2006/3/6

『中世農村と1970年の農村』  お勧めの1冊

トッドの『新ヨーロッパ大全』より、第一章『家族制度』で彼は、1500年から1900年という比較的短い期間については<家族型の絶対的安定>という仮説が妥当であると述べる。その例としてP・ランスレットのイングランド研究を例にとり、産業革命を隔ても16世紀から20世紀にかけてイングランド(図で見れば東部のみ)は絶対核家族であったこと。またこの研究が教会の住民台帳の解析によったことを述べている。p85 別の例として、イタリア中部が共同体家族であったことも豊富な史料、特に17−18世紀の住民台帳、15世紀まで遡る課税調査の解析によると述べる。p86 結論として彼は、それ以外の地区については不十分な史料しかないことを言及しつつも、『・・16世紀から20世紀にかけてヨーロッパの家族制度が農民世界において安定しているという仮説を覆すような研究は見当たらない・・』と結論づけている。p87

さらに第二章『農地制度』では、マルクスの資本論を議論のまな板に載せる。マルクスは近代化の過程においては経営と所有の集中の動きが必然として、農民の土地が収奪されることにより一握りの資本家的経営者と、生産手段を奪われた農民労働者、即ちその後生まれる工業を支える貧困なプロレタリアの2つのカテゴリーが形成されるとする。しかしながら1970年当時の2つの地図、図13の労働力人口中の農業就労者の割合=脱工業化? と図14の農業労働力人口中の賃金労働者の割合=プロレタリア予備群? は全く対応してない。一方で彼は、大規模経営と家族経営という2大分類に分けられる分割形態が西欧において  『古くからの原初的で安定的なものである』p89  ことを挙げ、マルクスの理論が現実に合っていないことを指摘する。その例として彼はジョルジュ・デュビーの『中世西欧の農村経済と田園生活』を引用する

デュビーの研究結果は当時の大荘園モデルが20世紀末の農業賃金労働者の分布と完全に重なり、一方大荘園が存在しないかあっても極めて弱体であった地区は1970年の家族農園(地図14)の分布に合うことを結論するp95。

ただ結論として彼は、農地制度と家族制度はお互いに相容れるものでなければならないとしながらも、(確かに「家族型の西欧地図」地図12 p80と「農地制度の西欧地図」地図16 p101を比較するとよく類似している)p102 独立の事象、それぞれ別の変数として見なさなければならないとしている。p114 

第三章以降は「宗教と近代性」として膨大な分量を『(反)宗教改革』に割いている。彼は冒頭、『家族構造によってその形態を決定されながら、宗教は文化的・経済的・性的進歩の速度を決定する』p119と述べている。
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2006/3/6

『世界像革命』  お勧めの1冊

トッド著、藤原書店2001年初版;彼の2度目の来日に際して行なわれた多くの講演や討論の内容を含めたもので『移民の運命』を読んだ者には軽く流せる内容。ただし彼の思想を生み出した舞台裏を知り得る意味では面白い。また彼の著作に対して当然わき起こるであろう、様々な批判に対しどのように答えているかを知る意味でも価値はある。 

彼は述べる、提示したそれぞれの集団の家族構造が不変なものでなく、今後変わりうるものだ(しぶとく別の形で痕跡を残す力があるとしても)ということは認めているよう。また彼の理論が(マルクス主義に代わる)新たな運命論・決定論であるとする批判に対しては、『決定論であること自体が批判の対象になるのはおかしい』と述べている。そして「著作に価値観を含んでいない」とも云っている。確かにそう云われればその通りであるが、私自身がひっかかった部分も実はそこ。

彼は「我々が重力に支配されている」ということを認めたとしても、それはファシズムではないと述べ、むしろそれを認めることにより我々は空中遊泳が出来るというような幻想を抱かずに済むし、何よりも重力の存在を認めることはそれを制御する術を知ることとなり、飛行機で空を飛べる術を身につけることにもなる。と、云うような事を述べている。

個人的にちょっと残念に思ったのは、彼が(彼の理論によれば)直系家族からなり権威主義的で差異主義的な日本が今後直面するであろう問題に対して。多少遠慮がちに答えていたこと。もう少し厳しい未来像を語って我々にショックを与えてもよかったのではないだろうか?
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2006/3/6

<青は藍よりいでて藍より青し>  お勧めの1冊

トッドは西欧の近代化には3つの要素が絡むと考えているようだ。それは象徴的に3つの国で示される。識字化に成功したドイツ、受胎調節に成功したフランス、そして産業革命に成功したイギリス。それぞれがそれぞれの国の人類学的基盤に繋がっている。

例えばドイツは家族構造として直系家族で知的遺産を跡取りに伝えることに熱心で、これは識字化に繋がる。またこの国が権威主義的プロテスタント化したこと(これも実は家族構造と関連あると彼は考える)は教会の権威から距離をおくことを要請したので識字化はさらに加速化した。

このような新しい見方はフランスの史学の伝統であるアナール派から出て来たものだとも思うが『青は藍よりいでて藍より青し』の諺通りだと思う。彼の新しい見方が初めてヨーロッパの知的世界に紹介された時、衝撃的だったのではないか? 彼の仮説で多くの今日的問題の解釈が可能なような気がする。勿論仮説は仮説、検証される事が必要で間違いが判れば捨て去ればいいこと。

もし彼の仮説が正しければ、人類の将来は決して暗いものではなく希望が見えてくるし、今我々が人類史上一大転換期にあることも読み取れる。トッドによれば、世界的な識字化というのは2030年頃に達成されると予想されている。『移民の運命』p51 彼はこの事態を「革命」と呼んでいるが、この識字化が急速に進んだのはどうやら前世紀以降のようである。文字の発明はおよそ紀元3000年に遡るが、人類が文字に関わる革命を隅々にまで実現するには5000年かかったということになろう』p51 つまり我々は歴史上、識字化の最終局面に立ち会う証人ということになる。また受胎調節もしかり多くの国で出産率が5〜6から2になったのは20世紀の出来事であるし、今後開発国でこの変化が急激に起こるであろうことは容易に想像される。このような急激な歴史的転換は多くの悲劇を生むだろうが、それを越えたところに明るい未来があると期待させられるのは私だけでしょうか?
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2006/3/6

Nucleic Acids Research. 33(12):3779-84, 2005.  

Mammalian enzymes for preventing transcriptional errors caused by oxidative damage.
Ishibashi T. Hayakawa H. Ito R. Miyazawa M. Yamagata Y. Sekiguchi M.

8-Oxo-7,8-dihydroguanine (8-oxoGua) is produced in cells by reactive oxygen species normally formed during cellular metabolic processes. This oxidized base can pair with both adenine and cytosine, and thus the existence of this base in messenger RNA would cause translational errors. The MutT protein of Escherichia coli degrades 8-oxoGua-containing ribonucleoside di- and triphosphates to the monophosphate, thereby preventing the misincorporation of 8-oxoGua into RNA. Here, we show that for human the MutT-related proteins, NUDT5 and MTH1 have the ability to prevent translational errors caused by oxidative damage. The increase in the production of erroneous proteins by oxidative damage is 28-fold over the wild-type cells in E.coli mutT deficient cells. By the expression of NUDT5 or MTH1 in the cells, it is reduced to 1.4- or 1.2-fold, respectively. NUDT5 and MTH1 hydrolyze 8-oxoGDP to 8-oxoGMP with V(max)/K(m) values of 1.3 x 10(-3) and 1.7 x 10(-3), respectively, values which are considerably higher than those for its normal counterpart, GDP (0.1-0.5 x 10(-3)). MTH1, but not NUDT5, possesses an additional activity to degrade 8-oxoGTP to the monophosphate. These results indicate that the elimination of 8-oxoGua-containing ribonucleotides from the precursor pool is important to ensure accurate protein synthesis and that both NUDT5 and MTH1 are involved in this process in human cells.
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2006/3/6

Biochemistry. 44(17):6670-4, 2005  

Ito R. Hayakawa H. Sekiguchi M. Ishibashi T. Multiple enzyme activities of Escherichia coli MutT protein for sanitization of DNA and RNA precursor pools.

8-OxoGua (8-oxo-7,8-dihydroguanine) is produced in nucleic acids as well as in nucleotide pools of cells, by reactive oxygen species normally formed during cellular metabolic processes. MutT protein of Escherichia coli specifically degrades 8-oxoGua-containing deoxyribo- and ribonucleoside triphosphates to corresponding nucleoside monophosphates, thereby preventing misincorporation of 8-oxoGua into DNA and RNA, which would cause mutation and phenotypic suppression, respectively. Here, we report that the MutT protein has additional activities for cleaning up the nucleotide pools to ensure accurate DNA replication and transcription. It hydrolyzes 8-oxo-dGDP to 8-oxo-dGMP with a K(m) of 0.058 microM, a value considerably lower than that for its normal counterpart, dGDP (170 microM). Furthermore, the MutT possesses an activity to degrade 8-oxo-GDP to the related nucleoside monophosphate, with a K(m) value 8000 times lower than that for GDP. These multiple enzyme activities of the MutT protein would facilitate the high fidelity of DNA and RNA syntheses.
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2006/3/6

EMBO Reports. 4(5):479-83, 2003  

Ishibashi T. Hayakawa H. Sekiguchi M. A novel mechanism for preventing mutations caused by oxidation of guanine nucleotides.

MutT-related proteins, including the Escherichia coli MutT and human MutT homologue 1 (MTH1) proteins, degrade 8-oxo- 7,8-dihydrodeoxyguanosine triphosphate (8-oxo-dGTP) to a monophosphate, thereby preventing mutations caused by the misincorporation of 8-oxoguanine into DNA. Here, we report that human cells have another mechanism for cleaning up the nucleotide pool to ensure accurate DNA replication. The human Nudix type 5 (NUDT5) protein hydrolyses 8-oxo-dGDP to monophosphate with a K(m) of 0.77 microM, a value considerably lower than that for ADP sugars, which were originally identified as being substrates of NUDT5. NUDT5 hydrolyses 8-oxo-dGTP only at very low levels, but is able to substitute for MutT when it is defective. When NUDT5 is expressed in E. coli mutT(-) cells, the increased frequency of spontaneous mutations is decreased to normal levels. Considering the enzymatic parameters of MTH1 and NUDT5 for oxidized guanine nucleotides, NUDT5 might have a much greater role than MTH1 in preventing the occurrence of mutations that are caused by the misincorporation of 8-oxoguanine in human cells.
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2006/3/6

Cancer Science. 94(1):9-14, 2003  

The basic and clinical implications of ABC transporters, Y-box-binding protein-1 (YB-1) and angiogenesis-related factors in human malignancies.

Kuwano M. Uchiumi T. Hayakawa H. Ono M. Wada M. Izumi H. Kohno K.

In our laboratories, we have been studying molecular targets which might be advantageous for novel cancer therapeutics. In this review, we focus on how ATP-binding cassette (ABC) transporter superfamily genes, Y-box-binding protein-1 (YB-1), and tumor angiogenesis-associated factors could contribute to the development of novel strategies for molecular cancer therapeutics. ABC transporters such as P-glycoprotein/MDR1 and several MRP family proteins function to protect cells from xenobiotics, drugs and poisons, suggesting that ABC transporters are a double-edged sword. In this regard, P-glycoprotein/MDR1 is a representative ABC transporter which plays a critical role in the efflux of a wide range of drugs. We have reported that gene amplification, gene rearrangements, transcription factor YB-1 and CpG methylation on the promoter are involved in MDR1 gene overexpression in cultured cancer cells. Among them, two mechanisms appear to be relevant to the up-regulation of MDR1 gene in human malignancies. We first reported that MDR1 gene promoter is activated in response to environmental stimuli, and is modulated by methylation/demethylation of CpG sites on the MDR1 promoter. We also demonstrated that YB-1 modulates not only transcription of various genes associated with cell growth, drug resistance and DNA synthesis, but also translation, mRNA stabilization and DNA repair/self-defense processes. Angiogenesis is also involved in tumor growth, invasion and metastasis of various malignancies, and so angiogenesis-related molecules also offer novel molecular targets for anticancer therapeutics.
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2006/3/6

『ヨーロッパ中世の権力編成と展開』  お勧めの1冊

東京大学出版会 2003年初版 渡辺節夫編 その本の第一章に『ライヒェナウ修道院の祈念書』甚野尚志著 というのがある。此処に西欧中世において人々が「夢」にどのような意味を感じ取っていたかに関する記載がある。

ストラボによりのちに洗練された韻文の形で遺された『ヴェッティーの幻視』の原本はこの祈念書と関係の深い、ライヒェナウ修道院長ヘイトによって824年頃書かれたとされているとか。この話は修道士ヴェッティーが死ぬ直前に見た夢=幻視で、その中にカール大帝が死後生前の罪の為来世に罰を受けるという注目すべき内容を含むもので、ルゴフによって特に指摘され『煉獄の誕生』において議論されている有名な逸話。p18 その他にも、874年ドイツ王ルートヴィヒが断食中に幻視を見、その中で亡き父、ルートビッヒ敬虔王が彼に贖罪の為の代祷を依頼するというもの。p32

ル・ゴフは前記の事例を挙げて「煉獄」とよばれる概念が生まれたことを『煉獄の誕生』で主張しているわけですが、これを読みながら疑問を感じました。

と言うのも、私は彼の『煉獄の誕生』を読んで、「煉獄」という概念はもっと後期、つまりロマネスク期になってようやくキリスト教が個人的、内的なものになることで生まれたものだと漠然と考えていたのですが、これらの記述の意味することは煉獄の概念が生まれたのはそれよりも前、9世紀まで遡らなければならないことになるからです。ル・ゴフはこれが後の時代に、ストラボの記載を例にとったわけですが、この著者によれば、その原本ともいうべきライヒェナウ修道院長ヘイトによる記載は議論されていないとのこと(注釈より)

…だとすれば、ル・ゴフは知ってか知らずか、時代を後半にずらしていた可能性があるのでは? もしこれが事実なら大変なことになるのですが、如何せんこれ以上の追求は素人では無理(涙) 何方かご存知の方があれば教えて下さい。
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2006/3/6

『比較史の道』  お勧めの1冊

「副題;ヨーロッパ中世から広い世界へ」創文社、2004年初版。森本芳樹著。カロリング期荘園制の所領明細帳に基づく研究を中心に、国家や文化の枠に囚われない比較史を志す。 森本氏は『プリュム修道院明細帳に現れる西欧中世の農民の世界』の著者でもある。

『一人の歴史家が二つ以上の対象について専門家となるのは、歴史学の経験科学としての水準があがり、1つのテーマを手がけるための作業量がこれほど上がってしまった現代においては、殆ど不可能となっている… p25』 と述べ現代における比較史が容易なものではないことを確認しつつも、また歴史学を巡る環境が昔と異なり 

『マルクス主義的な経済発展段階論やウェーバー的な宗教と社会の類型論など、グランドセオリーの多様な次元での適応が後退し、またしばしば無意識的にではあるが行なわれてきた国民国家を当たり前の分析枠とすることへの反省が強まってきた。しかもそれは、これらに代わる別の大きな枠組みの確立として生じてきたのではない。P39』 と述べている。

それに対し私は最近、この欄でも何度か紹介したが、フランスのE・トッドという歴史家に注目している。 彼は久しぶりにグランドセオリーを唱えることが出来る歴史家かもしれない。

これとは別に注目した点として、19世紀までは(土地当たりではなく)収穫率(=1粒の小麦から何粒収穫出来るか)が用いられてきたこと。そして『現在収穫量が土地面積あたりで捉えられるのには、商品化している土地の価格を計算する為にそれが絶対に必要だという事情も働いていると指摘している』p171こと。

確かに我々は今では当然のこととして、土地を「商品」として見ているが昔は必ずしもそうではなかったということか? なお森本芳樹氏はかってエクス・アン・プロヴァンス時代のジョルジュ・デュビー氏のもとに短期ではあるが留学されたとのことp24 
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