2009/10/27

江差再訪・ヒノキアスナロ  雑感

 初めて江差を訪ねたのは35〜36年ほど昔だったと記憶しています。その江差を再度訪れるきっかけがヒノキアスナロの古材との出会いでした。一本の笛が、古い扉を開けてくれました。

 演奏前日から豪勢な歓迎の宴で始まりました。木を愛し、故郷に誇りを持ち、旅人を心からもてなす。そのつながりの豊かさがこの港町をしっかりと支えてきたのだと感じました。質問攻め、会話いっぱい、好奇心いっぱいの時間があっというまに過ぎました。

 是非とも合わせたい方がおられるとのことで訪れた居酒屋さんでは、オーナーご夫妻の江差追分をたっぷりと聞かせていただきました。江差追分の簡潔な解説の後に響いてきた尺八と見事な歌声との出会いはとても印象的でした。

 言葉にならない深い感動が全身を包み込む時間でした。歌声と尺八の重なりの中に、人の情念、悲哀、怒りと悲しみ、熱い思い、深い静けさが凝縮されていました。人の息遣いがすぐそばで感じられ、言葉の大切さ笛の音の深さにじっくりと触れることができました。

 そのわずかな時間との触れ合いは、これからの自分の演奏の変化を生みだすだろうという予感を伴いました。一つ一つの音の響きに生きざまのすべてを注ぎ込む。その瞬間の大切さを別の視点から確認させられる時間になりました。日本の風土が生み出す音の流れの美しさ、その豊かさと深さがラブフルート独特の響きと繋がっていくのだろうな...と。

 翌日は、ヒノキアスナロを大切に育樹し、地道に下草刈りをしながら守っておられる方々の前で演奏させていただき、インディアンドラムを一緒にたたきながら静かな祈り心に触れる時間をいただきました。

 季節の恵み、港町の恵みいっぱいの昼食をいただき、ゆったりと演奏の時間が過ぎました。古さを生かした街並みは新鮮で興味深いものがいっぱいありました。楽しい会話の中から、是非、桐の木を持って帰って笛にしてみてほしいとの声がありました。

 ひょっとして、今度は桐の木が江差とのさらなる再会、交流に繋がるのかもしれない..。そんな思いを抱きながら、長い旅路を終えてきました。1600年代半ばに開かれた、北海道では古い歴史を担う町。
人の繋がり、時の流れ、脈々と歌い継がれる江差追分。そこには、自分が分かち合いたいと思っている音の響きと人の心の繋がりの原点があったような気がします。

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2009/10/19

笛と就職  ラブフルート

 某大学から講義の依頼が届き、1時間半の時間を学生の皆さんと過ごしてきました。この春の展示会がきっかけとなり、秋になって実を結んだのでした。誰一人知る人もなく、電話1本でお引き受けしたのですが、少し不思議な体験となりました。

 これまでにも札幌市民大学での講座や企業の講習会などをさせていただくという体験をさせていただきましたが、はてさて今回はどんなことになるのか...未知の森に入り込んだ感覚でした。

 今更ながらに感じたのは、ほぼ同年代の若者たちがいっぱいいるところだったということでした。学校なんだから当たり前なのでしょうが、とても不思議な感覚でした。若い命、そのエネルギーを強く感じました。かつて高校に勤務していたことがありましたが、学生たちとの接触はどこか懐かしさもありました。

 現代社会と就職というテーマなのに、目の前にずらーっと木の笛が並んでいて、およそ関係なさそうな講義と個性的な音色が行きつ巡りつする...。大半の皆さんは、これはどういうことなのかという表情でした。そんな学生たちが、次第に自分が自分として生きていくことの意味へとつながっていく...。そんな時間になりました。

 最後に講義から受け取ったことを全員がレポートしたものを手渡していただきました。音色が教室全体に響き渡ったときの不思議な静寂が、さまざまな言葉となって綴られていました。

 すべてをじっくり読ませていただきました。それは種々の樹木が生み出した不思議の森を通り抜けるような感覚でした。あの空間に、こんなにも多様で豊かな思いが満ちていたのだと知らされ、個々の存在の尊さを改めて感じました。

 はっとするようなキラキラした文章は、あたかも一本の笛、その音色のように自分自身の道を指し示しているようでした。ゆったりと呼吸をしながら、それぞれの木々の響きを素朴に感じていただき、思い浮かぶままに言葉を紡ぐ時間になりました。

 社会に自分を合わせようとするよりは、自分がどんな人間として生きて行きたいのか、自分の基盤を明確にすること、自分の内側にある純粋な流れに妥協しない道を歩くことで社会は豊かになっていくのではないだろうか。それは並べられた個性豊かな笛たちが、人の呼吸と共鳴し、美しい音色となって空間を揺らすときに潜むメッセージのような気がします。
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2009/10/13

森のささやき  雑感

「森のささやき」という密かな会場でのライブが終わりました。人の思いが積み上げられて完成した建物は周囲を木々に囲まれ静かに時の流れを感じる空間でした。オーナーの思いもあって、今回のライブは多くの方々へのお知らせは控えさせていただきました。

 うっすら紅葉した木々を背景に静かにそばを打つ姿をのんびりと眺めながら気ままなおしゃべりを楽しむ時間。手の届きそうなところにエゾリスや小鳥たちがやってくるのが楽しかった。自分の体の中に入ってくる食べものが生まれてくる様をじっと見つめていると、生きていること、生かされていることの意味が今まで感じたことのない深くて暖かい光や流れになって自分を包みこんでくれました。

 新そばのおいしさを喜んだり楽しんだり..このまま音楽が聞こえてきたら、いつのまにか自分も一本の木になったり、小鳥やリスになってしまうかもしれない。ふとそんな感覚が浮かんでいました。

 やがて自分たちの時間がやってきて、集まられた誰もが手を添えてくださり。暖かいライブになりました。大半の方々がそっと目を閉じ、音の響きと時の流れを受け取っておられました。森の木々がささやく。
いそいそと駆け回るエゾリスも風のそよぎも、通り過ぎる雨音。みんなで揺らいで、流れて、ドラムの鼓動がいのちを繋いでくれました。

 たそがれとともに、一人二人と立ち去る時間。深くやさしい珈琲の香り。笑顔とやさしさ、静かな時間がいっぱいのライブになりました。

 ひとりでも木々の響きを聴いてみたいという方がおられるなら、時間の許す限り出向きます..そんな会話から生まれた時間でした。

 帰路の途中、近隣で個展を開いているマイミクのmacoさんと再会。暗がりの中に浮かび上がる光の中で、しばしラブフルートを吹かせていただきました。数年ぶりの会話は、記憶を楽しみ、この先に待っている道への思いへとつながっていきました。
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2009/10/4

雨の夜  雑感

 光の森のステージ演奏は土砂降りの中でした。湿度の高さが木管の楽器やドラムに決定的なダメージを与えることは目に見えていました。実際、ラブフルートは水を掛けたように濡れていました。響きに変化が起こるのは当然のことでした。この日は、来場者の方々や主催者の方々にとっても厳しい状況でした。

 ライブはステージイベントの最後でしたから人影はさらに乏しくなりました。多分、今日は行っても無駄と判断された方が多かったのではと思います。ベンチはあるけれど濡れていて座るのが難しい。傘をさしながら、肩口を濡らしながら長い時間立ち続ける、寒さもこたえる、聴き続けるには厳しいものがあったと思います。

 自分たちの前の方々のステージを見せてもらいながら、光と紅葉が始まった木々との絶妙のハーモニー、その美しさが心に残りました。それと同時に傘を持つ手が辛くなり、拍手も思うように出来ませんでしたが、なかなかいい時間でした。

 秋の雨の夜ではありましたがライブにが来てくださった方々がおられました。雨音の中で聴こえてくるラブフルートやドラムの音色に感動され、後にメールをくださったYさん。その文字の中には1000人の来場者に勝る素敵な思いが綴られていました。その手紙をイベントのために奔走していたNさんにも読んで頂きました。彼にとっても大いに励ましと喜びになると感じたからでした。眼を通した彼には笑顔が浮かんでいました。

 そこにどんなことが起こっても、その中で出来ることをさせていただく...そんなライブから感じられた思いを届けてくださったSさん。翌日のライブに再度来てくださって、昨日の夜も聴かせてもらいましたと言いながら手助けしてくださったYさん。

 この日を楽しみに舞ってくださったHさん。彼女の舞いが始まったとき、雨音が一段と強くなり、舞い終わった時に雨音はゆるかに静まっていきました。雨音と笛の音と舞い。それが雨の筋と美しい光と木々の陰影中で聴こえてくる。その幻想的な印象を綴ってくださった一通のメール。

 自然の営みと木々の響きが生み出す不思議な世界。秋晴れの日、風の日、雨の日と繋がったライブから受け取るもの。それは秋の恵み、一粒の熟れた甘酸っぱい木の実のようでした。

 翌日のライブは前日とは打って変わった好天。雅楽演奏の時間は十五夜の輝きと相まって、その音の世界がうっすらと色付き揺れる木の葉と一つになりました。その響きはこの日本の風土の中から生まれてきたのだとしみじみと感じました。この日は室内でのライブ。遅い時間であり、庭園のステージもありましたが豊平館内の会場は立ち見の方もたくさんおられました。

 10月のライブはまだ続きます。11日の長沼、24日の江差、31日の盤渓。色んな収穫を楽しみながら旅を続けようと思っています。
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