2008/7/28

珍しく「お薦めの1冊」に小説「路上の人」を  お勧めの1冊

「路上の人」堀田善衛、初版は新潮社より1980年。 徳間書店から初版として2004年。

予想通り、面白い! しかも小説なのでどんどん読める。一気に読んでしまった。もったいない! ちびちび読めばよいものを。 この本と「薔薇の名前」に非常な共通点があることに気がつく。 

『最終的にヨナが解するところによると <キリストは果たして笑ったのか、笑ったとすれば如何なる場合に、如何なる場所で笑ったのか…> を究明する為に、法王の命によりて、トレドに向かう者であった。 …これは旅の途中での、この僧とその他の高位の修行僧との議論をヨナが傍らで聞いて結論を出したものであった』p41

僧はトレド(この僧が、アリストテレスのギリシャ語原本を研究していた場所)についてから8ヶ月程した冬の日の突然血を吐いて死んでしまった。血は黒かった。ヨナは毒殺されたのではないかと思ったが…」p56

『僧と死に別れて後も、ヨナはしばしば考えることがある、笑いとは何か、と。 人間の笑いが学問の対象となるものであるとは、何を意味するのであろうか、と』p57

「笑い」の意味は大きい。何故なら、笑いは「他に対する批判であり、自己評価でもありうるからである。もし批判であれば、批判は異なるものの排除や断罪を意味するものではなく、異なるものの存在を評価し、許容するものでなければならないだろう。p42

あの「薔薇の名前」の中心課題も(映画ではアリストテレスの本というだけではっきりしないが)「笑い」の神学的意味を問うものだった。 しかも、あの「薔薇の名前」で修道僧が次々殺されていく理由もアリストテレスの「笑い」だった。

堀田氏がこの本を書いたのは1985年である。一方、「薔薇の名前」が書かれたのが1980年、この著者があのエーコーの本を読んでいたと考える方が自然だろう。 しかもウィリアムとアドソに対するコンビがここでは学僧とヨナとなっている。

しかし例え、そうだとしても、この本が単なるパクリ本だというわけではない。 私としては、ある意味その続編と捉えている。

そのほか、このような下りがある、
『不法なれども有効なり、ラテン語で Ilicita sed valida』

これは当時最大の神学的問題であった事項。『たとえ破戒の司教から洗礼を受けても、それが形式に則ってなされていれば、洗礼そのものは有効』だとする論理
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/102/trackback

『伝統的にカソリックでは人効論(主観主義)より事効論(客観主義)を正統とした』ということ。こう書くと何のことか判らないが、判りやすく云えば、『たとえ異端の司教から洗礼を受けても、それが形式に則ってなされていれば、洗礼そのものは有効』だとする論理。 しかしこのアウグスティヌス以来(実際にはその前から)正統とされた神学は『普通の常識とは相反したデリケートな性質を持っていた』p82 ので、決して全ての神学者に十分理解されていたのではないということ。そして最大の山場、グレゴリウス改革でその不徹底が露呈したということらしい。 そして、これは私の考えですが、これはキリスト教の内面化に伴う変化ではなかったかと思われる。 『正統と異端;副題、ヨーロッパ精神の底流』から

またこのような記載もあった。

『サン・セルナン大聖堂に、10年程前までフォウルケと呼ばれる、司教にして法王特使でもある男がいた… 若い頃にはトルヴァドールとして…』p259

まさにこれはフーケ・ド・マルセイユに違いない。 
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/40/trackback

まさにこの本は西欧中世史のキー概念をあちこちにちりばめた贅沢な作りである。 まさにお薦めの1冊。 

最後に解説者の加藤周一氏は語る。
『堀田は近現代のヨーロッパを理解する為に必要な限りで歴史をさかのぼったのである。どこまでさかのぼったか。13世紀まで、何故13世紀までなのか… 13世紀以前の中世、いわんやローマ帝国の古代は異文化であり…』p388

同じ思いである。 ただし私としてはこれを11世紀までさかのぼるとしたい。 より具体的にはキリスト教以後の西欧までさかのぼらなければならないと考える。

西欧理解の為にはこの中世まで、歴史をさかのぼらなければならない。 しかし、そのことは余り日本では理解されていないと思う。
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