2006/4/12

バードとプレート  ラブフルート

 ラブフルートのバードとプレートをどうするか。これは製作をはじめて以来ずっと考えてきたことでした。プレートを使用するか、しないか。これはひとつの分かれ道です。使用するとすれば、どんな素材を選択するか。樹脂、皮革、金属、樹木などがありますが、それぞれの特徴があります。
 
 自然の産物である木製のフルートに樹脂はふさわしくないと考える方もおられます。ただし、加工が容易なことと腐食しないという特性があります。アメリカには樹脂を採用している工房がいくつかあります。

 皮革のプレートは、水分を含むと使用できなくなるし、変形してしまうので消耗品になります。ただ、木製のフルートとのバランスは取れますし、やさしい感じがします。このスタイルは初めて出会ったアメリカのシルバームーン工房のフルートで使用しています。プレートのパーツが入手しにくいのが難点です。

 金属のプレートに関しては、かなり個人差があります。まったく気にしない人と、違和感を感じる人がおられます。金属プレートは一般的に真鍮を使用しますので錆の心配はありませんが空気に触れると黒くなってしまいます。厚さを容易に変更できるのでブレスとのバランス調整は容易です。これはコヨーテオールドマンの工房などで採用しているスタイルです。

 木製のプレートをアメリカの製作者が使用しているかどうかは今のところわかりませんが、ブルーレイバンクリエーションではエンジュ製のプレートを使用しているフルートもあります。ただし、扱いに注意が必要なのことと製作ロスが出やすいのが難点です。外観的には自然な印象になります。プレートはノイズが出るので好まないというかたもおられますが、しっかりと製作した上でフィッテイングをよくすればなくすことができます。プレートを使用し、さらにプレートを本体に固定してしまうスタイルのものもあります。これは音程の安定を考えて選択された方法です。これはアメリカのオロリンフルート工房で採用しているスタイルです。
 
 こうしたプレート式のフルートに対して、プレートを使用しない場合は、より自然で素朴な印象のフルートになります。この場合、主に二つの製作方法があります。

 ひとつはバード自体に溝を彫りこんで空気の流れを作る方法です。おそらく加工上はこの方法が最も容易かと思います。もちろんバードの形状によって音色はかなり変化します。

 もうひとつは、フルート本体に空気の流れる溝を製作する方法です。これはどちらかというと機械的な加工を取り入れることで可能になる方法です。本体への溝加工は、ロスが出たときに本体自体をあきらめる可能性が高いと思われます。勿論、安定した技術があれば問題はないと思います。これはクリス・ティ・クーム友の会が販売しているフルートの構造です。

 プレートなしのフルートは音色がソフトになる特徴があります。これを音の切れ、発音が弱いと捉えることもできます。また、樹種が硬いものはエッジの切れを良くすることが可能ですからプレートのあるものと比較しても遜色はないと思います。ただし、やわらかい樹木の場合は加工が難しく、エッジの切れが悪くなることもあります。素朴で柔らかな音色を好む場合はノンプレートがよいかと思います。ただ、長期的には樹木が痩せて劣化するのが比較的早いという難点はあるかと思います。それは難点ではなく、だからこそ良いのだとも言えるでしょう。

 少し専門的な事を書きましたが、もっとも気にしているのはフルートを手にされる方にとって、どれが適切だろうかということです。今の時点では、時間が経過した時点でメンテナンスが容易であることを考えてプレートとバードを分離できるスタイルを選択しています。それは同時に、ノンプレートで吹きたいときにも対応できるようにしているということでもあります。

 バードに溝を彫っているものは、水分による膨張収縮が激しくなると樹木がぼそぼそになりやすく
音色にかなり影響を与えるようになってきます。使用頻度にもよりますが、いずれは取り替えるか溝を彫りなおす必要があるかもしれません。勿論、水に強い樹木であれば長持ちするでしょうし、防水処理やオイルフィニシュなどで長持ちさせることもできると思います。

 本体への溝加工、もしくはプレートの固定という方法を選択することは、演奏者の負担、ストレスを軽減するために有効です。どのフルートであれ、バードを一定のポジションにして音程を調整していると思います。そのためにはバードのみの調整でベストポジションを見つけるほうが確実性、安全性が高いと思います。プレートもバードも動いてしまうと、ベストポジションを見つけることが難しくなるからです。

 こうした要素を考えて、何度もポジショニングのあり方を検討してきました。そしてそれは今も継続中です。それは生き方、考え方そのものと関係があると思います。手軽で、安全で安定することが必要なのか..とりわけこのラブフルートに関して..普及しやすいのでしょうが、失う要素もあるように思うのです。

 試行錯誤を重ねる必要はそれなりにあるのしょうが、物事の捉え方、価値観は容易に変化しますし多様な視点がありますから、その全てを満たすことはできないでしょう。最終的には自分はそれをどう考えるのかという選択、決断をすることになります。思想家は、思索することが求められているのですが、製作者は実際に作り出さなければなりません。
 現段階では、辛いけれどどちらも(バードもプレーとも)動いて、なかなかよい音が出にくいスタイルを続けようとしています。それは敢えて難しくしたいからではありません。不親切なつもりもありません。

 自分自身にとって必要な音の響きと触れ合うことの大切さを思っての選択です。その難しさが、かかわる仲間との触れ合い、助け合い、励ましあいにつながることの大切さを感じているのです。どうすれば心地よく、しかも自分らしい音色、心とつながる響きが生まれるのか、忍耐強く、楽しみながらの旅。注意深くなったり、時に気ままに動いてみる。立ち止まる..周囲を眺める。そんなこんなをしているうちに、実に心地よい響きに出会う瞬間が生まれてくるのです。

 ところが、そのすばらしい音色が翌日にはうまく出てこない。微妙にバードが動いたりプレートがずれるからです。或いは湿度や呼吸の微妙な変化(=心理的変化)があるからです。そこで再び、心地よい音色に出会うためにプロセスを辿ろうとするのも良し、またそのうち出会うだろうから待とうということもあるでしょう。

 本体とプレートとバード。たった3つの部品が、実に巧みに心に語りかけてくることに気づいたとき
ある瞬間に生まれる美しい響きの尊さを知り、人生の旅路に何が必要なのかを思い見るような気がします。少し時間がかかりますが、やがて自分なりの組み合わせの変化を楽しめるようになるかと思います。また、個々人の呼吸の状態に対応する時には、微妙なポジショニングができる事が大切な要素かとも思います。

 もっとも基本的なこと(本体とプレートとバードと皮紐)をしっかりと確認し、ポジションを定め、貴重な命の息を吹き込む時間。そこに生まれるマイフルートの響きは、まさに自らの心(息)の響きになるのだと思います。

 こうした取り組みと同時に、今までに考えなかった、気づかなかったパーツの組み合わせがあるかもしれないな〜という密かな楽しみも残してあります..。
 
 
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