谷脇康彦(たにわき・やすひこ)  84年、郵政省(現総務省)入省。OECD事務局(在パリ)ICCP課(情報・コンピュータ・通信政策課)勤務(87-89年)、電気通信局事業政策課課長補佐(93-97年)、郵政大臣秘書官(99-00年)、電気通信局事業政策課調査官(00-02年)、在米日本大使館ICT政策担当参事官(在ワシントンDC、02-05年)、総合通信基盤局料金サービス課長(05-07年)、同事業政策課長(07-08年)を務め、08年7月より現職。ICT政策全体の総括、通信・放送の融合・連携に対応した法体系の検討、ICT分野の国際競争力向上に向けた施策展開などを担当している。著書に「世界一不思議な日本のケータイ」(08年5月、インプレスR&D)、「インターネットは誰のものか」(07年7月、日経BP社)、「融合するネットワーク」(05年9月、かんき出版)。日本経済新聞(Nikkei Net) ”ネット時評”、日本ビジネスプレス”ウォッチング・メディア”などへの寄稿多数。

2006/7/16

虚妄の帝国の終焉-ネット革命の旗手、AOLの栄光と挫折-  書評

最近アレック・クライン著(清川季美・服部千佳子訳)「虚妄の帝国の終焉 ---ネット革命の旗手、AOLの栄光と挫折---」(原題”Stealing Time”、ディスカバー・トウエンティワン刊)を読んだ。これはタイムワーナーとAOLの合併、つまりCATV・コンテンツ業界の雄とISPの雄が手を組む垂直合併が行われた際の裏話で、筆者はAOLの粉飾を暴いたワシントン・ポスト誌の記者である。それだけに、両社の成り立ちや合併交渉の模様、AOLの粉飾の手口と崩壊に至る経緯などがよくまとめられているし、訳もこなれていて読みやすい。

この本は色々な読み方があると思う。出版社はこのAOLとタイムワーナーのケースをライブドアのケースと重なり合わせようとしている。一面正しいが、はたしてそうだろうか。タイムワーナーは巨大メディアコングロマリットであり、映画、CNN、雑誌からCATVに至る幅広いポートフォリオを有している。日本の放送会社とはかなり趣が違う。

しかし、それは本のセールスの仕方であって目くじらを立てる話ではない。私が関心を持ったのは、この合併のケースに立ち向かおうとするFTCである。というのも、DC在勤中、このケースをかなり仔細に調べてみた。そして特にFTC側の立論はなかなかわかりやすかった記憶がある。

本書にはこんな記述がある。

“FTCはオープンアクセスの問題に集中して、法的な攻撃の手を厳しくし始めた。一つの理論が浮かび上がってきた。第一に、タイムワーナーがケーブル回線を競合各社に開放しない場合、AOLはタイムワーナーのケーブルが敷設されている都市でインターネットサービスを支配できる。第二に、AOLがそうしたケーブル回線でインターネットを独占し、なおかつDSLや従来のダイヤルアップ電話回線でインターネットを利用している顧客の間に大きなシェアを持っていれば、AOLタイムワーナーが合わせてもつ市場支配力は極めて大きくなり、競争を破壊してしまうだろう。そこからFTCは第三のポイントに導かれる。合併してできる会社にタイムワーナーのケーブル網をライバル企業にも開放させなければならない。そうしない場合は裁判に訴える。” (同書p.166)

わかりやすい考え方だ。米国の場合、こうした発想は、コンピュータ裁定やこの合併事案のように、比較的馴染みが深い。最近のネットワークの中立性の議論もそうした議論の流れでしっくり来る。色んな意味で興味深い好著だ。
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2006/3/5

ウェブ進化論  書評

 梅田望夫氏の著書「ウェブ進化論」(ちくま新書)を一気に読んだ。2度も読んだ。ティム・オライリーが提唱するWEB 2.0の世界がわかりやすく解説されている。グーグルの急成長の秘密はどこになるのか、従来のWEBビジネスとはどのような差別化が図られているのか、本書はわかりやすく解説している。ベストセラーになっているのも頷ける。本書を読んだ後、「ザ・サーチ-----グーグルが世界を変えた」(ジョン・バッテル著(中谷和男訳)、日経BP社)を読んだ。本書はグーグルが情報検索というサービスをどのようにビジネスモデルとして確立していくかを豊富なエピソードの中で語っている。若干訳がこなれていない点は残念だが、これも必読の書だろう。「ウェブ進化論」の後に「ザ・サーチ」を読むとわかりやすいのではないだろうか。
 それにしても、通信の世界はいよいよ梅田氏の提唱するネットの「こちら側」と「あちら側」を一緒に考えないといけない世界に入ってきた。昨年の米国のCES(Consumer Electronics Show)に参加した際、マイクロソフト社の展示が他社の製品に同社の製品がこんなに搭載されてますよ、というラインの展示が多かったのが印象的だった。「こちら側」の世界では提携、オープン化戦略がなければ成り立たなくなってきている。しかし、競争のドメインはそこだけではない。グーグルなどのネットの「あちら側」との競争も重要になってきているということ。
 通信の競争ルールを考える上でもこうした政策ドメインの広がりを十分認識する必要がある。公文俊平先生(多摩大学情報社会学研究所長)は「ポスト産業社会を担う知本主義」(産経新聞06年1月21日「正論」)において、WEB2.0のように、インターネットのコアの部分で市民と企業の相互信頼に基づく共働が着実に発展して、通識ベースの規模と質が高まって、インターネットの面目を一新するような各種の新サービスが続々と誕生する一方で、それと同時に、インターネットが分断され変質し始めている兆候もあると警鐘をならす。インターネットという世界が公共的なものになればなるほど、WIKIのような市場原理と性善説に立った情報世界を悪用しようとする動きもでるだろう。ネット社会に自浄能力は働くのか。WEBはサイバーの世界ではあるが、リアルの世界を直接的に投影したものでもあることに注意を払うことも必要だろう。
 それはさておき、さっきCNN Pipelineをネットで見ていて思ったのだけれど、見ているPCはアメリカのCPU、OSもアメリカ、組み立ては中国か台湾、通信回線は日本だけれど使われているルーターは米国、CNNを見るために使われている通信プロトコルは米国、コンテンツは米国、決済に使っているのは米国系のクレジットカード会社。日本のブロードバンド業界はどこで儲けるのだろう。国際競争力といったことをもう1度考えてみる必要がある。確かに日本はブロードバンド先進国かも知れない。しかし、高速道路ができて車が走らなければ、これはかつての公共事業と何ら変わりは無い。高速道路に料金所や道路交通情報センターを作り、お金を払って車が高速道路をいっぱい走る、車が増えれば高速道路のレーンを拡張する、そんな好循環が生まれるよう環境整備を図っていかなければならないだろう。
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2006/1/22

iCon  書評

 最近"iCon"(J.S. Young&W.L.Simon共著、東洋経済新報社)を一気に読んだ。アップルコンピュータを作り、追い出され、復活したスティーブ・ジョブスの伝記。一気に読み通してしまった。訳もこなれていて読みやすい。
 アップルがWindowsに押されながらもしぶとく生き残ってきたのは、そのユーザー本位に徹した製品作りにある。昔、大学の研究室で初めてアップルコンピューターIIを見た時のオドロキ。パリのOECDで最初にマッキントッシュに触った時の衝撃。今もよく覚えている。とにかくマニュアル無しに触る事ができた。それにつけても思い出して欲しい、Windows OSの非協力的な姿勢を。マニュアルも全然厚みが違う。さて1月20日の日経夕刊1面の「おじさんは怒ってるぞ」欄を見てポンと膝を叩いた。Windowsでお馴染みの「このプログラムは不正な処理を行ったので強制終了されます」という表現に怒り狂っている。そのとおりだ。一体俺様を誰だと思っているんだ。こっちは「所有者」、ご主人様だ。アップルの場合、こんなことはない。この本を読んだこともあって、さっそく数日前にまたアップルのパソコンを購入してしまった-----皆な最近はコンファレンスとかでレッツノートを使っているけれど、わしゃマックじゃ!-----が、そのメッセージの優しいこと。「さぁ、一緒になんとかしましょう」的な前向きさがある。ご主人さま本位で楽しい。まちがっても「不正な処理」などと歯向かってこない。ここで気がついた。そうか、アップルのパソコンはご主人本位の「萌えパソコン」なのかも知れないな。
 話が全くそれてしまった。こうしたアップルのユーザー本位の姿勢はジョブス自身の哲学に基づくものだろう。そもそもゼロックス研究所のGUIを見せてもらってこれをベースにアップルのGUIが出来上がったという話。彼が結局アップルに呼び戻されることとなったのは当時の彼の会社ネクスト社のOSであるネクストステップをアップルに搭載することが求められたから。そして、昨今のiPodの成功。これもユーザーの立場からコンテンツのネット配信における著作権保護をどの程度緩くすればよいか、iTunesというソフトをどう使い勝手よくするかといった事を深く考えたことで広く支持を得たと言えるだろう。マックというとパソコンのハードのイメージがあるけれど、アップルの競争力、そしてジョブスの成功のきっかけはソフト関連だ。
 パソコンはその中身を生産している部品メーカーはほぼ同じで大同小異。OSの違いだとか、その上で動くアプリがより大事になってきている。更に、ブラウザーのグーグルやヤフーがワープロソフトなどのアプリケーションを提供するとか。どんどん、上のレイヤーに重要な要素が移行している。ブロードバンド時代のビジネスモデルは更に急速に進化し続けていくことだろう。
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