「第1章第10節 英国とアイルランドのつながり その他」
10 英国とアイルランドのつながり その他
ところで、ゲーリック・スポーツ自体に英国産スポーツとの類似性がみられ、近代スポーツ以前では、イングランドと同じスポーツ文化圏にあったようにみえる。ゲーリック・フットボールは、サッカーとラグビーの中間の様なフットボールで、起源は16世紀から17世紀頃と古く、フットボールが発祥した当時の形に一番近い競技であると言われている。すなわち、イングランドでは、産業革命により、1830年代には消滅した民俗フットボールが、産業革命を経験しなかったアイルランド(北アイルランドを除く)では、19世紀後半においても村々で行われ、それがゲーリック・フットボールへとつながったとも考えられる。
ハーリングは、ケルトに起源を持つと言われるが、スティックで小さなボールを奪い合いフィールドスポーツという点でホッケーと酷似している。ラケットではなく素手でボールを打ちあうアイルランド・ハンドボールは、テニスの原型である「ジュ・ド・ポーム」(掌のゲーム)を彷彿させる。
また、ある面ではゲーリック・スポーツは、近代スポーツとして英国産スポーツの影響を受けている。フットボールで使用する大型球は、1862年リチャード・リンドンという人物がゴム製の内袋を使ったボールを製作するまで、牛や豚の膀胱が内袋に使用されていた。牛や豚の膀胱は楕円形をしていたので、それを皮で覆ったボールも、当然、球形ではなく、楕円形であったし、弾力性も乏しかった。ゴム製の内袋を使ったボールが登場して初めて弾力のある球形ボールが出現した。
これにより、手を使用せずドリブルを主体にした競技スタイルにふさわしいボールが初めて可能となりフットボールからのサッカーの分化を促進させた。実際、翌1863年には、フットボール・アソシエーション(FA)が結成され、近代スポーツとしてのサッカーが成立していった。
ゲーリック・フットボールは、球形のボールを使用し、手でボールをバウンドさせることもできるが、これは、ゴム製の内袋を使ったボールが登場して初めて競技化できるものであり、アイルランド特有の競技といっても、1885年にルール化されたゲーリック・フットボールの原形は、せいぜい、1862年以降のものであり、17世紀頃のそれとは明らかに異なっていたはずだ。また、ゲーリック・フットボールは、スクラムがない点では、ラグビーのような密集プレー上の危険性を回避するものであり、ラグビーとサッカーを参考にルール化されたとも考えられる。
参考文献 アイルランドにおけるスポーツ−ゲーリック・アスレティック・アソシエーションを例に−坂なつこ
「図説 アイルランドの歴史」リチャード・キレーン著 鈴木良平訳 彩流社
「概説イギリス史」青山吉信・今井宏編 有斐閣選書
「500年前のラグビーから学ぶ」杉谷健一郎著 文芸社

0