来る次期市長選挙の投票日を、一週間後に控え……
松戸市のあちこちで、候補者たちの選挙活動もまた
一段と熱を帯びてきている今日この頃。

そしてその中にあって、ひときわ異彩を放つ候補者が――
今回初出馬となる、俊敏戦士ヒュドラ氏(無所属)である。
ヒュドラ「……人心は荒廃の一途を辿り、弱者は容赦なく切り捨てられ、
かつて美しかった国土は見る影もないほどに汚され果て……
もはやメトロン星人はじめ、数多くの侵略者たちからさえも
愛想尽かしをされるに至った我が国に、果たして未来はあるのか?」
ヒュドラ「だからこそ今、私は声を大にして皆さんに訴えたい!
かつて、高度成長時代の我が国がそうだったように――
今こそ侵略者たちにとって格好のターゲットになりえるような、
そんな活気にあふれる、魅力的な街づくりを!
そう、まさに“ 狙 わ れ た い 街 ”として、
この松戸を共に生まれ変わらせようではありませんか!」
さて、ところ変わって「宙マン屋敷」。
やはりここでも、話題の中心は10日後の市長選挙のことのようで……。
落合さん「お殿様はどう思われます?」
宙マン「ヒュドラ候補のことかい?
“狙われたい街”なんて言葉だけ聞くとびっくりするけれど、
地域再生のスローガンとしては、気の利いたレトリックで
なかなか面白いんじゃないかな?」
落合さん「実際、若い方たちの間では結構な人気だそうですわ。
やっぱり、ああいう一点突破の「売り」がひとつあると
有権者さんにとっても「分かりやすい」んでしょうねぇ」
宙マン「まぁ、それも良し悪しだけどねえ」
……と、それなりに政治に対する感心を見せている宙マンたちの一方で、
それとは全く無関係に盛り上がっているのがこの二匹。
ピグモン「はう〜、ヒュドラさんかっこいいの〜」

ビーコン「なんかもう、女の子たちの間では、ネットとか通じて
非公認の草の根ファンクラブも出来てるらしいっスからね〜。
う〜、ヒュドラさん羨ましすぎるっス!」
落合さん「……あらあら、こちらはこちらで楽しそうですこと♪」
ピグモン「んとね、ピグちゃんたちも今、ヒュドラさんのお話してたのよ〜。
ヒュドラさんってかっこいいから、ピグちゃんだ〜い好きなの〜!
はう〜、ピグちゃんもヒュドラさんのサイン、欲しいな〜」
ビーコン「お〜ピグモン、お前もたまにはいいこと言うっスね!
ヒヒヒ、ヤフオクとかでファンの子たちに転売しまくって、
その儲けでエロゲとか買いまくっちゃうっス〜!」
ピグモン「ねー落合さん、ヒュドラさんのサイン貰ってきてなの〜。
ね〜、だめぇ〜?」
ビーコン「オイラからひとつお願いするっス〜」
落合さん「まぁまぁ、何ですか二人とも、そんなミーハーな……」
ビーコン「まぁまぁ、固いことは言いっコなしってことで……
ねっ、
オイラと落合さんとの仲じゃないっスか♪」
げ し っ ! げ し っ !
落合さん「……全く、私をいったいなんだと思ってるんですか?
サインを貰って来るなんて、金輪際ごめんこうむり……」
……と、落合さんが言いかけたその時。
宙マン「あ、私もヒュドラ候補のサイン、欲しいなあ♪」
落合さん「お任せ下さい、お殿様!!」

やはりと言うべきか、なんと言うべきか……
宙マンの一声を聞いたその瞬間に、ガラリと態度が豹変する落合さん。
落合さん「不肖・この落合、一命に換えましても
お殿様のもとにヒュドラ候補のサインをお届け致しますわ!
もしもあちら様がサインを渋るようなことがございましたら、
その時は多少手荒な手段を取りましててでも……」
宙マン「い、いや、落合さん……何も、そこまでしなくってもいいんだよ?」
ビーコン「……う〜ん、つくづく嘘のつけない人っスねえ」
……というわけで、こちらヒュドラ候補の選挙事務所。
気のせいか、何やら不気味な雰囲気なのだが……

しかし宙マンへの愛に燃える落合さんは、そんな事は全く意に介せず
ずんずん奥へ、奥へと入っていくぞ。
落合さん「私がヒュドラ候補のサインをサクサクッと持って帰ったとしたら、
きっとお殿様、すごくお喜びになって……
もしかしたら、うんと嬉し恥ずかしいご褒美とかも下さったりして!
キャーッキャーッ、どうしましょう!?」
……などと一人で盛り上がりつつ、落合さんが事務所の裏手まで来た時。
落合さん「あらっ、あれはヒュドラ候補?」

とっさに声をかけようとしたものの、その様子の怪しさに
ふっと思いとどまる落合さん。
ヒュドラ「こちらヒュドラ、こちらヒュドラ……
お喜び下さいサンドロス様、私の「狙われたい街」作戦は
目下のところ、すべて順調に進んでおります」
サンドロス「をほほほ、でかしたドロスわ、ヒュドラちゃん!」
ヒュドラ「この私のスローガンが深く、そして確実に
松戸市民の中に浸透し、定着していくことによって……
やがて我ら怪獣軍団が大挙して地球に押し寄せたとしても、
松戸市民どもはそれに抵抗するどころか、諸手を挙げて
我々のことを歓迎するようになるでしょう」
サンドロス「をほほほ、そうなれば労せずして
松戸はアタクシたちのものドロスわねえ!」
なんとびっくり。
市長候補のヒュドラ氏が、まさか怪獣軍団の一員だったとは!
イフ「こら、サンドロス、なにをまだるっこしい事をやっている!
そんな小細工より、まずは何を置いても宙マンを倒すことこそ……」
サンドロス「をほほほ、そこがあ〜たの浅はかさドロス。
宙マン打倒に執着しすぎるあまり、地球侵略という
本来の目的を見失っては、な〜んの意味もないドロス……
あ〜たとは一味違う、アタクシの頭の良さを見せてあげるドロス!
をほほほほほ、をほほのほ〜♪」
女帝サンドロス、早くも図に乗って高笑い!
ヒュドラ「ふふふ、それじゃ俺もひとつ便乗して高笑いといこうかな……
……って、ずげげッ!?」

オーバーリアクションで大きくのけぞるヒュドラ。
いきなり落合さんに背後に回られていたのから、まあ無理もないが……。
ヒュドラ「おっ、おい。女……お前、一体いつからそこにいた?」
落合さん「はい、つい先ほどよりずっと……。
恐らくヒュドラさんにとってあんまり聞かれたくないな〜、とか
出来れば内緒にしておきたいな〜、的なヤバめのお話の内容は
この耳でしっかと残らず聞かせていただいちゃいましたわ♪」
落合さん「それで、この流れでいきますと……
やっぱり私、こちら様の事務所からは無事で帰して頂けない、と
このような展開になってくるのでしょうか?」
ヒュドラ「ふふん、なかなか察しがいいな、女……
ああ、そうとも! その通りだ!!」」

見よ! ついにその本性を現した、ヒュドラとその一味!
ヒュドラ「どこの誰かは知らんが、女……
お前は、あまりにも多くを知り過ぎた!
自らの不運を、地獄で嘆くがいい!」
落合さん「……あらあらまあまあ」
ああっ、落合さん……
なんだか、とっても、大ピンチ!
宙マン、早く来てくれ!

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