通勤電車や商業施設 環境問題よりお客優先
夏のビジネス軽装「クール ビズ」がスタートして一カ月余り。地球温暖化に配慮して冷房を高めの二八度に設定する代わりにネクタイなしで仕事をするという試みだ。ところが、通勤電車の車内やレストランなどの商業施設で冷房の設定温度は例年とほとんど変わっていない。「温度に対する感覚は個人差がある」「せっかく涼を求めに来たお客さまに悪い」。現状のままでは服装の話題ばかりが先行し、環境問題は二の次という“本末転倒”の結果に終わってしまうかも…。(石井奈緒美)
「ラッシュ時の暑さを考えると、いくら軽装の方が増えても温度は上げられない。特に在来線は駅ごとにドアが開閉するため、冷えた空気が逃げてしまう。お客さまの利用形態を考えると今が適温だと思います」と話すのはJR西日本の広報担当者。在来線は停車駅が多く、密閉性も低いので普通車両は二五度、特急や新幹線は二六度に設定しているという。
阪急電鉄でも例年通り車両温度は二六度、弱冷車だけ二七度に設定している。夏場は利用者から車両の空調についての問い合わせも多く、同社では「温度に対する感覚は個人差もある問題なので、対応には特に気を使う」。
実際、数年前の冷夏の時、設定温度をそれぞれ一度ずつ上げたが、乗客から「暑い」との苦情が多かった。満員時は密着度も増すため、温度を上げて設定するのは難しいという。
近鉄と南海も通常車両は阪急と同じ設定温度。阪神は、通常車両が二七度で若干高めだが、いずれも例年通りの温度だった。ただ、各社ともに本社オフィスは二八度に設定しており、制服のない社員の服装にはクール ビズを勧めているという。
一方、大丸百貨店や阪神百貨店などの大型商業施設では、フロアが広いことや客の人数が流動的であることなどから、店舗内の温度を一定に保っていない。
通常から微調整を繰り返すことが多いが、大丸梅田店では「二八度になるとお客さまから『暑い』という声も聞かれ、それを下回る設定にしている」。
また、全国にファミリーレストランを展開する外食大手「デニーズジャパン」では全店舗に統一の設定温度はないが、平均で二五−二六度にしている。
流通や物販業界は、二、八月に売り上げが落ちるといわれるが、ファミレスに限れば、八月が一番の稼ぎ時といい、「お客さまは外の暑さを逃れて涼を求めに来店する。集客を考えれば、温度設定を上げるのは難しい」という。
こうした事情は、環境省のクール ビズ賛同団体に名を連ねる生活協同組合コープ神戸でも同じ。店頭に立つ社員以外はノーネクタイのエコスタイルを導入しており、事務所などは二八度に設定しているものの、店内については「商品劣化の恐れや、お客さまへの配慮から二八度以下に設定しています」。
(産経新聞) - 7月11日15時28分

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