2006/2/25

『新ヨーロッパ大全』  お勧めの1冊

この本を読むと「目から鱗」。ただキリスト教関係の知識がない者としては十分理解は難しい。後で間違いが見つかれば訂正します。

トッドは、ヨーロッパの宗教改革以後の西欧キリスト教地図を以下のように作成するp206 まず「父子関係はポジティブに神の権威のレベルを決定し、兄弟関係はネガティブに神の権威への異議申し立てのレベルを決定する」とし、さらにそれに「聖職者権威への異議申し立てに有利・不利な条件」として識字化とローマ間での地理的距離を変数として加え、

(1)直系家族+聖職者権威への異議申し立てに有利な条件=正統プロテスタンティズム(北部ドイツ、北部スイス、南フランス、スエーデン)
(2)絶対核家族+聖職者権威への異議申し立てに有利な条件=アルミニウス派的プロテスタンティズム(ホラント、イングランド)
(3)直系家族+聖職者権威への異議申し立てに不利な条件=カトリシズムの維持(アイルランド、ラインラント、イベリア半島北部沿岸、フランス中央山塊、アルプス高地)
(4)平等主義核家族+聖職者権威への異議申し立てに有利な条件=カトリシズムの維持(北部イタリア、パリ盆地)
(5)平等主義核家族+聖職者権威への異議申し立てに不利な条件=カトリック支配の維持(中央並びに南部スペイン、南部イタリア)p155-6

ここで自由と平等の価値観がカトリックに有利に働くのは以下の理由による。『トリエント宗教会議は救霊予定説を退け、形而上的機会平等と自由意志の理論を強化する』p132 なお、新教カルビン派の思想に特徴的なのがこの救霊予定説。そこでは人は天国に行く者と地獄に行く者が誕生以前から決まっているとする。確かにそういう意味ではカルビン派が実行動において敵対する者を冷酷に断罪するのはよく判る。

中世末期や近世に、如何に地域ごとの識字化率や文化水準を決めるかという点で彼は、18世紀末の婚姻台帳に<自分>で署名出来た地域の分布図p269と15世紀末に一台以上の印刷機が稼働していた分布図を比較するp137 そして『識字化のテイクオフは当該地域の歴史が古いということに求められない』p172とする。そのよい例として、1500年頃は文化的周縁部に位置していたスカンジナビアとスコットランドが急速に識字化を進め1900年頃には文化的に中央に位置したことを指摘するp172 スエーデンやスコットランドでは支配的な直系家族が文化的効率を挙げた一方、識字化が長期的には上昇傾向を示しながらも振動運動を見せるイングランドについては、典型的な絶対核家族は不確定性を示すとするp80。つまり『絶対核家族は文化的後退を許容するのに対し、直系家族はそれを禁じる』p179 これは生活感覚としてもよく判ります。

また「文化的水準」と「工業的水準」が乖離しているとの点に間して彼は、1858-62年において大ブリテンが世界の鉄の53%、繊維の49%を生産しているにも関わらず同時期文字を読める住民はブリテンよりドイツやスエーデン、スイスで多いこと、しかしながらこの地域では工業的水準は立ち後れていた事実があることを指摘する。 そしてそこから経済発展の自律性を主張する史的唯物論が生まれたとするp189。

また「脱キリスト教化の年代的推移」を見る方法としては(カソリック世界では)ミサの出席頻度が考えられるが実際には史料として存在しない。そこで彼は、代わりに「新たに聖職者となる者の数」を用いる。そこで観察される事実は、この数は直線的に減少傾向にあるのではなく、最初のカトリックの危機(18世紀末)を乗り越えた地域では20世紀後半までは少なくとも減少していないこと。特に19世紀は増加すらしているp214 

此処であのヴォウヴェルの研究が引用されていました。ヴォウヴェルは南仏プロヴァンスにおける膨大な数の遺言状の解析に於いて、その中に現れる<ミサの依頼の相対的頻度>を指標として使っている。 両者の数字からの解析は「脱キリスト教化の年代的推移」に関して一致しているp210。

此処までの纏めとして彼は、西欧における脱キリスト教化は地域ごとに多様であり、また時代的変化も大きく異なることを明らかにした。そしてそのような <<脱宗教化は形而上学的空虚を生み出し、それに代わるものとして民族のイデオロギーと階級のイデオロギーが生まれた>> とするp252。 これについては上巻最後の第III部「宗教の死、イデオロギーの誕生」に続く。

<感想>
様々な資料・史料を駆使して議論を進められると一読者としては彼の結論に納得せざるを得ない。しかしこちらは所詮素人、そこに挙げられる数字を評価する能力がない。やはり此処はピアレビューが出来る同分野の研究者によるトッド批判が必要。 ただ個人的印象としては数字の恣意的操作が無いのか?何となく気になるところ。

*勿論、このように批判はしても、彼の著書は文句無しにお勧めの1冊です
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