2006/3/30

『中世の生活文化誌』  お勧めの1冊

ピエール・リシェ著;副題は「カロリング期の生活世界」東洋館出版社。1992年初版。訳者である岩村清太氏は最後に、以下のように述べる。

『著者は、現に具体化しつつある(1991年時点)「欧州共同体」の原型ないし範型は、まさにカロリング帝国とその延長にあると考えている、つまり本書は今日のヨーロッパの統合という視点にたち、カロリング帝国における地理的統一はもちろん、民族、経済、文化、思想における統一を描こうとしている』p423

それに対し、現フランスの首相であるドビルパン氏のように、移民や環境汚染といった分野で今やヨーロッパはかつての枠内では解決出来ない問題に直面していると考える人達がいる。いまやトルコすら加入するかどうかが話題になっている拡大するEUの中にあってこの著書のような考えの人達がいることは注目すべき。

内容に戻ると、この本の中で、
『サン・ジェルマン・デ・プレ修道院は30,000ヘクタール以上・・・812年のアーヘンの宗教会議は「大規模な修道院は3,000から8,000マンス( 1マンスは平均して12ヘクタールの広さ) の土地を所有している」と述べているが、実際には、その倍と見て差し支えない。二流の教会は1,000から2,000マンス、小規模な修道院でも、300から400マンスの土地を所有していた。』p81

『・・サン・ジェルマン修道院の領地における人口密度は1平方キロあたり34-39人と推定し・・・イゼール川からブーロネ丘陵にかけては1平方キロあたり34人、より北の地方では20人、リル周辺では9-12人、モーゼル川流域では4人であったと推測されている。p57-58  

これからこの時代、サン・ジェルマン・デ・プレ修道院の所有する領民の数はほぼ1万人という計算になる。 (沢山の著書で再三、サン・ジェルマンの資料に言及されていて、その資料は1級のもの)

また別の章の記載によれば、マンス(manse)はプロバンス語の農家 (mas) と同様、家屋(mansio)から由来し、1マンスとは1家族の生活を支えうる土地ということ。p122

とすると、サン・ジェルマン・デ・プレ修道院は30,000ヘクタール=2500マンス=2500家族を所有し、1家族数は10000/2500で4人。これは別の本で1家族の子供の数が2.5人(=〜4.5人/家族)となっていたのでつじつまがあう。

で問題はこの数字のうち、どれが記録として残されたもので、どれが計算値なのかだがこの本には明記されていない。しかし、手がかりはある。 実際にロアール川流域のサン・マルタン修道院の土地台帳を解析した『修道院と農民』
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/20060318/archive
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/20060303/archive
の資料で記録されているのは戸主の名前と、10分の1税だった。例えば、

『Col. Monte村の農民Loedoaldは、小麦2、燕麦1モディウスを納める』とかの記録が残っている。

おそらく可処分収穫量(10分の1税と種籾を差し引くと計算出来る)から1家族の人数が推定出来るのだろう。しかしこれに関して、今でも1モディウスを正確に現代の量換算することは難しいことは『修道院と農民』で以前見て来た通り。 

つまり私が言いたいことは、たとえ教科書的に書かれていることでも、それらを詳細にみていけばかなり細部には信用出来ない部分があり、それからいま定説となっている全体像すら完全に信頼出来るものではない。
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