確か二か月ほど前、インスタグラムのページでマレーシアで言うところのroti canai (小麦粉の種に油が練りこまれて層になっている平たいパン。マレーシア外ではpratha, parhataなど名前にバリエーションあり。タイではたいていムスリムが屋台で作っている。)にエンドウ豆のあんを入れて巻いたスナックを見つけた。「おいしそう。ちかぢか作ろう」と思ってそのページをブックマークに入れたつもりだったのだが、いざ作ろうと思ったらブックマークには入っていなかった。
最近こういうボケが進んでいるので別に驚かず、「えーと、確かあれはビルマ料理の
"Burmese Beyond"だったよね」と思って見に行った。
このBurmese Beyondは"
Mandalay"という本格的なビルマ料理のレシピ本の著者Mimi Aye(英国在住)のもので、普段はおいしそうな汁麺や煮込みやひよこ豆豆腐などの写真が並んでいるのだが、代わりにラングーンやマンダレーでデモをしている人たちの写真がずっと続いていて一瞬ページを間違えたのかと思ってしまった。
2月1日以来、彼女は料理の写真をあげるのをほとんどやめ、軍政下におかれたビルマ(ミャンマー)からの情報をSNSに発信するようになったのだった。ひすい餡のロティを探してみたけれど見つからず、こんな時期に「あのーエンドウ豆餡のプラタをインスタに投稿しませんでしたか」などという間の抜けた質問はとてもできないので、書いてあったことを思い出しながら適当に作ってみた。確か私が見たものは冷凍のprathaを焼いて切り、餡(イギリスのmushy peasの缶詰から作っていたと思う)をのせて巻いていたと思うが私はピタのようにパンを袋状にして中にえんどう豆をつぶした餡を入れてみた。
彼女の発信するビルマでのデモや集会の写真を見るとコスプレやトランスジェンダーのデモなど「
これはプライドフェスティバルでは」と思うようなものや、
思わず笑ってしまうようなユーモアたっぷりのクーデターを非難するポスターなどがあり、「ああモダンだなあ」とちょっと感心した。-そう。88年とは違う…
88年には人々対して軍が暴力と残虐の限りを尽くし、どう少なく見積もっても1500以上の人間が殺されたのだが、当時は外国のメディアも少なく、インターネットもなく、何が起こっているのか隣国に住んでいた私にも最初は全然伝わってこなかった。あとから聞いた「うわさ話」は世にも恐ろしいもので、ここではとても書けない。
でも今はこんな風に続々と目撃者や当事者の声や写真や動画がSNSで瞬時に世界中に配信される時代だ…写真を見ていて三本指を見せてポーズをとっている人がたくさんいることに気が付いた。これは最近
タイの反政府(また反王室)デモの参加者がやっていたのと同じポーズだ。タイでも2014年にクーデターがあり、軍部と軍部に後押しされた一部の財界人に富が集中し、言論の自由のないこの国の在り方にうんざりしている国民(特に若い人)がたくさんいる。アメリカ映画の「ハンガー・ゲーム・にこの三本指の挨拶をする場面があり、それを反政府(王室も含める)活動をするタイ人が使うようになったのが始まりだという。さらにそれがビルマでも使われるようになったのだ。近隣諸国から抵抗運動に寄せられるものは連帯の意思表明だけではなく、軍・体制側に通信が漏れないように連絡をとりあう方法など具体的なお役立ち情報やアプリもしっかりと伝えられているという。
また、SNSで
「ミルクティーアライアンス」というハッシュタグがビルマへの投稿として使われていることにも気が付いた。これもタイのクーデター後に主に香港、台湾そして周辺の東南アジア諸国のSNSで民主化をもとめるタイ人に連帯を表明するために使われているものだ。もともとは台湾や香港の主権について発言して中国ににらまれたタイの芸能人を支援することから始まったものらしい。
ここに解説がある (が、ビルマのLahpetのことをミルクティーと書いているのは何かの間違いだと思う。ラ・ペットはお茶っぱの漬物のようなもので、とてもおいしいが飲み物ではない。)そういわれてみると台湾や香港にはパールティーなどがあるし、ビルマ人もタイ人もコンデンスミルク入りの甘いお茶が好きだ。マレーシアでも勿論だけれど、マレーシアはどうもこの「ミルクティー同盟」には数えられていないもよう。
そういうわけで、ビルマ風(たぶん)エンドウ豆餡入りパンとコンデンスミルク入りのお茶を。
…こんな風に世界中に軍政に反対する国民の姿が発信され、世界中から連帯の声が寄せられるさまがネット上でこれだけあからさまに公開されているんだから軍だってあきらめて引っ込むだろう…と、私はかなり楽観的に考えて、インスタグラムに流れてくる人々の抵抗の写真を半ば楽しんで見ていた。が、それは数日しか続かなかった。
(カテゴリーは「東南アジア里帰り記」にしましたが、マルモにいます。)

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