて将来における電力供給の安定性を担保できるのであれば、こういった(原発必要論や核燃サイクルという亡霊の)妄動を封じる事が出来て、そういう【具体的な展望】を示しさえすれば、そこに国民の支持も集まり、未だに迷っている多くの国民の持つ(出口の見えない)閉塞感を解消する事が出来るのにも関わらず、何故未だに…普遍的な人権を守る事を使命とした「左翼」の側からすら、こうした【具体的な展望】は出されないのでしょうか?
この1年余りの経験(昨年の電力不足等)には、既に【一部の】営利企業などでは、素早い対応が取られて、炭化水素を燃料とする燃料電池プラントの自社工場への設備投資などが取られて、脱電力会社依存などが進められたりしましたし、家庭用燃料電池であるエネファームなども、従来品の溶融炭酸塩型といった形式ではなく、一気に最高効率を上げられる固体酸化物型燃料電池(SOFC)が、トヨタ自動車などが主導で商品化されて【一部では】導入等が図られ初めていますが、まだまだ私が昨年の4月30日付の記事…
脱・原発に向けた具体的ロードマップに向けて(素案)
…で述べた【代替エネルギー】に関する議論には、残念ながら未だ抽象的なものも多く、家庭用だけでなく総需要の半分以上を占める産業用の需要までを含めた、安定供給の目途を立てた方向性を出して、政府にそれを要求するという水準には至っていません。
(余力のある企業や家庭から脱電力会社化が進んでいるというだけで)
もちろん、太陽光や風力等の再生可能エネルギーを提唱する事は、それはそれで意味のある事ですが、それらの自然エネルギーには避けられない問題として供給の不安定性が有る事は既に国民の中でも周知の事になっています。
そこで、最近技術進歩のあったリチウム・イオン蓄電池や、それを利用したスマート・グリットという地域での効率的な電気エネルギーの貯蔵・循環システム等が提唱されていますが、恐らく理系的な素養(知識)のある人間であれば、それだけでは誰も家庭用には足りても、産業用の需要まで安定供給できるとは考えないでしょう。
どうしても「電気」という貯蔵の難しい不安定な存在を、安定した水素や炭化水素といった【物質】の形で、
大量に(少なくとも1〜2カ月ぐらいの需要は満たせる程に)蓄積しておく技術と同時に、それとは別の技術になりますが…そうして蓄積した水素(これは貯蔵に難はありますが)や炭化水素(これはメタンやプロパン等の液化ガスの形で大量貯蔵の実績有り)を、再度・電気化するのに最も効率的な燃料電池(高価な白金触媒の不要な固体酸化物型SOFC)の可能性を探求する事に、これからの、日本のエネルギー政策の【具体的な展望】は絞られてくると(私は)思うのですが、私は間違っているでしょうか?
固定酸化物燃料電池の技術に関しては、直近で目覚ましい進歩があり、既に小型(1KW…家庭用)から大型(数千KW…産業用・マンション&地域一括供給用)まで、全て実用化し商品化されていますが、問題はコスト高にあるとされています。
しかし、これまで全ての新技術は登場当初は高コストであり、大規模な普及とともに劇的にコストが下がる事は、携帯電話やパソコン等の例を挙げるまでもなく、自明の事に私には思われます。
むしろ問題は、発送電の分離すら進めず、現在の地域独占を許し、分散型・地域密着型の(エネルギー面では)効率的なシステムの普及を阻み、総括原価方式などで電力会社を守りつつ、市場への新規参入の障害を放置している【政治の怠慢】であり、更に言えば…こうした新しいエネルギー体制にシフトさせる為の、積極的な経済的なインセンティブを与える努力を具体化しない事にもあります。
私の考える…これからの日本の左翼は、(核燃サイクルなどに固執する様な)既存の大電力会社による地域独占に風穴を開ける為に、まず発送電の分離を求め、送電網を公共のインフラとして公的な管理に置くとともに、発電分野においては分散型・地域密着型の高効率のシステムを導入する為に(無論必要な規制や規格は設けても)市場の力も借りて新規参入事業者を増やし、産業用の需要にも安定して応えられる安定したエネルギー政策を掲げねばなりません。
その為に【具体的な代替案】として、大量のエネルギーを【物質】の形で(少なくとも数が月分の需要)を蓄積できるシステムとして、循環可能・自然エネルギーを炭化水素類等の形で保存できる技術と、もう一つの技術として燃料を再電気化するシステムとして技術的な可能性がある燃料電池に着目し、これの普及促進を訴えるべきでしょう。
燃料電池の燃料になる炭化水素類に関しては、将来的にはバイオエネルギーや自然エネルギーからの化学合成という手段がベストですが、当面は現在開発が進み埋蔵量を2倍化したと言われる地下のシェール層から加圧水によって得られる天然ガス(LNG)でも良いでしょう。
何も全ての人が、固体酸化物燃料電池(SOFC)に必要な、専門的なセラミック材料工学やら化学知識が必要な訳ではありません。
ただ、この方向に現状の閉塞感を打開する具体的方向性の一つが確実に有る事を示し、そこに至る為の政治的ロードマップと同時に、経済的に誘導させる為の融資や援助の具体化などを、誰かがやらねばなりません。
日本のエネルギー政策に関して、既存の政府では混迷を極めるばかりな状態だからこそ、また閉塞感の打開を訴える右派的な傾向の諸派(橋下氏の維新の会)も代替案を出していない今だからこそ、左派・左翼が(抽象的な主張に留まらずに)本来の先見性を発揮する事を、私は願います。

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