HAT神戸の兵庫県立美術館で、写真家・中山岩太の展覧会が開かれています。
中山岩太というのは20世紀の初めに生まれて、写真家としてニューヨークとパリで経験を積み、帰国後は芦屋、神戸など阪神間をベースに、モダンな写真を全国に発信し続けたひとです。
今回の展覧会は、二つの目的のために開かれています。
ひとつは、中山岩太というひとがどのような写真家だったか、その全体像をたくさんの作品を通して見ることです。
そしてもうひとつは、中山が神戸の街を撮った作品を特別に集めて、当時のモダンな都市風景を再現して見せることです。
そのころの神戸の風景はもう90%以上がその後の戦争で燃えてしまって、今は山手の異人館街や海岸部の旧外国人居留地にわずかに面影があるだけですが、それこそ永遠のモダンボーイともいうべき映画評論家にしてのサヨナラおじさんの淀川長治やヒコーキ野郎にして夢想家・小説家の稲垣足穂らをはぐくんだ稀有(けう)な土壌だったのです。
とりわけ神戸で生きるひとびとには、みずからのアイデンティティを考え、そして楽しむための必見の企画でしょう。
中山の仕事については本ブログの姉妹ページ「Splitterecho(シュプリッターエコー)」Web版に少し踏み込んで書いていますので、気が向けばご訪問いただきたいと思いますが、そこに書けなかったことでぜひ紹介しておきたいのが、当時の神戸を蒸気機関車の進行に沿って撮影した珍しい映像です。
SLが須磨駅から神戸駅をへて灘駅へシュッポ、シュッポと走っていく、その間に高架線から見える街並みを刻々16ミリフィルムに収めているのです。
撮影者は枡田和三郎というかたで、こういうひとが市民のなかにいるのも神戸らしいところでしょうが、アマチュアの映像マニアのひとのようです。
沿線はもう圧倒的に民家、民家の屋根ですが、モダン寺があの異様な姿でいきなりニョキッと出てくるところなど、今の風景に重なります。
路面電車(市電)が縦横に走っているところは、オールド・コウベをなつかしむものには格別です。
SLファンにもまた、高架鉄道を疾駆していく貴婦人の黒い麗姿はたまらない光景ではないでしょうか。
兵庫県立美術館は
http://www.artm.pref.hyogo.jp/

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