2006/2/19

ここはどうすればいいのだろう..  ラブフルート

 奇妙な書き出しになりました。これはマイフルートを製作中に何度も心の中に起こる思いなのです。一本のフルートを探すために何時間も工房で試行錯誤される方は珍しくありません。それでも、訪ねて来られる方々は直接ラブフルートに触れたり、息を吹き込むことができますから、それなりに感じることもあると思います。

 勿論、息の吹き込み方ひとつで音色は変化しますから、直接吹いてみてもなかなか思うように感じ取ることは難しいかとは思います。それでも、まったくラブフルートそのものに触れることもないまま、マイフルートを持つ決意をするのは独特の緊張感もあれば、不安や期待が行ったり来たりになると思います。

 お電話で注文の方もおられますし、FAXやメールの方もおられます。それぞれに難しさはあるのですが、何度かやり取りをしていく中で、受けた印象を大切にしながら製作に取り掛かります。

 率直にご自分の事を表現してくださる方もおられますし、好みがはっきりしている方もおられます。逆に、どこから選択していけばよいか困惑される方もおられます。

 とりわけ、音色の希望や願望をお伺いするときは、製作する側も、依頼されるかたもお互いに難しさを感じます。音色を言葉で表現する..それは、随分と大胆なことかもしれません。それは完全に感性の世界に属することですから、行き違いが起こっても不思議はありません。

 お互いに、優しい音色と口にしていても、それが一致することなどあるかと言えば、ないだろうというほうが安全です。そもそも、優しいとはどういうことなのか、それぞれにイメージは違うのですから..

 同じように、明るい、深い、静か、力強い、澄んでいる、輝きのある、落ち着きのある..となると、もう参りましたと言うしかありません。それと同時に、私たちはフルートの音色ことではなく、人間に対しても似たような表現をしているのかもしれません。感性と繋がるような印象を抱いたり、表現したりするものではないか..と。

 そんなこんながありながら、時に数十通のメールをやり取りしたり、長い電話での会話を通してフルートは作られていきます。言葉のやり取りを続けていく中で、自分自身が感じたり、思っていることが明確になってくることもあると思います。

 実際は樹木を選択して作り始めるのですが、木のどの部分なのか、木の育ち具合もあります。 そうした要素が複雑に合わさって一本のフルートが形を見せ始めます。手に持ち、口をあて、指を動かす。そして呼吸。

 単純なようで、こうした全部が調度いい具合になるのはエネルギーが必要です。しかし、何よりも大変なのはひとつひとつの音が生まれてくる時です。ラブフルートの特徴は、音の幅が広いことです。別な表現をすれば音程がとても不安定なのです。まして、バードやプレートが一定の位置に固定されていませんから、どうにでも音は変化してしまうのです。

 これは音の高さに限定した難しさなのですが、さらに音色の違い、呼吸の状態も加わってきますと、何をどうしてよいか分からなくなってきます。果てしない自問と作業の繰り返しが起こります。

 限られた接点の中から、その人に相応しいマイフルートを生み出す作業。それは手先や身体の作業と言うより、心の作業なのだと感じます。木を削り、形を作ることも勿論大切なことですが、なんと言っても生まれてくる音色がフルートの要です。

 均一で平均的な作り方をするという考え方もあるのですが、それは結果的にフルートにその人が合わせる関係になります。その人らしさを、フルートが邪魔してしまう事にもなりかねません。

 一つの音を、じっくりと息を吹き込みながら探っていく過程で、ここの響きを少し強めにするのがいいのか、弱く繊細に表現できるようにしたほうが良いのか..考えているうちに時間がすーっと過ぎて行きます。

 強いものは強くなのか、強いところを力を抜いてなのか..これは価値観の違いですし、人生観の変化と関連があります。優劣でも善悪でもないのです。まして、人の心は変化し続けていますから選択は困難です。

 微妙な心の動き、呼吸の流れを受け止めてくれるフルートとはいえ、その受け止め方の違いがあります。それは樹木の種類によって大きく違って来ます。誰が、どんな樹木のフルートを吹くのかと合わせて、製作には繊細な意識の流れが伴うことだけは確かです。

 後は吹かれる方とフルートの関係がどうなっていくかを見守ることだけが残されているのだと思います。時折、フルートを手にされた方との間に与えられる僅かな会話が道しるべかもしれません。
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