今月17日に、我が「日本共産党」代表は、予算の差し替えを要求する政策を記者会見で発表すると同時に、いわゆる「子供手当て」に関する予算関連法案に「反対」する旨の発表を行ないました。
理由としては、民主党政権下において「扶養控除」などが廃止されており、財政的裏付けの無い中での存続よりも、他に保育所の待機児童解消の為や子供医療費無償化等に予算は配分されるべきという等々の、ちょっと聞いただけでは「もっともらしい」理由を並べていますが、私はこれに大いに疑問を覚えます。
廃止された【税】の控除など、元々【直接税=国税・住民税】を払っている家庭の問題であり、我が家の様に、【直接税=国税・住民税】を、既に低所得の為に、殆ど払っていない家庭にしてみれば、【子供手当て】こそが生活や育児において必要不可欠なものになってます。
確かに、一方では(裕福な家庭では)、「子供手当て」をパチンコ代に消費してしまっているという少数の例や、そもそも「手当て」の必要の無い高所得者にも一律に支給される点などが、一般的に考えれば、税の【無駄】とも映るかもしれません。
しかしこれは、「子供の養育は親だけの義務」という考え方から、社会全体で子供の養育の責任を持つような考え方に変えていこうという、大方針があっての問題であり、それは例えば、菅内閣の掲げる、【税と社会保障の一体改革】の様に、その中身については吟味し議論を尽くす必要はあるでしょうが、それ自体は将来に渡る安定した社会保障の、存続・維持・発展の為には、必要不可欠な「改革」の、大きな【方針】を決める中で、もしも「不合理・無駄」があれば、同じように解消していく【手段】を、考えていけば良いだけのことです。
その【方針】として、私は、「子供手当て」を【発展的】に存続させて、現在までの「旧来型・手続き型・福祉」の代替として、全ての人に「基本所得保証制度」=ベーシックインカムの社会を!という展望を、特に中道から左派とされる党派は共有していくべきだと、私は考えるのです。
いくら勉強不足な【政治家】とはいえ、「ベーシック・インカム」という代替的福祉制度について、旧来の、マルクス経済学【以外】で、真面目に検討・議論されている、将来展望ぐらいは
御存知だと思います。
これは、従来の窓口で給付資格を厳しく審査するという「従来型・福祉」とは異なり、全国民に「最低保障所得」を保障して、働く事自体を「生活の為」から「生きがいの為」に人類を解放するといものであり、ミクロ経済学の一分野である厚生経済学などでは、その実現可能性について、数理的に真剣に検討が為されています。
例えば下記(↓)のHPなどを、御参照下さい。
一橋大学・経済研究所・吉原直毅 教授(厚生経済学・アナリティカル=数理マルクス経済学、他)のHP…
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~yosihara/
…の中から、まずは…
用語解説「ワークフェア(Workfare)とベーシックインカム(Basic Income)2007年4月18日
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~yosihara/rousou/ronsou-13.htm
…次に同氏による、この様な「基本所得保証」制度について、理論的な遂行可能性については…
「基本所得」政策の規範的経済理論:――「福祉国家」政策の厚生経済学序説――
後藤玲子・立命館大学大学院先端総合学術研究科、吉原直毅・一橋大学経済研究所、2004 年4 月22 日
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~yosihara/ronsou-9fukusikokkaseisaku.pdf
…そして同じく同氏による、ベーシックインカムに関する、最新の論考で、資源配分メカニズムとして、ベーシック・インカム制度を構想する事が、少なくとも理論的には可能である事を証明し、少し【引用】させて頂くと…「政府が個々人の労働時間供給量を観察できないというセカンド・ベスト的問題設定の下であっても、誘因両立的で実行可能な所得税ルールを構想することが出来て、そのルールの下で遂行される最適資源配分はベーシック・インカム制度が実現すべき配分としてふさわしいと言えよう。この配分の遂行において就労インセンティヴが損なわれているとは主張し得ない点については、前節のファースト・ベスト的問題設定の場合と同様の説明が適用されよう。このように見てくると、ベーシック・インカム制度は、少なくとも本稿で考察したような閉鎖経済モデルにおいては、十分に実行可能な経済制度であると言えよう。」…と言う事を、明らかにした論考として…
連載『福祉社会の経済学』:その10、ベーシック・インカムの実行可能性
吉原直毅、一橋大学経済研究所現代経済研究部門2009年1月
『経済セミナー』2009年2.3月号
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~yosihara/semi200901.pdf
…などの論文があります。(数式も出てきますが、丁寧な解説も付いており、グラフ・図表の助けも借りれば、イメージは充分に把握できると思います。
これらの論文で述べられている事に、少しだけ私見というか蛇足を追加するとすれば、例えば、政治・財政的な実現可能性までを考慮に入れた場合に、この「ベーシック・インカム」を実際に遂行する形態は、手続的簡便さ・ローコストを、若干は犠牲にしてでも、実際の【各個人の所得を事後的であれ把握した上】で(…それには全「国民共通番号制度」等などの導入により、確実に有価証券の売買益までを含めた包括的な各個人の所得の電算的把握が必要でしょうが)、実際には【
負の所得税】という、
セカンド・ベストの選択をせねば、「ベーシック・インカム」という【大方針】に沿った【当面】の、諸政策の一部である、「最低保障年金制度」や「子供手当て」の場合に指摘されたような、富裕世帯への【無駄】なバラマキとの、政治的ものから、感情的ものや、単なる誤解に至る、様々な「批判」や「謗(そし)り」などの反発が予想される事やら、その財政的裏付けとも成り得る、一概に「間接税」も除外しない、様々な税収面での負担増の最小化という問題も解消されないであろうという事も、考慮には入れなければならないだろうという事です。
これは、【大方針】に沿った、当面の【手段】に属する問題ですが、更に、同様の問題としては、こういった「代替的・次世代型・福祉制度」の実現の為には、労働する各個人のスキル自体を向上させて、国際的な競争にも生き残っていけるだけの、制度的に再教育や研究者育成を保障する事も含めた、色々な
積極的労働政策やら、競争力を向上させる
産業政策の具体化も、必須のものとなるでしょう。
参考まで、これについては、過去に私の拙ブログでも…
日々の改善の努力と競争2010/6/19
http://blue.ap.teacup.com/nozomi/101.html
…という記事で、コメントを頂いて議論をしたこともあります。
こうしたベーシック・インカム=「負の所得税」をも、「代替的・次世代型・福祉制度」として、特に中道から左派とされる党派の【政治家】たるもの、それを視野に入れて欲しいものです。
また【税と社会保障の一体改革】にも、選挙を意識した党利・党略的観点から、ポピュリズム(大衆迎合)的に、それが「消費税」を含むという事で、アレルギー反応的に議論の入り口にすら入らないという態度には自己批判しようともせず、仮に「消費税」が不可避だとしても、【食料品】などの生活必需品には非課税にせよ…という北欧などでは当たり前な「改善案」を対置したりする事で、何故か?建設的な議論をしようとしない党派には、その未来像に対する不勉強・不誠実に、憤りすら感じます。
他方では財源問題に関連して、何かにつけ、今も「軍拡」を続けて最後には「対話」での問題解決などした例(ためし)も無い・チベットを侵略し続け・東トルキスタンでも住民を自治ではなく弾圧で押さえ・南シナ海では南沙諸島を武力で制圧し・言論の自由を封殺=弾圧し・かろうじて自治を守る台湾だけでなく・沖縄にまで領土的に野心を見せる・旧帝国主義と選ぶ所の無い【中国共産党】に、
その「軍拡」を批判する事すらせずにおいて、そういう国際状況下で、ましてこれまで以上には米国に頼らずに、武断国家=中国に接していきたいのであれば、日本側の【抑止力】としての限りにおいては「必要悪」でさえある「軍事費」を敵視して、馬鹿の一つ覚えみたいに、それ(軍事費)を減らしさえすれば、福祉の為の「財源」が生まれるなどという政策提言では、
政治的リアリズムに富んだ現代の国民からは、笑われるだけであり、そういう話は、批判すべき所(中国)を批判して是正させてからにしましょうと言われるだけです。(あえて踏込みませんが、法人税の問題には、日本の産業育成政策という観点も窺えません)
(誤解の無い様に付言すると、私は「抑止力」としても軍事に必要を感じても、全国民も巻き込むような軍事力の全面行使=全面戦争では、軍事力は必要悪ですら無くなると考え、戦争反対になりますが)
何にせよ、日本の未来の【福祉制度像】について、建設的かつ、現実的かつ、更に夢や希望を持てる展望を築く為に、国会の各党・各会派だけでなく、政治家としての一人一人に、
党利・党略ではなく、中身のある議論を始めて貰いたいと思います。
その点で【最悪】なのは、解散総選挙という政局を出す事しか考えていない「自由民主党」であり「公明党」なので、私は彼らが【
政権を担当していた頃よりも】、もっと嫌いになりまして、そんなのと比べれば…まだ「我が党」は、それよりは(愚直なだけ)少しはマシには見えるのは、私にとって、せめてもの「救い」ではありますが、もっと勉強して、もっと存在意義を発揮する様になってもらいたいものです…せめて「予算案」本体は反対しても、国民の生活に直結する「予算関連法案」には、たとえ妥協してでも賛成するとかさ…(嘆息)
【2011年3月9日・水曜日】追記:
本日のニュースによると、民主党の提起した「子供手当て・つなぎ法案」には、我が共産党も賛成に転じた模様。党利党略で民主党を追い込む【だけ】では無い点で、自民党・公明党とは違いを見せてくれて、一構成員としては少し安堵しました。
【2011年12月28日・水曜日】追記:
常連の「くろまっく」さんからコメント欄で御案内のあった掲示板でのBIに関する発言を再掲します。
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BI(ベーシック・インカム)論のルーツ 投稿者:伊賀篤 投稿日:2011年12月28日(水)19時11分27秒 編集済
こちらでは初めまして。(関西圏の人間で無いのでオブザーバー発言として…笑)
周知の事とは思いますが、最初にベーシック・インカムを提唱したのは、ヴァン・パレースという人物で、左側のAM(数理的マルクス経済学)派の人間であります。
それについては…
資本主義分析の基礎理論研究の現状及び『新しい福祉社会』モデルの探求
吉原直毅・一橋大学経済研究所・2011 年10 月12 日
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~yosihara/201112hikakukeizaitaiseigakkai.pdf
(↑文章は難しくても数式は出てきませんので御安心を)
…を読んで頂ければ解ると思います。(3.2.章)
更に「子供手当て」の場合に指摘された様な、経済的な強者への配分という無駄(ロス)を無くすという意味でも、各個人の所得情報を元に、各人の経済活動の「事前」ではなく「事後」に同等の効果をもたらすという意味でも、ほぼ同じか(より)ベターだと考えられるのが【負の所得税】という構想で、これを提唱したのは、フリードマンという経済学者であり、彼が事実上のベーシックインカムを容認する発言をしたことが、それが右派=新自由主義者の意見と受け止められるケースの元凶でしょう。その発言に続きフリードマンは「結局、我々もまた、どうしようもなくケインジアンなのだ。」と続き、大きな政府の価値を一定は認める発言もしています。自由放任主義で有名なフリードマンは、新自由主義の学問的支柱とされていますが、典型的なアメリカ人でもあり、上記のリンク先の記事に書かれている様な、ロールズやアマルティア・センの様な左派的な【規範理論】に基づいて発言した訳ではなく、恐らくは資本主義体制維持のプラグマティズム的な見地で発言したものでしょう。
しかし、この「負の所得税」とて、小さな政府を目指した…ただ単に金だけ渡しておけば良い(既存の個別事情に応じた福祉ケアの廃止)という議論にならない様にさえ気を付けさえすれば、現代の格差社会を前にして、大いに利用できる「所得の再分配」の一案なのは確かでしょう。そしてフリードマン自身がケインジアンだという事を避けられないと告白した様に…大きな政府は(当面は)必要なのです。
ここで話題を変えますが、ここで行われているベーシック・インカムを維持する為に「懲労」が必要という議論は、経済学的には無意味でしょう。つまり別に「懲労」などしなくても、人々の働く意欲・動機(インセンティブ)は、この「再分配」では本質的には損なわれない(両立可能な)事は、既に数理的にも明らかにされています。それは…
連載『福祉社会の経済学』:その10、ベーシック・インカムの実行可能性
吉原直毅、一橋大学経済研究所現代経済研究部門2009年1月
『経済セミナー』2009年2.3月号
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~yosihara/semi200901.pdf
(少し数式は出てきますが、大意というかエッセンスは掴める筈です)
…を読んで頂ければ明らかです。
BI(含:負の所得税)みたいな、何人であれ生活に必要な財にアクセスするのに「無条件」で保障するという新しい福祉の考え方は、現在の福祉制度の様に、窓口で申請をして認可されないと受給されないという古い福祉からすれば、人々に対して社会連帯的な選好基準を普及させる上でも、大いに有効ではないかと考える次第です。それは来たるべき社会主義へ、人々の意識を発展させる上でも第一歩ともなるでしょう。
※参考: こんな考えを書いた私のブログの最新記事↓
文明批判としての資本主義批判の現代における有効性について
http://blue.ap.teacup.com/nozomi/126.html

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