2006/11/22

『ジハードとフィトナ』5  お勧めの1冊

5章、サウジアラビアについての記載は特に目新しいことがあったわけではないが、興味深かった。 莫大なオイルマネーの流入により1980年代に人口の爆発的な増加があったとか、このころの出生率は8.26人で2000年時点での4.37人のほぼ倍である。 この頃生まれた世代が今日巨大な不満を抱える層となっている。p226  

実は西欧中近世史家のE トッドも『原理主義とは何か』で全く同じようなことを述べている。彼曰く、「イスラーム原理主義の真の意味は人口学的移行期の危機である」と述べ出生率から議論していた。
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/33/trackback
なおこの間、サウジアラビアの国民一人当たりのGDPは半減している。これは人口が倍増するのにオイルマネーによる収入がついていかなかったことによる。
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/59/trackback
若者の大量失業と一部の特権層の信じられないような贅沢。それに王族による圧政。 しわ寄せを喰らった者達の怒りが爆発しない方がおかしい。 

これは1979年のメッカの聖モスクが過激派に占拠された事件にも象徴されるだろう。 この事件について我々日本人はほとんど知らないが、これはイスラーム世界にとっては衝撃的な事件だったらしい。事件後サウジアラビア政府は64人を首切りの刑にし、その他の者については国外に追放しアフガニスタンのソ連に対するジハードに参加するようにしむけたとか。p237 やがて彼らが再び歴史の表舞台に出るのは9-11以降。

5章の最後に著者が9-11実行犯の故郷を訪れる描写がある。彼はそこに赤貧を洗うがごとき生活に明け暮れる遊牧民を見る。 片方で贅沢の限りを尽くす王族、富裕層、著者は此処に「サウジアラビアのジレンマを垣間みた」という。p257

ちなみに、イラク戦争のことをある人は「対テロ戦争= War on Terror」を 「間違い戦争= War on Error」 と呼ぶらしい p274  笑うに笑えないブラックジョークである。
0

2006/11/22

何の為の豊かさか  試行,指向,志向、思考

今朝の『ビジネス展望』で慶応大の金子氏が今度のアメリカの中間選挙についてコメントしていた。 その中で金子氏は今回の選挙の焦点として、イラクの他に所得格差が問題になっていたとか。日本の報道では余り後者は注目されてなかったと思う。

やはりアメリカでも正社員からパート従業員への転換が急速に進んでいるとか。 その理由の1つが、企業が負担する医療保険制度にあるらしい。 名のあるアメリカ企業がこの医療負担により倒産した事例もあるとか。 日本でも、企業がその負担を軽減する為色々な方策を立てていて、派遣従業員やパートへの転換もそのよい例だろう。

世界に誇るべき日本の医療制度、いろいろ問題点もあるのは違いないが、ことは人の命に関わること、米国のように貧しさ故に医療にかかれないという社会にはしてはならないと思う。 

もし競争に打ち勝つため、医療制度が崩壊してしまうようなことになれば、一体我々は何の為の豊かさを求めていたのか? 疑問に思うようになるだろう。
0

2006/11/21

メタボリックシンドローム  試行,指向,志向、思考

という言葉が最近流行している。今朝の『ビジネス展望』でも評論家の内橋氏が現在の日本経済をメタボリックシンドロームと評していた。 

「イザナギ景気」を越えると言われる長期好景気(?)にも関わらず、国民レベルでの好景気感覚はない。事実、国民1人当りの労働収入は低下しているとのこと。これは、企業収益が労働者に廻されず、株主やファンドに廻っているからとか。 そのため統計上の好景気は国際収支によるもので内需拡大の気配はない。まさにこれはメタボリックシンドロームそのものとか。 当らずとも遠からずと云ったところか?

イラクで新たな動きが出始めたよう。これはイランの治安回復に隣国イランとシリアの協力を得ようとする動き。 アメリカが中間選挙の結果でブッシュ政権の動きがとまることを見越しての現地イラク政権の牽制の動きか?

そうは簡単に問屋が卸さないだろう、というのが私の見方。 今イラクは内戦状態。さらに隣国を巻き込んでの画策は逆効果になるというのが私の予想。 さてこの予想、当るか外れるか。 外れれば平和が来る、それはそれで喜ばしいこと。
0

2006/11/20

『ジハードとフィトナ』4  お勧めの1冊

著者は2人の全く対照的なアルカイダのNo1とNo2について紹介する。 No1のビンラディンはサウジの富豪にして、極端なまでに厳しくイスラームの教義を守るワッハーブ派。片やザワヒリはエジプト人医師にして、90年代前半にはシリコンバレ−も訪れている。p153 

2001年.彼、ザワヒリはテロの効用を説明して。「遠く敵=アメリカ等」に強烈な打撃(=ジハード)を与えると「近くの敵=既存のイスラーム国家」が震え上がり、容易に打倒出来る(=フィトナ)ようになると述べたという。 p200

ここでようやくこの著書のタイトルである「ジハード」と「フィトナ」の意味が判ってきた。 つまり著者はこのアルカイダによるジハードは1990年代以前にアラブ世界で行なわれてきた <勝利なき> フィトナから作戦変更して、外の敵に対する戦い=ジハードをすることで、これまでのイスラーム世界におけるフィトナ戦局を打開しようとすることが目的の1つだということなのか?

事実、アラブ世界を見渡すと、『専制政治の旗印を掲げた政治エリートに一方的に乗っ取られた国は、エリートに対する競争相手がいないだけに、どうしても衰退の道を歩む』p57 状況にある

アルカイダという組織を評して、著者は以下のように述べる。

『この組織は建物と戦車と堀で構成されているのではなく、インターネットのHPや衛星テレビへのアクセス、秘密の金融取引…で構成されている』p164 つまり、

『アルカイダは各地に散在するチェーン加盟店の名目上の統括本部のような存在』 p189

著者はブッシュ大統領に対しても厳しい評価を下す。しかしそれは私のそれと全く変わる所がない。曰く、

『話しが外交政策に及ぶと、新大統領は何度も失言し、以前から世界史や世界地理の正しい知識を身につけていなかったことを如実に示した』p64

5章『台風の目』で著者はサウジアラビア(私はいつもサウド家のアラビアと呼ぶが)について述べる。この章が実は一番面白かった。これについては次回。
0

2006/11/18

組換えDNA実験  写真

2つの扉が同時に開かない構造になっている向こうに組換えDNA実験室がある。ただし、そこで特殊な、非自然的なことが行なわれているわけではない。あくまでも自然界で生物が行なっていることを真似しているだけ。クリックすると元のサイズで表示します
0

2006/11/17

『ジハードとフィトナ』3  お勧めの1冊

この中で著者は、9-11の実行犯の中で中心的な役割を負ったアタ(ドイツで都市工学の学位を取得したエジプト人)の所持品の中から発見されたとされる通称 『モハメッド・アタの遺言』の一部を引用する。(実際のところは、同じハイジャッカーの一人でワッハーブ派の思想に染まったサウジ人オマリが書いたものとされている) ケペルはこの遺言を評して、

『一切の推論や知性を放棄し、コーランと予言者ムハンマドに関するハディースから取った箇々の事実だけに固執している』 と分析する。p142-3 

彼らをそのように洗脳した張本人の一人が、先の『予言者の旗の下の騎士達』を書いたザワヒリなのかもしれないと私はこの本を読みながら思った。

しかしそのことはアルカイダという組織が彼らイスラームの戦士を養成する為の特別の仕組みを持っていたということを意味するものではない。 むしろこの組織は言わばインターネット上の仮想空間に巣くうテロリスト集団と云えるからだ。 9−11実行犯ですら場末のモーテルに潜み、衛星無線やネットカフェからのE-mailで連絡しあっていたことが知られている。 さらにその傾向は2003年頃、この組織が大きなダメージを受けたとされる時期を境に深まったともいわれる。

しかし、一方のネオコンにとってそのようなアルカイダは具体性に欠けた。彼らにとってのアルカイダは、

『占領すべき領地を持ち、破壊すべき軍事力を備え、打倒すべき政権を有している国家』p152  と等価、ないしはそれに付属する存在と考えていた節がある。 それ故に彼らは 『9−11の出来事を機に、当時のアメリカ政府に対して中東全体流れを根本的に変える計画の売り込みを図った』p8 

しかしこの間違った認識が、9−11後のブッシュ政権によるアフガン・イラク侵攻を必然的なものとするとともに、『対テロ戦争』としてのこの戦争が成功しなかった理由もそこにあるのではないか?
0

2006/11/17

『ジハードとフィトナ』2  お勧めの1冊

ケペルは「はじめに」で以下のように述べ、彼が結論しようとしている事柄を暗示する。

『イスラムの内なる戦いが終わりを告げるのは、NYでもワシントンでも、ガザでもリアドでもバクダッドでもない。それは、どこかヨーロッパの都市の近郊においてのことである』p13

また彼は以下のようにも述べるが、これは原理主義を <近代性への過渡期のイデオロギー> とし、その近代性を測る指標に各国の出産率を用いるトッドの論理に通じるところがある。
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/33/trackback

『パレスチナは世界でも最高の人口増加率を有する地域の1つで、若者達は欲求不満の巨大な貯蔵庫を形成していると述べている。p18 

アルカイダのNO1はビンラディンということになっているが、サウジアラビアの大富豪でテロ組織の資金源であるビンラディンよりも、第二番目の男として名前をよく耳にするザワヒリ、このエジプトの医師出身のテロリストこそアルカイダの真の指導者であるのかもしれない。 彼のプロパガンダ『予言者の旗の下の騎士達』を読むとそれを感じる。p128 彼の論理は、ハンチントンの『文明の衝突』をジハーディストの立場から解釈したものだと著者ケペルは云う。p134
0

2006/11/16

『ジハードとフィトナ』1  お勧めの1冊

副題「イスラム精神の戦い」著者ジル・ケペル、2005年初版、NTT出版。 「神の復讐」
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/206/trackback
を書いた著者の作品。最新作としたいところだが、今年同じ著者の「ジハード」も出版されている。イスラーム事情に詳しい欧米研究者として最近マスコミにひっぱりだこである。 ちなみに彼は55年生まれのフランス人。 現在仏国立学術研究センター研究部長。

著書紹介には、
『フランスの気鋭の政治学者が、9.11以後の複雑な世界情勢のなかでイスラム社会の内情を解き明かします。フランスで刊行された原書は専門書としては異例のベストセラーになり、英・西・独・伊・アラビア語に翻訳されて話題を呼びました』 とある。 著者は9-11が起こるまでの経過を詳細に検討分析し以下のように述べる。

『世界貿易センタービルとペンタゴンに対する攻撃は、青空から前触れなしに突如として降り出した雷雨のような現象ではない、それどころか、ジハードの論理とゲリラ戦の戦術、第二次インティファーダを迎えたアラブ・イスラエル紛争の成り行き、ネオコンの思想がアメリカの外交政策に及ぼす影響などを念頭に置いた上で、慎重に考えだされた精密な計画の産物にすぎない…』p144

彼の説明は非常に説得力があり、この書が異例のベストセラーになったことも頷ける。 また、それを考えない限り、9-11の前夜 <非常に信心深い> サウジ出身の2人のジハード戦士が宿泊したモーテルの有料テレビでポルノ映画を楽しんだという事実も理解出来ないだろう。
0

2006/11/15

無菌室内部  写真

ただし人が入るので無菌状態というわけではないが、
クリックすると元のサイズで表示します
0

2006/11/12

『シーア派』2  お勧めの1冊

この本を読むと現代史を学ぶことの難しさを感じる。おそらく著者自身も書くことの難しさを感じているはず。 十分な時間が経った後では、前後の時間軸を参考にしてそこで生じた事象をある程度評価出来る。しかし現代の出来事はその余裕を与えない。 しかし問題はそれだけではない、我々自身がその中で生きているため完全な第三者になれないという問題もある。

この本によれば、いまイラクの救世主軍のリーダーであるサドル氏の父親が、フセイン政権により1980年に暗殺されたムハンマド・サドル氏であるとか。 彼は資本主義・社会主義とは違う第三の道を模索した『無利子銀行論』を著作で知られるとか、p114 これは現代イスラーム世界でのユニークな金融システムである。
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/184/trackback

また、政経一致の立場をとる故ホメイニ、現ハーメネーイ氏に対抗してこの『イスラーム法学者の統治』に批判的で高い宗教的地位にある人物として現在イラクのナジャフにいるスィースターニー氏がいるとか。p182  今後、イランの政教一致による数々の問題点が意識されるようになれば、ナジャフの地位向上が起こり、それに伴い彼の重要性が高まるかもしれない。

イランではホメイニ師指導により女性の為の宗教学院が初めて建設されたとか。p222 これなども <イジュティハード>  ということだろう
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/326/trackback

著者はこの本の中で以下のように述べているが頭に入れておくべきか。

『西側世界は、サッダーム・フサイン(フセイン)政権の崩壊を「独裁者の追放」「中東民主化の第一歩」としたが、イラクはもとより周辺諸国は、「スンナ(スンニ)派の優位体制の崩壊」「アラブ地域におけるシーア派政権の誕生」とみている』 p228とか。さらに、

『実際にアメリカを標的とするテロ活動を繰り返してきたのは、スンナ派の過激集団であり、背後でそれを支持して来たワッハーブ派は、アメリカの友好国サイジアラビアの公認宗派である…』p229

ラムズフェルド長官の代わりにワシントンに入ったのは元CIA長官とのこと、ブッシュ政権でネオコン(国防総省)との権力闘争に破れた国務省・CIA勢力の復活ということであれば間違いなくイラク政策おける方向転換とみて間違いないだろう。 現実路線に戻ったということ。

あとベーカー氏は別としても、パウエル氏やアーミテージ氏の処遇がどうなるかがリトマス紙になるだろう。 
http://diary.jp.aol.com/applet/salsa2001/183/trackback
予想としては3期のないブッシュとしては、此処はなり振り構わず政策の方向転換して歴史に名を残したいと思うと思うが… 果たして『トホホのブッシュさん』にそれだけの頭の回転が出来るかだが?
0



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ