
日に日に寒さが増し、本格的な冬がすぐそこまで迫っている北海道……
そんな「しばれる」中でも、北海道民は今日も元気いっぱい。

何しろ雪が積もってしまってからでは大変なので、恐らくは今年最後であろう
千歳市内における野外でのフリーマーケット――
この寒空の下でもしっかり開催され、沢山の人が訪れるほどに元気なのである。

さて、今回の『宙マン』は、そんな「冬場の元気」がいっぱいにみなぎっている
フリマ会場、ここ・千歳市内のグリーンベルトから物語を始めよう。
冬の寒さをものともしない、熱気ムンムン・楽しさいっぱいのフリーマーケット。
楽しいイベントやお祭りには目のない宙マンファミリーとコロポックル姉妹も
半ば当然のごとく、ほんわか町から足を運んでいたのであった。
ピグモン「はうはう〜、やっぱりフリマって楽しいの〜♪」
みくるん「他の人からすれば、ただのガラクタにしか見えなくっても……
自分にとっては、すっごい掘り出し物だったりするのがいいんですよね〜。
うふふ、会場をぶらぶら歩いてるだけでも楽しいですぅ〜」
ながもん「これを、逃すと……また、来年の春まで……しばらく、お預け。
隅から、隅まで……まめに、探すべし」
宙マン「はっはっはっはっ、気合入ってるね〜、ながもんちゃん」
みくるん「宙マンさんたちは、何かいいもの見つかりましたぁ?」
宙マン「うん、実はついさっき、とてもよさげなコーヒーミルを見つけたんだけどね〜。
一足違いで、ほかのお客さんに先を越されて買い損ねちゃったんだよ。
う〜ん、残念っ!」
ながもん「あー……あるある」
ビーコン「あちゃ〜っ、アニキはダメっスね〜、てんでなってないっスよ。
フリマは戦場っスよ? もっと気合入れてブツを探さにゃあ!」
落合さん「あら、そう言うビーコンさんはいかがなんですの?」

ビーコン「デュフフ、晴海・幕張・有明で鍛えたこのオイラに死角は無いっス!
ホラホラっス、エロコミックスとエロゲ原画集が格安でこ〜んなに!
……ヒヒヒ、あとで落合さんにも読ませてあげるっスからね〜☆」
落合さん「結構ですっ!(赤面)」
落合さん「そうそう、かく言うこの落合も……
古着とかハギレ布を、我が家のためにしっかり確保して参りましたわ。
小物を塗ったり継ぎを当てたり、仕立て直して新しいお洋服にしたり……
私の手際と工夫にかかれば、夢も可能性も広がりんぐですわっ!」
ビーコン「ん〜、なんかビンボ臭い買い物っスね〜、落合さん。
ぶっちゃけアニキは金持ちなんスから、そんなとこでケチケチしなくっても
新しい服なり布なり買っちまえば済む話なんじゃ……」
落合さん「チチチ、判ってらっしゃいませんわね〜、ビーコンさん。
節約精神は単なるケチに非ず、メイドのたしなみにしてお楽しみ――
私には、常に賢いやりくりの勘を研ぎ澄ます義務があるんです!」

ビーコン「お〜、なるほど、パチパチパチっス!
それはやっぱ、
交際三ヶ月で破局を迎えた昔の元カレとの苦い経験が
今も胸の中で活き続けてる、ってことっスか?」
落合さん「(遠い目)ええ、思い返せばあのアパート暮らしの日々が……
……って何を言わせるんですか、このビーコンさんはっ!!」
げ し っ ! げ し っ !
落合さん「ああ、危ない危ない、うかうか乗せられてしまうところでしたわっ(汗)」
ビーコン「ハンニャラ、ヒ〜っ……」
ピグモン「ねー宙マン、まだフリマの売り物、覗いてくの?」
宙マン「そうだねぇ、あともうちょっとだけ見ていこうかな?
ながもんちゃんの言うとおり、今を逃すと来春までお預けなわけだし……。
ひととおり見終わったら、どこか適当なお店でお昼でも――」
と――
それまでにこやかだった宙マンの表情が、不意に凍りついた!
宙マン「(ハッとして)――――!!」
みくるん「ほにゃ? 宙マンさん、どうかしましたかぁ?」
宙マン「……え?
あ、ああ、うん、何でもないよ――
……ああ、そうそう、私はちょっと急用を思い出しちゃったんだ。
みんな、悪いけど先に帰っていてくれるかな?」
落合さん「へ? 急用って……どのような御用ですの?」
宙マン「なァに、たいしたことじゃないよ――じゃ、失敬!」
落合さん「あ、お殿様っ!……」
パッと身を翻して、そのままそそくさと走り去っていく宙マン。

ビーコン「あ〜らら……急にどうしたんスかねぇ、アニキってば?」
落合さん「(キョトン)……さぁ?」
かくて、仲間たちと別れて別行動をとることとなった宙マン。

賢明なる読者諸氏は、既にお気づきのことであろう――
あの時、フリーマーケット会場において自分に対して向けられた不穏な気配を
長年の勘で敏感に感じ取った宙マンが、家族に無用の心配をかけさせまいと
あえてその真相は告げず、その気配を一人で追ってきたのだということを。
宙マン「確かに、ここらあたりからだと思ったんだが……。
……あるいは、この私の気のせいだったかな?」

周囲の街は平和そのもので、一見すると不穏さの影も見当たらない。
が、警戒を怠ることなく、周囲に油断ない視線を配りながら歩く宙マン。
――その時である!
「どなたかお探しですかぁ? にゃ〜んっ☆」
宙マン「(ハッとなり)――ッ!」

不意に聞こえてきたその声に、バッと振り返る宙マン。
だが、その場から声の主の姿は一瞬のうちにかき消えてしまっている。
「うふふふ、ここですにゃ〜んっ☆」

背後かと思えば全く別の場所に、そこからまた更に違った場所へ……
宙マンを翻弄するがごとく、街のあちこちに現れては消える件の声の主。
コミカルな猫の着ぐるみに身を包んではいるが、明らかに只者ではない。
「にゃ〜んっ、こっちこっち♪」
宙マン「……うぬっ!」

着ぐるみ猫の後を追い、駆け出していく宙マン。
走る、走る……そして……。

幾度となくその瞬間移動に翻弄されながら、いつしか辿り着いていた先は――
今はスクラップ・廃車置場となっている、町外れのセメント工場跡地であった。

そこかしこにうずたかくスクラップが積み上げられた、荒涼たる光景。
訪れるものなど滅多にあろうはずもない場所に、今、宙マンがやって来た。
……だが、そこには彼を除き、ひとりの人影もない。
宙マン「(周囲を見回しながら)おかしいな……どこにも見当たらないぞ。
……さては、まんまと逃げおおせたか……?」
「にゃははっ、ご心配なくぅ〜☆」

その声に、バッと背後を振り返る宙マン。
……追い求めてきた着ぐるみ猫が、廃車の上から宙マンを見下ろしていた。
宙マン「貴様……一体何者だ!
その被り物をひっぺがして、正体を陽の光の下に晒け出してやる!」
「うふふっ、そんなにカリカリしないで。……
私もね、ちょうど今、脱ごうと思ってたところです〜。
……熱いし蒸れるし、やっぱり長い時間着るものじゃないですもんね♪」
「……ぷはあっ
」

おお、見よ!
着ぐるみを脱ぎ捨て、遂に正体を見せた怪しい気配の主……
それはこれまでにも、幾度となく配下を差し向け宙マンを狙い続けてきた美少女、
サイコキノ星人・ムギではないか!?
宙マン「……君はっ!?」
ムギ「私の名前はムギ――サイコキノ星人のムギ、って言います。
「星帝」ユニクロン陛下からは、“冥将”の称号も頂戴してたんですよぉ」
宙マン「(驚き)ユニクロン……帝国だって!?」

宙マンが度肝を抜かれたのも無理はない。
かつて「大侵略」と称し、全宇宙の平和な惑星の数々に、今なお癒えぬ傷跡を
深く刻みこんだ悪の大帝国の名は、宙マンの記憶にも未だ生々しい。

そのユニクロン帝国が擁する、邪悪を極めた一騎当千の将軍たち……
“冥将”ことサイコキノ星人ムギも、あろうことかその一人だったのだ。
ムギ「……もっとも、帝国が滅んだ今は、私もただの小娘なんですけどね〜。
ユニクロン帝国と“冥将”の称号は、私も結構気に入ってたのに……
あなたたち宇宙の皆さんが、寄ってたかって壊しちゃうんですもの〜☆」
宙マン「……その元・冥将殿が、この私に何の用があると?」
ムギ「うふふっ、イヤですねぇ、宙マンさんったら――
ここまでのお話の流れで、何となく予想がつきそうなものじゃないですかぁ。
勿論こうするんですよ、こうっ!」
ギュインッ!
宙マン「(苦悶)う、うおぉぉっ……うわぁぁぁぁっ……!」

ムギの目が、青緑色の不気味な閃光を放つとともに――
全宇宙でも有数と言われる、サイコキノ星人ならではの念動力が発動。
サイコウェーブが宙マンの全身に炸裂し、体の自由を奪って引きずり回した上で
空中高くに持ち上げ、磔刑のようにしてしまう。

動けない空中の宙マンめがけて、ムギの右手から放たれるサイコショット!
その直撃を受け、高空から地上に叩き落とされる宙マン。
ムギ「ほらほら〜、休んでる暇なんてないですよ〜?」

歌うようにのどかな口調とともに、手近な廃車を片手でひょいっと持ち上げ……
そのまま無造作に、宙マンめがけて投げつけるムギ!
宙マン「!!」
落下してきた廃車を、間一髪のところで辛くもかわす宙マン。
サイコキノ星人の中でも類を見ない、ムギだけに備わったもうひとつの武器……
それが、華奢な姿に似合わぬ無双の怪力なのである。
宙マン「おのれっ……これでもくらえ!」
ムギ「うふふふっ、なんのそれしき〜……なんちゃって♪」
宙マンのヘッドビームをひらりと回避し、ムギの体が空中に浮き上がる。

更に、空中から宙マンめがけてサイコショットの乱れ撃ち!
次々と周囲に爆発が巻き起こり、さしもの宙マンも足元がふらつく。
ムギ「さぁっ、どんどんいきましょうね――いよいよ、メインディッシュですよぉ!」

ムギの念動力が発動!
それとともに、周囲に放置されていた段ボールの空き箱が一斉にうごめきはじめて
ふわり、と空中に舞い上がる。

空中でお互いに引き合いながら、「合体」を遂げていく段ボール箱。
アンバランスな体型ながらも、そのシルエットは紛れもない人型である。

そして宙マンの目の前で、閃光とともに巨大化――
みるみるうちに、天を衝くような巨大怪獣の姿と化して動き出す!
宙マン「こ、こいつは……っ!?」
ムギ「じゃんじゃじゃーん、初公開!
私の作った、可愛い空箱怪獣――名付けて“ダンボー”ちゃんで〜す!」

おお、恐るべきはサイコキノ星人の念動力!
かつて彼女の同族が“土塊怪獣・アングロス”を生み出し、更にムギ自身も以前
千歳神社の御神体を怪獣化させて操ったように……無生物さえも生物のごとく
動かし、操るその力は、今また段ボール箱を巨大怪獣化させたのだ!
ヴァウンッ!
宙マンめがけて、巨大な腕を勢いよく振りおろしてくるダンボー!
素早く身を捻って、その一撃から危ういところで身を避ける宙マン。
ムギ「うふふっ、そんなことでいいんですかぁ、宙マンさん?
ボヤボヤしてると、ダンボーちゃんがあなたを叩き潰しちゃいますよ?」
宙マン「なんの、見てろ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」

閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、暴れ回る大怪獣ダンボーの前に立ちはだかる!
宙マン「サイコキノ星人、“冥将”ムギ――
どんなに邪悪な企みだろうと、この私が木っ端微塵に打ち砕いてやる!」
ムギ「わぁっ、そうですよね、やっぱりそうこなくっちゃ!
よーし、ダンボーちゃん、遠慮しないで思いっきりやっちゃえ〜☆」

「
グロロロロロ……ッ……!!」
宙マン「さぁ、来いっ!」
遂に、自ら挑戦してきた“冥将”ムギ。
怪獣ダンボーと宙マンとの戦いの行方は!?

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