帰りのバスでのことです。
座席で本を読んでいたんですが、何かが肩にドスンドスンとあたるんです。
見上げると、20代のはじめか半ばくらいかなあ、と思われる女性がそばに立っていて、彼女が腕にかけている大きなバッグが(デカいピンクのバッグ!)、バスの揺れとともにぶつかってくるんです。
それでも、まあ、ワルギでそうしているわけではないんだし、そのうち気づいてくれるかもしれないし、と思って、本を読み続けていたんです。
ところが、ぼくのバスは三宮から六甲山の山すそへのぼっていく2系統で、途中からかなりの急坂のカーブ続きになるんです。
で、バスが傾くたびに、バッグがドスンドスン。
もう本を読んでいるどころではなくなって、言ったんです。
「おじょうさん。バッグがぼくの肩に当たるんです。当たらないようにしていただけませんか」
すると、そのおじょうさまが、ジロリとぼくを見おろしたんです。
なんだ、このオッサン、という顔です。
もちろん、すみませんのひとこともありません。
見れば、なかなかの美人です。
きっと自分でも美人なのを誇りにしているにちがいありません。
目を見ればわかります。
美しさこのうえないこの私に、あんたのようなオッサンが何か言う権利でもあると思ってるの、身のほど知らずが、と見くだしている目なのです。
いやあ、ちょっと弱っちゃったなあ、という気になって。
2系統の青谷線というのは沿線に海星や松蔭といった昔からのお嬢さん学校なんかもあって、ふだんはけっこうデリカシーのある娘さんたちと乗り合わせているものですから、なんか、調子はずれになってしまって。
でも、バッグは当たらないように少し腕をあげてくれましたから、まっ、いいか、と。
オッサンはオッサンですから、このオッサンとブベツ(侮蔑)の目を向けられて、いや、それは違う、とも言えませんし…。

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