ボウズは逃れたけれど、あーあ…
『うーん、今回は久し振り青空の下で釣りが出来そうだ。』釣行前の天気予報チェックに、少しこころが弾む。が、現場に向かう高速の上は、少し風が強い。『これは、困ったな!上手く風裏になるポイントがあればいいけどな…』雨は、よほど強く降らない限り支障をきたさないが、風は少し強いと釣りにならない。
夜中に山田に到着。気にするほどの風ではなかったが、今後の展開も考えないといけない。しばし仮眠の後、夜明けとともにポイントをチェックする。まずダムサイト。無理すれば、トウフの上から竿を出せる程、水位は上がっていたが、まだその時期ではない。ジャカゴ前ももう少し水位が欲しいし、この透明度では難しいだろう。だが、橋下マンホール前は短時間の内に、いいもじりが数回みられた。風の事を考えると、プライオリティは低くなるが、候補の一つにしておこう。
次は奥広田。『しーんとしてるな、でも車1台停まってるな、あっこれ“大師匠”の車やん、何処で竿出してはんのやろ?』ワンドの奥に向かって行くと、途中で“大師匠”のボートが係留されているのをみつけた。『あーそういう事か!まだ寝てはるな、次行こう』。
続いて、野田原。同じく、しーんとはしていたが、単独ながらヘチをへらが泳いで行くのが見えたし、へらかコイかバスか見分けはつかなかったが、大きなボイルが一度だけあった。ここは、完全に風裏、次に行く紀ノ国がよほど良くない限り、ここにしよう。
そう思ってやって来た紀ノ国であったが、『あれ、へら玉?』数匹の魚が固まって、水面に口を出しパクパクさせている。『コイかなー?もうちょい顔出してくれたら分かんのになー!』その光景を見たのが、土管のポイント。そこからさらに上手に向かって3ヶ所のポイントがある。いずれも、単発でへらっぽいもじりを見た。もうそのいずれかの場所でもよかったのだが、一応、最奥も見てみる事に。
最奥のポイントに下りて行くと、コイがゴミの中から水面に口を出し、ブッブッと音を立てています。そのしぐさは、まるで酸欠でもしているかの様です。実際のところどうなんでしょう?魚の種類を考えなければ、今まで見てきたポイントの中では一番魚口密度が高い様です。割合は少なくても、ヘラブナもいるに違いない。それは何の根拠もなくそう思った訳ではなく、過去に同じこの場所で似た様な経験があったからです。
2008年4月29日の釣行記録に残していました。
今日の状況下では、ここがベストだ、そう感じました。駐車スペースからポイントまで少し距離があるので、荷物を減らそうと釣り台はスーパー銀閣をやめ、ミニ銀閣の入ったリュックと、一層式の竿ケースのライトな組み合わせで、てくてくと歩きました。
傾斜が緩いポイントなので、少し釣り台を前に出そうと長靴で水中に足を踏み入れると…
じぇじぇじぇ!左の長靴のゴムに亀裂が入っており、水が浸入して来ました。
釣り台を据えた後の乗り降りは、へっぴり腰になって左足を濡らさない様に移動。くつ下も昼過ぎには完全に乾いていました。
『もう、まったくぅー!』。
ところで、何尺をだそうか?『久し振りに竹を使いたいな…世志彦の10か八雲の11か…よし、3本継ぎの剛竿の10尺で行こう!』
準備が整い、『さて第1投と行くか、ところで今何時?』
じぇじぇじぇ、もう8時45分でねーか!なじょして、こんな時間になるんだ?おめぇーさん、夜明けから4時間近くもいったい何してたんだぁー?!
遅れを取り戻そうと真剣にエサ打ちするが、そのペースは比較的ゆっくりだ。今は、寄せて釣る釣りではない。あらかじめ魚の通り道を予測しての、待ち受けの釣りだ。だが今の所ヘラの気配はない。釣り台の目の前を、2〜3匹のコイがウロウロし、しきりにこちらを見ている。その顔は、物欲しげであり、恨めしそうでもある。
私の下手約20m程の所に“山田の翁”の釣り台がある。
朝方顔を合わせた時にご挨拶すると、
『えらい久し振りやったなー何処いっとったんや?』『山田には来てたんですけどね、奥広田や野田原で竿出しどったんです。』『へぇーそうかいなー』『えーのん釣れたら教えて下さいね…』 『わしに釣れるかいなー!』
と、そう言ってた翁であったが、釣りをしていると後でなにやらガサゴソする音が、『うん?誰か下りて来た…』
『にいちゃん(翁からすれば、私は約30才年下の若造である)
どないや?』翁であった。
『さっぱりですねー』(ウロコ3回かいて、2回カラツンですわとは言えなかった)ウキから目を離さずにそう返事をすると、
『悪いけど見てくれへんか』
振り返ると、おっなんと!翁が巨ベラの入った玉を抱えてるではないか!
『あっ、えーのん出ましたねぇー!おめでとうございます!』早速、2人で検寸するとジャスト460。
手持ちをお願いすると、『いや、あんたに見てもろうたら、それでもうえーんや。』と遠慮された。もう、80才はとっくに過ぎておられるが、とてもお元気だ。バッグを背負い、竿ケースを担いで、片手に重い釣り台を持って、傾斜のキツイ坂も下りられる。2000ccの1BOXカーを運転され、一度釣りに来られると何日もオートキャンプ生活。もう、驚愕の一言に尽きる。
『記念に1枚お願いします』『わしの写真をかいなー、ほなえー男に撮ってや』『はいっ!プリントして今度お渡しします。』
『タナは浅いで』そう言い残して、翁は釣り座に戻られた。私は、途中から竿を13尺に変更していた。底まで1本ちょっとのタチを、30センチ程切ったタナで攻めた。
10尺でもアタリがあったのに、竿を長くしたのには理由があった。途中で竹枠いっぱいの所を、へらが横切る光景を数回確認したからだ。右前方のブッシュの下から出て来る様に思えた。
そこで竿を長くし、竹枠のギリギリにエサ打ちし、出て来る巨ベラを狙い撃とうという算段だ。果たして上手く行くかどうか…
翁はこうも言っていた。
『日陰になる頃、時合いやで!』と。その言葉を証明するかの様に、それは突然にやって来た。午後4時、それまでブルーギルのアタリに翻弄させられていたが、ウキが立って馴染みかけた瞬間、3節スコーンと入った。すかさず合わせる。乗った!
引きはかなり強いが、ずしりと重いという表現を使うにはほど遠い。こういうのは、概して小さいものだ。やはり検寸すると42しかない。短くても、体高があれば…ない。体高がなくても、美しければ…ウロコ剥がれている。全くいいとこ無しだったが、ボウズ逃れた証拠だけは、残しておかなければ…
19時まで頑張ったが、2度目はなかった。
夕食を済ませ、車内でDVDを観ていたがいつの間にか終わっていた。エンジンを切り爆睡。
翌日は、午後から仕事の為、10時までの釣り。このポイント、すぐ近くにゴルフ場がある。カートが通る橋が頭上を横切る。昨日・今日とゴルフのお客さんが多い様で、時々場内放送がかかるが、今朝のそれには笑わされた。『玄関に白と黒のデザインのキャリーバックをお忘れです、お心当たりのあるお客様は至急お戻り下さい!』って、クラブなしでどうやってゴルフするんや!
他人の事笑ろうとっていいんかな?それは、まさに現実となった。終了30分前になって、少し気が抜けたところ、まるでそれを見透かされた様に、一瞬手を離していた隙に、ウキが1節カチッと落とした。慌てて合したが、乗らず。あーあ、やっちゃった。
また来たらえーやん!

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