2005/12/1

原材料を訪ねて..  ラブフルート

 ラブフルートになるための樹木を求めて知人の木工家と一緒に車を走らせました。数年前にイチイ(オンコ)を分けていただいた古い工場には82歳の元祖トラック野郎が待っておられました。(戦時中は魚雷の修理をしていたけれど、このままでは駄目だと、一念奮起して車の免許を取得し、トラックで稼ぎまくっていたとの事でした)
 
 北海道の山奥から切り出されたイチイの中でもとびっきり素性の良い材料を真っ先に買い付けて蓄えてきたのだといいます。成長の遅いイチイ。その中でも節がなく目の詰まった美しい板でした。幅49センチ長さ2メートル10センチ、厚さ43ミリ。これを一枚だけ特別価格、12万円で分けてあげようということになりました。

 つい最近、20年ほどしっかり使い込んだ冷蔵庫を惜しみつつ引退してもらい、かなり思い切って新しい冷蔵庫を買わざるを得なくなったのですが、その価格が11万2千円。

 ただの板切れ一枚と最新式の冷蔵庫を比較してもさしたる意味はないのかもしれませんが、ここ最近の大金にまつわる出来事なので、おのずと比較してしまうのです。

 ここ4〜5年の生活では工房にしている中古のハウス以来の最高額の買い物なので、少々興奮気味ということもあるのですが..帰り道は頭の中が12万円のことでいっぱいでした。なんの予約も注文も入っていないのに..どうしようか..と。

 「テーブルにしたらとってもいい木目だな〜」と言う同行した木工家のひとことで、フルートにするために立派なイチイを刻んでしまうのは勿体無いから、ひとつ立派な椅子かテーブルを作ろうかなどど邪念が湧いてしまうほどでした。

 こういう事態が起こるときには、自分では知ることの出来ない出来事が待っていて、ちゃんとイチイの行き先があるんだろうな..とは感じているのですが、とにかく当面の状況を切り抜けるための知恵がないと困るのは目に見えているのです。

 自分の人生に、一枚の板切れをこんなにお金を使って買い求め、それに手を加えて、求める人たちにお分けするという状況が待っているとは、思ってもみませんでした。

 勿論、イチイにしても、自分がこれからラブフルートなるものに変化して、見知らぬ人間の手に渡り、その人の息を吹き込まれ、開けられた小さな穴を指で開け閉めされるとは思ってもいないでしょう。ましてや、美しい音色を響かせるようになるなんて...

 果たして、このイチイの巨木が北海道の原野のどこで生まれ、育まれ、目にとめられ、切り出され、ひき割られ、板になったのか..それを想像しただけでも楽しく、豊かな世界が広がります。

 さらにイチイがラブフルートになって出会うだろう人々との関わりを思うと、さらに世界は広がります。人生に未知の部分があるのは幸せなことです。知っていることは、賢くて優れたことではあるのでしょうが、知らないことによって生まれる可能性と自由な想像力もまた魅力的かなと思います。

 冷蔵庫は限りある肉体の楽しみと必要を蓄えて生かしてくれる知恵の結集ですから大切に使いたいなと思います。同時に、見えない世界の秘密と知恵を知らせてくれる一枚のイチイの板切れからも、たっぷりと充足した人生のプレゼントを受け取りたいものだと思っています。

 白紙の原稿用紙のような一枚のイチイの板。ここに、これからどんな文字が書き込まれていくのでしょう。板切れが、どんな風に変身し、どんな出会いと繋がっているのか、楽しみと喜びの予感のひとことをまず、へりの部分に書き込んでみました。
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