ごめんなさいでした

　ビーン危機一髪
操縦士失神　目の前に山
朝日新聞夕刊14頁2001年3月24日(旧暦二月三十日)付

　英国のコメディ番組「ミスター・ビーン」で知られる英俳優ローワン・アトキンソンさん(46)が乗った軽飛行機がケニア上空約5千メートルを飛行中、操縦士が突然失神ーーー。災難に見舞われつづけるテレビの中のビーン氏を地で行く騒ぎが2月25日、実際に起きた。
　24日付英タイムズ紙などによると、アトキンソンさんは休暇中で、妻のスネトラさん、息子(8つ)と娘(6つ)も一緒。びっくり仰天したアトキンソンさんは、空いていた副操縦士席に飛び移り、機首を上げようと必死に操縦桿を握った。
　スネトラさんは操縦士の顔を叩き、水をかけたが、意識は戻らなかった。視界にはキリマンジャロ(5,895m)などの山々が迫っていたという。
　続いてアトキンソンさんが操縦士を数回激しく叩くと、操縦士はようやく意識を取り戻し、ナイロビ空港に無事到着した。

　　日本とケニアの時差は6時間、ケニアと英国は更に3時間。「2月25日」の事件がケニアの現地時間午後4時より前なら日本でも「25日」の出来事。この話がほぼ１ヵ月遅れで3月24日にロンドンで公にされ、その日の日本の夕刊(平成辛巳十三年旧暦二月三十日)に掲載された。
　起こってから１ヵ月の時差があると、かなり洗練された話になってくる。歴史上にもほぼ密室状態の事件のはずが事細かに描写されて伝わることがある。明治維新期には農民から武士階級へ、士族から一代貴族へ入り込むに当たって、必要に迫られ、ふさわしい美談を共通利益の下に縁戚関係同士で伝承しあう傾向もある。
　純真に聞き取ったままを伝えようとしてさえ、伝言ゲームの結末はとても悲惨なのに、密室状態の事件だけがどうして詳細に精確にいつまでも伝わりつづけるのか。まじめな研究家がどうしても正しく伝えたいという努力は、真剣であればあるほど結果が悲惨である。

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