『SP8位』
おそらく心身共に調整不足だったであろう夢の舞台、トリノオリンピック。
あの状態で、ここに踏みとどまったのは基本的にチカラのある証拠。私には上々の出来に思えた。
緊張もあり、普段通りには動かない身体。それでも『楽しい!他と全然ちがう!」と初めてのオリンピック出場を素直に喜び楽しんでいる姿がTVから流れてくる。
ジュニアでは無敵。
だが、いずれ行き詰まることを予想してか、表現力を高めたことが功を奏した様で、一部疑問視されながらも掴んだトリノの切符を「(負い目を感じることなく)誇りたい」と静かに語った安藤もまた、荒川同様、新採点システムに苦しめられたのを、今は誰もが知っている。
「やったら、出来ちゃった。」
4回転ジャンプ成功の瞬間を、くったくなく話し、シーズン中もずっと意欲を持ちながらも、良い結果を得る為には、跳ぶことすら許されず、しかも、意に反し成績は低迷する。
抱え続けたジレンマが、かつてないくらい、表情をこわばらせているようだった。
「跳びます」「コーチには止められているけど跳びたい」
インタヴューで繰り返すのを聞くたびに「あったりまえじゃん!それがトリノ行きの条件なんだから!」と、声をあげたのは私だけじゃなかったろうし、そんな勝手な周りの思惑より何よりも自分が跳びたかったに違いない。
SPとは一変、瑞々しく、はちきれんばかりの18歳、本来の安藤にふさわしいエメラルドグリーンのコスチュームがパラヴェーラによく映えたフリー本番。
(曲を替えたのは大正解。ホント云うとセンメリこそ替えて欲しかったな〜)
前日の練習を含め、ほとんど着氷できていない4回転を、それでも『跳ぶ!』
決意のマダム・バタフライは、人々の心を打った。
プッチーニの音にのった演技初盤、世界中の期待を込めたジャンプ・・・
「出来た!と思ったんだけど・・・」
感覚とはうらはらに身体はバランスを崩し転倒。
オリンピック女子初の試みは失敗したが、別段気にする必要のないことだ。
残りをきっちり滑りきれば良いだけだもん。
しかし、続くジャンプも失敗。なんだか足元にチカラがまるで感じられない。遂にはフェンスに手をついてしまう。また、転ぶ。。。見ているのが辛くなるくらい痛々しく写った。それでも、跳ぶのをやめない。転んでも転んでも跳ぶ姿に会場から惜しみない拍手がわき上がり、4分間のチャレンジが終わった。
解説した佐藤有香の言葉は客観的で厳しいが、とても暖かみあるものだった。
「跳んで良かったー!!」試合後、コーチに駆け寄る安藤に思わず拍手した。
今の私は、荒川がイの一番に好きで、次がスルツカヤ。顔の好みで言えば、また別のコなんだけど、この大会中、フィギュアに限らず、出場全選手の中で一番心魅かれたのは、実はフリーの曲を待つ安藤の顔なんですね。
リアルタイムで見た時も、ダイジェストやニュースで繰り返し見ても、それは変わらないんですよ。イナバウアーを心底気持ちよ〜く滑っていた荒川よりも誰よりも、ほぼ正面から捉えられ、アップになった安藤のアノ顔が好きです。すごくいい表情だった。
何と云って表現したら良いのかよく分からないのだが、キレイとかカワイイとかじゃなく、自信持ってるとか、緊張してるとかでも無く、(もちろん緊張も不安もあっただろうが・・・)すべての感情が入り交じって、且つ、昇華していってる様な、静かな面持ち。
これも適してるかどうか分かんないんだけど、『少女の顔』とでも言ったらいいのかな〜。
大人びて見えるんだけど、実は不安に立ちすくんじゃってるような・・・どこか菩薩めいた様相も呈していて、私には、非常に魅力的な表情でした。
十代の揺れ動く少女期を経て、4年後、大人の選手に成長しているのを想像すると今後が楽しみ。
「次は勝ちにいかなくちゃ」笑って手を振った安藤に期待したい。
バンクーバーは、複数の選手が4回転を跳ぶ時代になる気がする。(実際、小娘まおが非常に意欲的で、それはそれで頼もしくもある)だが、安藤にとって今回の経験が大きな武器になることは、針の先ほども疑いようがなく、それは、はっきりと、王者プルシェンコが、荒川が、証明してくれているのだ。
羽ばたけ!安藤美姫!!

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