2021/2/28  15:01

投資家の目線813(逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想)  
 近年、中国海軍の拡充が話題になっている。尖閣諸島における日中のせめぎあいも、従来の棚上げ論を否定し、胡錦涛主席の警告を無視して行った日本政府による尖閣三島の国有化宣言だけでなく、海警局および中国海軍増強も関係あるのだろう。ロバート・ゲーツ元国防長官の著書「イラク・アフガン戦争の真実 ゲーツ元国防長官の回顧録」(井口耕三、熊谷玲美、寺町朋子訳 朝日新聞出版 p548)には、ゲーツ長官訪中時に中国が新型ステルス戦闘機をお披露目したことを「人民解放軍があらかじめ胡主席に知らせず、これ見よがしの政治的スタンドプレイをしようとしたのは、少なくとも憂慮すべき事態だった。」と記している。山田朗著「昭和天皇の軍事思想と戦略」(校倉書房 p131)には、「満洲事変の勃発の際も、熱河作戦の時も、日中戦争が拡大した時も、天皇は当初は反対した。しかし、現実的な戦果が挙がり、勢力圏拡張が達成されると、事態を事後承認し、独断専行者たちを賞賛するというやり方を繰り返した。」と書かれている。昭和天皇がこのようなやり方をとれば、軍の自重など期待できない。しかし若き天皇側から見れば、はるか年長者がトップにいる軍を抑えるのはなかなか難しいということもあるのだろう。張作霖爆殺事件の処理に関連して田中義一首相に辞表を出させたときは、周辺から大いに反発を食らったようだ。

 「逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想」(小林一三著 講談社学術文庫 p27〜28)には、日清戦争に関する記述がある。明治『二十六年の秋頃から二十七年にかけて金融は大緩慢、交換所の日歩は五厘を上下した。無日歩で借り手の無い時もあった。五分利整理公債の市価が百七、八円に騰った。(中略)三井銀行本店から「これ以上に預金が殖えては困るから、丁寧に預金をお断りするようにせよ」という、今考えると虚言のような命令がきた。(中略)この金融情勢による経済界の好況が、日清戦争開始の決意を断行せしめたのである。それは明治二十四、五年から芽ばえた勤倹貯蓄の国民的運動の効果である。その原因は清国の日本に対する脅威に自覚したからである。清国北洋艦隊のデモンストレーションが日本の近海を横行し、横浜港外に定遠、鎮遠の鋼鉄艦ほか数隻が威風堂々と碇泊し、提督丁汝昌の新橋芸者に大もての光景が、三面記事として新聞紙を賑わした連日のニュースは、いかに我々をして憤慨せしめたことであろう。鋼鉄艦を持たない我国の貧弱さを眼前に見せつけられて、海軍大拡張は国民の輿論となった。海防費献金は全国の富豪をして、よしそれが勲章との取引であったにせよ、津々浦々に行き渡った。政府の官吏は俸給の何分の一を喜んで犠牲にした。かくして我国にも艦隊らしい艦隊なるものが出来上りつつあったのである。』と、当時から日本は超大国中国に対する対抗意識が強かったようだ。好況とは言えないが、超金融緩和という経済状況も当時の日本と似ている。

 小林は日清戦争を「日本は断じて侵略戦争を起したもので無く、やむにやまれず、売られた喧嘩を買わざるを得なかった事情は、すでに世界周知の決定版である。」(p28)という。しかし、日清戦争の原因となったのは甲午農民戦争(昔風に言えば東学党の乱)で朝鮮が清国に援軍要請したことに対抗し、日本が居留民保護を口実にした朝鮮へ出兵したことである。日清戦争時に一番被害が大きかったのは朝鮮の人々と言われるが、小林は朝鮮のことについて何も触れていない。

 同書には「私の大臣落第記等々」(p240)という記述もある。「泡沫の三十五年 日米交渉秘史」(来栖三郎著、中公文庫、p214〜p216)には、『果せるかなこの度の戦争前、わが国が小林一三氏や芳沢大使を蘭印に派して、日蘭交渉を行った際にも、自分がその交渉に関った石沢総領事に確かめたところによると、オランダ側は石油の輸入量についても新油田の開発についても、日本の要求を全部容認したのであって、すなわち外務大臣の自分に対する口約を立派に果したのである。ただあの時、日蘭交渉が成立しなかったのは、ある種の物資に対する日本の要求が日本自身の所要推定量を超えているので、蘭印側としては当時オランダ本国を占領している敵国ドイツに転送されることを恐れて、その物資について日本自身の合理的所要推算量以上の輸出を拒んだためであると聞いている。もしあの当時、石油についてだけでも、日蘭協定が成立していたのなら、米国は自身の石油の売り止めはできても、蘭印石油の輸出まで止めさせるわけにはゆかなかったはずで、蘭印石油輸入年額数百万トンに関する限りは、「ジリ貧」は日本自身が招いた事態といわなければなるまいと思う。』と書かれている。第二次日蘭会商使節団の初代代表は、「日本は三国同盟の有無に拘らず、万一、ドイツ側に敗色濃厚なる時は、之が援助に赴かざるべからず」と述べて蘭印との交渉を暗礁に乗り上げさせ(「戦争と石油(3)− 『日蘭会商』から石油禁輸へ −」 岩間敏 石油・天然ガスレビュー 2010.3 Vol.44 No.2 p75)、交代させられた小林一三商工大臣である。ABCD包囲網ができた責任は小林にもある。

 今の日本は、当時と同じく世界情勢と日本の実力を見誤っていないだろうか?石射猪太郎は著書「外交官の一生」(中公文庫 p412)で、「まだ太平洋戦争に間のあった頃、ドイツ人を乗せたわが商船を、イギリス軍艦が房州沖で臨検し、それが日本・イギリス間の問題となったことは、世人の記憶に新たなところであろう。イギリス軍艦としては、国際法上認められた権利を行使したまでのことであったが、日本の強硬論者が騒ぎ立てた。たとえ領海外の臨検であっても、いやしくも富士山の見ゆるところでのこの権利行使は、許しておけないと怒号し、合理的に問題を解決しようとする政府の態度を軟弱外交だとして責めた。今日、富士山の見ゆるところは愚か、皇居前の広場で、進駐軍の閲兵式が行なわれるようになったのは、こうした強硬論の集積した結果に外ならない。」と書いている。日本の都市には防空壕はなく、山陽本線が寸断されれば西日本の輸送量が激減する。強硬論を採用しても日本は防御力が弱く、戦闘継続能力がないのだ。太平洋戦争前、対米戦争で勝ち目のないことは日本の上層部では常識であった。またそれを繰り返すつもりなのだろうか?
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2021/2/21  6:23

投資家の目線812(社債保有者のユニゾHDへの質問状)  M&A
 旧日本興業銀行系の不動産会社で、昨年6月にEBOで非公開化したユニゾホールディングス(ユニゾHD)の社債保有者が同社に質問状を提出した。「米ファンドに資金を優先に返済し、財務が悪化していると主張している。」(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」』 2021/2/11 日本経済新聞朝刊)という。昨年11月には、同社の社債について債務不履行懸念で社債価格が急落していると報じられた(「ユニゾ債、投資家保護置き去り 不履行懸念で6割安」  2020/11/26 日本経済新聞WEB版)。株式会社日本格付研究所は同社の長期発行体格付けを昨年9月10日に「BBB+/ネガティブ」から「BBB/ネガティブ」、12月21日に「BBB-/ネガティブ」、28日には投機的等級の「BB+/ネガティブ」と急速に引き下げており(株式会社日本格付研究所HP)、同社の信用リスクは増大している。社債には配当制限条項や担保提供制限条項など、財務上の特約がつけられることが多いが、ユニゾHDの社債はどうなっているのであろうか?ユニゾHD側は、「当社は債務超過ではない」(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」」)とも述べている。コーポレートガバナンスは、残余財産分配請求権をもつ株主の立場から語られることが多いが、社債保有者からの質問状は、社債権者によるコーポレートガバナンスと言えないだろうか?

 ユニゾHDの第44期半期報告書で連結貸借対照表を見ると、現金及び預金が2020年3月末の1635億円から9月末には550億円に1085億円減少している。連結キャッシュ・フロー計算書を見ると、キャッシュアウトフローの金額が大きいのは、貸付けによる支出2571億円、長期借入金の返済542億円(短期借入金は37億円の純減)、配当金支払い531億円があげられる。貸付金の回収額が411億円、有形固定資産取得額40億円に対して有形固定資産売却額が406億円と、現預金に有形固定資産売却額を加えて得た資金を、貸付けや長期借入金返済、配当支払いに回しているイメージだ。非公開化の際、ユニゾ従業員と米投資ファンドのローンスターがチトセア投資を共同で設立し、「ローンスターから約2000億円を調達してユニゾHDの全株式を取得した。」(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」』)という。ユニゾHDの買収総額は2050億円とのことなので(「ユニゾHD争奪戦、従業員側のEBO成立で幕−総額2050億円」 2020/4/3 Bloomberg)、チトセアは数カ月で資金の約4分の1を回収したことになる。昨年、傘下のユニゾホテルが大量閉館したり(「ユニゾホテル、2020年12月までに半数を閉館−旧・興銀系大手ホテル、都内から完全撤退 | 2020/10/19 都市商業研究所)、かつては山一證券の本社もあった東京駅前のユニゾ八重洲ビルを売却したりした。新型コロナウイルス感染拡大によるホテル需要の減少もあるのだろうが、ユニゾHDの資金需要の影響が大きかったのではないだろうか?EBOと言いながら、今回の非公開化は従業員のためになっていない。

 「ユニゾのメインバンクは、もともとみずほ銀行だった。同社は旧日本興業銀行系の常和不動産を母体とし、当時から社長や役員を受け入れていたほか、主要株主にもみずほの親密先が名を連ねていた。しかし、複数のみずほ銀関係者によると、2019年12月末時点で463億円と残高が一番多かったみずほ銀の融資は、昨年7月にゼロとなった。みずほ幹部によると、ユニゾからの返済の申し出で完済された。」(「ユニゾに融資する6割が地銀、65行の損失リスク握る借り換えの行方」 2021/2/10 Bloomberg)。2020年6月下旬の定時株主総会で退任した小崎哲資代表取締役社長(当時)は日本興業銀行出身である。借入金の返済は主にメインバンクだったみずほ銀行分だったのではないだろうか?一方、「地銀の融資総額は約1124億円で、県信連は約317億円となっている。この二業態で、ユニゾの借り入れの7割以上を占める。」(「ユニゾに融資する6割が地銀、65行の損失リスク握る借り換えの行方」)と、融資先のユニゾHDに対する情報がメインバンクに比べて劣位にある非メインの銀行の融資が取り残されている。(追記:バブル崩壊後の不良債権の増加が懸念された時代には、非メインが融資に消極的になり、メインバンクの融資比率が上昇する「メイン寄せ」と呼ばれる現象が起こったが、今回のケースはその逆のようだ。

 思い出されるのが、2018年に山形の百貨店「大沼」への出資金が出資した事業再生ファンドのMTMに還流したのではないかと問題視された事件である(当時の早瀬社長はその疑惑を否定している(『山形の老舗百貨店「大沼」の再建が暗礁 再生ファンドのトラブルで支援遅れ』 2019/2/20 東京商工リサーチ))。その後、「大沼」はEBOで投資ファンドから株式を取得し、経営者が交代したが、2020年1月に自己破産を申請した。
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2021/2/14  7:36

投資家の目線811(東証改革とTOB)  M&A
 2022年4月から東京証券取引所の市場区分がプライム、スタンダード、グロースの3市場に再編される。株式会社東京証券取引所の資料「新市場区分の概要等について 2020年2月21日」によれば、プライム市場は「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」、スタンダード市場は「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」、グロース市場は「高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場」とされる。運用金額の大きい機関投資家の資金が入りやすいプライム市場が東京証券取引所の主力市場になるのだろう。

 そして、流通株式比率に関しては、プライム市場は35%以上、スタンダード市場、グロース市場は25%以上必要である。現行の流通株式数は上場株式から、主要株主が保有する株式(10%以上所有)、役員等の保有する株式、自己株式数を除いたものだが、改革後は保有比率が10%未満でも保有目的が純投資であるものを除く国内の普通銀行、保険会社及び事業法人等の所有する株式も流通株式数から除かれ(「流通株式の定義見直しについて」JPXホームページ)、上場株式数の基準が厳しくなる。

 筆頭株主である日本製鉄が保有比率を2割弱に高めるための東京製綱へのTOB、出資比率を最大3割までに引き上げる投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントによるサンケン電気へのTOBなど、経営権を握る目的ではないTOBも見られる。TOBの際に、主要株主のようなもともと流通株式数から除かれるような株主からの株式の移転なら影響はないが、流通株式を保有する株主からTOB実施者への株式移転が起きれば流通株式数が減少し、プライム市場の上場基準から外れる企業も出てくるのではないだろうか?運用金額の大きい機関投資家が参入しにくい市場では、市場の時価総額も小さなものになるだろう。TOBの結果、プライム市場から外れる企業は、株価もディスカウントされたものになるのではないだろうか?それはTOB実施側だけでなく、公開買い付けの選に漏れ、保有の継続を余儀なくされる株主にとってもマイナスである。TOBを行う側も、そういうことを考慮して実施してほしいものである。
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2021/2/7  7:32

投資家の目線810(江戸川を渡る(仮称)押切橋橋梁計画)  都市再開発
 昨年11月15日、千葉県市川市で同市と東京都江戸川区を結ぶ押切橋橋梁計画の説明会が開かれた。千葉県道路計画課の資料によれば、東京都と千葉県の境を流れる江戸川には、市川橋と今井橋の間約8kmに渡り一般道の橋がなく、10年前の東日本大震災のときには帰宅困難者が橋に集中し混雑が発生した。

 押切橋は江戸川区を縦断する柴又街道を南下し、市川市の東京メトロ行徳駅前を結ぶ。Googleの航空写真で見ると、江戸川区側は側道の用地が確保されている。一方市川市側は、押切排水機場や小さな公園がある辺りを通ることになるだろうが、歩道の幅は広いものの、側道を作るには一部立ち退きも必要になるかもしれない。

 近くの江戸川区東篠崎には王子ホールディングスの子会社、王子マテリアの工場がある。押切橋の開通で同工場は行徳駅も近くなる。敷地面積142,000u(同社HP 2012年10月現在)は、物流施設デベロッパーなどの参入で入札が盛況だった、板橋区の日本製鉄鋼管工場跡地(約11万平米)(『東京・板橋の工場跡地「大争奪戦」になったワケ コロナ禍で活発な投資が続く「物流施設」の今』 2020/10/14 東洋経済オンライン)より広い。東京湾岸エリアでは物流施設が不足しているというし(「物流施設 首都圏で逼迫 空室率12月末0.5%」 2021/1/29 日本経済新聞WEB版)、千葉県との行き来も便利になれば、土地利用の幅も広がりそうだ。
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タグ: 江戸川 市川 王子

2021/1/31  8:53

投資家の目線809(米国のゲームストップ株の乱高下)  ファンド
 ニューヨーク市場で、ゲーム小売り大手のゲームストップ株が高騰し、空売り投資家の一部が買戻しに追い込まれた。『Jキャピタル・リサーチの共同創設者、アン・スティーブンソンヤン氏は電話で、「合理性とファンダメンタルズが全く通用しないという印象だ」とコメント。「空売りポジションを建てた人は買い戻すしか選択肢がなく、極めて過大評価された株式を持つはめになる」と説明した。』(「ゲームストップ株価急騰、新たな極みに−空売り投資家の一部は降参」 2021/1/28 Bloomberg)。買いを仕掛けたのはSNSでつながった個人投資家だという(『「プロ投資家対素人集団」 ウォール街ラウンドアップ』 2021/1/27 日本経済新聞夕刊)。

 ヘッジファンド投資家を合理的投資家とすると、素人投資家は合理的な投資行動をとらないノイズトレーダーといえる。フリードマンによれば、合理的な投資家が利益を上げ、ノイズトレーダーが損失を被ることでノイズトレーダーは淘汰されて合理的市場が保たれるが、今回はノイズトレーダーが合理的投資家を淘汰したことになる。

 『「今回の波乱で『高レバレッジ』問題が浮き彫りになった」。米証券ミラー・タバックのベテランストラテジスト、マシュー・マリー氏は27日、顧客に注意を促した。(中略)個人投資家の標的になったヘッジファンドは借り入れで空売りの規模を膨らませていた。』(『「借金漬け相場」の危うさ ウォール街ラウンドアップ』 2021/1/28 日本経済新聞夕刊)。レバレッジをかけたファンドの損失といえばロシア通貨危機の時に破綻したLTCMがあったが、その教訓が生かされていないように見える。金融緩和政策の弊害が出てきているようだ。

 『素人集団によるゲームストップ株買いは業績悪化が鮮明となっている同社のファンダメンタルズを無視し、(中略)その発信源となったSNSの「レディット」では、複数の個人が「機関投資家を破綻させよう」と宣言してゲームストップ株購入を呼びかけた。』(『「プロ投資家対素人集団」 ウォール街ラウンドアップ』)という。同社の業績が悪化している中で機関投資家を破綻させるためだけの買いの呼びかけは、相場操縦のうち、実勢を反映しない作為的相場形成にあたるようにも見える。不況時に業績悪化企業の株式が狙い撃ちされるのは「仕手戦」と同じ現象だ。

 28日にはインターネット証券がゲームストップ株の取引を制限したこともあり、同社の株価は急落した。『「空売り王」の異名をとる著名投資家カーソン・ブロック氏は日本経済新聞の取材に、「投機的狂気の相場はいずれ終わり、個人投資家が巨額の損失を被ることになると警告する。」(『「プロ投資家対素人集団」 ウォール街ラウンドアップ』)が、ノイズトレーダーを淘汰するのは合理的投資家ではなくルールの変更のようだ。
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2021/1/24  16:25

投資家の目線808(人民元高とバブル期の日本)  金融
 昨年から、人民幣(人民元)が米ドル(USD)に対して高くなっている。昨年アラムコが人民元調達を準備していると報じられ(「サウジアラムコ、人民元調達準備」 2020/11/21 日本経済新聞朝刊)、カタール投資庁会長のムハンマド外相は「ここ数年、中国で多くの投資をしており、とてもうまくいっている」(「カタール投資庁、アジアに注目−ポートフォリオ分散化図る」 2021/1/19 Bloomberg)と語っていた。親米と見られる湾岸諸国でも中華人民共和国との関係は重要なようだ。

 ロシアに関しても、「NikkeiAsia報道によれば19年、ロシアは米ドル資産保有を半減させ1010億ドル減らし、外貨準備として人民元比率を5%から15%に高め人民元保有を440億ドル相当増やした。」(「人民元急騰容認、ドル通貨覇権への挑戦を映す 豊島逸夫の金のつぶやき」 2021/1/6 日本経済新聞WEB版)と、人民元の重要度は上がっている。

 プラザ合意後の為替と経済状況を「金融行政の敗因」(西村吉正著 文春新書)で見てみる。「八五年半ばに一ドル二四四円であった円の対ドルレートは、プラザ合意を契機に、八五年末には二〇〇円の水準に、さらに八六年八月の一五三円までほぼ一本調子に上昇した。一年足らずの短期間における約六〇%の円高(二十八カ月で一〇二%)は、過去における円高のスピードと幅(七一年〜七三年・一八カ月で三五%、七七〜七八年・二十一カ月で六七%)をはるかに上回るものであった」(p29〜30)という。

 八七年二月のルーブル合意で為替水準の安定化に合意した。その後、八七年十月のブラックマンデーを経て、日本の金融引き締めへの転換は米国やドイツより一年ほど遅れた八九年五月となった。その理由は
「@円高の進捗 ブラックマンデー以降一層の円高が進み、八七年末には一二〇円台前半まで買い進まれ、八八年にも円高基調が続いた。このため、金利引上げが一層の円高・ドル暴落を招き、世界同時恐慌の引金を引くとの懸念が強かった。また当時の世論は円高に対して常に過敏に反応していたので、円高を招きかねない金融政策の変更を行いにくかった面もあろう。
 A経常黒字と内需拡大要請 八七年後半までは、円高不況からの回復を求める国内世論に配慮する必要があった。事実、当時の金融緩和政策は、広く国内からの支持を受けていた。経常収支黒字は八七年には徐々に縮小を始めていたが、内外から依然として内需拡大の継続が要請されていた。
 B物価の安定 内需主導型の自律的成長を続ける中で、物価水準は極めて安定していた。また、株価の上昇は、企業収益増大など、当時のわが国経済の良好なファンダメンタルズを反映したものとの見方が広まっていた。地価の上昇については、国際都市・東京のビル不足対策など実需を反映した地価上昇との見方も有力であった。これは資産価格と物価の同時的上昇を経験した七二、七三年(列島改造とオイルショックの併存)とは対照的であった。」(「金融行政の敗因」p32)

 人民元高は、輸出競争力を弱める要因である。ただでさえ人件費の上昇や米中対立の影響で輸出企業は中国以外にも生産拠点を移転させており、中国内の雇用を守るためには当時の日本と同じく内需拡大は必須だ。大都市部での住宅難の問題はあるが、急激な人民元高と雇用の悪化を抑えるためには、金融緩和を維持することが必要だろう。

 それにしても、儒教圏の中国だけでなく、イスラム教圏のトルコやイラン、ヒンズー教圏のインドなど、近代の主流派であった西欧のキリスト教圏(カトリック、プロテスタント)と異なる文化圏が台頭している。政権政党自由民主党が西欧の天賦人権説に由来する規定を改める改憲草案を提出するなど、それらの国々と同様、日本も十分に反西欧精神の国だ。現代の国家体制や国際秩序は西欧思想の枠組みでできていると思われる。それとは異なる地域圏の台頭は、現行の国際秩序を大きく揺るがすものになるのではないだろうか?
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2021/1/18  7:51

投資家の目線807(居酒屋の閉店)  ビジネス
 白木屋などを営む居酒屋チェーン「モンテローザ」が61店舗を閉店するという(「白木屋、魚民など61店舗閉店へ モンテローザ、都内の2割」 2021/1/15 共同通信)。居酒屋はアリバイト店員も多いだろうが、雇用のマイナス要因になる。仕事先近辺でも居酒屋の店舗が多数撤退し、他業態の一店舗しか残ってない(訂正:飲食店等合わせて4店舗まで減少した)ビルもある。インバウンド需要がなくなったせいか、閉店したドラッグストアもある。

 閉店が増えれば失業者も増え、家賃が払えずホームレスになる人も増えるだろう。ホームレスが増えれば、栄養・衛生状態や治安の悪化が懸念される。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、失業給付の申請や市役所等への相談が増え、役所が人で混雑するのは好ましい状態ではない。コールセンターで相談を受ける体制にしたとしても、コールセンター内部が密になっては仕方がない。サービス業だけでなく、製造業でも希望退職を募集する企業が続出する中、再就職は簡単ではない。失業者等生活苦の人々に早急に生活資金を届けるためには、条件を付けない給付金の配布が必要ではないだろうか?
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2021/1/13  6:52

投資家の目線806(ルポ トランプ王国)  
 間もなく米国で政権が交代しそうな中、「ルポ トランプ王国−もう一つのアメリカを行く」、「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」(金成隆一著 岩波新書)を読んだ。

 長年民主党を支持しながらトランプ支持の労働者は、「私が指導者に求めていることはシンプルです。まじめに働き、ルールを守って暮らし、他人に尊敬の念を持って接する。そうすれば誰もが公正な賃金を得られて公正な暮らしが実現できる社会です。」(「ルポ トランプ王国−もう一つのアメリカを行く」p45)と語っている。またペンシルベニア州の郊外住宅地の住人は、「ここは郊外の象徴、アメリカン・ドリームの象徴です。私の両親は5人の子を育て、私も高校教師を35年やって家族を養うことができた。子どもは安心して自転車を乗り回し、一日中あそび回り、大人は新鮮な野菜を近くで買える。誰かが雪の日に病院に行く必要があれば、隣人が当然のように車を出す。いちいちお願いしなくても、近所で助け合って道の雪かきをする。助け合いのコミュニティーでした。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p142)という。アメリカの庶民の考えるアメリカン・ドリームとは、働いてその賃金で家や車を買い、子供を育てるという慎ましやかなもので、ユニコーン企業を創業したり、グローバル企業を経営したりすることではないようだ。

 ペンシルベニア州西部天然ガス採掘施設建設に携わる60歳ぐらいのトランプ支持者は、「毎日朝4時に起きて、12時間ほど働いていますよ。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p104)というぐらい働き者だ。

 バイブルベルト、アラバマ州北部のトランプ支持者は「1950年代、教会がコミュニティーの中心でした。(中略)人々は教会に通わなくなりました。神を信じなくなりました。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p231)と嘆き、ボーンアゲインのクリスチャンは「中央政府の仕事は、インフラ整備や軍隊など、個々人が担うには大きすぎるもの。その他の社会的ニーズは、何らかの支援や食糧が必要な人の面倒を見るのは、教会やコミュニティーの個々人なのです。(中略)私たちに必要なのは、昔から言われてきたように「働かざる者、食うべからず」です。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p240)と、福祉は政府ではなく教会を中心とする地域コミュニティーが担うと考えている。一方、ニューヨークの、法律の学位を持ち退役軍人でもある女性はオカシオコルテスを支持する。「私も長年ウェイトレスとして働き、生活できるだけの賃金を稼げていません。彼女の言葉は私の言葉でもあるのです。私はロースクールを卒業したけど、借金ばかりが残り、満足に暮らしていけない。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p277)と、頑張って高等教育を受けても満足に稼げないことを証言する。医療関係の仕事に就きたいという中学生に、その父親は「卒業するときには10万ドル(1150万円)の借金を背負うんだぞ」(「ルポ トランプ王国−もう一つのアメリカを行く」p248)というぐらい、教育にかかるコストが高いのだ。

 トランプ支持者もオカシオコルテス支持者もグローバリズムの恩恵はあまり受けない人々で、福祉を軽んじているわけではなく、その担い手が地域コミュニティーか政府機関かという違いだろう。田舎は濃密な地域コミュニティーが存在するのに対し、様々な宗教が交わり、人の出入りが頻繁な都市部ではそれが作りにくく、福祉の担い手に政府機関が必要なのだろう。宗教によっては、「働かざる者、食うべからず」という考え方とは相容れないものもあるだろう。

 親トランプと反トランプは、アメリカ・ファースト(反グローバリズム)と親グローバリズムの差なのだろう。大手マスコミなど大手企業にとって、グローバリゼーションは世界中で儲ける機会を与える。軍の元高官もトランプ不支持を打ち出すなど、軍の上層部もグローバリゼーションの方が都合がいいのだろう。

 共和党の保守派の人は「かつての移民は、アメリカ人になりたくてアメリカに移り住んできました。(中略)ところが今、英語を学ぼうとしない人が多い。アメリカ社会に同化しようとせず、出身国のルールを持ち込もうとする。だったらなんでアメリカにいるのよ?と思います。理解できません。」(「ルポ トランプ王国2−ラストベルト」p128)と言っている。2015年、サンフランシスコ市の慰安婦像設置の件で議員に「Shame on you」と言わせたのは、慰安婦像設置に反対するオーディエンスが証言者を個人攻撃したことがアメリカ社会のしきたりに合わなかったためだろう。アメリカ社会になじもうとしない人々の意見はなかなか採り上げられないものだ。
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2021/1/3  7:13

投資家の目線805(サウジアラムコと人民元)  金融
 昨年、日本経済新聞にサウジアラムコが人民元の調達を準備しているのではないかという記事が出た。「アラムコが今月、投資家向けに配った社債発行の資料で将来の人民元建て発行の可能性を明記した。送金制限や流動性、為替変動リスクがあることも説明している。元を調達する時期や規模は現時点では明らかにしていないが、実現すればアラムコと同社の株式の大半を握るサウジ政府にとって資金調達の多様化につながる。アラムコにとって、原油や石油化学製品の需要が底堅いとされるアジアの重要度は増している。サウジなど産油国の政府ファンドは中国への投資を拡大し、運用面でも関係が深まる。(中略)原油の売買の決済ではドルが用いられるため、多くの産油国は自国通貨をドルにペッグ(固定)し、輸入国は危機時に備えて外貨準備をドルで積み上げている」(「サウジアラムコ、人民元調達準備」 2020/11/21 日本経済新聞朝刊)という。

 米国はトランプ政権でもバイデン政権でも「バイ・アメリカン政策」を推進しようとしている。そのため、原油の輸入国は貿易によって外貨準備をドルで積み上げることが困難になってきている。昨年12月16日には米財務省はベトナムを為替操作国に認定するなど(「米、ベトナムを為替操作国に 対米貿易黒字が日本超す」 2020/12/17  日本経済新聞WEB版)、特別扱いはしない。車社会の米国はガソリン価格が家計に直結するため、天然ガスは輸出しても石油を輸出するとは思えない。輸入国にとってドル決済が困難になれば、製品輸出に見合う量の原油を売ってもらうか、再生可能エネルギーや石炭液化などで人工的に石油を作り出すなどして石油頼みでないエネルギー政策を構築するか、ドル以外の決済通貨を獲得するかしか方法がなくなるのではないだろうか?ただし、中東でも若者の失業が問題になっており、製品輸出より雇用を拡大させる投資の方が喜ばれるだろう。その場合、原油輸入国の雇用にはあまり結びつかない。

 記事のように、石油分野でアジア市場の重要度が増しているのなら、原油の決済で大国中華人民共和国の通貨、人民元の利用が進んでもおかしくはない。

 なお1月2日には、中華人民共和国の高級車ブランド「紅旗」の自動車400台がサウジアラビアに輸出されたことが報じられた(『中国一汽集団の「紅旗」、サウジ向け400台が天津港を出港』 2021/1/2 - 新華社通信 )。
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2020/12/27  12:56

投資家の目線804(ゴルバチョフ回想録 上巻)  
 「ゴルバチョフ回想録 上巻」(ミハイル・ゴルバチョフ著 工藤精一郎・鈴木康雄訳 新潮社)には、ソ連とブルガリアの関係(投資家の目線802(ゴルバチョフ回顧録に見るソ連とブルガリアの関係) | 投資家の願い)以外にも、現在でも参考になる記述がある。

 ゴルバチョフ氏がモスクワ大学に入学したころは後期スターリニズム時代で、『「亡国のコスモポリタニズム[世界市民主義]反対」という有名なキャンペーンが行われた』(p.81)という。トランプ大統領の唱える「アメリカ・ファースト」や、ブレグジット、TPPのような多国間経済協定反対などもコスモポリタニズム反対の一環と言える。

 「若者たちの雇用問題では、最初のころ私はスタヴロポリの役所や企業の幹部たちとかなり摩擦を起こした。残念ながらこうした指導的立場にある人の多くは、冷淡で、無関心な人間であることがわかった」(p.115)。日本でも新型コロナウイルス感染拡大の影響で、新卒者の採用が減るようだ(『新卒採用「減」が「増」上回る コロナ影響、11年ぶり―リクルート』 2020/12/21 時事ドットコム)。トランプ大統領への支持でも工場の外国への移転などに伴う雇用の問題がある。

 フルシチョフの党委員会の分割に関しては、「党による権力独占を薄め、昔の“知事”や“領主”のような絶大な権力を取り上げ、その道の大家、専門家、プロにそれぞれの分野の仕事をやってもらおうという狙いがあったのではないだろうか」(p.128)と推測している。日本でも地方分権が言われるが、中央政府による権力独占を薄め、地域の事情に精通した「専門家」に任せようという考え方に見える。ペレストロイカの時、ゴルバチョフ氏も「ソ連共産党による権力独占を廃止することはソ連国民の利益になり、共産党それ自身、少なくとも一千万を越す一般党員のプラスになると私は確信した。」(p.608)という。

 1971年のイタリア訪問時には、イタリアでは「大学卒業者の中に多数の失業者がいる」(p.207)、フィアットの発展に伴い「北部地方にやって来た七十万人の労働者のうち五十万人は南部からだった。(中略)トリノでは住宅が不足していた。家賃が高騰し、月給の三分の一から半分ほどにまでなった。われわれのグループの誰かが、実はロシアの中心部でも同じことが起こっている。しかも中心部だけではない、と言った。生産企業の建設競争が村の衰退を招き、都市はますます人口過剰になり、人々は貧困化している」(p.207)という。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、日本でもオフィスの地方分散が見られるようになった。しかし、一方では製造業の人員整理も進んでいる。このままでは地方の衰退を止められないのではないのだろうか?

 「ユーリー・ウラジーミロヴィチはそれまでにも何度か、内務省の機構は買収され、マフィア組織との癒着の気配が見えており、こうした状態では増大する犯罪に対処することは内務省には無理だ、と語っていた。」(p.289、ユーリー・ウラジーミロヴィチ[アンドロポフ])という。最近の政治と裏社会という関係では、下関市の安倍晋三衆議院議員の事務所と自宅に工藤会関係者が火炎瓶を投げ込んだ一件が思い出される。

 『ブレジネフは「われわれの最優先課題はパンと国防だ」とくりかえすことを好んだ。実際には公式は順序が違って「国防とパン」になっていた』(p.364)。雇用や福祉の問題より敵基地先制攻撃の議題を優先する日本も、「国防とパン」の順序になっているようだ。

 「スターリンは反政府的な哲学者、芸術家、作家、音楽家たちを倦むことなく制裁しながら、同時に自分の信念から、あるいは生きのびるために権力に協力するこの分野の人間たちには、援助を惜しまなかった。(中略)早くもペレストロイカの初期に、権力によって甘やかされ、かわいがられてきた創作芸術エリートの大部分はもっぱらこれらの特権の保持に汲々としていることが明らかになった。」(p.416)。これを見ると、日本でも政権を擁護する発言をする芸能人がいるのはおかしなことではないことがわかる。グリコ・森永事件でも、警察がある組織を調べると「政界や文化人の中に支持勢力を持っていて、すぐに捜査に対して抗議や圧力をかけてくる」(「闇に消えた怪人 グリコ・森永事件の真相」一橋文哉著 新潮社p.204)といい、政権に近い勢力などの特定集団とつながる文化人も多いのだろう。

 ゴルバチョフ氏は国内価格を世界市場価格に近付けるべく価格形成の自由化を行おうとしたが、急進・民主的野党勢力の反対にあい経済改革がとん挫、政権に対する弾劾文を掲載する過激的な新聞もあったという。しかしゴルバチョフは、『この筆者たちに、「ショック療法」がもたらした恐るべきインフレと物価狂騒が、現実に数百万の人々を破滅の淵に立たせている一九九四年の今、自分の書いたものを思い出してもらいたいものである。』(p.452〜453)と主張する。ハイパーインフレというと第一次大戦後のドイツ、最近のジンバブエやベネズエラなどのレアケースを挙げる向きが多いが、ガイダル氏による経済改革後のロシアなど、ハイパーインフレになるケースは結構ある。

 水爆を完成させ、三つのソ連英雄勲章を受賞した愛国者だったが、後に反ソヴィエト主義とされたサハロフ博士のことも書かれている(p.556)。学術的な功績があっても政府から任用を拒否されることもある日本学術会議の事件を思い出す。

 『民主派のマスコミが始めた強力な特権反対キャンペーンは、比喩的に言えば、われわれが官僚を「国家のパイ」を退けた時に、完全に正当化され、官僚の抵抗を麻痺させることを助けたのである。ところがその過激派が政権をとると、文字通りその翌日にはこの「魂の美しい衝動」はことごとくきれいに忘れられてしまった。(中略)「新階級」は国家機関の援助で、力を貸した人々のことは忘れて不動産を買いあさり、国民が貧困に苦しんでいる時に、商人たち顔負けの大宴会を楽しんでいた、まさにほんものの「ペスト流行時の宴」である』(p.578〜579)。「身を切る改革」を標榜する人々も、政権をとったとたんその精神をきれいに忘れ去ることがないようにして欲しいものである。

 ゴルバチョフ氏は「急進経済改革は強力で独裁的な政権という効果的な“盾”に防護されて実施される場合にのみ成功するという趣旨」(p.608)の論文に同意する。その理由は、「権力行使のテコを手中に収めなければ、またわれわれが追及する改革の前途に必ず立ちはだかる抵抗を克服するだけの権力を持たなければ、成果のある改革を実現することは不可能だということを理解できないほど私たちは“お人好し”ではなかったからだ。」(p.608〜609)という。民主党政権時代に菅直人首相は『議会制民主主義は「期限を切った独裁」』と発言したが、民主党の改革は独裁的な政権という効果的な盾がなかったために上手くいかなかったのではないのだろうか?

 同書は、民族政策についても書いている。宗教的影響を排除する闘いが不十分だった地域で、少数民族出身の幹部が死去した際に、儀式が異なる葬儀に出席するかどうかの判断の問題(p.631)、最近でも紛争が起こっている「アゼルバイジャン、アルメニア両国では数え切れないほどの党・政府高官が汚職に手を汚していた。ペレストロイカが開花し始めた時、こうした高官たちは自分の地歩が揺らぎ始めていることを感じた。民族紛争を扇動しようと試みたのはまさにこの連中だったのだ。」(p.650)ということが記されている。「桜を見る会」や元農相の現金受領疑惑で揺れる自由民主党も、敵基地攻撃論など近隣諸国と対立を煽ることに熱心だ。
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2020/12/22  7:23

投資家の目線803(DHCサイトの記述問題)  
 化粧品会社DHCのサイトの記述が在日コリアンへのヘイト発言と問題視されている(「DHC会長、ヘイト発言か サイトの記述に批判相次ぐ」 2020/12/16 共同通信)。

 この記事を見て、バラク・オバマ著「マイ・ドリーム バラク・オバマ自伝」(白倉三紀子/木内裕也訳 ダイヤモンド社)にあった、ネイション・オブ・イスラムの、歯磨き粉などを扱う家庭用品ブランド「パワー」に関する記述を思い出した。「このブランドは、黒人のお金は黒人コミュニティーの中で流通させる、という考え方を推奨するための彼らの戦略の一つだった」(「マイ・ドリーム」p244〜245)という。しかし、「パワー製品のキャンペーンを見ていると、黒人のビジネスが直面する問題を改めて考えさせられた。(中略)パワーの製品部長が販売予測をしているところを思い浮かべてみる。彼は考えるだろう。黒人に人気のある全国区のスーパーマーケット・チェーンに流通させることが、果たして我々の理念にかなうことなのか?それでは本末転倒だ。では全国チェーンに対抗しようとしている黒人の経営するスーパーに卸すのはどうだろう。だが彼らに、せっかくお客さんになってくれている白人たちを遠ざけるような製品を、わざわざ陳列する余裕などあるだろうか?黒人の消費者は通信販売で歯磨き粉を注文するだろうか?そもそも、この歯磨き粉の材料を最安値で提供するサプライヤーが白人企業である可能性はどれぐらいのものだろう?競争力・市場経済・多数決の原則にのっとって決定を下すということは、力の問題に立ち向かうということだ。」(「マイ・ドリーム」p245)という。

 DHCの件は一部顧客(含む見込み客)の排除、「パワー」の件は特定顧客への訴求という差はあるが、顧客を限定するという共通点がある。人口減少の進む日本で顧客を限定するような行動をとれば、DHCの売り上げも減少していくのではないだろうか?海外市場でのDHC商品の展開も難しいだろう。ベルリンの少女像の顛末を見れば、外国で日本側の言い分が受け入れられないことは明らかである。

追記:「ファラカン氏のスピーチに感動した人々も、相変わらずクレスト社の歯磨き粉を使用しているようだった」(「マイ・ドリーム」p245)。ネイション・オブ・イスラムのリーダー、ファラカン氏のお勧めでも商品の購買にはつながらない。同様にDHCの主張も、DHC商品の購買にもつながらないと思う。また、DHCは上場企業ではないが、ESG投資の観点からは好ましい投融資先とは思えない。
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2020/12/13  17:25

投資家の目線802(ゴルバチョフ回顧録に見るソ連とブルガリアの関係)  
 「ゴルバチョフ回顧録 上巻」(ミハイル・ゴルバチョフ著 工藤精一郎・鈴木康雄訳 新潮社)には、1984年にゴルバチョフを含むソ連党・国家代表団がブルガリアを訪問した時、両国間の経済関係の見直しが話し合われたことが記されている。「ソ連では、コメコン加盟諸国との関係を見直し、新しいアプローチを策定しなければならないという認識が深まっていた。旧来の原則にもとづいた二国間貿易や原料・商品バーター取り引きは現実的でなくなった。こうした諸国との協力関係の形態、経済関係の統合という面でより機能的、より互恵的な政策をめざさなければならなかった。(中略)ソ連は外貨建てで総額百七十億ドル相当の生産物をコメコン各国に引き渡していた。これに対し、ソ連が受けとっていた原料、物資、生産物の総額は三十四億ドルにしかならなかった。ソ連にとって約百三十六億ドルの赤字だった。このチャンネルを通じ、ソ連の国民所得のかなりの部分がコメコン諸国に流れていたことになる」(「ゴルバチョフ回顧録 上巻」p330〜331)という。「外交 下」(ヘンリー・A・キッシンジャー著、岡崎久彦監訳、日本経済新聞社 p475)の、「ソ連邦に唯一残されていた同盟は東ヨーロッパの衛星国であったが、ブレジネフ・ドクトリンで暗に示されたソ連邦の力の脅威によってソ連邦に従ってはいたものの、ソ連邦の富を増加させるどころか、枯渇させたのであった」という記述が思い出される。

 現在、米国は巨額の貿易赤字を抱えており、同盟国との間にも貿易収支の不均衡を抱えている。米国はソ連よりも強い経済力を持っていたので今までこの体制が続いていたが、さすがにもう持たなくなり、その結果が「アメリカ・ファースト」、「バイ・アメリカン」政策ではなかろうか?USドルは基軸通貨で外国との資金決済に便利だが、貿易収支の不均衡の影響でニクソンショックやプラザ合意などを通し、その価値は下落している。

 代表団訪問時、ブルガリアは経済危機に陥っており、国家元首でもあるジフコフ・ブルガリア共産党書記長は、「フルシチョフの説得で、私たちはブルガリアをソ連国民の菜園、果樹園にしたのです。(中略)われわれブルガリア指導部は国民経済の構造を変え、ソ連への果物、野菜の輸出を優先する体制を作ったのです。それなのに、あなたがたはもうブルガリアへは支援も激励もしたくないとおっしゃるわけですね。」(「ゴルバチョフ回顧録 上巻」p331)と迫った。それに対してゴルバチョフは「ソ連がもうブルガリアを支援しないというのは正しくありません。支援しようと強く望んでいます。しかし、国際価格というものを考慮しなければなりません。二国間経済にはある程度の均衡をはかる必要があります。ソ連は支出する用意はあるのです。だが、それは具体的な生産物、物資の引き渡しに対しての支払いです。」(「ゴルバチョフ回顧録 上巻」p331)と説明している。ブルガリアと異なり日本は農業特化型経済ではないが、農産物は輸入して国内生産を疎かにし、自動車輸出関連に賭けるという「モノカルチャー経済」に近づいているように見える。ブルガリアはソ連への農産物生産に優先したため、ソ連の支援なしではやっていけない国になった。日本も自動車産業という特定産業に傾斜するのは危険ではないだろうか。

 「ジフコフは、ソ連とブルガリアは国家としても民族としても一衣帯水の関係にあると議論の方向を変えてきた。彼の主張にも一理あった。だが、われわれの方は、ソ連経済に問題と障害が増大していることを無視するわけにはいかなかった。」(「ゴルバチョフ回顧録 上巻」p331)と、ゴルバチョフはブルガリアに譲歩しなかった。これは現在の日米同盟下の日米貿易交渉と似ている。現在の日本側は盛んに日米同盟を唱えるが、だからといって米国側が日米貿易交渉で譲歩することはないだろう。

 代表団訪問時、「祝宴はブルガリアらしく豪勢なものだった」(「ゴルバチョフ回顧録 上巻」p330)という。日本の首相が米国大統領と接待ゴルフをしても、貿易交渉で米国から譲歩を得られるわけではないだろう。
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2020/12/6  9:39

投資家の目線801(トランプ大統領?それともバイデン大統領?)  政治
 アメリカ大統領選挙が終わった。日本にとってアメリカ合衆国(米国)政治影響は大きいので、誰が米国大統領になるかは大きな関心事である。両者で日米関係にどう影響が出るかを考えてみた。

・経済問題
 トランプ政権下では米中対立が目立ったが、同政権の本質は米中デカップリングではなく世界経済のデカップリングで、米中デカップリングはその一部に過ぎない。当然、日米経済のデカップリングも含まれる。日米修好通商条約締結でハリス公使が、『「日本の最良の諸港のうち三つで、米国の海軍倉庫を確保した」ことを「条約におけるもっとも重要なものの一つとして」極めて高く評価している』(「日本開国史 歴史文化セレクション」石井孝著 吉川弘文館 p.349)ように在日米軍基地は米国にとって資産だが、米国の納税者はそれを確保し続けるために過剰なコストをかける気はない。米ソ冷戦時のように、同盟国をつなぎとめるために同盟国に経済的利益を与えるだろうなどという夢は見ない方がよい。

 バイデン氏はアメリカ製品を購入する「バイ・アメリカン」政策を掲げるものの、反トランプのグローバリストの支援も受けているので、日本の輸出産業にとってはトランプ政権よりましであろう。石油などの資源を購入するには外貨、今のところ特にUS$が必要なので、対米輸出でUS$を獲得できなくなる事態は日本にとって好ましくない。


・米朝問題
 ポンオペ国務長官はシンクタンクでの対談で「北朝鮮に対してさらに進展を成し遂げることができるという希望を持っており、依然として楽観している。公開的には静かだが、北朝鮮の人々ともどのような機会が持てるか考えている」(「米国、ニューヨークルートを通じて北朝鮮に非核化・食糧支援協議を提案」 2020/9/17 中央日報日本語版)と語るなど、トランプ政権は朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)の金正恩政権と関係を改善しようとしていた。米朝関係が良好になれば、敵国が米国の同盟国の先制攻撃を想定する「逆デカップリング」のリスクは減少するだろう。

 一方、日米で圧力をかけてDPRKから譲歩を引き出そうという勢力にとっては、バイデン氏が大統領になった方が好ましいだろう。ただし、バイデン政権になってもDRPKに非核化を飲ませるのは困難である(「<FT特約>北朝鮮非核化、米次期政権が転換」 2020/12/3 日本経済新聞WEB版)。既に相互確証破壊が成立している可能性もあり、インドやパキスタンのような核保有国扱いをするだろう。『日本国政府は,条約第10条に,「各締約国は,この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認めるときは,その主権の行使として,この条約から脱退する権利を有する。」と規定されていることに留意する。』(核兵器不拡散条約署名の際の日本国政府声明(昭和45年2月3日))ので、日本は他国の核兵器不拡散条約脱退を責めることはできない。


・価値観
 キリスト教福音派にはトランプ支持者が多いようだ(「ミッキーでも勝たせる? 大統領選を揺らす米国の信仰心」 2020/11/3 朝日新聞デジタル)。キリスト教国ではない日本にとって、キリスト教の価値観の色濃いトランプ政権はそれほどやりやすい相手ではないだろう。サミュエル・ハンチントン著「文明の衝突」(鈴木主税訳 集英社)には、「フランス人は、厳密に見ると人種差別的というよりは文化主義的だ。完全なフランス語を話すアフリカ出身の黒人は議会に受け入れられるが、ヘッドスカーフをつけたイスラム教徒の女子は学校に入学させない。」(p.302)と記されている。トランプ支持者には人種差別者がいるともいわれるが、文化主義なのではないのだろうか。特定の人種にキリスト教(特にプロテスタント)の倫理観と相容れない人が多ければ、人種差別なのか文化主義の問題なのか判別できなくなる。外交官だった来栖三郎は、著書「泡沫の三十五年 日米交渉秘史」(中公文庫 p249)で「われわれは西洋の民主主義とキリスト教の人道主義とが、切っても切れぬ連繋をもっていることをとうてい否定することは出来ないのである」と書いている。デジタル大辞泉によれば、「人道」は「人として守り行うべき道」とされる。守り行うべき道には商道徳、はては食べ物までも含まれよう。しかし、宗教、宗派、思想が異なる場合、「人道」が全く同じになるとは思えない。

 イギリスのブレア元首相は宗教の問題について、「ここで議論のために、宗教には二つの基本的なタイプがあると想定しよう(これは馬鹿げた想定ではない)。第一のタイプは、自分たちの宗教が唯一の、真実で正しい宗教だと信じる。救済への道はほかになく、この信仰を共有しないものを不信心者として非難する。これは信仰についての排他的見方である。(中略)そして第二のタイプは、自分の宗教を強く信じ、ほかに真理はないという主張を信じる。しかし他の信仰をもつ人たちに対しても開かれた心をもっており、それを詳しく分析するわけではなくとも、異なる歴史をもつ異なる人々は異なる宗教的経験と信仰をもっていることを認める。それぞれの信仰が差し出す最善のもののなかに、善き生き方に導く価値観と原則の共通性を見るのである。」(「ブレア回顧録 上」(トニー・ブレア著 石塚雅彦訳 日本経済新聞出版社 p.37)としているが、トランプ支持者はどちらかというと第一の排他的なタイプと言えるのではないだろうか。排他的見方をしなくても、近隣住民の間で価値観が異なればご近所トラブルの種になり、一つの共同体を作ることは難しい。先日、フランスでイスラム過激派による事件が発生したが、印僑の一部も攻撃的なヒンズー至上主義を支持し、欧米受け入れ国などで分断や対立を生んでいると報じられた(「在外インド人、過激化防げ」 2020/6/21 日本経済新聞朝刊)。

 一方バイデン氏は、「はじめて、アメリカにおけるキリスト教の優位を否定した大統領となった」(「超大国の自殺 アメリカは2025年まで生き延びるか?」 パトリック・J・ブキャナン著 河内隆弥訳 幻冬舎 p64)オバマ大統領の政権において副大統領だったので、そこまでキリスト教の価値観にとらわれないのではないかと思う。

 「文明の衝突」には、セルビア人、クロアチア人、イスラム教徒が戦ったボスニアヘルツェゴビナのことが書かれている。宗教が多様化すれば米国でも「文明の衝突」が起きやすくなるのではないだろうか。「歴史的に、ボスニアでは共同体としてアイデンティティは強くなく、セルビア人、クロアチア人、イスラム教徒が隣人として平和に生活していた。三者のあいだの結婚も数多くあり、宗教的な自意識は薄かった。イスラム教徒はモスクに行かないボスニア人で、クロアチア人は大聖堂に行かないボスニア人で、セルビア人は正教教会に行かないボスニア人だと言われた。しかし、ユーゴスラヴィアという広いアイデンティティが崩壊すると、これらのあいまいな宗教上のアイデンティティが意味をもつようになり、いったん戦闘が起こるとそれが強くなった。」(同p.409)という。「文明の衝突」を起こさないためには、平和な時代のボスニアヘルツェゴビナがそうであったように、宗教上のアイデンティティを隠して日常生活を過ごす必要が出てくる。宗教に関係する行事、クリスマスや感謝祭、復活祭などもナシである。そんなことができるかどうかはわからないが…。
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2020/11/29  7:47

投資家の目線800(「桜を見る会」問題の再燃と日米問題)  政治
 「桜を見る会」の前夜祭で、安倍氏側が費用の一部を負担していたことが報じられた(『安倍氏周辺が一部負担認める 「桜を見る会」前夜祭』 2020/11/25 日本経済新聞WEB版)。これは安倍晋三氏に対して日本政府が「押込め」を行っているのだと思う。米国産トウモロコシを民間企業に購入させること、10年間で1500億円の対米インフラ投資、日米経済交渉、安倍晋三氏はトランプ米国大統領との約束を果たさなかった。安倍晋三氏の首相辞任会見前最後の記者会見は、ライトハイザー米通商代表が数か月以内に日米貿易交渉第2段階を始めると議会証言した翌日の6月18日だ。

 安倍晋三氏は、「もう一つは、日米間の貿易不均衡(インバランス)に関する日本の考え方の説明だった。不均衡にだけフォーカスするべきではなくて、日本がいかに米国に投資しているか、そして、その投資がどれだけ米国での雇用に貢献し、米国が海外に輸出する車の生産につながっているか説明した。 ある国の投資は、新たな雇用を生んでいない。一方、日本は工場を造って、米国人を雇って製造するわけですから、大きな利益をもたらしているという話をした。」(『トランプ氏は「平均的な米国人」 安倍晋三前首相インタビュー(2) 202011/25 47NEWS)と、対米投資に関する発言をしている。一方トランプ大統領側の報道では、『「(大統領就任後)安倍首相に『日本はもっとミシガンに自動車工場を作らないといけない』って言ったんだ。その翌日、日本の自動車企業がミシガン州で5つの工場を建てると発表した」 だが、トランプがその年最も活躍した人に選ばれたことも、日本企業がミシガンに5工場を建てるというのも真っ赤な嘘だった。』(『「安倍首相に言ったんだ」トランプがついた“真っ赤なウソ”――ユニクロ潜入記者が見た米大統領選挙』 横田増生 週刊文春 2020年11月26日号)というものもあるが、トランプ大統領は本当に嘘をついているのだろうか?トランプ大統領就任以後、テキサス州、テネシー州、アラバマ州などで日系自動車メーカーや部品メーカーが進出を発表したケースはある。日系企業自動車メーカーが米国に十分な投資を行い米国で販売する自動車を現地で製造すれば、日米間の貿易不均衡などほとんどなくなるだろう。

 元モサド長官エフライム・ハレヴィの著書『モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」 中東現代史を変えた驚愕のインテリジェンス戦争』(河野純治訳 光文社)には、「国際関係における第一のルール。それは国家元首、首相、民族運動のリーダーなど、政治指導者たる者はけっしてアメリカ合衆国大統領に嘘をついてはならない、ということだ」(p205)と書かれている。PLOのアラファト議長は2002年の「カリネA」という船の拿捕で判明した武器密輸事件に関する虚偽発言で、ブッシュ米国大統領の信用を失い、実権を取り上げられた。ジョージ・W・ブッシュ著「決断のとき 下」(伏見威蕃訳 日本経済新聞出版社p262〜p263)には、「それ以降、私はアラファトを一度も信用しなかった」と書かれている。2002年6月のブッシュ大統領の声明発表後、「ヤセル・アラファトの方針や取り組みに対する潜在的な積年の不満がいっきに噴出したのだ。この勢いに拍車をかけたのが、アラブ世界の重要人物たちである。彼らはたえずアラファト議長に圧力をかけつづけ、ついに首相職の創設を認めさせた。首相には大きな権限が与えられ、公式には議長に従属するが、事実上、パレスチナ自治政府が支配する地域の行政権を完全に掌握するのだ」(「暗闇に身をおいて」p370〜p371)。現在、「桜を見る会」や「森友学園」事件を巡る事実と異なる答弁など、安倍政権時代の積年の不満が噴出している。

 また、「暗闇に身をおいて」(p206)には、「自身の政策方針を実現しようとするすべてのプレーヤーが知っておかなければならない第二の基本的なルールは、アメリカ合衆国大統領を利用した者は誰も生きのびることはできない、ということだった。これはアラファトが自己の利益のために二度にわたって大統領を利用して学んだ苦い教訓であった」とも記されている。安倍晋三氏は「日本の首相は米国の大統領と信頼関係を持つ。そして、信頼関係を持っていると国際社会が認識する。私は、そういう環境をつくっていくことが日本の首相の責任であると思っている。」(『トランプ氏は「平均的な米国人」 安倍晋三前首相インタビュー(2)』 2020/11/25 47NEWS)と述べている。昨年8月25日の日米首脳会談後の記者会見でトランプ大統領は安倍晋三氏に米国産トウモロコシ購入する件を表明させた(令和元年8月25日 日米貿易交渉に関する日米両首脳の記者会見 | 令和元年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ )。もし、トランプ米国大統領が安倍晋三氏を有言実行の信頼できる人物と評価しているのなら、わざわざ記者会見でトウモロコシ購入の件を確認させることもなかっただろう。バイデン氏が大統領になれば、トランプ大統領との約束はチャラにできると思ったら間違いだ。

 自由民主党の副総裁だった高村正彦氏は、米国から自衛隊のヘリコプター輸送部隊のアフガニスタン派遣要請があったことを明らかにしている(『高村正彦(23)アフガン貢献――「ヘリ派遣は困難」耳打ち、首脳会談での日米決裂防ぐ(私の履歴書)』 2017/8/23 日本経済新聞 朝刊)。高村氏は『米国で期待が高まっている一因は、石破茂防衛相とゲーツ国防長官の会談でのやりとりが発端だった。ゲーツが「ヘリ部隊を出せないか」と打診したところ、石破さんが「自衛隊の能力からしてやってやれないことはない」と答えたのだ。』(同)と、石破氏の責任のように書いているが、一般的に言って、そんな具体的な要請は日本のトップが自衛隊のアフガニスタン派遣を内諾した後だろう。アフガニスタンへの自衛隊派遣は福田康夫氏が首相を辞任した原因とも言われるので、福田氏が内諾したとは考えづらい。

 元首相が逮捕されたロッキード事件の時の三木武夫と田中角栄の間には、徳島選挙区での後藤田正晴候補の擁立をめぐっての因縁があった。後藤田は「そこで私の選挙をめぐっての公認争いが原因で、当時の田中総理と三木副総理の間に感情的な問題にまで発展するような、両者の対決になったわけです。」(「情と理 後藤田正晴回顧録上」講談社p326〜327)、「三木さんは率直に言うと信頼はできない人だと思っている」(同p347)と述べている。菅首相と安倍晋三氏の間に彼らほどの因縁があるかはわからない。しかし、安倍晋三氏が調子にのって再々登板を目指すなら、対米関係を考えて安倍晋三氏の逮捕はあるかもしれない。
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2020/11/24  8:23

投資家の目線799(日本学術会議問題)  政治
 下村博文自由民主党政務調査会長が毎日新聞のインタビューで、日本学術会議に対し、防衛省研究を一切認めないなら行政機関から外れるべきだと述べている(『「軍事研究否定なら、行政機関から外れるべきだ」 自民・下村博文氏、学術会議巡り』 2020/11/10 毎日新聞)。下村氏の言う軍事研究とはどんなものであろう。

 日本の都市には防空壕と呼べるものがない。日本の旧海軍省は、
「現今の都市において陸海空軍のいづれかに對し相當の防禦施設を備へ、又は有事の際、相當兵力を配備せぬものはあり得ないのであるから、恐らく重要都市はすべていはゆる防守都市となるであらう。
 そして一旦『防守せられた都市』等となれば攻撃者はこれ等に対して軍事的目標に限らず無差別の攻撃を加へることが出来得る。(英米兩國の陸戦訓令には、防守せられたる都市町村等を砲撃する場合に、その砲撃目標は要塞、軍隊等の防禦施設のみに限定するの要なき旨を規定してゐる。)防守非防守の観念は被攻撃者に對し極めて危険であるといふわけである。」(昭和13年8月17日(1938/08/17)週報第96号内閣情報部編集 「空爆と国際法」海軍省海軍軍事普及部)と、重要都市は防守都市に該当し、攻撃可能と述べている。

 旧海軍省の見解によれば、自衛隊基地や在日米軍基地のある都市は防守都市と見做され、攻撃を受ける可能性がある。東京の都心でも六本木のヘリポートや天現寺のニュー山王ホテルは米軍の管轄である。練馬等には陸上自衛隊の駐屯地がある。東京も攻撃を受けてもおかしくはない。最近対中包囲網が論議される中華人民共和国の北京市等には防空壕があり、夏には避暑のために開放されることがある(「中国に3億5000万平米の防空壕、夕涼みや映写会にも使用」 2017/6/11 NEWSポストセブン)。日本海でミサイル発射実験を行う朝鮮民主主義人民共和国の平壌市の地下鉄は大深度にあり、核シェルターも兼ねると推測されている。一方日本では、2017年4月13日、安倍首相(当時)は参議院外交防衛委員会でサリンが弾頭に使用される可能性を指摘したが(『【北朝鮮情勢】安倍晋三首相「サリン弾頭の着弾能力を保有している可能性」 自衛隊のミサイル防衛の限界にも言及』 2017/4/12 産経ニュース)、イスラエルと異なり、政府は市民にガスマスクを支給したりはしない。

 アジア・太平洋戦争時では、補給の軽視が問題視されている。2018年の水害で山陽本線の一部が不通になった時には、7両編成のコンテナ列車が山陰本線の伯耆大山駅から山口線経由で一日一往復した。山陰本線の複線区間は京都口付近や京都府の綾部から福知山間、鳥取県の伯耆大山から島根県の出雲市間の一部に過ぎず、それどころか高速化工事などの際に行き違い施設がなくなった駅もある。しかも、国鉄型ディーゼル機関車DD51の廃車の進行で本州に配備される幹線を引くディーゼル機関車がほとんどなくなり、山陽本線不通の際には西日本の物流に大きな支障が出るだろう。北陸線、信越線、羽越線、奥羽線をつなげた東日本の日本海縦貫線はそれに比べればマシだが、一部に単線区間が残り、それが物流のネックになる可能性がある。日本の補給の軽視は、現在でも直っていないのではないだろうか?

 鉄道を複線化することを「軍事協力」と非難する人はいないだろう。日本政府は旅客中心の新幹線網の整備は熱心だが、物流などの基本的なインフラストラクチャーは整備しない。それどころか、新幹線並行区間を第三セクター化してしまい、非常時の対応を難しくしているように思う。

 以上のような基礎ができていないからこそ、先制攻撃などの短期決戦主義にすがるしかないのだろう。しかし、攻撃を受けても被害を少なくする国土設計という基本を疎かにする輩に、兵器研究だけやらせても惨憺たる結果に終わるだけだろう。
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