薬が介護に与える影響は数知れずある。よい方に働けばいいのだが、そうもいかない事も多い。薬のために介護状態が悪化することはけっこうある。そんな例を少しずつ紹介したい。
まずは睡眠薬の選択ミス例。睡眠障害には4種類ある。入眠障害、途中覚醒、早朝覚醒、熟眠障害。これらの症状にあわせて睡眠薬も選択されるのだが、例えば入眠障害(寝入りばなだけが困難)の人にものすごく長時間作用する薬が選択されていたらどうなるだろう?
りはびり
薬の中には血中濃度半減期が24時間、すなわち丸一日たっても地の中には薬の半分が残っているものもある。これを毎日飲んでいたら当然日中も眠くなる可能性が高い。昼寝をしてしまう癖がついてしまえば、夜間の入眠困難は助長される。しかもずっと効きっぱなしに近いものだから、ふらついて転倒する危険性はものすごく高くなる。当然介護度は上昇する。リハビリや筋肉トレーニングをいくらしても薬が邪魔をするのだからいたちごっこ。医療保険、介護保険の無駄遣いである。

入眠障害の方にはそれ相応の薬がある。30分から1時間で効き、ピークは1,2時間め。そして4時間後にはもう半分が代謝されてしまっているから朝起きたときには、ふらつきなどはほとんど残らない。こういったタイプを選択するべきだろう。こういった作用時間(その中でも半減期)を大勘違いして薬を選択している医師がいたら怖い。薬がその人の睡眠障害のタイプに適合しているのかをひとり一人アセスメント(評価)していく必要がある。
さらに突っ込んで書くが、入眠を助けてくれる薬にもタイプがあり、翌日転倒しやすいものとすっきり抜けるものがある。ハルシオン、デパス(これは安定剤だが)はけっこう翌日のふらつきや転倒が多いので高齢者には要注意。アモバン、エバミールはそれが少なく翌日の生活の質が保たれやすい、と精神科の医師がその使用経験に基づき語っておられた。作用機序に基づいて考えると納得するのだが、さすがにそこまでは想像できていなかったのでこの情報は助かった。
じゃあアモバンはとてもいいじゃないか、と思うとそうもいかない。この薬は飲んだ翌朝口の中に苦味が出やすく、食欲が落ち、味覚異常が出ることがけっこうある。。ある患者さんが偶然昨日教えてくれたことを書いておこう。入院中にアモバンを飲み始めたとき、苦味の出ることをまったく医師、薬剤師から聞かされていなかったらしい。なんと退院するまでの40日間副作用から来る口中苦味で食欲がほとんどなくなり、味覚もおかしくなった。体重は10kg近く落ち、自分が大病をしてしまったと錯覚し、ショックでうつ状態にまでなってしまった。このままいくと完全に閉じこもり寸前、つまり社会的入院になりかけていた。たった一つの薬がこの人の人生の全てを狂わせようとしていたこの事実は大きい。
薬剤師1
実は、退院後別の病院にかかった際、アモバンの副作用ではないか、と医師に言われ中止したところみるみる味覚、食欲ともに回復したという。 最初の病院の医師、薬剤師ははっきり言ってなさけない。後の病院の医師はすばらしいのか。そうとも言う。でもはっきり言ってこんなことくらい常識だ、すばらしいと言われることの方が馬鹿にしている、と語る医師や薬剤師の方が多い。少なくとも私の薬局の薬剤師連中はアモバンが出たらこの情報を必ず伝え、食欲や味覚異常をチェックするのが常識だ(と思うのだが・・・^^;)。
このとこを読んで、へ〜そうなんだ、と言っている薬剤師の人がいたら感心している場合じゃない。すぐにアモバンの出ている患者の味覚、食欲をチェックするべし!!

0