2007/12/6

香り・響き・秘密  雑感

 小さな工房に、一足早い春の訪れかと思わせるひと時がありました。それは桜の木を加工していた時のことです。柔らかいさくらの香りがほんのり漂ったのです。桜餅の時期には葉の香りが漂ってきますが、木の香りはそれよりずっとやさしく幸せな気分になる香りです。根気の要る作業が続く中で一瞬素敵な香りを吸い込む。それは言葉にならないとても心地よい瞬間です。

 さくらの香りが漂う中で、様々な木々の香りに思いを巡らせました。アスナロの香りにひかれてアスナロフルートを初めて手にされた方のこと..。嬉しそうに甘いレッドシダーの香りを嗅ぐ方たち...。かすかで品の良い香りを漂わせるイチイ。ナラの香り、くるみの香り、サクラの香り。その切り屑はスモークの材料にもなります。

 古くなって樹種が分からなくなった木は判別が難しいこともありますが、香りを嗅ぐと個々の木特有の香りの記憶がよみがえります。香りは目に見えないけれど、感じるという点で音に似ているかもしれません。或いは、すーっと自分の中に入ってきて感じ、反応するという点でも音と似ているかもしれません。

 さらに似ているのは、好きな響きや香りを感じているときの心地よさ、穏やかで幸せな気持ちかもしれません。音の響きも、かすかな香りも、一瞬で私たちの心や体を変える不思議な力があります。

 瞬間の感覚が一気に変化をもたらす。これはあらゆることに通じるのかもしれません。一瞬のまなざし、わずかな言葉、ふと目に留まった光景、わずかな表情の変化に反応する感情。それは心の鋭敏さ、繊細さに繋がっているのかもしれません。

 心が描く人生は、人生の本質と繋がっているようです。それはいつどこで何をしてきたかという略歴や記録のようなものとは違うように思います。

 その時、自分の心はどうだったか...。それは密かに記された日記に微かに残っているようなものかもしれません。いえ、よく考えれば日記を書いているその瞬間の心の動きは記しようがない..。
 
 自分たちには、瞬間と感じられること。言葉にならない一瞬。その背後には未知の世界が広がっているようです。一般的には、人生を時間の中で知ろうとするのですが、よくよく見詰めると少し違っているのかもしれません..。音の響きや香りには、そのあたりの隠された扉のヒントがあるのかもしれません..。

 見えないけど存在する空気が両者の媒体であることもまた、ヒントのひとつのような気がします..
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