「Balance Of Power by Electric Light Orchestra」
レビュー(ELO関連)
BOPのアウトテイクはCD5枚分以上?

OOTBに続いて、日本盤紙ジャケCDについてです。オリジナルは1986年に出た作品で、今回はリマスター+ボーナストラック入りの再発です。
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一応背景を簡単に。ELOはOut Of The BlueとDiscoveryでセールスのピークを終え、その後バンドとしての活動は徐々に停滞していきます。この辺はStrange Days4月号に詳しいので、そちらを読んでもらえればよいかと思います。ただ、JeffがELOというフォーマットに限界を感じていたのは事実でしょうし、TimeやSecret Messagesでそれまでの「縛り」から脱却しようとしていた跡が見受けられます。しかしJet Records側はまだELOから絞り取ることができると考えており、契約をたてに新譜の製作を命じます。しかも当時のJeffは妻のSandiとの不仲などプライベートでの問題も抱えていました。つまり、レコード会社からの要請と介入、セールス的に伸び悩んでどういう方向性でやればいいのかが不透明であった、ライブをしなかったのでファンの声が見えなくなった、家庭での問題、などが重なって、Jeff自身なにをすれば最善なのか混乱した状態で作られたアルバムだと考えています。
かつて、Reinhold Mack(クレジット上はただのMack)が「BOPは自分がプロデュースした」と言っているのを読み、なにを偉そうなことをと思ったことがあります。いや、私も若かったものです。その後だんだん裏がわかってくると、Mackがこのアルバムでしたことは、普通のアルバムだったらプロデュースと呼ばれてもおかしくないことだったのではないかと思えてきました。形式としては、Let It BeでPhil Spectorがやったのと似た状況だったのではないでしょうか。今回のボーナストラックには、アルバムトラックの別ミックスが何曲か入っています。リマスターCDのアウトテイクには、別ミックス、デモ、B面曲(など)、未発表曲などが含まれていますが、別ミックスが入っているのは主に初期作品とBOP。しかも初期作品の別ミックスにしても、アルバムバージョンとの違いはそれほど著明なものではありません。しかし、このリマスターでの別バージョンはかなり違って聞こえます。これまで、Jeffの頭の中には曲の最終形態がかなり明らかな形ででき上がっており、それを具現化するために順番に音を積み上げていったと言われていました。だから、その過程での副産物を取り上げても、結局はファイナルプロダクトと似たり寄ったりになったのではないでしょうか。しかし、BOPの別ミックスがかなり多彩であるということは、Jeff自身試行錯誤しながら曲を作っていた、その曲にベストなフレーズがどんなものであるかが明確でないままにいろんな録音を積み重ね、それを様々なパターンでMackがミックスしたのではないかという気がします。もちろん全てMackに丸投げしたわけではなく、Jeffが大枠を決めていたのは事実にせよ、同じ曲についてたくさんのバージョン違いが存在し、どれがベストなのか混乱していたのが実像なのかも知れません。
そんな中でも優れたメロディ、フックのあるフレーズを作り続けたJeffは本当にプロなんだと思う一方、今だから言えることですがもう少しリリースが遅れてしまっても構わないし、これがソロ名義になってもよかったので、彼の閉塞状況に風穴を開けてくれる人(たとえばGeorge Harrisonと早い段階で知己を得ていたとか)がいてくれたならと思います。ひょっとしたら、曲はそのままで歌詞だけ全面的に書き換えられていたかも、という推測もできるでしょうか。
今回リマスターされたので、じっくり聴きなおしてみると、Sorrow About To FallとWithout Someoneが印象に残りました。私の勝手な感想では、OOTBは若干高音を強調した音になっていたのに対し、BOPではバスを際立たせていたように聞こえました。
ボーナストラックでは、Heaven Only Knows (alt)がなんといっても最大の話題の作品でしょう。2001年にファンミーティングで公開されて以来、その存在はファンの間で大きな話題になっていましたが、今回全てのひとに聴く機会が与えられました。Jeffの曲の別バージョンがこれだけ違う形で提示されるのは、Days Of Broken Arrowに並ぶものでしょう。このリマスターを買おうかどうか迷っている人は、この曲だけでもプレビューを聴いてみて、それで決めてみられたらいかがでしょうか(Face The MusicのサイトまたはiTunes Music Store (US)で聴けます)。中にはアルバムバージョンより"far better"という声もあります。私はどっちにもそれなりの味があるので、これがあればアルバムバージョンはいらないとまでは思えませんが。それと、クリスチャンではない私が論じるのはふさわしくないでしょうが、Jeffがこれほど神をテーマにした歌詞を書いたことはあったでしょうか。
その他、In For The KillはCaught In A Trapの別バージョンで、歌詞も全く違います。私はこっちの方が好き。Secret Lives (alt)はアルバムバージョンに比べシークエンス(?)ベースの音と、ストリングス風のキーボードの音が抑えられ、ギターの音が聴き取りやすく、またコーラスもはっきりしています。この曲に関してもこっちの方が好みです。Sorrow About To Fallはミックス違い。曲の素材は同じでおかずが違います。これはアルバムバージョンの方が好みか。Caught In A TrapとDestination UnknownはシングルB面曲で、前者はAfterglowに漏れていたので今回が初めてのCD化。また、ELO Megamixは別に惜しいとも思わないとしても、Matter Of Factが2バージョン(この曲はSo SeriousのB面として発表された時、12インチシングルにalternate lyricsとして別バージョンが収められ、計2バージョンが知られていますが、Afterglowではalternate lyricsはCD化されませんでした)とも未収録です。Jeffの意向だそうなのですが。
こんな風に、これまでのリマスターに比べればかなり多彩なボーナストラックが披露されました。一見どこが違うねん、という別バージョンに比べれば、お得感もあるでしょう。また、ご異論多々あるでしょうが、個人的には別バージョンに軍配をあげたい曲が目立ちました。
以前、Rob Caigerが「BOPセッションのアウトテイクを全部商品化しようとしたら、CD5枚は必要」と書いていましたが、それだけの試行錯誤がこの短いアルバムに隠されていたのでしょう。できれば当時の素材を使って今のJeffがalternative BOPを作ってくれれば、本当に興味深い作品になりそうに思います。もちろん、ファンの優先順位は新譜なので、実現したらしたで「そんなことより新作!」と思ってしまいそうですけれども。

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