ノブは、ソファーで昼寝をするのですが毎日汗をかきつつ寝ているとだんだん清潔感がそこなわれてきます。
そこで、妻が新しいソファーカバーを買ってきました。
そのソファーカバーは、光線の具合で濃紺に見えたり黒に見えたりします。
妻は、そのカバーの色を紺と認識していました。
以下、2人のやり取りです。
ノブ:「ソファー。黒。バッチグー。」とカバーが新しくなった喜びを表そうとしています。
妻:「ソファー。紺できれいになりました。」と答えています。でも、色は紺だと言っています。
ノブ:「ソファー。黒。バッチグー。」と、色が黒であることを表明しています。
妻:「ソファー。黒?。お母さんはわかりません。」とノブの意図がわかっていません。
ノブ:「ソファー。黒。よかった。」と、黒のきれいなカバーになったことの喜びを伝えようとします。
妻:「ソファー。黒?。お母さんはわかりません。」と、相変わらず判っていません。カバーは紺だとおもっているのですから。
ノブ:しばらく時間を置いて、何かを考えてから、「ソファー。黒 ブラック。よかった」と言いました。なんと、ノブは「黒」が伝わらないので、「ブラック」という別の言葉を出してきて伝えようとしました。
妻:「ブラック。」と聞いて、あらためてソファーをよく見るとそれは「紺」ではなく「黒」でした。はっと合点し、「そう。そう。そう。ソファー黒。バッチグーでよかったね。」
ノブ:やっとわかったんかいという顔をして、「ブラック。よかった。」と言いました。意図が伝わるとこんなにいい顔をするのかと思えるいい笑顔でソファーの上で昼寝の体勢にはいりました。
めったにしゃべらないノブがどのくらいの言葉を知っているのか我々には未知ですが、今日のやり取りを見ていると、そうとういろいろな言葉を知っているようです。
その昔、ノブにしゃべらせようと「これは何かな。バナナ。バナナ。言うてみ。」と何回も言わせようとしたのですが、一言もしゃべりません。「バナナ。バナナ。言うてみ。」何回も何回も何回も言わせようとしましたが、しゃべりません。
そのたびに、我々は大変失望していました。
今になってよくわかります。ノブは、バナナと言えないのでもなく、バナナを知らないのでもなく、実物と言葉のマッチングができていないのでもなく、ただ「バナナ」と言いたくなかったのです。その言葉をノブにしゃべらせることにやっきになっていたそのころの我々を思うと滑稽です。
ノブは、自分の意思や感じたことを伝えたいと思えば、自らしゃべって我々に働きかけてくるのです。時には誤解で意思疎通ができていないときは、何とかわからせたいと努力するのです。大切なのは、「自らそうしたい」という動機だと思います。ノブの中にそうした動機が生じるまで我々は静かに待ちます。

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