谷脇康彦(たにわき・やすひこ)  84年、郵政省(現総務省)入省。OECD事務局(在パリ)ICCP課(情報・コンピュータ・通信政策課)勤務(87-89年)、電気通信局事業政策課課長補佐(93-97年)、郵政大臣秘書官(99-00年)、電気通信局事業政策課調査官(00-02年)、在米日本大使館ICT政策担当参事官(在ワシントンDC、02-05年)、総合通信基盤局料金サービス課長(05-07年)、同事業政策課長(07-08年)を務め、08年7月より現職。ICT政策全体の総括、通信・放送の融合・連携に対応した法体系の検討、ICT分野の国際競争力向上に向けた施策展開などを担当している。著書に「世界一不思議な日本のケータイ」(08年5月、インプレスR&D)、「インターネットは誰のものか」(07年7月、日経BP社)、「融合するネットワーク」(05年9月、かんき出版)。日本経済新聞(Nikkei Net) ”ネット時評”、日本ビジネスプレス”ウォッチング・メディア”などへの寄稿多数。

2006/3/23

映画「クラッシュ」  エッセイ

映画「クラッシュ」を観た。場所はクリスマス直前のLos Angelsで、人種差別にからんだ様々なエピソードが次々と展開していく。いずれもギスギスした人間関係ばかりで絶望的な感じが続く。このあたり、アメリカで暮らしていた時の猥雑な感じを思い出す。韓国人、アラブ人、アフリカン、ラティーノなどの絡み方が実にそれっぽいというか、とてもリアルなエピソードばかり。そして佳作「ミリオンダラーベビー」の脚本を書いたポール・ハギス監督だけあって、その後が見事。それぞれのエピソードが流れるように結びついていく。そしてそれぞれのエピソードに何となく救われるオチがついていく。間違いなく今のアメリカの世相を切り取った佳作だと思う。
しかし、これがアカデミー賞作品賞?という思いは残る。今年のアカデミー賞は一般国民のアンケートではクラッシュが1位だったものの、実は該当作なしという回答が一番多かったらしい。というくらい佳作ではあるものの小品というイメージがある。同じことはジョニー・キャッシュの生涯を描いた「ウォーク・ザ・ライン」についても言える。なんとなく時代感として大作よりも、イラク戦争の先行きが不透明な中、閉塞感に憂鬱な気分になる中、こうした内面的なアート系の作品がむしろ望まれているのかなという気もする。テロリストを描いたスピルバーグ監督の「ミュンヘン」なども幾つかの部門でノミネートされたけれど、今のご時世ではリアルすぎて重すぎる感じもあると思う(国家の意思と個人の感情のずれがもたらす悲劇という意味では、この「ミュンヘン」もそうだし、韓国の大作「シルミド」などもとても考えさせられる作品でしたね)。
アカデミー賞は時代の世相を移す鏡なのかも知れない。そういう意味で、小粒ながらヒューマンな作品が作品賞を受賞したというのも、2005年時点での世相を切り取った象徴として後世語られるのかも知れない。
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2006/3/22

融合とか連携とか。。。  ブロードバンド政策

 NHKスペシャルの討論会を見た。テーマは通信と放送の融合。放送は公共性の高いメディアだけれど、インターネットは雑多な情報が流れるメディア。。。とは言えないだろう。オープンインターネットの世界では確かに信頼性のある情報とそうでない情報が日々流通している。であるが故に、現在の地上波がその高いコンテンツ制作能力を生かしてインターネット配信をしていくというのは何ら無理がない選択肢だろう。インターネットと放送をあえて分けて考える必要はなく、インターネットメディアの世界にも松・竹・梅があってよいし、劣悪なメディアは自然淘汰されていく。放送以外のジャーナリズムにも市場メカニズムは機能している。
 また、こうした議論の中で伝送路の話と放送ジャーナリズムの話がごっちゃに議論されることも多い。もはや放送はTVスクリーン、インターネットはPCの小さな画面で観るものではない。TVであれインターネットであれ、伝送路の違いは全く違いがなくなる。放送ジャーナリズムの話はコンテンツ制作の話でもある。放送の公共性を維持するために良い番組を作っていきますというのはコンテンツ制作の公共性の観点からは理解できるが、伝送路の融合の話とは違う。この辺の議論を区別していくことも必要だろう。
 この3時間に及ぶ番組はとても公平な視点で作られていて好感が持てた。論点もかなりの部分がカバーされていて、有益であった。
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2006/3/19

日韓メディア融合政策シンポジウム  ブロードバンド政策

3月10日(金)午後、慶応大学で開催された「日韓メディア融合政策シンポジウム」に出席し、日本の通信競争政策の検討状況についてプレゼンテーションを行った。このシンポジウムには韓国からも情報通信部のLee局長をはじめ、中央大学校のKim先生なども参加された。
私からは「PSTNからIP網への移行期における通信分野の新しい競争政策の方向性」と題してプレゼンテーションを行った。
日本のこれまでの通信分野における競争政策は、85年の競争原理の導入、電電公社の民営化以降、累次の規制緩和や99年のNTT再編成などによって競争促進を図り、さらに04年の電気通信事業法改正による事業区分の廃止によって競争モデルは事前規制から事後規制へと大きく舵を切った。その結果として多数のプレーヤーが市場に新規参入したが、NTT東西の地域通信市場における独占性(ボトルネック性)は現在に至るまで継続しており、ドミナント規制によってNTT東西の地域ネットワークのオープン化を義務づけ、サービス競争の促進を図ってきた。例えば00年にDSLに関するNTT東西のネットワークのオープン化を実施した結果、約50社の新規事業者がDSL市場に参入し、料金競争、そして速度競争を繰り広げた。その結果、ドミナント事業者であるNTT東西のDSL市場における市場シェアは4割を切るほどの競争促進効果が実現した。
これからの課題としてはPSTNからIP網への移行。こうした移行過程における検討課題の一つとして接続料問題が挙げられる。PSTNの通信量が減少基調にある中、必要以上にPSTNの接続料の上昇を抑止するとIP網へのユーザー移行が人為的に抑止される可能性がある一方、10年段階でも約3,000万のPSTNユーザーが残ると見通される中、PSTN接続料が上昇して小売料金が上昇するとすれば、こうしたユーザー層への負担が増大することが懸念される。このため、PSTNの接続料と光の接続料の両方を視野に入れた接続政策が必要になる。
IP化に対応した競争ルールを考える上で何点か念頭に置いておくべきポイントがある。
第一に、規制の最小化という問題。事前規制から事後規制へと舵を切った今、引き続き事後規制に軸足を置きつつ規制の最小化を図る必要がある。ただし、競争政策の基本は市場支配力の濫用を防止することにあり、事後規制型競争モデルにあってもドミナント事業者に対する事前規制は必要だろう。
第二に、技術中立性と競争中立性の確保。急速な技術革新が継続している中、特定の技術を有利に、または不利に取り扱うことは避けなければならないし、特定の事業者を優遇したり差別したりする競争ルールは、ドミナント規制を除き回避されなければならない。
第三に、市場構造が急速に変化している以上、定期的な競争評価などを通じて市場支配力がどの分野に存在しているのかをレビューし、競争ルールを柔軟に見直していくことが必要だ。
第四に、PSTNからIP網へと移行し、しかも放送のデジタル化と異なり、2つの新旧ネットワークが並存する中、先にあげた接続料の問題以外にも、例えばユニバーサルサービス制度などの見直しも必要になってくるだろう。
第五に、各レイヤーの事業領域がモジュール化され、複数のレイヤーを一社で垂直統合的にビジネス展開したり、複数のプレーヤーが共同して垂直統合的なビジネスモデルを構築したりするようになっていく。このため、レイヤー間のインターフェースのオープン化が必要になる。
最後に、競争ルールの国際的な整合性も従来以上に重要になる。ある国だけが規制をしたとしても、他国に活動拠点を移してサービス提供を続けることもIPベースのサービスでは可能。このため、規制の鞘取り(regulatory arbitrage)を回避するために国際的な競争ルースの整合性を確保していくことが必要だ。
今回のコンファレンスでは韓国側からも有益なプレゼンテーションが多数行われた。特にIPTVの規制を放送側で行なうか通信側で行なうかという議論は興味深いものがあった。日本の場合は電気通信役務利用放送法が存在しているが、市場が融合に向かう中、この法体系の柔軟な運用を図っていくことも必要だろう。
Lee局長とは、小生がワシントンDCの日本大使館でIT担当の参事官をしていた際に韓国大使館の担当参事官、いわばカウンターパートとしてよく意見交換していた方。久しぶりに意見交換をする貴重な機会となった。お互い市場構造や政策展開が似ているところもあり、引き続き、情報通信部との間で意見交換していこう、次はソウルでね、という話で意気投合した。
慶応大学のKim先生にはこのコンファレンスの開催について大変お世話になった。この場を借りて改めて御礼を申し上げたい。
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2006/3/5

ウェブ進化論  書評

 梅田望夫氏の著書「ウェブ進化論」(ちくま新書)を一気に読んだ。2度も読んだ。ティム・オライリーが提唱するWEB 2.0の世界がわかりやすく解説されている。グーグルの急成長の秘密はどこになるのか、従来のWEBビジネスとはどのような差別化が図られているのか、本書はわかりやすく解説している。ベストセラーになっているのも頷ける。本書を読んだ後、「ザ・サーチ-----グーグルが世界を変えた」(ジョン・バッテル著(中谷和男訳)、日経BP社)を読んだ。本書はグーグルが情報検索というサービスをどのようにビジネスモデルとして確立していくかを豊富なエピソードの中で語っている。若干訳がこなれていない点は残念だが、これも必読の書だろう。「ウェブ進化論」の後に「ザ・サーチ」を読むとわかりやすいのではないだろうか。
 それにしても、通信の世界はいよいよ梅田氏の提唱するネットの「こちら側」と「あちら側」を一緒に考えないといけない世界に入ってきた。昨年の米国のCES(Consumer Electronics Show)に参加した際、マイクロソフト社の展示が他社の製品に同社の製品がこんなに搭載されてますよ、というラインの展示が多かったのが印象的だった。「こちら側」の世界では提携、オープン化戦略がなければ成り立たなくなってきている。しかし、競争のドメインはそこだけではない。グーグルなどのネットの「あちら側」との競争も重要になってきているということ。
 通信の競争ルールを考える上でもこうした政策ドメインの広がりを十分認識する必要がある。公文俊平先生(多摩大学情報社会学研究所長)は「ポスト産業社会を担う知本主義」(産経新聞06年1月21日「正論」)において、WEB2.0のように、インターネットのコアの部分で市民と企業の相互信頼に基づく共働が着実に発展して、通識ベースの規模と質が高まって、インターネットの面目を一新するような各種の新サービスが続々と誕生する一方で、それと同時に、インターネットが分断され変質し始めている兆候もあると警鐘をならす。インターネットという世界が公共的なものになればなるほど、WIKIのような市場原理と性善説に立った情報世界を悪用しようとする動きもでるだろう。ネット社会に自浄能力は働くのか。WEBはサイバーの世界ではあるが、リアルの世界を直接的に投影したものでもあることに注意を払うことも必要だろう。
 それはさておき、さっきCNN Pipelineをネットで見ていて思ったのだけれど、見ているPCはアメリカのCPU、OSもアメリカ、組み立ては中国か台湾、通信回線は日本だけれど使われているルーターは米国、CNNを見るために使われている通信プロトコルは米国、コンテンツは米国、決済に使っているのは米国系のクレジットカード会社。日本のブロードバンド業界はどこで儲けるのだろう。国際競争力といったことをもう1度考えてみる必要がある。確かに日本はブロードバンド先進国かも知れない。しかし、高速道路ができて車が走らなければ、これはかつての公共事業と何ら変わりは無い。高速道路に料金所や道路交通情報センターを作り、お金を払って車が高速道路をいっぱい走る、車が増えれば高速道路のレーンを拡張する、そんな好循環が生まれるよう環境整備を図っていかなければならないだろう。
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2006/3/5

料金サービス問答  ブロードバンド政策

ある休日の娘(高2)との会話。

娘「お父さん、ケータイ、今どこのがイケテル?」
父「知らん。」
娘「だって、お父さん、通信の料金サービス課でしょ?なんで知らないの?」
父「競争政策をやっておる。」
娘「それナニ?」
父「85年にNTTが民営化されて通信の競争が始まったのは記憶に新しい。」
娘「知らなーい、だって生まれてないもん。」
父「んぐ。ともあれ、通信サービスというと、どこの会社のものでも全国、そして世界とつながっている。当たり前のようなことだけど、これはすごいことだ。通信会社は競争相手とでもネットワークをつないでサービスを提供しているわけだ。」
娘「ふーん」
父「いわば競争と協調だな。だから競争と協調のためのルールがいろいろといるわけだ。嫌いな人とでも仲良くしてもらわないといけない部分と、好きな人とはもっと仲良くしてもいいですよ、という2つの面が通信の競争ルールにはあるわけだ。」
娘「そんなの当たり前じゃん。」
父「んぐ。しかし、競争ルールは電話の時代からインターネットの時代になって変わっていかないといけない。通信だけの世界だけではなく、最近はネットで動画なども自由に見られる時代だから、コンテンツやらアプリケーションとか、端末とか、そういった分野も一緒くたにして考えないとダメなワケ。だからいろんな皆さんから話をお聞きして、競争ルールの見直しの在り方を考えているという重要な仕事をしておるのだ、えへん。」
娘「この間、なんか新聞に出てたね、いろんな会社の偉い人で会議してたね。お父さんは何にもわからないから、偉い人達にわざわざ来てもらって家庭教師してもらったわけね。ダメじゃん、皆に迷惑かけて。」
父「んぐ。ともあれ7月頃にはレポートを書いて、更に皆さんのご意見を聞いてみたいと思っているけどね。」
娘「で、何になるわけ?」
父「競争がもっと活発になって、安くて良いブロードバンドサービスが皆んなに使えるようになると良いと思っておるのだ。」
娘「ほらぁ、やっぱり料金とかサービスとかやってるんじゃん。で、結局、どこのケータイがイケテル?」
父「.......。」
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