平成詞玉緒
詞玉緒は係結びの法則を発見した宣長の名著ですが、平成詞玉緒とは仮名遣速習の為に、ハ行転呼音や、しちすつ四音の書き分け、ゐゑをの入る語例等を五十音順に類集して十七篇の自由律詩に纏めたものです。また之を漢語にも適用して狂言仕立ての中に国語創造神話ともいふべきものにしてあるのですが、遺憾ながら今のブラウザ環境ではかなりの字が映示されませんので、こちらは公開出来ません。これに付録して五十音図の内包する思想の解明と変遷表を併載してあるわけです。
下記見本作品中にア行音及びワに聞こえるものはすべてハ行に表記すべきといふ仕組みでして、素読暗誦しながら自づと仮名遣が身につく効果を目指したものです。
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目録
** 序歌 タに続くは行転呼
** 端唄五章 母音段に続くハ行転呼
** 一 まひなひ ア段
** 二 いはれ イ段
** 三 うはさ ウ段
** 四 横恋慕 エ段
** 五 をはり節 オ段
** 流寓 あ、さに続くは行転呼
** 旧婚旅行 かに続くハ行転呼
** あがなひ なに続くは行転呼
** スローガン はハ ほハ
** 忌避 はし
** 忠告 まに続くは行転呼
** 家庭教師 らに続くは行転呼
** いこひ お段に続くは行転呼
** あらはれ ろに続くは行転呼
** 春山 おに続くほ
** 伯父の家 ぢ づの入る語例
** 供物 や わ行活用例
** 田舎祭り ゐの入る語例
** 会釈 ゑの入る語例
** 夢 をの入る語例
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序歌
タに続くは行転呼
荒妙の訴へに和妙に答へ
(あらたへのうつたへに にぎたへにこたへ)
明妙に歌ひ照妙に鍛へよ
(あかるたへにうたひ てるたへにきた
値も量る能はぬ
(あたひもはかるあたはぬ)
白妙の尊き甕に
(しろたへのたふときもたひに)
たはやすくたはぶるな
与へられし身過ぎに堪へてうろたふな
(あたへられしみすぎにたへてうろたふな)
世々傳はれる言葉を労はり
(よよつたはれることばをいたはり)
敷妙に慕ひ讃へよ
(しきたへにしたひたたへよ)
「荒妙」 粗末な布 「和妙」 柔らな布 「明妙 照妙」 光沢ある布
「能はぬ」不可能な 「甕 もたひ」水瓶 「たはやすく」軽軽に
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この辺は三味線に乗せて仮名遣を覚えませう
端唄五章 母音段に続くハ行転呼
一 まひなひ ア段
相生の月日に替はりは利かぬ物を
(あひおひのつきひにかはりはきかぬものを)
月にたはけて日をさへぎり
(つきにたはけてひをさへぎり)
拘はらすなと笑ひ倒(たふ)すは
(こだはらすなとわらひたふすは)
危ふいこと五重塔の舞扇故
(あやふいことごぢゆうのたふのまひあふぎゆゑ)
常世の病障に目が回らう
(とこよのさはりにめがまはらう)
泥縄綯ひに手携ふる濁世に敢へて合はせずとも
(どろなはなひにてたづさふるにごよにあへてあはせずとも)
返すべき辺に帰るべし
(かへすべきあたりにかへるべし)
言は賄賂受けぬ物
(ことはまひなひうけぬもの)
やはか八百長の津に航ふまい
(やはかやほちやうのつにもやふまい)
「たはける」 みだらな行為をする 「常世」 永久に変はらないこと
「濁世」 混濁した社会 「まひなひ」賄賂 「やはか」 よもや
「航ふ」舟を繋留する ここでは無自覚に同調する意味
二 いはれ イ段
家のいはれを極むれば千重いにしへの五百重の教へ
(いへのいはれをきはむればちへいにしへのいほへのをしへ)
三重に交へてとこしへの小さき生贄を
(みへにまじへてとこしへのちひさきにへを)
新室に強ふるといへども
(にひむろにしふるといへども)
側方に柊挿頭してしひたげ誣ふる声天に沖れり
(そきへにひひらぎかざしてしひたげしふるこゑあめにひひれり)
「とこしへ」 永久 「生贄 にへ」 神に捧げる犠牲 「側方 そきへ」傍ら 但し原義
は遠く隔たつた所 「挿頭す」 髪に挿す 「誣ふる」 不正を訴へ抗議する
「沖る ひひる」 ひらひら舞ひ上がる
三 うはさ ウ段
うぐひすのうはの空なる身の上に濡れ衣拭へぬ噂たてば
(うぐひすのうはのそらなるみのうへにぬれぎぬぬぐへぬうはさたてば)
水鶏は狂ほしう叩けども 焼け木杭に火の初児
(くひなはくるほしうたたけどもやけおくくひにひのうひご)
指を咥へ乳を吸はせ 食へぬ喧嘩も始まれば
(ゆびをくはへちちをすはせ くへぬけんくわもはじまれば)
男女の仲らひは つひに結ひ目はしらぬひの糸
(をとこをんなのなからひはつひにゆひめはしらぬひのいと)
行方も救はれぬ
(ゆくへもすくはれぬ)
「うはのそら」 そはそは落着かない状態
「水鶏 くひな」 水鳥の名 鳴声戸を叩く音に似る
「仲らひ」 間柄
「しらぬひ」 筑紫にかかる枕詞
四 横恋慕 エ段
つぎねふ山城女にけはしく言ひ寄り
(つぎねふやましろめにけはしくいひより)
今日見ぬ婦負男はせはしなき愁へに酔へりてふこと
(けふみぬねひをとこはせはしなきうれへにゑへりてふこと)
万葉に見ゆやと姪御に問はれける
(まんえふにみゆやとめひごにとはれける)
つぎねふ 山城にかかる枕詞 「言ひ寄る」 恋心を打ち明けて近づく
やましろは今の京都 婦負は富山(作者注)
「酔へりてふこと」 酔つて理性を失つてゐたといふこと
五 をはり節 オ段
負債に追はれ恋壊れ 一昨日添ふやと昨日問はれ
(おひめにおはれこひこはれ をととひそふやときのふとはれ)
思ひ宵闇におほほしみおはする甥御のをはり節おほよそ教はる
(おもひよひやみにおぼほしみおはするをひごのをはりぶしおほよそをそはる)
「おほほしむ」 ぼんやりしてゐる
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