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こう云っちゃあ何だが、全君は男前ではない。気がよくて、とても面倒見がいい。真面目すぎて、ちょっと力の入れ所が外れることがある。日本語科の3年生だが、日本語も流暢ではない。それなのに郷里で日本語教室を開こうとして、大量にテキストを預かって帰った。思惑は外れて、ほとんど売れずに、また返すために、大変な量の荷物を運ぼうとしている。
(6)全輝峰君の振り分け荷物
青黴(かび)臭い
「汾酒の量り売り」、
「青島瓶ビール」、
「青島金賞牌ブランデー」、
「激安白ワイン」
などなど、酒にまつわるお話や、
「酒の肴」のお話は後回しにして、
「全輝峰君(仮名)の振り分け荷物」です。春節休みを切り上げて、急遽私と一緒に帰ることになった。売れ残った日本語教室のテキストが大量にあるという。私は荷物を持つことはお断りすると初めに釘を刺して置いた。旅行する時にはいかに荷物を減らすか、工夫して、両手を空けるようにする。ただ寒さ除けだけのために、リュックを背負うこともあるし、アタックザックを背負うこともある。それなのに、見境もなく大量に荷物を運ぶ同行者のために、折角空けている手に荷物を持たされるのはごめんだ。自分が楽をしようと思って工夫しているのに、他人の手を借りなければ運べないほどの荷物を何とかしようとする姿に無性に腹が立つのだ。旅に出るときの異様に自己チューになる自分がけっこう怖い。
何十冊もの日本語テキストを細い紐で括って、振り分け荷物にして、全君は長途バスに乗り込んできた。荷造りの紐の掛け方はそれなりに力学的で、どこを引っ張れば、どこが締まってという風に、バランスが取れて、幾何学的にも美しいはずのものだ。全君の荷造りは、理屈に合わない無様な紐の掛け方なのだ。
不安は的中した。バスを降りて、すぐに件(くだん)の荷物はばらばらになった。人通りの真中でさらにひどくぐちゃぐちゃに紐を絡めて本を束ねようとしている。
その後のことはよく覚えていない。見るに見兼ねて荷造り用のベルトを提供した後、小分けにした本は1人で持てなくて、結局、分担することになったのか、理不尽にしないと全君の本当の姿が確かめられないと思って、宣言どおり、返本の山と格闘する姿を克明にながめていたのか、記憶が定かでないのだった。〆(..)para1002n(ぱら仙人)
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