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2009/7/18

不読続刊  趣味

以前、高校生時分の『竜馬がゆく』以来司馬遼太郎の小説をさっぱり読まないという話を書いたら『国盗り物語』を勧められたため、第一巻を読んでみた。以下所感。

戦国武将斎藤道三の出世と国盗り前半を描くのが第一巻となる。話の内容は非常に面白かった。斎藤道三といえば、えげつない智将だったが織田信長の踏み台にされたくらいのイメージしかなかったのだが、京都の油商人から美濃の部将にのし上がった経緯を知っただけでも読んだ価値は充分にあった。

しかしながら……
※熱烈な司馬ファンはこの先読まないほうがよいやも※

○十年振りに司馬作品に当たってみて、高校生当時の自分が竜馬の先に進まなかった理由がわかった気がする。そして今回もまた、第二巻以降を読もうという気分にならない。

まず文体自体に乗れない。短文で段落を切りながら体言止を多用する文体は何だかむず痒い(自分も体言止はよく使うけれど)。文庫一冊で500頁を超える分量だが行が空き気味なので数時間で読め、あっさりし過ぎであまり印象に残らない。娯楽作品としては長所だろうけれど。

また、文中頻繁に筆者視点の解説が入る(曰く「○○城は、いまは高校のグラウンドになっている。」等々)。それだけなら歴史小説によくある技法であるし、上手く使えば描写の補強になるだろうが、司馬小説の場合は当時としての描写が比較的弱いうえに、挿入されるタイミングが唐突だったりして小説のリズムが外れる感覚に襲われる。

斎藤道三が完璧超人すぎて鼻白んでしまうのも否めない。道三すげー、強えー、かっこえー。よかったね。そりゃ戦国のような乱世では傑出した英雄が世を創っていくのかもしれませんよ。私のような凡人には計り知れないものなんでしょう。でも残念ながら、偉人の伝記を読んで素直に感動できるような心は私の中から失われてしまったようです。

まあでもここまでならば、それほど腐したものでもない面白い歴史物語として読めたかもしれない。が、一点だけどうしても引っかかりがあり、次に進む動機が失せた。筆者視点で薀蓄が入るだけならまだいい。問題は、20世紀に生きた司馬遼太郎の歴史評価が文中に明記され、それが主人公の思考や行動に直接連結しているような印象を抱かされたことだ。例えば文庫本227頁に「日本史上、足利幕府ほど愚劣、悪徳な政府はないであろう。」という記述があり、その前後に斎藤道三が幕府の徳政令を恨んで倒幕の意志を述べるという描写がある。筆者の歴史観が小説に反映されてはならないと言いたいわけではない(そんなことは不可能だ)。でも真っ当な歴史小説であればそれを露骨に出さないし、登場人物たちの行動原理と絡んでるようにも見せちゃいけないと思うのだが。すなわち、少なくとも『国盗り物語』第一巻において、斎藤道三というキャラクターは司馬遼太郎の手を離れておらず、したがって歴史上の人物としてのリアリティを表現し切れていないと感じられたのだ。結局のところ、前述の英雄史観と併せれば、これは子供がよくやる「俺が考えた最強キャラ強いっしょ!」という益体もない妄想自慢の域を出ていない。単なる娯楽としても、その手の創作を読むのははっきり言って辛い。

「歴史上の人物・事件を評価する際は、当時の常識や世界観をできる限り考慮するべき」だと自戒しているつもりだし、歴史を学ぶ子供たちにも多様な視点を持ってほしいと思っている。杞憂かもしれないが、司馬小説でしか歴史に触れることがなく、司馬史観以外の視点を持たない読者が日本にたくさんいるとしたら残念だ。

というわけで、akioさんを始めとする全国の司馬ファンの皆様、批判することもあるかと思ってちゃんと定価で新刊本を買いましたので、どうかご容赦ください。反論は受け付けます。改めて司馬作品を読んでみて、○十年来わだかまっていた小さなつっかえが取れたので、割と満足しております。


ついでに思い出したことを追記します。
※以下、『狼と香辛料』第一巻のネタバレが含まれるのでご注意を※

『狼と香辛料』はいわゆるライトノベルとして巻数を重ねている人気作で、TVアニメや漫画、ゲームとのメディアミックスも成功しているようだ。評判が悪くなかったし、行商人が主人公というツボな設定に惹かれて第一巻を読んでみた(読んだのは数年前のことで本も手放してしまったので、細かい記憶違いなどあったらすみません)。以下、第一巻のあらすじなど。

行商人ロレンスは、麦の束に埋もれ馬車の荷台で眠る少女を見つける。少女は狼の耳と尻尾を有した美しい娘で、自らを豊作を司る神ホロと名乗った。「わっちは神と呼ばれていたがよ。わっちゃあホロ以外の何者でもない」老獪な話術を巧みに操るホロに翻弄されるロレンス。しかし彼女が本当に豊穣の狼神なのか半信半疑ながらも、ホロと共に旅をすることを了承した。そんな二人旅に思いがけない儲け話が舞い込んでくる。近い将来、ある銀貨が値上がりするという噂。疑いながらもロレンスはその儲け話に乗るのだが―。第12回電撃小説大賞“銀賞”受賞作。(Amazonより転載)

所感。惜しい。たいへん好みな部分があるのは間違いない、が、もう続きはいいや。この作者さん、ラノベじゃなくて前近代ヨーロッパの経済もの書かないかなあ。

メインテーマであるところの、15〜6世紀ヨーロッパ風世界を舞台にした商業の話は面白く書けている。寡聞にしてこれに類する小説を知らないが、商取引の機微や実社会と経済との関わりを描く筆者の筆は生き生きとしていて、こんな言い方は各方面に失礼だけれどもラノベにしておくのは惜しいと思った。本筋となっている貨幣を巡る陰謀も実にそれっぽい。もう一人の主人公である狼神ホロに関しても、設定は好きだ。村人の信仰を失った土地神が故郷へ戻るために放浪するというシチュエーション自体も好きだし、その背景となっている「教会」との絡みもストーリー上のよいフックとなり得る。不得手な人もいるらしいホロの廓言葉も特に気にならない。

が……、このホロに関わる描写・プロット・ストーリー上の役割などが軒並み残念な感じだった。まず、主人公ロレンスはそれなりに人生経験を積んだ中堅どころの行商人であるはずなのだが、ホロとの微妙に色っぽいやり取りがすべからく稚拙で童貞臭く、しかもそれがたいした進展もしないまま何度と繰り返される。ホロが数百年生きた賢狼だからとかいう理屈云々の前に恥ずかしくて辛いです。それと、どう考えても正体を明かすのが早すぎ。出会った直後にほとんどモロ出しやん。その瞬間までは孤独な行商人ロレンスの警戒心や冷徹さが描写されていたのに、8割がた疑念が解消されてしまったら緊張感が台無しだし、ラスト近くで完全な狼の姿を晒したホロがロレンスから去ろうとする動機も薄くなると思うんですが。

最後に、21世紀の日本に暮らす読者の常識とは割とかけ離れた商業描写が売りの作品にしては解説が少ないのが気になった。もちろんこれを地の文で懇切丁寧に説明されては興醒めだが、そこでどうしてもっとホロをワトソン的に使わなかったのか。いかに賢狼といえども現状の広域商業の手法にはまるで疎く、そこでロレンスが解説するという構造を維持すればよかったと思うのだが。実際にはほとんどあらゆる点でホロの知恵がロレンスの知識と経験を凌駕していて、ロレンスが何だか可哀想。

というわけで結論は、「ホロがいなけりゃの描写をもうちょっと何とかしてくれてればなあ(萌えとかいいから)」でした。ファンの皆様ごめんなさいね。あと面白い商人ものがあったら教えてください。
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