“今月末のゴールデン・ウィーク突入前までに、みごと宙マンを倒して
地球征服の功をなした者には……怪獣魔王の名において、通常の月給に加えて
特別臨時ボーナスを上乗せしてやろうぞ!”
怪獣魔王のこの言葉に奮い立ち、俄然張り切って次から次へ地球にやって来る
恐怖・怪獣軍団、名うての暴れん坊たち。

この大ピンチに、颯爽と立ち上がるのはやはりこの男――
千歳のヒーロー、ご存じ宙マン!
宙マン「来るなら来てみろ、怪獣ども!」

華麗に花開く、正義の宙マン・アクション!
巨体からは想像もつかない身軽な動きで宙に舞って、怪獣たちを翻弄し……

すかさずキックやパンチを次々に繰り出して、怪獣たちを叩きのめす。
そして、最後の決め技は!
宙マン「くらえ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」

かくて恐怖の怪獣どもは、ご覧の通りの返り討ち。
やったぞ宙マン、大勝利!
その一方で、この結果が面白くないのは勿論……。
イフ「うぐぐぐぐ……またも、またしても宙マンめが!
大体お前たちもお前たちだッ、揃いも揃って醜態を晒しおって……
誰か、宙マンを見事に倒せる強い怪獣はおらんのか!?」
サンドロス「まぁまぁ……あ〜た、怒るとまた血圧が上がるドロス〜」
イフ「そうは言うがなサンドロスよ、もう少し戦いようというものが……。
……正直、最近の若い怪獣どもを見ていると歯がゆくてならんのよ!」
サンドロス「をほほほ、ちょっと気をつけた方がいいドロスわね〜、あ〜た。
そういう台詞が出てくること自体、年寄りになった証拠ドロスわよ?」
イフ「……うぐっ(絶句)」
「フェフェフェ、誰でも歳はとるもの……
それはそれで、また一興ですじゃて」
サンドロス「あら、いったい誰ドロス?」
イフ「えぇい、失敬な! ワシャまだまだ若いぞ!?」
「フェフェフェ、そりゃそうでございましょうとも、魔王様……
この婆から見れば、怪獣魔王様とてまだまだ青臭い小僧っ子のようなもの!」
イフ「おおっ……これはこれは、北千住のおばば殿!(汗)」
サンドロス「お久しぶりドロス、お元気そうで何よりドロス〜」」
イフ「こちらに来るなら来るで、事前に一報入れてくれればよかったではないか。
そうすればワシらとて、それなりにもてなしの準備など……」
「フェフェフェ……魔王様に奥方様、ワシなんぞにお気遣いは無用じゃて。
ちょっと近くへ寄ったついでに、ご挨拶にでもと思いましてな……
それに、可愛い孫の顔も見たいですしのゥ」

御歳6500万歳、怪獣軍団の最長老――
怪獣魔王夫妻でさえ一定の敬意を払い、別格扱いで接するこの怪獣こそ
現在は一線を退き、
東京都足立区・北千住に居を構える“ゴモラ婆さん”だ。
ゴモラ婆さん「つまらん物じゃが、うちの孫がいつもお世話になってるお礼に……。
東京銘菓、ひよこ饅頭ですじゃよ〜」
イフ「ああ、いやいや、これはまたご丁寧に……。
……こら、誰か! おばば殿にお茶などお淹れして差し上げないかっ!」
などとやっているところへ、やって来たのは孫ゴモラ。
ゴモラ「ちょっ……グランマ、職場には来ないでって前から言ってるじゃんかよ〜!
そういうのやめてよね〜、恥ずかしいんだからさ〜!」
が つ ん っ !
ゴモラ「あ、痛てっ!(涙目)」
イフ「えぇい、このたわけが!
お前のことを心配しておいで下さった、おばば殿のお気持ちも知らずに……
それ以前に年長者に対して、そんな態度をとる馬鹿がどこにおる!
ワシの怪獣軍団で、そんな躾をした覚えはないぞっ!」
ゴモラ婆さん「おお、おお、さすがは魔王様……。
ワシがオシメを取り替えてやった、人見知りで泣き虫なあの小さな子が
よくぞここまで御立派に成長しなすった!
ひとつ今後とも、ウチの孫をよろしくお願い致します〜」
サンドロス「をほほほ、謹んでお預かりするドロス〜♪」
イフ「お、おばば殿、ワシの子ども時代の話はその辺で……(赤面)」

ゴモラ婆さん「……ああ、それはそうとじゃな。
魔王様や怪獣たちを手こずらせている、宙マンとか言う若造の始末……
ひとつ、この私に任せては下さいませんかの?」
イフ「何と、おばば殿が!?」
ゴモラ婆さん「なんのなんの、まだまだ若い者には負けやせんて――
何より可愛い孫の仇とあっては、私も黙っているわけにはいかんでの!」
……てなわけで、怪獣魔王夫妻から出撃の許可をとりつけたゴモラ婆さん。
ゴモラ「でも……ほんとに大丈夫なのかい、グランマ?
宙マンって半端なく強いんだよ、あんまり無理はしない方が……」

ゴモラ「フェフェフェ、まぁ、お前は大船に乗った気で見とればええ。
ゴモラ一族・最長老の実力がどれほどのものか……
プラネット星の小僧っ子に、今から目にものみせてくれようぞ!」
ゴモラ「よく言うよ、今じゃ入れ歯と老眼鏡が手放せないくせに。
……ああ、ほんとに大丈夫なのかなぁ?(汗)」
さて、その一方で、こちらは千歳の「宙マンハウス」。
気持ちよく晴れた空の下、落合さんが上機嫌で洗濯物を干しているところ。
落合さん「♪尾崎ンちのババアは 野次馬ババア
近所に 火事なんか あったりすると
「火事だ火事だ火事だ〜っ」と わめき出し
水かける振りして ガソリンかける〜〜♪♪」

ビーコン「うぃ〜っス、朝からご精が出るっスね〜、落合さん。
どれどれ、ひとつオイラもお手伝いさせてもらうっスよ〜♪」
げ し っ !

ビーコン「ハンニャラ、ヒ〜っ……」
落合さん「結構です、と言いますか断固、お断りしますっ!
どうせビーコンさんの事ですもの、お洗濯の手伝いにかこつけて
私のランジェリーをこっそり一枚くすねていくおつもりなんでしょう!?」
ビーコン「ちょっ、失敬っスね落合さん、ンなわけないじゃないっスか!
今日のオイラのノルマは、
パンティ三枚にブラジャー二本、ストッキング一対に
できればガーターベルトなんかも……」
げ し っ ! げ し っ !
落合さん「いけしゃあしゃあとッ。警察呼びますわよ!?」
ビーコン「ど、どひ〜っ! ギブギブ、落合さん、ご勘弁っス〜(泣)」
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラッ!

その時!
ビーコンの窮地を図らずも救う形になったのは、突如として起こった大地震。
大地を割り裂き、地中から姿を現した巨体は!
「フェフェフェ……キシャァァァーッ!!」
蒸気機関車の汽笛のように甲高い咆哮をあげ、立ち上がるゴモラ婆さん!
落合さん「あらあらまあまあ……何かと思えば、またっ!」
ビーコン「……ふぃー、なんとか命拾いしたっス(汗)」

ビーコンの危機はひとまず去ったものの、千歳の街は現在進行形の大ピンチ。
巨体をうならせて進撃し、怪力で街を破壊していくゴモラ婆さん!
年老いたとはいえ、その破壊力は他の若い怪獣たちに比してもなんら見劣りしない。

ゴモラ婆さん「フェフェフェ……どうした宙マン、おじけずいたか!
お前が出てこなければ、このまま千歳を瓦礫の山にしてやるぞぃ!」
宙マン「ようし、相手になってやる! 宙マン・ファイト・ゴー!!」

みんなのピンチを前にして、黙っていられる宙マンではない。
光とともに颯爽と巨大化して、ゴモラ婆さんの前に立ちはだかる!
落合さん「ああ、お殿様、今日もやっぱり素敵です……♪(うっとり)」
ビーコン「アニキ〜、頼んだっスよ〜!」
宙マン「ああ、任せろ!」

ゴモラ婆さん「フェフェフェ……私にかかれば、お前なんぞ赤子同然じゃて!」
宙マン「さぁ、来いっ!」

激突、宙マン対ゴモラ婆さん!
序盤の攻防戦では、まずは若さとスタミナで勝る宙マンが一歩リード。
一瞬の隙をつき、大空高くジャンプして……
宙マン「それっ、ミラクル・キックを受けてみろ!」
ゴモラ婆さん「フェフェフェ、バカたれが……
ネンリキ〜ッ!!」
ガキーンっ!
おお、何ということだろう!?
ゴモラ婆さんの両目が妖しく光るのと同時に、宙マン得意のミラクル・キックは
怪獣に命中する直前のところで跳ね返され、宙マンは無様に墜落してしまう。
宙マン「う、ううっ……こ、これは!?」

ゴモラ婆さん「フェフェフェ……見たか宙マン、これぞ必殺の“
怪獣念力”!
この念力パワーを持ってすれば、お前なんぞ敵じゃないわぃ!」

古代怪獣・ゴモラの一族の中でも、厳しく地道な修業を経た一握りの者だけが
使いこなすことの出来るという“怪獣念力”……
ゴモラ婆さんクラスの使い手ともなるとご覧の通り、念力の威力もケタ違いで
地火風水を自在に操り、かくのごとき天変地異さえ引き起こすことができるのだ。

ビーコン「どひ〜っ、これはまたマジヤバっスよぉ!」
落合さん「どうしましょう、このままではお殿様が……!」
ゴモラ婆さん「フェフェフェ……なんの、まだまだ、こんなモンじゃ済まさんぞ。
そぉれっ、
ネンリキ、ネンリキ〜!!」

更なる怪獣念力の波動が、まとめて宙マンに叩きつけられる!
宙マン「う、うわぁぁぁっ……!!」
妖しく渦巻く幻想的な光と、重くのしかかる念力のプレッシャー……
得体のしれないその攻撃に翻弄され、徒に体力を消耗させられていく宙マン。
サンドロス「ををっ……さすがは北千住のおばば様、やるドロスわね〜♪」
イフ「ううむ……いける、これなら今度こそ宙マンに勝てるぞっ!」
ゴモラ婆さん「フェフェフェ……とどめじゃ、宙マン!」

鼻先の一本角から、破壊光線を発射するゴモラ婆さん。
宙マン「なんの……スーパー剣、スーパースパークっ!」

二つのエネルギー波が、空中で激突!!
やがてスーパースパークの威力が徐々に、やがてぐいぐいと急ピッチで
ゴモラ婆さんの破壊光線を押し返し……
ズガガガガーンっ!
ついにゴモラ婆さんの鼻先に命中して、爆発を起こす!

ゴモラ婆さん「ひぇぇぇ、あづあづ、熱ちゃちゃちゃちゃ……!(涙目)」
宙マン「どうだ、これがスーパー剣の威力だ!」
落合さん「お見事ですわ、お殿様!」
ビーコン「よしゃ、今がチャンスっスよ、アニキ〜!」
ゴモラ婆さん「おにょれおにょれィ、敬老精神のかけらもないのか、お前はっ!
きっちりお灸を据えてやる、そこへ直りんさいィっ!」

怒り狂って、手甲からロケット弾を連射するゴモラ婆さん。
しかしその攻撃も、身軽な宙マンの動きをとらえることはできない。
宙マン「とどめだ! 宙マン・エクシードフラシュ!!」
ゴモラ婆さん「がはぁぁぁっ、こりゃたまらんっ……!!」
やったぞ宙マン、大勝利!
かくして宙マンの活躍によって、またしても千歳の危機は救われた。
でもって、その一方では……。
ゴモラ「お〜い、グランマ、グランマ〜!」
ゴモラ「……あぁもう、だから言わないこっちゃない!
ほらっ、グランマしっかり、立てるかいっ?」
ゴモラ婆さん「おお、孫よ孫よ、可愛い孫よ……」

ゴモラ婆さん「お前や、他の怪獣たちが手こずるのも道理じゃわい。
あの宙マンとかいう坊や、あの技の切れ味と言い、威力と言い……
なんとも、良いモン持っとるわい」
ゴモラ「……は?」

ゴモラ婆さん「フェフェフェ……まさか、私にもこんな若さが残っちょったとはの。
思わず、あやつに
フォーリンラブじゃて……♪(ぽっ)」
ゴモラ「……お、老いらくの恋!?(汗)」
新たに咲いた、恋の花……
はてさて、一体どうなることやら!?

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