「大津の町家で考える(その2 )−『生活の歴史』を保全すること−」
環境/まち・滋賀

■「餅兵」さんのあとにも、3件の町家にお邪魔しましたが、特にここでは、傘や提灯を商っておられる「
柴山商店」さんの町家について紹介しておくことにしましょう。「柴山商店」さんは、
寛延元年(1748年)に創業の老舗です。上の写真が、お店の表です。いわゆる“伝統的”な町家というよりも、町家のデザインを大切にした現代風の店舗兼住宅、といった感じですよね。それは、4年程前に、建築家である息子さんご夫妻が、以前の
町家を現代風に再生されたためです。

■まず驚くのは、入り口近くにある看板です。たいへんスマートで洒落た雰囲気ですよね〜。私は以前、博物館に学芸員として勤務していた時代がありますが、そのような私から見ると、
博物館や美術館の展示などに用いられるデザインとも共通するものがあります。もちろん、外側のデザインだけではなく、再生された町家は、伝統的な材料や工法を用いながらも、太陽光利用の最新の技術も導入するなど、様々な工夫がなされています。

■お店のなかで、奥様にお話しをうかがいました。お話しのなかで、印象深かったことは、この町家の歴史を、絶やしてはいけないという気持ちです。すでに述べたように、こちらは、寛延元年に創業の老舗ですが、ここでいう町家の歴史とは、お店の歴史とは違います。そうではなく、
こちらのご家族自身が先祖から引継ぎ、ここに暮らし続けてきた「生活の歴史」とでもいえばよいのでしょうか(詳しくは、『
古民家再生』(ワールドフォトプレス、1,600円 )という本に紹介されているようですので、そちらをご覧ください)。
■この「生活の歴史」とは、ひとつの前の記事(エントリー)
「グローバリズムに対抗する/内山節の『「里」という思想』」でも触れた、内山節さんが言うところの「歴史」とも共通します。室内も拝見いたしましたが、そこには、
かつての町家の時代に使用した井戸や“オクドさん”が、先祖から続くの
「生活の歴史」のメモリアルとして、きちんと残されています。現在は、奥のほうに現代的なシステムキッチンがあり、この井戸や“オクドさん”が利用されることはないのだと思いますが、今でも家族がくつろぐリビングに大切に保存されています。「
生活の歴史」とは、こちらの「家族のアイデンティティ」とも言い換えることのできるものなのです。
【上左】屋根にはきちんと明かりをとるための工夫がなされています。そのため、室内でも観葉植物を育てることができます。【上中】庭にあった井戸も残されています。上のほうには、壁に釣瓶の滑車が。【上右】“オクドさん”、竈です。このお宅に限らず、多くの町家で、今でも、このような“オクドさん”が大切に残されています。しかし、リビングに家のメモリアルとして残されているのは、初めて拝見しました。【左】もちろん、このように伝統的な座敷や裏庭も、もとのように大切に残されています。

■室内には、
水彩画が飾れています。かつてのお店の様子を描かれたものです。奥様が描かれたものです。写真の腕が最低なものですから、せっかくの絵がうまく撮れていません。なんとも悲しく、申し訳ない思いでいっぱいです。だって、「あっ…」と思うぐらい印象深い水彩画だからです。ここにも、「生活の歴史」や「家族のアイデンティティ」を深く感じることができますね〜。
■ここにあるのは、町家一般には還元できない、個々の家族にとっての歴史性の問題です。前回の「餅兵」さんのときにも述べましたが、「『文化財』的な、ないしは、保全に値する本質的な価値が町家そのものなかに存在している」と考えるような論理とは、まったく別の論理がここにも存在しています。「餅兵」さんのばあいは、町家の保全が、大津の街に暮す他の人びととの関係を背景にした、商売や生活の保全の結果として可能になっているということでした。
こちらの「柴山商店」さんのばあいは、町家そのものではなく、「生活の歴史」や「家族のアイデンティティ」を大切にしたいという思いが、結果として、「これまで暮してきた町家を再生していこう」形に結びついているように思うのです。

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