2006/3/17

「死と歴史;副題―西欧中世から現代へ」  お勧めの1冊

フィリップ・アリエス著、みすず書房、1983年。この本はアメリカでの講演と、十編程度の論文集から構成されている。

特に印象に残ったのは「ホイジンガーと死骸趣味の主題」という論文。この論文においてアリエスは、死のイメージが中世末の「親しみ深く、かつ、生への熱烈な愛の裏返しとしての死」から、現代における「無視され、疎外された死」へ変遷していったのを、途中16ー18世紀の特徴的な死のイメージを挟みながら議論しています。

…しかし今日、脳死移植が日常的に行われ、ビジネスと結び付いた遺伝子学や、クローンや人工臓器に代表される生殖・移植工学の発達。そして末期医療における「個人の死の自覚」は、現代における新たな死のイメージの構築を、我々が、否応無く迫られていること。 そして、その為の時間は、殆ど我々に残っていないということを強く感じた。 アリアスが活躍したのは、もう4半世紀前、彼はとても現状を予見してはいなかったでしょう。今、第二、第三のアリエスが求められているのではないでしょうか?

内容とは別に感じたことについて1つ述べると、アリアスの本は、決して読みやすいという類のものではないが、きちんと読んでいけばそれなりに理解できる。難解な文字が踊っているという感じはない。 これを読んでいるうちに「判りやすいということ」とはどんなものであるか、いろいろ考えてみた。 

(1) 表現が平易で簡潔であること。「聖人伝」についての解説に関しては、ジャック・デリダよりイポリット・ドルエの方が、より勝っているということでしょう。
(2)議論の対象が限定されていること。やはり「各論から入る」ということでしょう。
(3)引用が適切であること。文献引用しないで、人の名前だけで議論が進められても、初学者にはお手上げであるし、また引用されていても、大著1冊そのままだと引用文献だけで「撃沈」されそうです。せめて、章やページ数の記入が必要でしょう。
(4)また、図とか表とかフローチャートとか入れると初学者にも判りやすい。

ところで、この中で<墓地における舞踏の禁止について>で今まで不思議に思っていた疑問が解けたような気になった。

中世キリスト教会は、再三にわたって墓地における舞踏の禁止令を出している。これまで何故、この様な異端的で且つ、積極的な行動が行われたのか不思議に思っていたが、アリエスの本でこの行為は異端的というよりは、寧ろ舞踏などが行われていた俗的空間に墓の方が逆に侵入してきたことによるものだと考えた方が正しいのではではないか? と考えている。さて如何なものか? 
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2006/3/17

『中世の迷信』  お勧めの1冊

ジャン=クロード シュミット著、白水社、1998年 紹介記事には『異教から迷信へ、中世初期の魔術師と占い師、村の迷信、中世末期の魔女のサバトとシャリバリ、都市の迷信まで、キリスト教と迷信が錯綜した歴史をアナール学派第四世代が解く、図版多数』とある。

この中で個人的に注目したのは、フランス語の村人(paganus)という言葉から、農民 (paysan) と同時に異教徒(paien)という言葉が派生してきたとの指摘。 中世、都会人(urbani)と田舎者(rustici)という言葉には強烈なイデオロギー的対立を含むものであったこと。p42 ここら辺の事情はあの名著にして名画でもある『薔薇の名前』でも表されている。 あの中で修道士と農民との間にコミュニケーションが成立していなかったこと。「都会人」である修道士や司教の重要な使命が農村に蔓延る異教の風習の排除だったこと。そして、あの物語の最後で農民が反乱を起こすこととも繋がっている。

<贖罪既定書>
この本の中に贖罪既定書についての記載があり非常に興味深かった。p60〜 以前、阿部謹也氏の「中世の罪と罰」でも詳細に議論されていたが、当時告解の際には「これをしたか?」とかなり日常生活(寝室でのことについてですら!)の細々したことについても尋ねられたらしい。 

つまり当時の告解とは、完全に自主的なものではなく強制的なものでもあったよう。しかし阿部氏によると、これが西欧人の「個」の覚醒に大きな意味をもったとか。 ル・ゴフ氏が『煉極の誕生』で述べたように、このようなことが西欧における個人の内面化を促進したのは間違いがなさそうである。

<10分の1税>
この本の中に、教会に払う10分の1税はこの頃(9世紀)既に確立していたことが文献的に確認されているよう。 それによると816年から840年までリヨン大司教であったアゴバルドウスに『雹と雷に関する民衆の誤信』という、元々は説教集と思われる著作があり、その中に「--- 農民たちは嵐を呼ぶ者;良い魔術師に貢ぎ物を払うことを口実にして、教会に10分の1税を支払わず ---」との記載があるそうです。p84
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