谷脇康彦(たにわき・やすひこ)  84年、郵政省(現総務省)入省。OECD事務局(在パリ)ICCP課(情報・コンピュータ・通信政策課)勤務(87-89年)、電気通信局事業政策課課長補佐(93-97年)、郵政大臣秘書官(99-00年)、電気通信局事業政策課調査官(00-02年)、在米日本大使館ICT政策担当参事官(在ワシントンDC、02-05年)、総合通信基盤局料金サービス課長(05-07年)、同事業政策課長(07-08年)を務め、08年7月より現職。ICT政策全体の総括、通信・放送の融合・連携に対応した法体系の検討、ICT分野の国際競争力向上に向けた施策展開などを担当している。著書に「世界一不思議な日本のケータイ」(08年5月、インプレスR&D)、「インターネットは誰のものか」(07年7月、日経BP社)、「融合するネットワーク」(05年9月、かんき出版)。日本経済新聞(Nikkei Net) ”ネット時評”、日本ビジネスプレス”ウォッチング・メディア”などへの寄稿多数。

2006/1/29

通信放送融合問題  ブロードバンド政策

 1月26日(木)、慶応大学において通信・放送融合をテーマにコンファレンスが開催され、私もパネリストの一人として出席し、問題提起をした。その内容は5項目。

 第一に、そもそもメディアとは何かという問題。既に個人の映像ブログやビデオ系ポッドキャスティングも続々登場し、個人のコンテンツもネット経由で国境を越え、誰にでも提供できる時代。象徴的なのはホワイトハウス記者会。昨年からブロッガーも記者クラブの一員。個人がコンテンツを流すと表現の自由が保障されるけれど、いわゆるメディアについては公共性とか中立性が適用される。これはどう理解すれば良いのだろうか。
 第二に、規制の同等性をどう確保するかという問題。競争政策の観点から見れば、ユーザーから見て同じサービスには同じ規制を適用すべき。我が国では電気通信役務利用放送法を整備し、CS放送やCATVについてはハードソフト分離型の競争モデルを導入した。今後、IPマルチキャストをはじめとする多様なサービス供給形態が登場する中、この役務利用放送法の枠組みを維持するだけで十分か、あるいは包括的な融合法制が必要なのか考える必要が出てくるだろう。
 第三に、市場が融合する中で市場のドミナンス性をどう考えるかという問題。最近は垂直統合型のビジネスモデルが多数登場しており、これを契機として市場の垣根が取り払われ、実態としての融合が進展している。簡単に言えば通信放送市場全体、もう少し詳しく言えば、通信・放送の伝送路、伝送サービス、プラットフォーム、コンテンツ等の各レイヤー(事業領域)のどこかにドミナンスが存在し、それが他の領域にレバレッジをかける可能性をどう考えるか。
 第四に、ブロードバンドインフラのコストは誰が負担するのかという問題。最近では一部のヘビーユーザーやリッチコンテンツの供給者が帯域の多くを占有する事態も出て来ている。ライブ系のコンテンツ配信も多い。ピーク時を見込んだ設備キャパシティを整備するとして、他方、ブロードバンド料金は定額制で均等負担。とすると、一部のユーザーやコンテンツ供給者のためにブロードバンドユーザー全員がコスト負担しないといけない。アメリカでは「ネットワークの中立性」といわれる議論。このネットワーク「ただ乗り」論についてどう考えるか。
 第五に、通信・放送融合問題を国民にどう伝えるのかという問題。アメリカでもFCC(連邦通信委員会)がメディア所有規制の見直しを数年前に決定した。「今やインターネットの時代でメディアの独占性は薄い」というのがパウエル委員長(当時)の主張。しかし、これに地方の住民は「放送のローカリズムが壊れる」として猛反発。連邦議会には抗議の手紙が殺到。ついに連邦議会はFCCの決定を覆すこととした。通信・放送問題は国民にとても身近な問題だ。国民利用者のコンセンサスを得る努力が必要ではないか。

 この会議では経済産業省の境さん、中村伊知哉さん、TBSの前川さん、日経デジタルコアの坪田さんらをはじめ、参加された約50名の皆さんと議論。とても有意義なものだった。モデレータの金先生も議論を上手く整理された。関係者の皆さんに心から感謝したい。
 
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2006/1/9

市場が融合するということ  ブロードバンド政策

 3年前にDCに住んでいた頃、iTMS(iTunes Music Store)が開始され、アップル版から少し遅れてWindows版のiTunesが利用できるようになった時の感動をよく覚えている。こんな簡単で直感的に使える音楽管理ソフトがあるのか、そして、こんなに簡単に音楽がネットで購入できるのか、しかもCDに自由に焼き付けたり、iPodで戸外に持ち出すこともできるとは。米国ではレンタルビデオ屋さんはあるけれど、CDのレンタルはないこともあり、音楽ダウンロードは大きな市場になった。面白いのは、一般的にタワーレコードなどでは1枚11ドル前後で販売されていたCDが、iTMSで基本的に9.9ドルで販売始めた結果、対抗策として同じ9.99ドルまで引き下げたり、旧譜は7ドル程度まで下げ始めたことだ。サイバー市場とモルタル市場が直接価格競争を始めた。
 話は変わるが、最近、CNNパイプラインに加入した。ネット環境さえあれば月額3ドル程度でCNNが見放題。日本のCNNのHPでは紹介されていないので米国のCNNのHPに行ってみたら世界18か国でavailableとあり、なんだ、日本でも視聴できるではないか。というわけで最近はCNNをPCで見ている。面白いのはIDとパスワードがあれば、どこのPCでも自分のアカウントでCNNが見られる。オフィスのPCで見ても良いし、LAN端末があれば地下鉄の駅でも見ることができる。しかも番組の途中で関連する記事を探して見たりすることもできる。これは一つの融合の形なのかも知れない。
 日本は世界的なブロードバンド先進国だと言う。しかし、ビジネスモデルという意味ではまだまだ米国に学ぶべきものが多い。融合といっても頭で「こんなもんが出てくる」と考えていてもしようがない。「この端末を使えば外出先から帰宅前に風呂を沸かせます」的なプレゼンでは冷めてしまう。そんな話は「ニューメディア」時代から言われてきた。リアルな需要、ビジネスモデルというのは、もっと別の、ベンチャーなところから出てくるのだろう。
 FMCなんて言葉も最近よく言われる。固定通信と移動通信の融合。そんな中、ある会社の携帯端末(電話かけられて、データ通信できて、ワード文書も打てる液晶画面の大きい、そう、あれですね)を購入した。自宅では無線LANで寝っころがってネットを見て、通勤途中にはこのブログの原稿をワードで打ち、オフィスでは保存したパワーポイントのファイルをちょっと参照したり、ということが簡単にできる。固定とか移動とか言うけれど、我が家のブロードバンド回線は固定通信。でもこの端末は無線LANで使っているし、いわば既にFMCとして使っているとも言える。現実は議論よりも早いのだ。
 最近、「通信と放送の融合」ということが盛んに言われるようになってきた。自著「融合するネットワーク」もこれを機にパァーッと売れてくれると良いのだけれど。最近も月刊誌「Gainer」で「おすすめ」に選んでいただいた。ありがたい、ありがたい。
 
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2005/10/27

日経ネット時評にコラムを掲載しました  ブロードバンド政策

「ネットワークは中立的か?PART2---動き出した米国の議論」を掲載しました。一昨年に書いた「ネットワークの中立性」に関する議論の続編です。ぜひご一読ください。
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