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2005/5/27

美味しんぼの変質…2  趣味

「美味しんぼの変質…1」からお読みください


初期にこんなに面白かった「美味しんぼ」がどんどん質を落としていった理由はここでも考察されているが、話の根幹を成す主役級のふたり、山岡史郎と海原雄山に魅力がなくなってしまった点が非常に大きいだろう。初期の山岡・雄山の暴れっぷりについては、

美食界のケンカ屋・山岡士郎その戦歴

巨魁・海原雄山

1985年度版これが雄山だ大百科

この記事が面白い。その後、山岡はすっかり牙を抜かれ、雄山は一見頑固だが物分りのいい爺さんと化してしまった。

さてここでは、レギュラー出演している脇役に注目してみたい。山岡・栗田のよき理解者として渋い役回りを見せる谷村文化部部長や、トラブルメーカーの富井副部長など、あまり変質していない脇役もいるが、最初はカッコよかったのにわずか数巻で駄目になってしまった悲しい人もいる。東西新聞の大原社主である。

大原大蔵社主は、そもそも山岡と栗田が取り組むことになった東西新聞100周年記念事業「究極のメニュー作り」の発案者である。彼がいなければ山岡と栗田がくっつくこともなかっただろう。初期の大原さんは威厳があって、落ち着いていて、カッコよかった。それがどんどん俗物化していき、もはや山岡の引き立て役にもなりゃしない。その様子を順を追って見てみよう。


○第一巻第一話:豆腐と水
東西新聞文化部の面々が、究極のメニュー担当者選抜のための試験を受ける。山岡と栗田のふたりが正解したところで大原社主初登場。
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ギョロリ。さすが大新聞社の社主である。なかなかの貫禄だ(むろん、海原雄山には遠く及ばないが)。このあと、究極のメニュー発案の経緯と意義について本人から説明がある。「人間の文化が辿りついた究極のものとして究極のメニューをのちの世に残す」と。だが、この時点では大原社主の大人物ぶりはまだまだ発揮されていない。

○第一巻第二話:味で勝負!!
究極のメニュー作製のために、えらい食通の先生方を集めて会談。その席で山岡が「日本の食通とたてまつられる人間は、こっけいだねえ!」と暴言を吐いて、先生方を怒らせる。当然、谷村部長たちは慌てるが、大原社主は……
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「いいから……」と逆に谷村部長を諌める冷静さ。この余裕と威厳、さすがです。惚れるよ、大原社主。

○第一巻第三話:寿司の心
究極のメニュー企画にやる気を見せない山岡の真意を聞き出すために、銀座の寿司屋で会食。ここでも横暴な寿司屋のオヤジを怒らせた山岡に、
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「また何事かはじめよった……」。オヤジは柳刃包丁振りあげて怒り狂っているというのに、冷静な大原社主(と喧嘩を売った山岡)。カッコいいなあ。

○第一巻第八話:野菜の鮮度
大原社主のカッコよさが頂点を極めていると思う回である。ニューギンザ・デパートをオープンさせた流通業界の大物である板山会長を、またしても山岡が怒らせる。その結果、東西新聞への広告出稿が差し止められ、山岡ひとりで100億円もの損失を社に与えかねないという緊急事態に発展。まさに東西新聞の危機である。山岡は平気な顔をしているが、常務や広告部長は大激怒(当たり前だ)。そんな事態に直面した大原社主はというと……
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うわ〜!会社が潰れるかもしれないってときに!「どうしてこういうことになったのかね……」だってさ!こんな上司がいたらすてきですね。

このあとも2〜4巻にかけては威厳と冷静さを保っていた大原社主だが、様子がおかしくなっていくのは5巻からである。

○第五巻第二話:青竹の香り
鎌倉の竹林を守るために、山岡は全拓グループの尾藤社長を食事に誘い出そうとする。その役目を大原社主に頼むのだが、
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「社主ってのも落ちぶれたもんだな、ヒラ社員の代行を頼まれるとは……」と子供のように拗ねる大原さん。おいおい、いままでのあなたなら、「ふむ、よかろう。何を企んどるのかね?」とか言って懐の深さを見せる場面だろ?やばい雰囲気になってきた。そして……

○第五巻第五話:臭さの魅力
東西新聞がフランスの新聞社ルタンと提携を結ぶことになり、ルタン社のショーバン社主らを招いて祝宴が開かれる。この席で、マツタケとトリュフの香りのことでショーバン社主と大喧嘩を始める大原社主。
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「マツタケの香りも味もわからぬ味音痴の嗅覚ゼロの男がっ!!」と大罵倒。もはや俗物に堕ちてしまった大原社主……。短いあいだでしたがありがとう。(初期の)あなたのことは忘れません。

というわけで、大原社主初期型は4巻までの命だったわけですが、もっと後期の社主の姿も一点だけ挙げておこう。

○第四十七巻第一話:花婿の父〈1〉
山岡・栗田の結婚披露宴では究極のメニューが発表されるわけだが、ときを同じくして結婚する仕事仲間の近城・二木カップルのために究極のメニューを共有しようと考えた栗田は大原社主にお願いに行く。大原社主の返事は……「だめだね」
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「いくら二木くんがわが社の社員だからといって、ホイホイと出前にいくというものじゃない」ですって。まあ、なんて俗物っぷりでしょうね、奥様。


さて、以上のように、わずか5巻目で俗物へと堕落しはじめた悲しき大原社主であるが、なぜこのような変貌を遂げたのだろうか?おそらく、初期の大原社主は暴走する山岡に対して冷静な安定剤としての役割を与えられていたが、山岡が徐々に大人しくなるにつれてただの賑やかしに過ぎなくなってしまったのだろう。また、読者が山岡の引き起こすトラブルに慣れてくると、「大原社主ですら動揺する事態」というものが必要になったのではないか。要するに少年漫画でいうところのパワーレベルのインフレだ。

質を維持しながら長編漫画を続けていくのはかくも困難、という結論になってしまうのだろうか。


おまけ:最近の雁屋哲のお仕事
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