ごく最近の話。今年の5月9日、名古屋の日本棋院中部総本部で打たれた碁聖戦の本戦決勝戦。ずいぶん古い話のようだが、新聞に掲載されたのはつい数日前。中根直行九段の解説で、荒木鉄平観戦記者の観戦記が載っている。挑戦者決定の本戦決勝戦は黒番羽根直樹九段、白番一力遼八段。「最後は2目半ほどの負けを見切り、潔く(一力八段が)投了。」とある。2目半の差はプロ同士ではなかなか縮まらない大きな差ではあるが、やはり、印象としては、投了するには、潔いと云える差なのだ。
中国竜星戦を見ていると、小ヨセの後手1段階まで来て投了することがある。これはマナー違反だ、そこまで打ったのなら、どんなにつらかろうが、悔しかろうが、最後まで作らないと相手に対して失礼だ。まるで最後まで相手が間違えるのを期待して粘っていたように見える。中国では対局者ではなく、審判員が作って数える。対局者は結果が分かっているから審判員の労を省くために投了したのだろうが、それなら、もっと早く勝敗の帰趨は分かっていたはずだ。作法としておかしい。
オリジナル棋譜は261手完黒中押し勝ち。この状態で、囲碁ソフトを使って地合い計算してみた。銀星囲碁18は、白1目半勝ち。最強Zeroも白1目半勝ち。天頂7Zenは、白2目半勝ち。
銀星囲碁18は白1目半勝ち予測だが

赤は、早晩手入れの必要な-1目。青は、白の手番なので、権利は半分、-1/2目。水色は、交互に打てばダメ場で、日本ルールでは地に数えられないところ、-1目。それらを差し引くと、黒2目半勝ち。解説の目数差と一致する。
最強Zeroも白1目半だが、実際は黒2目半になりそう。

赤と水色が-1目。青が-1/2目。差引くと、やはり黒の2目半。
天頂7Zenは白2目半の予測だが、黒1目半の可能性もある

驚いたのは、どのソフトもこぞって白逆転勝ちを予測している点だ。
勝敗がひっくり返る地合い計算では困る。
囲碁ソフトの地合い予測はとても奇妙だ。碁盤は19×19で361目ある。石が死なない限り、1手打つごとに地は減っていく。終了時の手数を引いて2で割った数値よりも多ければ、勝ち。少なければ負け。論理的には、手数が進むにつれて地は減っていくもので、死活に影響しないところで、途中で地が増えることは、コンピュータの論理ではありえない現象と云える。その為、ゼロ目だった欠け目が他と繋がって、途中から1目に増えることはコンピュータには受け入れがたい。欠け目は、初めから1目と見做しておいて、周囲の手入れの状況で、ダメ詰めで1目減っていくのがコンピュータらしい理屈なのだ。
欠け目も1目と見做しておく方がコンピュータ的には便利なのはよく解る。理不尽でも、双方同じ条件であれば、勝敗の判断に影響はない。確率的にはその通りだが、実践では、ダメが詰まって行って最終的には手入れで埋めなければならない箇所が双方均等であるとは限らない。どちらの地でもないスペースがたくさん残っていると、ほとんどがダメ場で、地に計上する必要がない場合でも、コンピュータにはそんなことは分からない。ランダムに打っている間に、何手も連打して地ができるかもしれない。
手割計算で行けば、何手も掛けて1目作っても、その間に、相手に有効打を打たれたら、価値は限りなくゼロに近いか持ち出しになるので、考慮に値しないはずなのに、コンピュータは1手1手埋めていく結果だけで、手割計算はしない。1手の大きさで打っているわけではない。
できるだけたくさん埋めて余白が少ない方が勝ち負けを判断しやすいので、地を囲う輪郭線、生きている石に連なる石もすべて地として数えるのが便利なのだ。これは中国流の地合い判定方法で、コンピュータにとっては、国際基準が中国流のルールに統一されることが望ましい。囲碁ソフトのユーザーが日本ルールを選択したら、そこから生き石の数を引いて表示すればいい。コンピュータ自身は中国ルールが都合がいい。
囲碁のヨセは日本ルールの方が微妙な損得があって面白い。コンピュータに便利なルールだからと云って、国際ルールが中国ルールで統一されては、囲碁の面白さが半減する。
世界の囲碁界は韓国、中国が席巻していて、日本は蚊帳の外に近い。国際統一ルールに関しても、日本の発言権は弱まりつつある。日本ルールは、韓国によってやっと維持されているのが現状だ。コンピュータとの対局は、人間がコンピュータルールに歩み寄ることが多い。
すでに、コンピュータと人間の公式対局は終了したが、新しい囲碁AIがその後続々開発されている。人間とAIのレーティング対局はますます増える。日本ルールが自然消滅する前に、日本の囲碁ソフトがヨセを日本ルールで、手割計算しながら、大きさ順に正確に打てるように改善していただきたい。
そうすれば、囲碁ソフトのヨセは単なる技術水準の問題で、日本ルールの細かなヨセが打てないのは囲碁ソフト側の技術不足だと主張もできる。ひいては日本主導の国際囲碁界、日本ルールの堅持、伝統と歴史を消滅させずに済む。日本囲碁古棋譜の歴史と価値を末永く守るためにも、ぜひヨセは日本ルールで大きい順に打ってほしい。
天頂7Zenの194手目のホットスポット

打ち継ぎテスト第1局から第10局まで、ほとんどの表示箇所がかなり早い段階で打たれた。問題なのは、囲碁ソフトは、それを大きい順に打っているかどうかだ。
9の七、1子トリは、白が繋がって安心なようだが、囲まれている黒10子には眼がなく、両側の白は独立して生きているので、攻め合いにもならない。内ダメはすべて白地で、この段階で1子抜く価値は低い。それが最優先の赤で表示してあるのは奇妙だ。
3の三の出、12の三の出、14の十七の出、いずれも先手になりそうな大きいところだが、手抜きの場合、逆ヨセはどうなるのか。
12の十一ワリコミも先手だが、相手は必ず応じるので、結果として地の得にはならない。先手だからと云って、打ち急ぐのは、コウ材を無駄に消費していることにもなる。
18の三、二線にハイは、逆に黒から抑えられるのがよく見る形。切り取り6目もあるので、後手の14目。したがって、這い込みは同じく14目。ただし、相手が手を抜けば、更に13目のハネツギがついている。市販囲碁ソフトは、果たしてどういう順序で打ってくるのか。
(
;FF[3]GM[1]AP[PocketGoban Ver 0.999]
SZ[19]PB[コンピューター九段]PW[一力天頂7Zen]
GN[44期碁聖戦本戦決勝193打継10局]DT[2019-05-09]
RE[B+1.5]GC[261手一力投了(黒2目半)。193手以後を天頂7Zenと、最強Zeroで打ち継ぐ。]KM[6.5]
PL[B]
;B[qd];W[dp];B[pq];W[dc];B[oc];W[qo];B[ce];W[op];B[oq];W[np]
;B[mq];W[ed];B[ch];W[nd];B[od];W[qe];B[qi];W[rd];B[qc];W[qg]
;B[ql];W[ol];B[oi];W[og];B[ne];W[mg];B[mi];W[pj];B[qj];W[me]
;B[nf];W[mf];B[md];W[pi];B[ph];W[qh];B[pk];W[oj];B[ok];W[nj]
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;B[qa];W[oh];B[sa];W[tt];B[tt]
)
第44期碁聖戦本戦決勝193手からの打ち継ぎヨセテスト(コミ6目半)
局 数 | 黒番ソフト | 勝敗 | 白番ソフト | 判定 |
---|
第1局 | 天頂7Zen | 半目勝ち | 最強Zero | 天順当勝 |
第2局 | 最強Zero | 5目半敗け | 天頂7Zen | 天逆転勝 |
第3局 | 天頂7Zen | 5目半敗け | 最強Zero | 最逆転勝
|
第4局 | 最強Zero | 1目半敗け | 天頂7Zen | 天逆転勝 |
第5局 | 天頂7Zen | 81目半敗け | 最強Zero | 最大差勝 |
第6局 | 最強Zero | 22目半勝ち | 天頂7Zen | 最大差勝 |
第7局 | 天頂7Zen | 23目半勝ち | 最強Zero | 最逆転勝 |
第8局 | 最強Zero | 136目勝ち | 天頂7Zen | 最壊滅勝 |
第9局 | 天頂7Zen | 9目半勝ち | 最強Zero | 天順当勝 |
第10局 | 最強Zero | 1目半勝ち | 天頂7Zen | 最順当勝 |
第1局のみ原譜の261手完黒中押し勝ちの続きから囲碁ソフトで打ち継ぐ。第2局から第10局は194手目から白黒交替して打ち継ぎ。

para1002n(ぱら仙人)
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