2011/3/9

人生で2度だけの出会い  雑感

  人生で2度だけお会いした方が、2月に亡くなりました。「ホピの予言」というドキュメンタリー映画の監督をされた宮田雪さんです。奥さまから、是非会って下さいと声をかけていただき、宝塚にラブフルートのレッスンに出向いた後、有馬温泉にある病院を訪ねたのが最初でした。

 お会いする何年か前に、いつかご主人のためにフルートをお作りしたいとお話してきましたが、具体的な動きがないまま時が過ぎました。それは、宮田氏の病状を知らないままの話でしたから、具体的な動きにならなかったのは当然のことでした。とても、笛など吹ける状態ではない..。それが奥さまの率直な思いだった事と思います。

 それが、不思議な流れで宝塚に出向くことになり、その流れのままに有馬記念病院へと繋がりました。具体的な状態をほとんど知らないまま、初めて宮田氏とお会いしました。若い頃に長く闘病生活をしていましたので、宮田氏の状況に驚く事はなかったのですが、そうした経験がなければ、驚きを隠せなかったかもしれません。

 病状が進んでいた事もあったのでしょうが、全く言葉を出す事が出来ず、ほとんど自分の意思で動かせる身体の機能はありませんでした。

 かつての闘病生活の中で、頸椎損傷の青年と1年半ほど病室を一緒にしたことを思い出しました。青年は言葉は使えましたが、とてもか細い声でした。看護師さんの依頼で同室になったのですが、1カ月以上、言葉を交わす事はありませんでした。私は車椅子や松葉杖で歩きながら、沈黙のまま、彼のごみ箱のごみを捨てたり、水を汲んで過ごしました。それ以前、彼は広い病室にたった一人で寝て居ました。患者さんたちが、気持ち悪がって同室を拒んでいたからでした。

 私が決めたのは、とにかく拒まれない限り、出来るだけそばに一緒に居ることでした。やがて決して目を合わせようとしなかった彼と、ふと眼が会いました。そして「こんにちは」と声をかけると、小さな声で返事が返ってきました。やがて彼は笑顔を見せるようになりました。

 初めて宮田氏と顔を合わせた時、どうしても伝えたかった事がありました。そして、それをお伝えしました。「素晴らしい映画を作ってくださってありがとうございます。多くの方が、あの映画を通して新しい旅を始めていますし、感謝しています。」と。

 その時の宮田氏の笑顔と涙は決して忘れる事はないと思います。その後は、許される限りの時間をそばにいて過ごしました。そばにいてくれる、それがどれほど必要で、大切な事か厭と言うほど知っていたからです。

 この時、ラブフルートを宮田さんのためにお作りしましょうか?と声を掛けました。すると、彼はうなづきました。病状からすると、無理のない短めのものにしましょうか?と尋ねると、首を振りました。では、それなりの長さのものが良いのですね?と問いかけると、軽くうなづきました。さらに、どんな樹種が良いかを巡ってやりとりがつづき、蝦夷山桜の木が良いと云うことになりました。

 一年後、奥様にフルートをお送りした時「すっかり忘れてました」と返事が返ってきました。それから半年以上の時が流れ、やがて関西の企画が始まりました。影絵の仲間との繋がり、そして宮田に会ってほしい、その二つが大きな目的でした。

 こうして、2度目の出会いがあり、蝦夷山桜のラブフルートを奏でる事が出来ました。首を持ち上げて、なんとか笛を吹こうとする姿に、とても熱くて力強いエネルギーを感じました。「その姿が、十分あなたの響きとなって伝わってきますよ」とお伝えし、わずかな時間フルートを吹かせていただきました。

 「宮田のこんな表情見た事がない...」それが奥様の感想でした。何を感じられたかは分かりませんが、その後は、彼の動く方の手を握り、親指会話をして過ごしました。驚くほど力強い動きでした。「また、お会いしましょう」これが最後の言葉になりました。

 彼の呼吸では、あの蝦夷山桜のラブフルートは響かなかったはずなのに、不思議な響きが心の中に残っています。彼がしっかりと立ち上がって、遠くを見つめながら堂々とフルートを奏でている姿です。声をなくしているからこそ、その笛を誰よりも心をこめて奏でる事を知っている.....。そんな気がします。

 わずかに残された力で起き上がって笛を吹こうとした彼の姿。それは私の心と繋がって、新しい響きを生み出していくのだろうと思います。お会いできて良かった。心からそう思います。

 *今回の日記に、個人名(宮田雪」を書き残したのは、その存在を知ることで彼の意図した事が深く根付く事を願っての事でした。
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