2021/4/18  11:13

投資家の目線820(東芝に対するTOB)  M&A
 東芝の経営が揺れている。4月7日に、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ(CVC)による株式非公開化を目指すTOBが報じられた。その後、前CVC日本法人会長だった車谷社長が辞任し、CVCは買収提案を留保することとなった(「英CVC、東芝への買収提案を当面保留 社長交代受け」 2021/4/17 日本経済新聞WEB版)。車谷氏に関しては、「経済産業省は、車谷氏を留任させてCVCの提案を受け入れれば、障害になりかねないと懸念される外為法の事前審査にゴーサインを出すとの意向を東芝側に伝えたという。(中略)東芝入りの決め手は、福島第一原発事故後の東電国有化のスキーム作りで協力した経済産業省の官僚たちの強い推しだったとされている。」(『東芝「車谷社長解任」は幻に終わった…!?買収騒動で提出されなかった「取締役会の議案」』 2021/4/13 現代ビジネス)と、CVCの買収提案には経済産業省の関与も報じられていた。しかし、『東芝が幹部社員を対象に実施した社内調査で、車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)に対する「不信任」が過半数に上ったことが13日、明らかになった。』(『東芝社長、幹部社員の過半から「不信任」 社内調査、揺らぐ再任』 2021/4/13 毎日新聞)と、東芝社内は経済産業省の思惑通りにはいかなかったようだ。

 一方、米ハーバード大学の基金運用ファンドはシンガポールの資産運用会社、3Dインベストメント・パートナーズに売却した(『東芝、「物言う株主」3割に』 2021/4/13 日本経済新聞朝刊)。上場を維持すれば、経営陣はアクティビストファンドの圧力を受け続けることになるだろう。ハーバード大学といえば、「複数の外電が、東芝の議決権の4%を持つアメリカのハーバード大学の基金運用ファンドに対し、経済産業省の関係者が圧力をかけたと報じる問題も起きた。 東芝経営陣の意に沿わない形でエフィッシモなどと連携して議決権を行使しようとすれば、改正外為法の調査対象になる恐れがあるなどと指摘、思いとどまるように迫ったというのである。」(『東芝「車谷社長解任」は幻に終わった…!?買収騒動で提出されなかった「取締役会の議案」』)と報じられており、基金の運用を妨害されるような企業の株式は保有し続ける価値はないと判断されたのかもしれない。

 東芝の買収に関しては、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)も買収案を計画中でCVCの提案を金額面で上回る可能性が高い、カナダの投資会社ブルックフィールド・アセット・マネジメントも東芝への買収案提示を検討と報じられていた(「KKR、ブルックフィールドが東芝への買収提案を計画−関係者」 2021/4/14 Bloomberg)。買収対象となった企業の経営陣は、株主利益最大化のため、できるだけ高値で売却すべきであるというものをレブロン基準という。一旦買収提案を受けてしまったら、それを上回る金額を提示する買収案が提示されたらそこに売却しなければならなくなるところだった。

 東芝のTOBに関し、甘利明自民党新国際秩序創造戦略本部座長は『英投資ファンドなどによる買収提案に関し「企業価値の向上への意味が不明だ」と指摘した。』(『自民・甘利氏「外資に翻弄、疑問だ」』 2021/4/15 日本経済新聞朝刊)が、これはユノカル基準を念頭に置いているのだろうか?敵対的買収が企業経営や効率性に脅威となるとき、買収防衛策が認められるという判断基準をユノカル基準という。

 甘利氏は『「重要な国防や原子力、量子分野を担っており、外資に翻弄されていいのか疑問だ」とも強調した。』(『自民・甘利氏「外資に翻弄、疑問だ」』 2021/4/15 日本経済新聞朝刊)という。今年の1月1日に日英EPAが発効した。「日英包括的経済連携協定(EPA)に関するファクトシート 外務省経済局 令和2年10月23日」(p9)によれば、

『【投資】 (市場アクセス総論)
i. 原則全ての分野を自由化の対象とし、自由化を留保する措置や分野を列挙する「ネガティブ・リスト」方式を採用し、透明性の高い自由化約束を確保した。日 EU・EPAと同様、投資保護規律及び投資家と国家の紛争解決(ISDS)手続は含まない。
ii. 日本は、既存の国内法令に加え、宇宙開発産業、放送業、社会事業サービス(保健、社会保障及び社会保険等)、初等及び中等教育サービス並びにエネルギー産業等について包括的な留保を行っており、必要な政策について裁量の余地を確保した。』

とされており、原則として英投資ファンドが日系企業を買収することは問題ない。しかし、東芝に関しては原子力発電というエネルギー関連の事業を保有しているため、留保できると解釈できる。かつて、東芝は原子力大手のウエスチングハウス社(WH)を英国核燃料会社から相場の2倍超といわれる54億ドル(当時の為替レートで約6600億円、株式の77%)で買収(『ウエスチングハウスへ追加出資、東芝が悩む「次の一手」』 2011/9/13 日本経済新聞WEB版)、その後WHは経営破たん、その株式は投資ファンドのブルックフィールド・ビジネス・パートナーズに1ドルで売却され、約6400億円の損失が確定した(「米WHの再生計画が承認、東芝の損失確定」 2018/3/30 日本経済新聞WEB版)。世界的には原子力発電技術は国家にとってさほど重要なものでなく、WH売却の前例から、日系企業が原子力発電事業を外資に売り渡しても何の問題もないことがわかる。以前、河野太郎防衛大臣(当時)が米、英、加、豪、ニュージーランドとの軍事協力であるシックス・アイズを唱えていたが、それであれば、米、英、加の投資ファンドが東芝を買収しても国防面では問題ないはずだ。

 甘利氏は、『海外からの投資を規制する改正外為法について、諸外国の対応と比較して「足らざる点があれば対応しなければならない」とさらなる改正の必要性に言及した。』(『自民・甘利氏「外資に翻弄、疑問だ」』 2021/4/15 日本経済新聞朝刊)が、かつて担当大臣を務めたTPPにも投資の自由化がうたわれていた(「早わかりTPP(一問一答集) 2017年6月 内閣官房 TPP政府対策本部」 p1)。なぜ、TPP担当大臣の時に外為法を改正しておかなかったのだろう?TPPには贈収賄を禁ずる腐敗防止条項があるが、その担当大臣の時に自身の事務所であっせん利得疑惑(この疑惑については、大臣辞任会見の時、しかるべきタイミングで公表すると述べたがその後公表などあったのか?)。TPPやEPAのような経済連携協定が何たるものか理解していない人物が担当大臣だったということだけは分かった。
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2021/4/11  15:43

投資家の目線819(アルケゴスショックとファミリーオフィス)  ファンド
 アルケゴス・キャピタル・マネジメント(以下アルケゴス)との取引で、クレディ・スイス・グループや野村ホールディングスなど、大手金融機関が巨額の損失を出している。クレディ・スイス・グループは44億スイスフラン(約5200億円)、野村ホールディングスは約20億ドル(約2200億円)、三菱UFJ証券ホールディングスは約2.7億ドル(約300億円)、みずほフィナンシャルグループは約100億円の損失の見込みと報じられていた(モルガン・スタンレーは9億1100万ドル(約1000億円)の損失 2021/4/17追記)。JPモルガン・チェースは金融機関全体で損失が50億〜100億ドル(約5510億〜1兆1030億円)になると推計している(「金融機関のアルケゴス関連損失、最大100億ドルにも−JPモルガン」 2021/3/31 Bloomberg)。

 アルケゴスはビル・フアン氏の個人資産を運用する投資会社(ファミリーオフィス)で、デリバティブ商品でレバレッジをきかせて資産額以上のポジションを保有してした。しかし、アルケゴスが追加証拠金を差し入れなかったために、一部の金融機関が担保にとった株式を大量に売却、担保の価値が下がり、大きな損失につながったようだ。『同社の取引について知る関係者によると、アルケゴスが利用していたレバレッジの多くは野村ホールディングスやクレディ・スイス・グループなどの銀行が、スワップや「差金決済取引(CFD)」を通じて提供していた。この取引ではアルケゴスが実際に原資産を保有することはない。米国の上場企業の株式を5%以上保有する投資家は通常なら、持ち分を開示する必要がある。しかしアルケゴスが利用していたとみられるデリバティブ(金融派生商品)を通じてポジションが構築された場合はそうではない。取引所外で取引されるこの商品を使って、フアン氏のような運用者らは開示することなく上場企業の持ち分を積み上げることができる。』(『アルケゴスショックの背後に「CFD」−秘密裏にポジション積み上げ』 2021/3/29 Bloomberg)という。高いレバレッジをかけたファンドの破綻としては、アジア通貨危機やロシア危機を契機として発生したLTCMの破綻がある。

 特に、米国のメディア企業バイアコムCBSなど数銘柄で巨額のポジションを保有していたとされる(「ウォール街不意突いたアルケゴス−破綻までレバレッジ全容見えず」 2021/4/2 Bloomberg)。目につかない形で、特定企業の株式について大きなポジションを積み上げた例としては、阪神電鉄の株式とその転換社債型新株予約権、株式交換で完全子会社化が決まった阪神百貨店株式を買い占めていた、いわゆる村上ファンドを思い出す。特定企業の持ち分を目につかないように積み上げたのは、M&Aを狙っていたためだろうか?「ブルームバーグ・ニュースが確認した顧客への電子メールによると、ゴールドマンは百度(バイドゥ)とテンセント・ミュージック・エンターテインメント・グループ(騰訊音楽娯楽集団)、唯品会(ビップショップ・ホールディングス)の株式66億ドル相当を米市場の取引開始前に売却した。電子メールによると、その後メディア企業のバイアコムCBSとディスカバリー、オンラインファッション小売りのファーフェッチ、中国の愛奇芸(iQiyi)と跟誰学(GSXテクエデュ)の株式計39億ドル相当も売却した。」(「ウォール街に臆測飛び交う−「前代未聞」のゴールドマンのブロック取引」 2021/3/28 Bloomberg)と、アルゴゲア事件に関連して放送・通信株の売却が取りざたされている。

 先手を取って株式売却に動いたゴールドマン・サックス・グループは損失が軽かったようだ。「「『清算』は最初に引き金を引いた者が勝ち」。ウォール街のベテラントレーダーは解説する。」(「米欧当局、アルケゴス注視 巨額運用で行き詰まり 金融、手数料目当ての構図」 2021/4/1 日本経済新聞朝刊)。不良債権を出さないコツは他者より先に債権を回収することだと、かつてノンバンクの人から聞いたことがある。バブル崩壊後、真っ先に債権回収に動いたのは商社。次にノンバンクが回収に動き、最後まで残って不良債権というババをひかされたのが銀行をはじめとする金融機関だった。商社は取引を通じて実質的な融資を行っている(商社金融)。かつて存在した商工ファンドの創業者も商社出身だった。

 アルケゴスの事件を受け、米国ではファミリーオフィスの規制に動くようだ(「焦点:アルケゴス問題で分かった監視の穴、米当局は規制強化へ」 2021/3/30 ロイター)。以前、フアン氏はインサイダー取引で処分を受け、「顧客資金の運用をSECから禁じられたフアン氏は、自身の資産を管理・運用するファミリーオフィス、アルケゴスをスタートさせた」(「ウォール街銀行をSEC招集、フアン氏絡み株式売却協議−関係者」 2021/3/30 Bloomberg)。また、「主にキリスト教保守派の理念に基づく地味な活動に手厚い資金支援を行う一方、自身は郊外のニュージャージー州に住み、バスを利用するなどビリオネアの基準からすれば、質素な生活を送っていた。」(「ビル・フアン氏の知られざる顔−キリストに奉仕する投機家」 2021/4/2 Bloomberg)とも報じられている。

 新生・村上ファンドと言われる「レノ」も『「約200億円」(銀行関係者)ともされる村上氏の個人資産がレノの資金源とみられる。』(「新生・村上ファンド その野望と内情 この先、村上氏はどう出るのか? | 金融業界」 2013/2/11 東洋経済オンライン)とされ、「レノ」もファミリーオフィスに分類されるのではないだろうか?損失がアルケゴス事件ほど巨額ではなくとも、鉄砲がもとで廃業になった小川証券等のように、中堅以下の証券会社なら経営破たんする恐れは否定できない。1000億ドル(約11兆円)近くとも言われるアルケゴスとはポジションの額は違うだろうが、日本でも米国と同様の規制は必要と考えられる。
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2021/4/4  14:07

投資家の目線818(米国のインフラ投資と菅首相訪米)  政治
 バイデン政権が8年間で2兆ドル(約220兆円)のインフラ投資をすることを発表した。財源は企業増税と言っている(『バイデン氏「対中競争に勝つ」 220兆円投資・増税発表』 2021/4/1 日本経済新聞WEB版)が、日本の資金もあてにされているのではないだろうか?インフラ投資ファンドを設立して投資資金を募り、その資金をインフラ投資に振り向ける形にすれば米国連邦政府の財政は悪化しないし、たとえ上手くいかなくてもリスクを負うのは米国の納税者ではなく投資家だ。4月2日には、16日に菅首相が訪米し、バイデン大統領と会談する予定であることが発表された。

 2017年2月に安倍首相(当時)は、10年間に1,500億ドルの対米インフラ投資で、65万人の雇用を生み出すという提案を行った。資金については、「政府は日本の大手銀行の融資に加え、昨年3月末時点で約135兆円に上る年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用資金、140兆円規模に達する政府の外貨準備高の一部を振り向ける案も掲げた。」(『安倍首相、米に巨額インフラ投資の狙い 「戦略的蜜月関係」の一環、50兆円市場で70万人雇用創出』 2017/2/6 ZAKZAK by 夕刊フジ)という。

 安倍前首相は宿題をやらない子供で、次のように、養育係の久保ウメ氏など周りの人に迷惑をかけたようである。『問題は学校の宿題をやらないことだったという。「『宿題みんな済んだね?』と聞くと、晋ちゃんは『うん、済んだ』と言う。寝たあとに確かめると、ノートは真っ白。それでも次の日は『行ってきまーす』と元気よく家を出ます。それが安倍晋三でした。たいした度胸だった。でも、学校でそれが許されるはずはない。あと1週間でノートを全部埋めてきなさいと罰が出る。ノート1冊を埋めるのは大変です。私がかわりに左手で書いて、疲れるとママに代わった」(ウメ)(「首相・安倍晋三の養育係を独占取材した”唯一無二のバイオグラフィー” 『安倍晋三 沈黙の仮面』」| 小学館 2016/3/15)。昨年、安倍晋三氏は日米経済交渉や対米インフラ投資という宿題を放り出して病気(それについて診断書が出たという報道は見たことがない)を理由に首相の職を辞任した。約束の後始末を他人にやらせるなんて子供時代と変わらない。担任がトランプ先生からバイデン先生に交代したからといって、日米経済問題という宿題がなくなるわけではない。2017年2月の安倍首相(当時)の時、『日系企業が米国内の雇用創出で貢献している実績などを説明し、「信頼できる安保・経済同盟国」であることをアピールする。』(『安倍首相訪米で「信頼安保、経済同盟」アピール 中国の軍事的覇権拡大見据えた同盟強化が焦点』 -2017/2/10 ZAKZAK by 夕刊フジ)と報じられたので、日米同盟を重視する勢力はインフラ投資への出資を拒めない。

 日本が出資しても、日本の建設会社が米国のインフラ建設を受注し、日本が投資資金を回収するというようなことはできないだろう。リニア新幹線では、大手建設会社の談合が発覚し、先日有罪判決を受けた。以前あった自動車部品カルテルでは、40人以上の日本人ビジネスパースンが米国の刑務所に収監されていた。『国際カルテルに詳しいベーカー&マッケンジー法律事務所パートナー弁護士の井上朗は「いわゆる握りや合意がなくても、日本人の感覚だと情報交換程度に近い行為が摘発の対象になりやすい」と指摘する。』(『米カルテル摘発再起動(上)日本人、投獄の悪夢、「情報交換程度」危ない橋(CONFIDENTIAL)』 2018/3/5 日経産業新聞)。米国のインフラ投資で「談合」が発覚したら、関係者は刑務所行きだ。

 できるかどうかは分からないが、米国のインフラ投資に協力する代わりに、ある程度の日本の対米貿易黒字を認めてもらうという取引はあり得るだろう。しかし、日本の雇用にはマイナスだとしても、輸出企業の現地生産を促し、貿易収支の不均衡の是正を促すのが本筋だろう。
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2021/3/28  7:59

投資家の目線817(NTTと東北新社の接待とESG投資)  金融
 NTTが総務官僚への接待に対する国会での追及を受け、社内規定を改正するという。「NTTは26日、総務省接待問題を受けた再発防止策として社内ルールを見直し、国務大臣規範や国家公務員倫理規程などを踏まえて利害関係のある政治家、公務員との個別の会食を禁止する方針を明らかにした。贈答品も禁じ、違反した場合の罰則を定める。」(「NTT、政官と会食禁止へ 社内規定見直し、罰則制定」2021/3/26 共同通信)と報じられている。

 NTTのHPでは贈収賄防止がうたわれており、『NTTグループは「国内外を問わず、法令、社会的規範および社内規則を遵守する」ことを「NTTグループ企業倫理憲章」に明記しています。「贈賄防止」に関しては、理解し守るべき事項をまとめた「贈賄防止ハンドブック」を作成して国内外の全社員へメールなどで周知しています。』と記されている。社内規定を見直すということは、接待に関する規定は十分ではなかったのだろうか?企業活動に求められるESG(Environmental, Social and Governance)項目には腐敗防止(贈収賄)が含まれる(証券アナリストジャーナル2018年1月vol.56 NO.1「エンゲージメントを通じたESGの推進」櫻本惠、加藤泰浩、村岡義信、鈴木俊一 p42 図表2)。ESGの観点から「接待・贈答」に関する社内規定がある企業もある。NTTは、ESG投資という観点からは問題がある企業だったと言えるのではないか?

 NTTはNTTグループ中期経営戦略『Your Value Partner 2025』(最終更新日:2021/1/26)で「グローバル事業の競争力強化」をうたっている。以前にも書いたが(投資家の目線815(公務員への接待問題) | 投資家の願い)、2019年にはスイスの資産運用会社で贈答品に関する社内規定違反が見つかり、過去3年間に受けたコーヒーや朝食、昼食、ディナーなどのもてなしの記録が調査された(『セールスに「そのランチの支払いは誰が」とGAM−ギフトも確認指示』 2019/3/7 Bloomberg)。このスイス企業の例と比較して、NTTトップの総務官僚に対する接待は、グローバル基準に耐えるものではなかったのではだろうか?企業の倫理がグローバル基準から逸脱していれば、「グローバル事業の競争力強化」を目標とする中期経営戦略の達成もおぼつかない。

 東北新社も総務官僚に対して接待を行った。総務省は放送・通信の監督官庁なので、NTT同様に利益相反が疑われる案件だ。NTTと異なり、東北新社HPのCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)のコンプライアンスの事項について見ても、個人情報保護や下請法、インサイダー取引、ハラスメントの項はあっても「接待・贈答」など贈収賄防止に関して具体的に定めた項は見当たらない。そのため、東北新社もESG投資の観点からは好ましくない投資対象と考えられる。

 NTTは贈収賄防止をうたっていたにもかかわらず、贈収賄が疑われる事件が発生した。ESGを重視する投資家は、投資企業に具体的な社内規定の開示を要求した方がよいのではないだろうか?
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2021/3/21  7:56

投資家の目線816(社債保有者のユニゾHDへの質問状・続)  ファンド
 2月21日に書いたユニゾホールディングス(ユニゾHD)の社債の件についてさらに調べてみた。

 「ユニゾは昨年、従業員と米PE企業・ローンスターが設立したチトセア投資によるTOB(株式公開買い付け)を通じて非公開化。ユニゾはその直後、新たなオーナーになったチトセアに対し、ローンスターに返済する資金を融資していた。(中略)当初の開示文書によると、チトセア投信の従業員にはローンスターとの関係を維持するか、6カ月以内に同社に資金を返済するかの選択肢が与えられていた。(中略)ノムラのアナリストによると、ユニゾは昨年4―9月期に1440億円相当の不動産を売却し、ローンスターへの返済資金としてチトセアに20億ドル以上を融資。日本の格付け会社は昨年12月、ユニゾの格付けをジャンク級(投機級)に引き下げた。チトセアの債務返済能力は、ユニゾから配当をさらに受け取れるかどうかにかかっている。」(「コラム:ユニゾ買収の行く末、PEに対する信頼感に影響も」 2021/3/2 ロイター)という。

 「一部従業員と米国の投資会社ローン・スターが設立した(株)チトセア投資(TSR企業コード: 133135950)が2020年4月2日、1株6000円でEBOする結果となった。この時の公開買付説明書では、買付代金はローン・スターグループからの借入金1510億円、優先株引受550億円の合計2060億円と記載されている。」(『「社債償還」が注目されるユニゾホールディングス』 2021/2/18 東京商工リサーチ)。ユニゾHDの買収総額は2050億円と報じられたので(「ユニゾHD争奪戦、従業員側のEBO成立で幕−総額2050億円」 2020/4/3 Bloomberg)、従業員側には資金がほとんどなく、EBOに必要な資金はローンスターから出してもらったものと推測される。チトセアはユニゾHDのEBOのために設立されたので、ユニゾHDからの配当ぐらいしか収益源が思いつかない。「ARCMは最初の書簡で、チトセア投資向けの短期借入金の返済能力の有無について説明を要請したが、今回の書簡で、ユニゾの代理人弁護士と面談し、ユニゾのキャッシュ・フローを原資に配当することが可能との回答があったと明記した。」(「ユニゾに対し資産売却の凍結などを要請−香港のファンド」 2021/2/25 Bloomberg、ARCMはユニゾHDの社債保有者)と、ユニゾの代理人弁護士の回答もチトセア投資の短期借入金の返済能力はユニゾから得られるキャッシュ・フロー(つまりは配当)によるという。チトセアに対する融資は、配当の前払いと見做しても差し支えないと思う。しかし、ユニゾ八重洲ビルのような優良資産を売却した後で、ユニゾHDはチトセアへの貸付金に見合う配当金をねん出するのに何年かかるのだろう?メインバンクの融資が返済された現在、事業再建の主導権を握るような債権者も見当たらない。

 耐震偽装事件の最中、イーホームズの藤田社長が逮捕されたのは、同社の増資時における「見せ金」容疑である(次の通り、耐震偽装事件に関してイーホームズの過失は否定されているようだ。『河野裁判長はイーホームズについて「マンションの設計図中に明らかな偽装の疑いはなかった」と過失を否定。』「耐震偽装マンション、住人の賠償請求棄却 東京地裁」 2011/5/25 日本経済新聞))。

 見せ金とは、『株式会社の発起人が第三者より株式払込みの資金を借り入れ、それを払い込んで会社を成立させたのちに、払い戻した会社資金を発起人個人の借入金の返済にあてることをいう。すなわち、このような一連の行為が仮装の株式払込みの方法としてなされている場合が、見せ金として問題になる。預合(あずけあい)に近い見せ金としては、払込取扱機関たる銀行から発起人が払込資金を借り入れ、会社成立後、払込金を引き戻し、発起人が自己の債務の弁済として払込取扱銀行に返済する場合がある。このような仮装の株式払込みは無効とされるのである。』(出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ) コトバンク)とされる。

 イーホームズの「見せ金」事件の内容は、『藤田容疑者は増資の4日後、資本から2400万円を引き出し、岸本容疑者に返済。同時に、当時社長を兼任していた造園会社に2400万円を融資する形を取って、架空増資を隠蔽(いんぺい)しようとしたとみられている。逮捕前、架空増資の疑惑について「見せ金には当たらないと考えている。造園会社に貸し付けたが、返還が確実に見込める相手先で、資本へ充当されない恐れはなかった」と反論していた。』(『「見せ金増資」イーホームズの藤田社長、容疑認める』 2006/4/30 asahi.com)となっている。新たに発行する株式に出資するために借入れた資金を、短期間で貸主に返済したことが「見せ金」と認識されたようだ。

 ユニゾHD社債保有者の『質問状によるとチトセア投資は「貸付金を返済する手段を有していない」ため「貸付金は無価値であると判断した」』(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」』 2021/2/11 日本経済新聞朝刊)。新型コロナウイルス感染拡大で計画が狂ったのかもしれないが、結果的にはチトセアへの出資金が短期間で資金の出し手のローンスターに戻されたことになる。ユニゾHDの第44期半期報告書を見ると、2020年7月から9月まで毎月臨時株主総会が開かれ、8月3日には2億円、8月末には148億円、9月末には381億円という多額の配当が支払われている。このように短期間に多額の配当が支払われる場合には少なくとも債権者に総会前に予め情報開示をすべきだと思うが、ユニゾHDどうしていたのだろう?ユニゾHDの問題は、投資ファンドの資金回収のあり方についても問題を投げかけると考えられる。

追記(2021/4/6):3月24日、山形市社会福祉協議会(山形市の外郭団体)は、ユニゾホールディングス社債で7400万円の損失が発生し、鞠子克己会長が責任をとって4月末で辞任すると発表した。(「ユニゾ社債で7400万円の損失、会長辞任 山形市社協」 2021/3/24 日本経済新聞WEB版)
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2021/3/14  9:40

投資家の目線815(公務員への接待問題)  政治
 菅首相の長男から高額接待を受けた内閣広報官に始まり、農林水産省、総務省の官僚に対する高額接待が問題になっている。日本は2006年に公務員に係る贈収賄を防止する「腐敗の防止に関する国際連合条約」を締結している。

 外務省ホームページ「腐敗防止」によれば、条約のポイントは次の通りである。

引用開始

 この条約は,腐敗行為を防止し,及びこれと戦うため,公務員に係る贈収賄,公務員による財産の横領等一定の行為の犯罪化,犯罪収益の没収,財産の返還等に関する国際協力等につき規定しています。具体的な条約のポイントは以下の通りです。
• (ア)腐敗行為の防止のため,公的部門(公務員の採用等に関する制度,公務員の行動規範,公的調達制度等)及び民間部門(会計・監査基準,法人の設立基準等)において透明性を高める等の措置をとる。また,腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の資金洗浄を防止するための措置をとる。
• (イ)自国の公務員に係る贈収賄,外国公務員及び公的国際機関の職員に対する贈賄,公務員による財産の横領及び犯罪収益の洗浄等並びに,これらの犯罪に関する手続における証人買収等の司法妨害行為を犯罪とする。
• (ウ)腐敗行為に係る犯罪の効果的な捜査・訴追等のため,犯罪人引渡し,捜査共助,司法共助等につき締約国間で国際協力を行う。
• (エ)腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の没収のため,締約国間で協力を行い,公的資金の横領等一定の場合には,他の締約国からの要請により自国で没収した財産を当該他の締約国へ返還する。

引用終了

 菅首相は昨年11月のAPECでTPP拡大を目指すと主張しているが、TPPにも「透明性及び腐敗行為の防止の条項」(「環太平洋パートナーシップ協定の概要(暫定版)(仮訳)」)がある。日本政府がTPP拡大を推進するのなら、公務員への高額接待を犯罪として扱い、協定を遵守するのは当然だろう。一般に、経済連携協定に罰則規定は盛り込まれないが、協定を破れば他の加盟国の国内法に則り報復を受ける可能性は高いだろう。

 2019年には、スイスの資産運用会社で贈答品に関する社内規定違反が見つかり、過去3年間に受けたコーヒーや朝食、昼食、ディナーなどのもてなしの記録が調査された(『セールスに「そのランチの支払いは誰が」とGAM−ギフトも確認指示』 2019/3/7 Bloomberg)。西欧社会の感覚からすれば、日本の官僚への接待は相当高いものだろう。先日もコープこうべの組合長らが接待に関する内部規定違反で解職され(「コープこうべ組合長ら解職 ゴルフ接待30回ずつ受け」 2021/3/7 日本経済新聞WEB版)、日本でも倫理規定違反に対する目が厳しくなっている。公務員に対しても同様の処置が必要だ。

 3月1日には、息子がスニーカーの転売ビジネスを展開したことが報道されたことを受け、スニーカーも販売する米国企業ナイキのアン・ヘバート北米地区副社長が辞任した。『ナイキはブルームバーグの取材に対し「(問題となっている転売会社と)ナイキとは直接売買など商業的な提携はなく、利益相反はない」と回答したという。』(「ナイキの北米副社長が辞任 息子のスニーカー転売に関与」 2021/3/3 日本経済新聞WEB版)が、同記事では「スニーカーの購入に母親のヘバート氏名義のビジネス向けクレジットカードを使っていた」とされ、ナイキにとってスニーカーの転売は関連が深く、利益相反が疑われても仕方がない。

 日本には日本の商慣習があるとの反論もあろうが、独自の商慣習は非関税障壁だと抗議を受けるだけだろう。TPPの目的には非関税障壁の撤廃及び削減もある(「環太平洋パートナーシップ協定の概要(暫定版)(仮訳)」)。日本政府がTPPを推進するつもりなら、接待は禁止すべきだ。ついでに言えば、接待でしか情報収集ができないようでは、労働生産性など上がらないだろうに…。
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2021/3/7  9:03

投資家の目線814(ゴルバチョフ回顧録に見るチェルノブイリ原発事故)  
 東日本大震災と、それに伴う福島第一原子力発電所の事故からもうすぐ10年がたつ。2月13日にも、福島県沖を震源とする地震があったばかりだ。

 「ゴルバチョフ回顧録 上巻」(ミハイル・ゴルバチョフ著 工藤精一郎・鈴木康雄訳 新潮社 p380)には、ソヴィエト連邦時代のチェルノブイリ原子力発電所の事故に関する記述がある。『政治家ばかりか、学者や専門家たちまでも事故への適切な対応の準備ができていなかったのだ。極度に否定的な形をとって現れたのが、所轄官庁の縄張り主義と科学の独占主義にしめつけられた原子力部門の閉鎖性と秘密性だった。私はこのことについて一九八六年七月三日の政治局会議で言った。「われわれは三十年間あなたたち、つまり学者、専門家、大臣から原発はすべて安全だと聞かされてきた。あなたたちも神のごとく見てほしいというわけだ。ところがこの惨事です。所轄省庁と多くの科学センターは監督外におかれていたのです。全システムを支配していたのは、ごますり、へつらい、セクト主義と異分子への圧迫、見せびらかし、指導者を取巻く個人的、派閥的関係の精神です」(中略)ワレリー・レガソフ・アカデミー会員は、核事故の確率はきわめて低いものと考えられ、世界の科学と技術はあまりその対策を準備していなかったと語った。自己安堵、それに軽率とさえいえる態度、これが支配的だった。事故の直後に政治局会議で行なったアカデミー会員アレクサンドル・アレクサンドロフとエフゲニー・スラフスキーの発言が今でも忘れられない。二人はわが国の原子エネルギー生産の先駆者で、この技術の開発者としての栄誉をになっている学者だった。ところがわれわれが彼らの口から聞かされたのは、むしろ世俗的な判断に近いものだった。恐ろしいことは何も起っていません。こんなことは工業用原子炉にはよくあることです。ウォトカを一、二杯飲み、ザクースカをつまんで一眠りすれば、それで終りですよ。』

 ソ連は黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉、福島第一原子力発電所は沸騰水型原子炉と技術は異なるものの、日本はチェルノブイリ事故の教訓を全く活かしていなかったのではないだろうか?添田孝史著「東電原発事故 10年で明らかになったこと」(平凡社新書)を読むと、福島第一原発事故に関しても東京電力や日本政府は少なくとも津波や大規模避難、オフサイトセンターの被爆対策に関する準備がいかにできていなかったかがわかる。五重の壁で放射性物質を閉じ込めると安全性をうたったが、爆発が起こり放射性物質を閉じ込めることはできなかった。「ごますり、へつらい、セクト主義と異分子への圧迫、見せびらかし、指導者を取り巻く個人的、派閥的関係の精神」は、御用学者に通じる。「恐ろしいことは何も起こっていません。こんなことは工業用原子炉にはよくあることです。」と発言したアカデミー会員は、水素爆発はないと言った原子力安全委員長、「春雨じゃ、濡れてまいろう」とtweetした物理学者、「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます」と講演で語った医学者を思い起こさせる。

 東京電力が福島第1原子力発電所3号機に設置した地震計が故障しているのを知りながら放置したため、13日夜の地震のデータが取得できていなかったという(「東電、福島第1の地震計の故障を放置 データ取れず」 2021/2/22 日本経済新聞WEB版)。このようないい加減な作業しかしない企業に、原子力発電所を扱う資格があるのだろうか?

 福島第一原発事故のとき、最も頼りにしたのは米軍向けの放送局American Forces Network(AFN)だった。何度も核実験を行い、広島や長崎の原子爆弾による傷害の調査研究も行った米国の方が、核被害に関する情報に関して日本よりも優位性を持っていると考えられたからである。生物・化学兵器の実験資料提供の代わりに731部隊員を戦犯から外す(『「李青天まで生体実験」…日本の蛮行資料示し、米国立衛生研究所を5年間毎週説得』 2020年1月16日 朝鮮日報)ぐらい、米国は感染症研究にも熱心だ。AFNからの情報は、新型コロナウイルスについても有益だろう。
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2021/2/28  15:01

投資家の目線813(逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想)  
 近年、中国海軍の拡充が話題になっている。尖閣諸島における日中のせめぎあいも、従来の棚上げ論を否定し、胡錦涛主席の警告を無視して行った日本政府による尖閣三島の国有化宣言だけでなく、海警局および中国海軍増強も関係あるのだろう。ロバート・ゲーツ元国防長官の著書「イラク・アフガン戦争の真実 ゲーツ元国防長官の回顧録」(井口耕三、熊谷玲美、寺町朋子訳 朝日新聞出版 p548)には、ゲーツ長官訪中時に中国が新型ステルス戦闘機をお披露目したことを「人民解放軍があらかじめ胡主席に知らせず、これ見よがしの政治的スタンドプレイをしようとしたのは、少なくとも憂慮すべき事態だった。」と記している。山田朗著「昭和天皇の軍事思想と戦略」(校倉書房 p131)には、「満洲事変の勃発の際も、熱河作戦の時も、日中戦争が拡大した時も、天皇は当初は反対した。しかし、現実的な戦果が挙がり、勢力圏拡張が達成されると、事態を事後承認し、独断専行者たちを賞賛するというやり方を繰り返した。」と書かれている。昭和天皇がこのようなやり方をとれば、軍の自重など期待できない。しかし若き天皇側から見れば、はるか年長者がトップにいる軍を抑えるのはなかなか難しいということもあるのだろう。張作霖爆殺事件の処理に関連して田中義一首相に辞表を出させたときは、周辺から大いに反発を食らったようだ。

 「逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想」(小林一三著 講談社学術文庫 p27〜28)には、日清戦争に関する記述がある。明治『二十六年の秋頃から二十七年にかけて金融は大緩慢、交換所の日歩は五厘を上下した。無日歩で借り手の無い時もあった。五分利整理公債の市価が百七、八円に騰った。(中略)三井銀行本店から「これ以上に預金が殖えては困るから、丁寧に預金をお断りするようにせよ」という、今考えると虚言のような命令がきた。(中略)この金融情勢による経済界の好況が、日清戦争開始の決意を断行せしめたのである。それは明治二十四、五年から芽ばえた勤倹貯蓄の国民的運動の効果である。その原因は清国の日本に対する脅威に自覚したからである。清国北洋艦隊のデモンストレーションが日本の近海を横行し、横浜港外に定遠、鎮遠の鋼鉄艦ほか数隻が威風堂々と碇泊し、提督丁汝昌の新橋芸者に大もての光景が、三面記事として新聞紙を賑わした連日のニュースは、いかに我々をして憤慨せしめたことであろう。鋼鉄艦を持たない我国の貧弱さを眼前に見せつけられて、海軍大拡張は国民の輿論となった。海防費献金は全国の富豪をして、よしそれが勲章との取引であったにせよ、津々浦々に行き渡った。政府の官吏は俸給の何分の一を喜んで犠牲にした。かくして我国にも艦隊らしい艦隊なるものが出来上りつつあったのである。』と、当時から日本は超大国中国に対する対抗意識が強かったようだ。好況とは言えないが、超金融緩和という経済状況も当時の日本と似ている。

 小林は日清戦争を「日本は断じて侵略戦争を起したもので無く、やむにやまれず、売られた喧嘩を買わざるを得なかった事情は、すでに世界周知の決定版である。」(p28)という。しかし、日清戦争の原因となったのは甲午農民戦争(昔風に言えば東学党の乱)で朝鮮が清国に援軍要請したことに対抗し、日本が居留民保護を口実にした朝鮮へ出兵したことである。日清戦争時に一番被害が大きかったのは朝鮮の人々と言われるが、小林は朝鮮のことについて何も触れていない。

 同書には「私の大臣落第記等々」(p240)という記述もある。「泡沫の三十五年 日米交渉秘史」(来栖三郎著、中公文庫、p214〜p216)には、『果せるかなこの度の戦争前、わが国が小林一三氏や芳沢大使を蘭印に派して、日蘭交渉を行った際にも、自分がその交渉に関った石沢総領事に確かめたところによると、オランダ側は石油の輸入量についても新油田の開発についても、日本の要求を全部容認したのであって、すなわち外務大臣の自分に対する口約を立派に果したのである。ただあの時、日蘭交渉が成立しなかったのは、ある種の物資に対する日本の要求が日本自身の所要推定量を超えているので、蘭印側としては当時オランダ本国を占領している敵国ドイツに転送されることを恐れて、その物資について日本自身の合理的所要推算量以上の輸出を拒んだためであると聞いている。もしあの当時、石油についてだけでも、日蘭協定が成立していたのなら、米国は自身の石油の売り止めはできても、蘭印石油の輸出まで止めさせるわけにはゆかなかったはずで、蘭印石油輸入年額数百万トンに関する限りは、「ジリ貧」は日本自身が招いた事態といわなければなるまいと思う。』と書かれている。第二次日蘭会商使節団の初代代表は、「日本は三国同盟の有無に拘らず、万一、ドイツ側に敗色濃厚なる時は、之が援助に赴かざるべからず」と述べて蘭印との交渉を暗礁に乗り上げさせ(「戦争と石油(3)− 『日蘭会商』から石油禁輸へ −」 岩間敏 石油・天然ガスレビュー 2010.3 Vol.44 No.2 p75)、交代させられた小林一三商工大臣である。ABCD包囲網ができた責任は小林にもある。

 今の日本は、当時と同じく世界情勢と日本の実力を見誤っていないだろうか?石射猪太郎は著書「外交官の一生」(中公文庫 p412)で、「まだ太平洋戦争に間のあった頃、ドイツ人を乗せたわが商船を、イギリス軍艦が房州沖で臨検し、それが日本・イギリス間の問題となったことは、世人の記憶に新たなところであろう。イギリス軍艦としては、国際法上認められた権利を行使したまでのことであったが、日本の強硬論者が騒ぎ立てた。たとえ領海外の臨検であっても、いやしくも富士山の見ゆるところでのこの権利行使は、許しておけないと怒号し、合理的に問題を解決しようとする政府の態度を軟弱外交だとして責めた。今日、富士山の見ゆるところは愚か、皇居前の広場で、進駐軍の閲兵式が行なわれるようになったのは、こうした強硬論の集積した結果に外ならない。」と書いている。日本の都市には防空壕はなく、山陽本線が寸断されれば西日本の輸送量が激減する。強硬論を採用しても日本は防御力が弱く、戦闘継続能力がないのだ。太平洋戦争前、対米戦争で勝ち目のないことは日本の上層部では常識であった。またそれを繰り返すつもりなのだろうか?
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2021/2/21  6:23

投資家の目線812(社債保有者のユニゾHDへの質問状)  M&A
 旧日本興業銀行系の不動産会社で、昨年6月にEBOで非公開化したユニゾホールディングス(ユニゾHD)の社債保有者が同社に質問状を提出した。「米ファンドに資金を優先に返済し、財務が悪化していると主張している。」(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」』 2021/2/11 日本経済新聞朝刊)という。昨年11月には、同社の社債について債務不履行懸念で社債価格が急落していると報じられた(「ユニゾ債、投資家保護置き去り 不履行懸念で6割安」  2020/11/26 日本経済新聞WEB版)。株式会社日本格付研究所は同社の長期発行体格付けを昨年9月10日に「BBB+/ネガティブ」から「BBB/ネガティブ」、12月21日に「BBB-/ネガティブ」、28日には投機的等級の「BB+/ネガティブ」と急速に引き下げており(株式会社日本格付研究所HP)、同社の信用リスクは増大している。社債には配当制限条項や担保提供制限条項など、財務上の特約がつけられることが多いが、ユニゾHDの社債はどうなっているのであろうか?ユニゾHD側は、「当社は債務超過ではない」(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」」)とも述べている。コーポレートガバナンスは、残余財産分配請求権をもつ株主の立場から語られることが多いが、社債保有者からの質問状は、社債権者によるコーポレートガバナンスと言えないだろうか?

 ユニゾHDの第44期半期報告書で連結貸借対照表を見ると、現金及び預金が2020年3月末の1635億円から9月末には550億円に1085億円減少している。連結キャッシュ・フロー計算書を見ると、キャッシュアウトフローの金額が大きいのは、貸付けによる支出2571億円、長期借入金の返済542億円(短期借入金は37億円の純減)、配当金支払い531億円があげられる。貸付金の回収額が411億円、有形固定資産取得額40億円に対して有形固定資産売却額が406億円と、現預金に有形固定資産売却額を加えて得た資金を、貸付けや長期借入金返済、配当支払いに回しているイメージだ。非公開化の際、ユニゾ従業員と米投資ファンドのローンスターがチトセア投資を共同で設立し、「ローンスターから約2000億円を調達してユニゾHDの全株式を取得した。」(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」』)という。ユニゾHDの買収総額は2050億円とのことなので(「ユニゾHD争奪戦、従業員側のEBO成立で幕−総額2050億円」 2020/4/3 Bloomberg)、チトセアは数カ月で資金の約4分の1を回収したことになる。昨年、傘下のユニゾホテルが大量閉館したり(「ユニゾホテル、2020年12月までに半数を閉館−旧・興銀系大手ホテル、都内から完全撤退 | 2020/10/19 都市商業研究所)、かつては山一證券の本社もあった東京駅前のユニゾ八重洲ビルを売却したりした。新型コロナウイルス感染拡大によるホテル需要の減少もあるのだろうが、ユニゾHDの資金需要の影響が大きかったのではないだろうか?EBOと言いながら、今回の非公開化は従業員のためになっていない。

 「ユニゾのメインバンクは、もともとみずほ銀行だった。同社は旧日本興業銀行系の常和不動産を母体とし、当時から社長や役員を受け入れていたほか、主要株主にもみずほの親密先が名を連ねていた。しかし、複数のみずほ銀関係者によると、2019年12月末時点で463億円と残高が一番多かったみずほ銀の融資は、昨年7月にゼロとなった。みずほ幹部によると、ユニゾからの返済の申し出で完済された。」(「ユニゾに融資する6割が地銀、65行の損失リスク握る借り換えの行方」 2021/2/10 Bloomberg)。2020年6月下旬の定時株主総会で退任した小崎哲資代表取締役社長(当時)は日本興業銀行出身である。借入金の返済は主にメインバンクだったみずほ銀行分だったのではないだろうか?一方、「地銀の融資総額は約1124億円で、県信連は約317億円となっている。この二業態で、ユニゾの借り入れの7割以上を占める。」(「ユニゾに融資する6割が地銀、65行の損失リスク握る借り換えの行方」)と、融資先のユニゾHDに対する情報がメインバンクに比べて劣位にある非メインの銀行の融資が取り残されている。(追記:バブル崩壊後の不良債権の増加が懸念された時代には、非メインが融資に消極的になり、メインバンクの融資比率が上昇する「メイン寄せ」と呼ばれる現象が起こったが、今回のケースはその逆のようだ。

 思い出されるのが、2018年に山形の百貨店「大沼」への出資金が出資した事業再生ファンドのMTMに還流したのではないかと問題視された事件である(当時の早瀬社長はその疑惑を否定している(『山形の老舗百貨店「大沼」の再建が暗礁 再生ファンドのトラブルで支援遅れ』 2019/2/20 東京商工リサーチ))。その後、「大沼」はEBOで投資ファンドから株式を取得し、経営者が交代したが、2020年1月に自己破産を申請した。
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2021/2/14  7:36

投資家の目線811(東証改革とTOB)  M&A
 2022年4月から東京証券取引所の市場区分がプライム、スタンダード、グロースの3市場に再編される。株式会社東京証券取引所の資料「新市場区分の概要等について 2020年2月21日」によれば、プライム市場は「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」、スタンダード市場は「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」、グロース市場は「高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場」とされる。運用金額の大きい機関投資家の資金が入りやすいプライム市場が東京証券取引所の主力市場になるのだろう。

 そして、流通株式比率に関しては、プライム市場は35%以上、スタンダード市場、グロース市場は25%以上必要である。現行の流通株式数は上場株式から、主要株主が保有する株式(10%以上所有)、役員等の保有する株式、自己株式数を除いたものだが、改革後は保有比率が10%未満でも保有目的が純投資であるものを除く国内の普通銀行、保険会社及び事業法人等の所有する株式も流通株式数から除かれ(「流通株式の定義見直しについて」JPXホームページ)、上場株式数の基準が厳しくなる。

 筆頭株主である日本製鉄が保有比率を2割弱に高めるための東京製綱へのTOB、出資比率を最大3割までに引き上げる投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントによるサンケン電気へのTOBなど、経営権を握る目的ではないTOBも見られる。TOBの際に、主要株主のようなもともと流通株式数から除かれるような株主からの株式の移転なら影響はないが、流通株式を保有する株主からTOB実施者への株式移転が起きれば流通株式数が減少し、プライム市場の上場基準から外れる企業も出てくるのではないだろうか?運用金額の大きい機関投資家が参入しにくい市場では、市場の時価総額も小さなものになるだろう。TOBの結果、プライム市場から外れる企業は、株価もディスカウントされたものになるのではないだろうか?それはTOB実施側だけでなく、公開買い付けの選に漏れ、保有の継続を余儀なくされる株主にとってもマイナスである。TOBを行う側も、そういうことを考慮して実施してほしいものである。
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2021/2/7  7:32

投資家の目線810(江戸川を渡る(仮称)押切橋橋梁計画)  都市再開発
 昨年11月15日、千葉県市川市で同市と東京都江戸川区を結ぶ押切橋橋梁計画の説明会が開かれた。千葉県道路計画課の資料によれば、東京都と千葉県の境を流れる江戸川には、市川橋と今井橋の間約8kmに渡り一般道の橋がなく、10年前の東日本大震災のときには帰宅困難者が橋に集中し混雑が発生した。

 押切橋は江戸川区を縦断する柴又街道を南下し、市川市の東京メトロ行徳駅前を結ぶ。Googleの航空写真で見ると、江戸川区側は側道の用地が確保されている。一方市川市側は、押切排水機場や小さな公園がある辺りを通ることになるだろうが、歩道の幅は広いものの、側道を作るには一部立ち退きも必要になるかもしれない。

 近くの江戸川区東篠崎には王子ホールディングスの子会社、王子マテリアの工場がある。押切橋の開通で同工場は行徳駅も近くなる。敷地面積142,000u(同社HP 2012年10月現在)は、物流施設デベロッパーなどの参入で入札が盛況だった、板橋区の日本製鉄鋼管工場跡地(約11万平米)(『東京・板橋の工場跡地「大争奪戦」になったワケ コロナ禍で活発な投資が続く「物流施設」の今』 2020/10/14 東洋経済オンライン)より広い。東京湾岸エリアでは物流施設が不足しているというし(「物流施設 首都圏で逼迫 空室率12月末0.5%」 2021/1/29 日本経済新聞WEB版)、千葉県との行き来も便利になれば、土地利用の幅も広がりそうだ。
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2021/1/31  8:53

投資家の目線809(米国のゲームストップ株の乱高下)  ファンド
 ニューヨーク市場で、ゲーム小売り大手のゲームストップ株が高騰し、空売り投資家の一部が買戻しに追い込まれた。『Jキャピタル・リサーチの共同創設者、アン・スティーブンソンヤン氏は電話で、「合理性とファンダメンタルズが全く通用しないという印象だ」とコメント。「空売りポジションを建てた人は買い戻すしか選択肢がなく、極めて過大評価された株式を持つはめになる」と説明した。』(「ゲームストップ株価急騰、新たな極みに−空売り投資家の一部は降参」 2021/1/28 Bloomberg)。買いを仕掛けたのはSNSでつながった個人投資家だという(『「プロ投資家対素人集団」 ウォール街ラウンドアップ』 2021/1/27 日本経済新聞夕刊)。

 ヘッジファンド投資家を合理的投資家とすると、素人投資家は合理的な投資行動をとらないノイズトレーダーといえる。フリードマンによれば、合理的な投資家が利益を上げ、ノイズトレーダーが損失を被ることでノイズトレーダーは淘汰されて合理的市場が保たれるが、今回はノイズトレーダーが合理的投資家を淘汰したことになる。

 『「今回の波乱で『高レバレッジ』問題が浮き彫りになった」。米証券ミラー・タバックのベテランストラテジスト、マシュー・マリー氏は27日、顧客に注意を促した。(中略)個人投資家の標的になったヘッジファンドは借り入れで空売りの規模を膨らませていた。』(『「借金漬け相場」の危うさ ウォール街ラウンドアップ』 2021/1/28 日本経済新聞夕刊)。レバレッジをかけたファンドの損失といえばロシア通貨危機の時に破綻したLTCMがあったが、その教訓が生かされていないように見える。金融緩和政策の弊害が出てきているようだ。

 『素人集団によるゲームストップ株買いは業績悪化が鮮明となっている同社のファンダメンタルズを無視し、(中略)その発信源となったSNSの「レディット」では、複数の個人が「機関投資家を破綻させよう」と宣言してゲームストップ株購入を呼びかけた。』(『「プロ投資家対素人集団」 ウォール街ラウンドアップ』)という。同社の業績が悪化している中で機関投資家を破綻させるためだけの買いの呼びかけは、相場操縦のうち、実勢を反映しない作為的相場形成にあたるようにも見える。不況時に業績悪化企業の株式が狙い撃ちされるのは「仕手戦」と同じ現象だ。

 28日にはインターネット証券がゲームストップ株の取引を制限したこともあり、同社の株価は急落した。『「空売り王」の異名をとる著名投資家カーソン・ブロック氏は日本経済新聞の取材に、「投機的狂気の相場はいずれ終わり、個人投資家が巨額の損失を被ることになると警告する。」(『「プロ投資家対素人集団」 ウォール街ラウンドアップ』)が、ノイズトレーダーを淘汰するのは合理的投資家ではなくルールの変更のようだ。
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2021/1/24  16:25

投資家の目線808(人民元高とバブル期の日本)  金融
 昨年から、人民幣(人民元)が米ドル(USD)に対して高くなっている。昨年アラムコが人民元調達を準備していると報じられ(「サウジアラムコ、人民元調達準備」 2020/11/21 日本経済新聞朝刊)、カタール投資庁会長のムハンマド外相は「ここ数年、中国で多くの投資をしており、とてもうまくいっている」(「カタール投資庁、アジアに注目−ポートフォリオ分散化図る」 2021/1/19 Bloomberg)と語っていた。親米と見られる湾岸諸国でも中華人民共和国との関係は重要なようだ。

 ロシアに関しても、「NikkeiAsia報道によれば19年、ロシアは米ドル資産保有を半減させ1010億ドル減らし、外貨準備として人民元比率を5%から15%に高め人民元保有を440億ドル相当増やした。」(「人民元急騰容認、ドル通貨覇権への挑戦を映す 豊島逸夫の金のつぶやき」 2021/1/6 日本経済新聞WEB版)と、人民元の重要度は上がっている。

 プラザ合意後の為替と経済状況を「金融行政の敗因」(西村吉正著 文春新書)で見てみる。「八五年半ばに一ドル二四四円であった円の対ドルレートは、プラザ合意を契機に、八五年末には二〇〇円の水準に、さらに八六年八月の一五三円までほぼ一本調子に上昇した。一年足らずの短期間における約六〇%の円高(二十八カ月で一〇二%)は、過去における円高のスピードと幅(七一年〜七三年・一八カ月で三五%、七七〜七八年・二十一カ月で六七%)をはるかに上回るものであった」(p29〜30)という。

 八七年二月のルーブル合意で為替水準の安定化に合意した。その後、八七年十月のブラックマンデーを経て、日本の金融引き締めへの転換は米国やドイツより一年ほど遅れた八九年五月となった。その理由は
「@円高の進捗 ブラックマンデー以降一層の円高が進み、八七年末には一二〇円台前半まで買い進まれ、八八年にも円高基調が続いた。このため、金利引上げが一層の円高・ドル暴落を招き、世界同時恐慌の引金を引くとの懸念が強かった。また当時の世論は円高に対して常に過敏に反応していたので、円高を招きかねない金融政策の変更を行いにくかった面もあろう。
 A経常黒字と内需拡大要請 八七年後半までは、円高不況からの回復を求める国内世論に配慮する必要があった。事実、当時の金融緩和政策は、広く国内からの支持を受けていた。経常収支黒字は八七年には徐々に縮小を始めていたが、内外から依然として内需拡大の継続が要請されていた。
 B物価の安定 内需主導型の自律的成長を続ける中で、物価水準は極めて安定していた。また、株価の上昇は、企業収益増大など、当時のわが国経済の良好なファンダメンタルズを反映したものとの見方が広まっていた。地価の上昇については、国際都市・東京のビル不足対策など実需を反映した地価上昇との見方も有力であった。これは資産価格と物価の同時的上昇を経験した七二、七三年(列島改造とオイルショックの併存)とは対照的であった。」(「金融行政の敗因」p32)

 人民元高は、輸出競争力を弱める要因である。ただでさえ人件費の上昇や米中対立の影響で輸出企業は中国以外にも生産拠点を移転させており、中国内の雇用を守るためには当時の日本と同じく内需拡大は必須だ。大都市部での住宅難の問題はあるが、急激な人民元高と雇用の悪化を抑えるためには、金融緩和を維持することが必要だろう。

 それにしても、儒教圏の中国だけでなく、イスラム教圏のトルコやイラン、ヒンズー教圏のインドなど、近代の主流派であった西欧のキリスト教圏(カトリック、プロテスタント)と異なる文化圏が台頭している。政権政党自由民主党が西欧の天賦人権説に由来する規定を改める改憲草案を提出するなど、それらの国々と同様、日本も十分に反西欧精神の国だ。現代の国家体制や国際秩序は西欧思想の枠組みでできていると思われる。それとは異なる地域圏の台頭は、現行の国際秩序を大きく揺るがすものになるのではないだろうか?
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2021/1/18  7:51

投資家の目線807(居酒屋の閉店)  ビジネス
 白木屋などを営む居酒屋チェーン「モンテローザ」が61店舗を閉店するという(「白木屋、魚民など61店舗閉店へ モンテローザ、都内の2割」 2021/1/15 共同通信)。居酒屋はアリバイト店員も多いだろうが、雇用のマイナス要因になる。仕事先近辺でも居酒屋の店舗が多数撤退し、他業態の一店舗しか残ってない(訂正:飲食店等合わせて4店舗まで減少した)ビルもある。インバウンド需要がなくなったせいか、閉店したドラッグストアもある。

 閉店が増えれば失業者も増え、家賃が払えずホームレスになる人も増えるだろう。ホームレスが増えれば、栄養・衛生状態や治安の悪化が懸念される。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、失業給付の申請や市役所等への相談が増え、役所が人で混雑するのは好ましい状態ではない。コールセンターで相談を受ける体制にしたとしても、コールセンター内部が密になっては仕方がない。サービス業だけでなく、製造業でも希望退職を募集する企業が続出する中、再就職は簡単ではない。失業者等生活苦の人々に早急に生活資金を届けるためには、条件を付けない給付金の配布が必要ではないだろうか?
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2021/1/13  6:52

投資家の目線806(ルポ トランプ王国)  
 間もなく米国で政権が交代しそうな中、「ルポ トランプ王国−もう一つのアメリカを行く」、「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」(金成隆一著 岩波新書)を読んだ。

 長年民主党を支持しながらトランプ支持の労働者は、「私が指導者に求めていることはシンプルです。まじめに働き、ルールを守って暮らし、他人に尊敬の念を持って接する。そうすれば誰もが公正な賃金を得られて公正な暮らしが実現できる社会です。」(「ルポ トランプ王国−もう一つのアメリカを行く」p45)と語っている。またペンシルベニア州の郊外住宅地の住人は、「ここは郊外の象徴、アメリカン・ドリームの象徴です。私の両親は5人の子を育て、私も高校教師を35年やって家族を養うことができた。子どもは安心して自転車を乗り回し、一日中あそび回り、大人は新鮮な野菜を近くで買える。誰かが雪の日に病院に行く必要があれば、隣人が当然のように車を出す。いちいちお願いしなくても、近所で助け合って道の雪かきをする。助け合いのコミュニティーでした。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p142)という。アメリカの庶民の考えるアメリカン・ドリームとは、働いてその賃金で家や車を買い、子供を育てるという慎ましやかなもので、ユニコーン企業を創業したり、グローバル企業を経営したりすることではないようだ。

 ペンシルベニア州西部天然ガス採掘施設建設に携わる60歳ぐらいのトランプ支持者は、「毎日朝4時に起きて、12時間ほど働いていますよ。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p104)というぐらい働き者だ。

 バイブルベルト、アラバマ州北部のトランプ支持者は「1950年代、教会がコミュニティーの中心でした。(中略)人々は教会に通わなくなりました。神を信じなくなりました。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p231)と嘆き、ボーンアゲインのクリスチャンは「中央政府の仕事は、インフラ整備や軍隊など、個々人が担うには大きすぎるもの。その他の社会的ニーズは、何らかの支援や食糧が必要な人の面倒を見るのは、教会やコミュニティーの個々人なのです。(中略)私たちに必要なのは、昔から言われてきたように「働かざる者、食うべからず」です。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p240)と、福祉は政府ではなく教会を中心とする地域コミュニティーが担うと考えている。一方、ニューヨークの、法律の学位を持ち退役軍人でもある女性はオカシオコルテスを支持する。「私も長年ウェイトレスとして働き、生活できるだけの賃金を稼げていません。彼女の言葉は私の言葉でもあるのです。私はロースクールを卒業したけど、借金ばかりが残り、満足に暮らしていけない。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p277)と、頑張って高等教育を受けても満足に稼げないことを証言する。医療関係の仕事に就きたいという中学生に、その父親は「卒業するときには10万ドル(1150万円)の借金を背負うんだぞ」(「ルポ トランプ王国−もう一つのアメリカを行く」p248)というぐらい、教育にかかるコストが高いのだ。

 トランプ支持者もオカシオコルテス支持者もグローバリズムの恩恵はあまり受けない人々で、福祉を軽んじているわけではなく、その担い手が地域コミュニティーか政府機関かという違いだろう。田舎は濃密な地域コミュニティーが存在するのに対し、様々な宗教が交わり、人の出入りが頻繁な都市部ではそれが作りにくく、福祉の担い手に政府機関が必要なのだろう。宗教によっては、「働かざる者、食うべからず」という考え方とは相容れないものもあるだろう。

 親トランプと反トランプは、アメリカ・ファースト(反グローバリズム)と親グローバリズムの差なのだろう。大手マスコミなど大手企業にとって、グローバリゼーションは世界中で儲ける機会を与える。軍の元高官もトランプ不支持を打ち出すなど、軍の上層部もグローバリゼーションの方が都合がいいのだろう。

 共和党の保守派の人は「かつての移民は、アメリカ人になりたくてアメリカに移り住んできました。(中略)ところが今、英語を学ぼうとしない人が多い。アメリカ社会に同化しようとせず、出身国のルールを持ち込もうとする。だったらなんでアメリカにいるのよ?と思います。理解できません。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p128)と言っている。2015年、サンフランシスコ市の慰安婦像設置の件で議員に「Shame on you」と言わせたのは、慰安婦像設置に反対するオーディエンスが証言者を個人攻撃したことがアメリカ社会のしきたりに合わなかったためだろう。アメリカ社会になじもうとしない人々の意見はなかなか採り上げられないものだ。
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