2016/10/23  20:28

インパール作戦 小論06  昭和史
兵棋(へいぎ)演習
兵棋演習は、状況を図上・机上において想定した上で作戦行動を再現して行う軍事研究。作戦を研究するために、地形や敵情についての定量的なデータを踏まえながら確率を活用しつつ状況を再現する。参謀本部や軍令部或いは実戦部隊において、作戦計画の立案や分析などの研究のために行われた。(『フリー百科事典・ウィキペディア』)時系列でインパール作戦の会議を記述すると長くなるので、昭和18年03月27日、「ビルマ方面軍」を設置したあとの二度の兵棋演習の人物と内容をみることにする。その二度の兵棋演習を挟んで、兵団長合同会議など何度も作戦会議が行われている。ただし指揮官の師団長が呼ばれていないのが問題。

◇昭和18年06月24日 ラングーン ビルマ方面軍司令部
 方面軍司令官 河辺正三
 第15軍司令官 牟田口廉也
 ビルマ方面軍参謀長 中 永太郎
 ビルマ方面軍参謀 片倉 衷(ただし)
 南方軍総参謀副長 稲田 正純(まさずみ)
 大本営参謀本部参謀 竹田宮恒徳王(つねよしおう)

≪第15軍は牟田口構想をそのまま持ち込み、これに基づき演習が実施される結果となった。演習実施後、これを統裁した方面軍側の中参謀長から所見が開陳され、牟田口構想は危険が多いとされ、より慎重で確実な方面軍の案が提示された。─「牟田口構想は持てるだけの弾薬・糧秣でもって、チンドウィン河を渡り、道なきアラカン山系を突破し、食が尽きたら、奪取したインパールの糧と輸送力を活用して南方から補給するというまことに虫のいい、獲らぬ狸の皮算用である。そんなことは1942年の春ならできたであろうが、今や着々と反攻の準備を行っている敵を前にしては甚だ無分別だ。─牟田口構想には弾力性がない。今回の攻勢はビルマ防衛の一手段であって、本格的なインド進攻作戦ではない。その辺の心づもりが根底から欠如している≫(日本の戦争指導におけるビルマ戦線)

この演習はビルマ方面軍司令官以下、第15軍の司令官、参謀も全員参加した。更に上級の南方軍、大本営からも参謀が参加した。主に「アラカン山脈を横断する形の地理的観点と物理的な後方補給」から難色を示した代表的軍人が前記4人。帰国した武田宮から報告されて真田穣一郎 (陸士31期)参謀本部第一部長も「むちゃくちゃな案」だと感想を述べた。だが参謀本部総長自身は作戦の具体的なところまではタッチしていないから当時の考えは解らない。結論は情実人事優先で作戦は発令される。この段階では、インド東北部のアッサム侵攻は断念させるつもりで一応聞いて置くことにしたのか。

昭和18年03月、ビルマ方面軍、第15軍が新設されている。指揮するのは河辺正三(かわべまさかず)中将、恩賜の軍刀組でエリートだった。陸軍大学同期に東條英機、本間雅晴、今村均がいた。単純に比較すれば2歳年長の東條は総理大臣だが、陸軍大学では同期、いかに東條が“劣等生”だったかが解る。ここで「盧溝橋事件」以来の河辺・牟田口コンビが復活する。方面軍の司令官・河辺の「最後は自分が判断を下すので、それまでは牟田口の積極姿勢を尊重せよ」との主張に現場の司令官は従わざるを得ない。その根拠は様々に指摘されているが、物理的判断ではなく陸軍中央から左遷された者同士の精神的なものだっただろう。『失敗の本質』では作戦の意思決定が、合理的判断ではなく組織の“間柄”だったと断罪している。

兵棋演習での方面軍・中参謀長(陸士26期)の判断、稲田(陸士29期)の見解は「インパール作戦はやり方を変えないかぎり、やらせないとの方針」はここでは変更がなかった。だがそれは更に無謀な「インドアッサム地方」への侵攻を断念させるべき前段階のものでインパール作戦そのものの完全否定では無かった。河辺は、牟田口には唯一の味方だった。“聞く耳持たず”は、第15軍を確実に支配して「何を言っても無駄」の空気が醸成されて行く。このインパール作戦を著わす書には、間違いなく取り上げられるのが輜重の専門家・小畑信良第15軍参謀長だが、後方補給は困難との見方は変わらず、たった二ヶ月で解任されている。こうした措置では誰もが本音を言えなくなる。前述の如く小畑は内容を確認するつもりでの田中新一への意見具申は、統帥を乱したとのことで牟田口の逆鱗に触れた。ノモンハン事件の取材で戦後、司馬遼太郎に非難されたのが稲田正純だが、少しくその学習効果はあった。18年10月の解任まで終始、この作戦に反対した。

次回は昭和18年12月22日の兵棋演習を取り上げる。

◇参考書
『戦争史研究国際フォーラム・日本の戦争指導におけるビルマ戦線─インパール作戦を中心に』荒川憲一 防衛省防衛研究所

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