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2007/9/23

No Way,No Place & My Home12「あたしの場所で」  ショートストーリー

しょうがなく生きてる、その時を生きてる、あたしの場所で。
鈴木祥子「あたしの場所で」

店のドアが開いた。サラリーマンの一団がドヤドヤと入って来る。
ここは六本木のクラブ「AYA」。アタシはここで雇われママをしてる。
前のママから引継いで5年、そこそこ流行っていて週末は戦争状態だ。
「ユウは?」「遅刻です」「また?」最後の客を送ってその後も反省会や翌日の準備
で帰宅するのは深夜4時。帰ったら疲れて寝るだけ。毎日この繰返しだ。

次の日も大忙し。今日もユウは休み。今夜は丸三商事の接待の予約が入ってる。
10人くらいのお客様が来た。客は若いキレイな女の子に囲まれ上機嫌だ。
・・・オトコなんて簡単なモンだ。フと目を挙げた。目の前に30代くらいか?
初めて見る客だ。彼は一人で黙々と呑んでた。上司やお客に愛想笑いを返すが居心地
悪そうだ。時々上司や客をチラと盗み見してた。醒めた冷たい視線だった。
ワタシは思わずそのヒトに見入ってた。彼はワタシの視線に気付いてフッと笑った。

翌日の開店前、ようやくユウが来たので皆の前で叱った。ユウはニヤニヤ笑ってた。
今日も丸三商事の接待。例の彼も来てた。早川とか言ったっけ。相変わらずつまんなさ
そうだ。早川さんを見て昔の自分を思い出してた。ワタシもいつもつまんなさそうにしてた。
いや・・・実際、毎日がつまらなかった。仕方なく生きてた。
田舎を飛び出して東京で就職したら会社が倒産。出来る仕事は水商売しかなかった。
色々渡り歩いてようやくこの店に落着いた。客商売なんか苦手、ヒトと話すのは億劫。
でも、ワタシは「生きるために」必死に勉強した。新聞や雑誌を読み話題を仕入れ
お客の好み、癖を徹底的に覚えて。結果売上NO1となり店を継いだ。
でもこの仕事をしてて、好きになったことは一度もない。ホステスという仕事もこのお店
もあくまで「生きていくための手段」。ホステスや店員ともお客さんとも必要以上の付き
合いはしない。そうやって頑張ってきた。でも、最近それが無性に空しい、無性に疲れた。

毎日の様に、丸三の連中は来た。早川さんもいた。相変わらずつまらなそうだった。
1週間ほどして、ユウと数人のホステスが辞めると言い出した。別の店に行くと云う。
ユウは最後もニヤニヤしてた。ワタシはドアを閉めたまま動けなかった。
ユウがうらやましかった。若くて自信満々でテキト−で。いいな。なんだか泣きたかった。

ユウ達が抜けて店は大忙し。フと気づくと早川さんが一人で立ってた。
「いらっしゃい」「なんか忙しそうだね」「いえ、構いません」
早川さんにはワタシ一人でついた。他のコをつけたくなかった。
「ウレシイです。一人でいらしていただいて」「こんなお店一人じゃムリだけどね」
「いえ、いつでもいらしてください」社交辞令じゃない。ホンキでそう云った。
「ママとゆっくり話したかった」「え?」「仕事してる時、ホントつまらなそうで。
 仕方なくこの仕事してるんだろうな。って思った。でも、それがよかった」
ワタシは早川さんを真っ直ぐ見た。「早川さんも皆さんと一緒の時とてもつまらなそう
でしたよ」「見抜かれてたか?」「仕事って嫌だね」「嫌ですね。でも仕事ですもんね」
「仕方ないね」「フフ」「フフ」

今日、はじめてこの仕事が楽しいと思えた。この仕事も悪くないと思った。
作り笑いしていない・・・「ホントのワタシ」が・・・ここに・・・いた。

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